労働基準法は、私たち看護師を含めてすべての労働者を守る基本的な法律。
知らなければ知らないでも日常生活に困ることはありませんが、損することはたくさんあるかも。知っているとお得なことがたくさんある、勉強するだけの価値がある法律といっていいかもしれません。
本屋にいくと労働法規の解説書はたくさんあります。
このまえ片っ端から読みあさってきたのですが、普通のサラリーマンを前提に書かれている本が多いので、私たち看護師のような夜勤や当直、待機番がある場合はイマイチわかりにくいのも事実。
ということで、私なりに
手術室看護師のための労働法規ということでまとめてみました。今度院内でもミニ勉強会みたいなものをやりたいなと思っていまして、その準備もかねて。
1.労働法規とは?
19世紀の産業革命以来、昔から雇用者と労働者の間では確執が続いていました。仕事がほしい労働者と使ってやるという上から目線の雇用者。労働者を安くこき使いたい雇用者に対して人間らしい労働条件を求める労働者。そんな常に対立関係にある使用者と労働者の間を取り持つのが労働関連法規で、その代表が労働基準法です。
ひとことで言うなら、「弱者ゆえに放っておくとこき使われてしまいがちな労働者を守る砦」と言ったらいいでしょうか。別名、労働者保護法なんて言い方もあるようです。
2.法定労働時間と残業代
労働基準法では、労働者が「働いてよい時間」というのが決められています。これは時代によって若干変動しましたが、今現在は1週間に40時間となっています。さらに各1日は原則8時間と定められています。法定休日というのも定められていて、少なくとも1週間に1日(24時間)は休日としなければならないことになっています。職場によっては週休二日制としているところが増えてきましたが、法律的には週1日の休みでOKとなっている点には注意が必要です。この週40時間、1日8時間という法定労働時間を超えた分が、超過勤務/時間外労働です。
時間外労働分の賃金は割り増しになるというのはご存じのとおり。通常の時間外であれば時間単価の1.25倍、それが22時〜翌5時の深夜帯にかかった場合は深夜割増が加算されて1.50倍になります。これも法律できっちりと決められている点ですので、残業したのに加算がつかないぞという方は、ちょっと追求してみた方がいいかも知れません。
さて、実際に残業をした場合、皆さんの職場ではきちんと時間外申請できていますか? 雰囲気的に時間外申請を書いてはいけない雰囲気があったりしませんか?
上司が認めた場合しか時間外申請ができないという職場の話をよく聞きますが、これは法律的には間違いです。「労働者が使用者の指揮監督下で労働契約で義務づけられた労務を提供する時間」が労働時間です。そこに上司の判断は関係なく、指揮監督下で客観的に労働をしていると認められれば労働であると解釈するという判例がでているからです。その労働時間が法定労働時間を越えていれば残業扱いです。
使用者はいろいろ難癖をつけて書類上の残業を減らそうとしてきます。私の勤務先でもあった話なのですが、新規採用者は半年間時間外申請をしてはいけないという"おふれ"がありました。でも、これは労働基準法的にはNGです。その点を病院の職員課に問いただしたら、あっさりとおふれは撤廃になりました。どうやら職員課ではなく看護部が勝手に作った内規だった模様。職員課というのは病院の就業規則を司る専門部署。そんな部署ですから、この問題の違法性は言わずとも理解してくれたようです。
今、私が改善に取り組んでいるのは朝一番のオペの器械準備には早出が認められるのに、外回り業務の準備は時間外として認めないというシキタリ。これがおかしいという話は部署カンファレンスでみんなの前で師長とトークバトルさせてもらったのですが、結局師長の自己判断として認めないという強引な結論で終ってしまいました。
眼科や心臓手術、側臥位でのオペなどはそれなりに部屋のセッティングに時間がかかります。みんな30分以上早く出てきて準備をしているのに、それは「労働」ではないというのですから呆れてしまいます。
「病棟だって、みんな30分くらいは早く出てきてカルテから情報収集したりするでしょ」
というのが師長の言い分なのですが、それとは根本的に話は違います。病棟には夜勤者がいて24時間体制で動いている職場なのですから。オペ室では朝は麻酔器のコンセントを入れるところからはじめなければなんにもできません。
いわば開店準備です。それなしには患者を迎え入れることができないのであれば、それは当然正式な業務であり、労働です。飲食店で仕込みの時間は労働時間じゃないからね、なんて話はあり得ませんよね。
そんなわけで外回り業務は公式には時間外とは認めないということになっていますが、先にも書きましたように上司の許可判断は法的に関係ありませんから、私はきちんと時間外申請させてもらっています。今のところ気づいていないのか黙認しているのか、その分の時間外がカットされていることはありません。
病棟などでもありがちなのは、時間外申請を書いても、師長の手で勝手に時間数が削られるという話。これは明らかな不法行為になります。その事実が判明すれば病院に対して差額返金の要求ができますし、労働基準監督署に訴えてもいいレベルの話になります。ですので、毎月の時間外申請用紙は提出前にコピーを取ったり、自分の手帳などにきちんと記録をつけておいて後日照らし合わせができるようにしておくのが賢いやり方です。
看護師に関しては、病院の方針というよりは、看護部長や所属師長の労働法規への知識の疎さから違法な通達やしきたりがまかり通っているという場合が多いように思います。(師長たちは看護管理者講習を受けているはずですが、そこでは管理者としての労働法規は学ばないのでしょうか??)
