2006年08月10日

変わる心肺蘇生〜日本版ガイドライン2005『救急蘇生法の指針』改定

唐突ですが、去年から今年にかけて、心肺蘇生法が大きく変わったことをご存じですか?

心肺蘇生法 ― 最近ではBLS(Basic Life Support:一次救命処置)と言われることが多くなっていますが、いわゆる人工呼吸と心臓マッサージ(+除細動)のことです。

心臓マッサージと人工呼吸、これまで何度かトレーニングを受けたことがあると思いますが、心マと息吹き込みは何対何の割合で繰り返すって教わりました?

15 : 2 ?


だとしたら、もうそれは時代遅れです。今は最新のエビデンスに基づいて、 30 : 2 に変更されました。


心臓マッサージを開始するために確認することは?

脈拍の有無?

循環サイン(息・咳・体動)の有無?


実はこれらも改定されて、すっかり過去のモノになってしまいました。新しい心肺蘇生法では脈を取ったり、循環サインを確認することは一切しません

それじゃ、心臓が停まっていることをどうやって確認するの? と思ってしまいますよね。実は新しい蘇生ガイドラインでは、「正常な呼吸をしていない = 生命徴候なし」と判断して、人工呼吸と心臓マッサージは基本的にワンセットで行なうことになったんですね。

ね、ずいぶん大きな違いでしょ。

(このあたりの話は、実は国際ガイドラインでも、アメリカ発表のものとヨーロッパ発表のもので内容が若干異なっています。詳しくは近日加筆予定)

心肺蘇生の国際ガイドライン

これまで教えられていた心肺蘇生法は、通称「ガイドライン2000」と呼ばれる救急蘇生に関する国際基準に基づいて教えられていました。ちょっと話は横道に逸れますが、実は、昨今話題のAEDが日本で急速に普及したのは、このガイドライン2000の強い影響力のせいだったんですよ。

かつて除細動は完全な医療行為で、医師以外には認められていませんでした。しかし、ガイドライン2000の勧告で、除細動は救急現場に居合わせた市民(バイスタンダー by stander)によって行なわれるべき、と強く言われ、日本も慌てて法整備、AEDが解禁されたという流れがありました。

これまでは、二次救命処置(ACLS)の範疇だった除細動が、市民レベルの一次救命処置(BLS)レベルに格下げされたという点でもガイドライン2000は画期的なものでした。

さて、そんな国際ガイドラインが5年ぶりに改定されたのが、2005年11月。
この新しい国際基準は「ガイドライン2005」と呼ばれています。英語論文で発表されたガイドライン2005を翻訳して日本の風土に合わせてアレンジした 『救急蘇生法の指針 改定3版』 が出版されたのが2006年7月。

これを持って、日本もようやくガイドライン2005に対応して動き出した、というところです。そんな過渡期にある今日この頃。業界では結構話題になっているのですが、どこかで耳にしたことがあるでしょうか?

エキスパートナース8月号今年に入ってから、看護雑誌でもしょっちゅう特集記事が組まれていますし、いま書店に並んでいる エキスパートナース Expert Nurese 誌8月号 の特集記事も、ズバリ「すぐ動ける! 心肺蘇生法の手順」だったりもします。

さて、この話を聞いて、皆さんはどう感じられたでしょうか?

オペ室では麻酔科医もいるし、まぁ、関係ないね。
or
これはイカン、勉強しなくちゃ。

私としては、これは医療界の大事件だと思っています。
これを機に、すべての医療従事者に心肺蘇生に興味を持ってもらいたいなぁというのが私の正直な思いだったりします。

看護師なら確実にマスターしておきたい技術 ― CPR

まあ、これは看護師としての私のポリシーみたいなものなんですが、例えば道端で倒れている人がいた場合、看護師なのに何もできないなんて恥ずかしいと思いませんか?

手術室や病棟での業務・仕事を覚えるというのは、単に職業上の事柄ですが、医療職という立場に身を置いている以上、仕事とは関係なしに絶対にできなくちゃいけないことというのがあると思うんですね。

心肺蘇生なんてまさにそれです。実際のところ、救急部門やICUあたりに勤務していないと日常的にCPRを施行するなんてことはないかもしれません。病棟によっては何年いてもまったく未経験ということも珍しくありません。(オペ室もそうですけど)

自信がない、それは正直な気持ちかもしれません。

でも、プライベートのとき院外で急変者に遭遇した場合、一般市民からみた看護師は、立派な医療の専門家です。プロです。所属部署だの専門だのは関係ありません。そのプロがCPR一度もやったことないから、と一般市民の前で後込みするのはどうかなと思うのです。

実際、私も生体でCPRはやったことありません。自信もはっきり言ってないです。でもプライドとして、それが許せない。だからこそ心肺蘇生に関心を持ち、定期的にCPRを練習する機会を作るようにしています。本当は、看護師養成課程時にみっちり仕込んで、入職時はもちろん、働きだしてからも義務として1-2年おきにトレーニングをするべきなんですよね。(実際、アメリカなどでは医療者はもちろん、ガードマンやスポーツインストラクターなども、2年間有効のCPR訓練を受けた公的証明書がないと職務を続けられないそうです。)

自信がないから、自信を持てるように徹底的に練習する、それがいまの私のスタンスです。

高まっている市民意識 ― そのとき医療者は?