労働条件に関してなにか疑問があって、直属の上司に言っても埒があかなければ、直接職員課や労働組合に相談すれば、あっさりと話が通ることが多いというのが私の実感です。ただそうすると直属の上司の顔を潰すことにもなるので、その辺は、それなりのプロセスを踏んでいく方が無難だとは思います。
3.当直/オンコールってなに?
手術室では24時間、いつでも緊急手術に対応するために、平日の夜間や休日なども当番制が敷かれているはずです。二交代制の夜勤にするのか、病院に泊まる当直にするのか、自宅待機にするのかは、病院の規模や急患の頻度によってマチマチだと思います。私の勤務する病院では平日は当直制、休日は自宅待機のオンコール on callで対応しています。これらの法律的な扱いについて考えてみようと思います。
まず、当直というのはきちんと法律で定められた勤務体制のひとつです。
、、、、、と、書き続けようと思ったら、そういえば以前にこのブログの中で当直と労働法規の話を書いたことがあるのを思い出しました。自分でもすっかり忘れていて、情報確認でネット検索をして気づいた始末(^^)
お手数ですが、興味がある方はそちらをご参照ください。
4.年次有給休暇(年休)
皆さんの職場では有給休暇はきちんと取れていますか?私の職場では残念ながら、希望して年休を取るという雰囲気はありません。
平日の夜間を当直制にしているせいで、本来は当直明けも通常の日勤なのですが、体力的にキツイのと安全上の配慮から当直明けは年休を使って休むというパターンが慣例化しています。そのため、他の部署に比べれば有給消化が良いといわれるのですが、希望での休みと言うよりは、単に病棟勤務者でいうところの夜勤明けに相当するものですので、休みといえどほとんどは寝て終るのが現実。
それ以外で有給休暇を申請する人はほとんどいません。
さて年次有給休暇というのはいったいなんなんでしょう? これもきちんと法律で定められた制度です。
誤解されがちなのですが、これは労働者がすでに持っている権利であって、与える与えないの問題ではなく「使用者は年休を与える義務を負う」ということになっています。つまり申請して与えてもらうという性質のものではなく、労働者がいついつ年休を取ると指定したら雇用者は認めなくてはいけないものなんです。
大事なことを言います。
年次有給を求められたら、雇用者にはそれを拒否する権限はありません。もちろん理由も関係ありません。スキーに行こうが、学会に参加しようが年休の使い方は完全に自由です(唯一ダメなのは自社ストライキに参加する場合)。休暇申請用紙には理由を書く欄があったりしますが、そこに書く理由によって有給を認めるか認めないかという判断は法的にはあり得ません。ですので無記載でもOKですし、無難には「私用のため」にするのが得策です。さらに言えば、なんのために休むのかと理由を追及される言われもないということです。
年休請求に対して、雇用者が唯一行使できるのものに「時季変更権」があります。
これは、その日休まれるとどうしても仕事が回らなくなるので時季をずらしてほしいという雇用者側から申し出で、それが妥当なものであるなら労働者はこれに従う必要があります。
ただ、これも単に忙しいからという理由だったら、仕事はいつだって忙しいものです。よっぽどの場合でないとこの時季変更権を行使できないというのが通例です。同時期にたくさんの人が休んで、客観的に見て仕事が回らないという状況でもないかぎりはあり得ないと思っていいようです。
年休請求に対して拒否できるのは「時季変更権」が公使された場合のみこれも重要なのでよく理解しておいてください。つまり、単に「休暇を認めない」という返答は「時季変更権」の公使になりません。かわりにいつなら休んでよいという通達が伴わなければいけないからです。
ですので、私たちが持っている年次有給休暇の残数はすべて消化することが可能です。時季に関しては必ずしも選べるわけではない場合もありますが、年休を使い切ることを妨げるものは法的には何もありません。
年休は2年間たつと効力がなくなってしまいます。在職年数にもよりますが、年休1日で少なくとも1万円前後、長く勤めていれば数万円分の価値があるわけですから、みすみす捨てるのはあまりにもったいない話です。
先にも書きましたが、私の職場では年休希望は出してはいけないものという暗黙の了解が大きく横たわっています。師長には迷惑な話かとは思いますが、そんな雰囲気を壊して誰もが自由に休める職場の雰囲気に持っていきたいというのも今後の私の自己課題です。
【追記】
この手の話に興味がある方は [
看護師の労働条件] というカテゴリで6つほどの過去記事がありますので、そちらもご覧くださいませ。