AEDが市民に解禁されたのが2004年7月のことでした。これまで医療者にしか許されていなかった除細動という高度な医療行為が市民に認可されたとあって、一般市民の救命意識の高まりは目を見張るものがあります。市中でファーストエイドを教えるインストラクターの多くは非医療従事者です。「救命の連鎖」という言葉がありますが、人命救助に最も重要なのは医者や病院ではなく、現場にいる市民であるということが、これまでになく強調され、市民がそれに答えている時代です。

「素人が下手に手を出すな!」と言われた時代ではなくなりました。そんな市民意識が高まっているなか、医療従事者の方はどうかというと、市民の勢いに負けちゃっていないかなと思うのです。あちこちの公共ホール、駅などに次々とAEDが設置されている最中、病院内ではどうでしょう? 各フロアに一つAED、もしくは除細動器があるでしょうか?

もともとCPR技術は、定期的に訓練をしていないと、すぐに忘れるということは統計的にも言われています。そのため、最低限2年に一度はCPR訓練を受けるようにとは言われていますが、皆さんが最後に心肺蘇生法を練習したのはいつでしょう?

もう久しくやってないなと言う人は、いまがチャンスです。
日本でも心肺蘇生法が変わります。医療者向けのAHAやICLSコースでは、概ね新ガイドラインへの移行が終わったようですし、民間向けのBLSプログラムでも、メディックファーストエイド等の海外母体のものはだいたいガイドライン2005対応が始まっています。

消防や日本赤十字社など、日本版ガイドライン直轄の講習は、現在カリキュラムを整備中。来年4月からの新対応になるみたいです。国内全部の完全な移行にはもうちょっと時間がかかりますが、新しい蘇生法教育にシフトしていくのは間違いありません。これを機に、ぜひ再度CPR訓練を受けてほしいんです。

そして、なぜ心臓マッサージと人工呼吸が 15:2 から 30:2 に変更する必要があったのか? AEDのプロトコルも変わるけど、それはなぜか? 医療者であれば、ガイドライン改定の裏にある医学的根拠・理由についても関心を持って見ていてほしい―。


ところで、なんで私、こんな熱弁しているんでしょうね?(笑)
書いていて、いまふと我に返ってしまったのですが、とにかく今年は救急医療の大きな節目の年であるという点、ぜひ皆さん覚えておいてください。

本稿を見て、少しでもガイドライン2005に興味を持つ人がいてくれたら嬉しいです。そんな方はぜひ、本屋に並んでいるエキスパートナース誌8月号を手に取ってみてくださいね。

ちなみに国際ガイドライン2005と、日本の国内版ガイドライン2005は、微妙なところでちょっと違っていたりもします。国際ガイドラインの日本語訳はまだ出版されていませんが、興味がある方は、Onlineで原著論文を読めますので、見比べてみるのもおもしろいかもしれません。リンクしたのはガイドライン2005の第4章 "Adult basic life support"の部分で、800kB程度のPDFファイルです。

もし、このあたりの話に興味がある方いましたら、リクエストをいただければ、このブログでもう少し掘り下げて書いてみてもいいかなとも思っています。
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2006年06月24日

心室細動(Vf)とはなにか? 初動対応の重要性

ひとつ前の記事で、ナースなら最低限、心室細動(Vf)の波形だけは素早く判断できるように、という話を書きました。

今回はその続編です。心室細動(Vf)とはなにかという話をしていきたいと思います。

心室細動は、一言で言えば心臓(特に心室)が不規則に痙攣して、有効な血液の拍出ができていない状態をいいます。現場ではわざわざ心室細動とは言わずにVf(ヴイ・エフ)と省略形で言うことの方が多いかもしれません。これは ventricular fibrillation の略で、ventricular は心室、fibrillation は細動、まさに直訳そのまんまですね(笑)

ちなみに除細動器は defibrillator といいます。ディフィブリレーター、すごい発音しずらいですけど、でも単語構造は簡単。de は接頭語で分離、除去という意味。つまり fibrillation を取り除くものということ。これも直訳そのまんまです。で、AEDの"D"の正体は実はコイツだったんですね。

もうひとつおまけの話ですが、おなじVFでも、ventricular flutter というのもあります。flutterは日本語では「粗動」と訳されます。つまり心室粗動ですね。心室細動より拍数が少なく1分間に何回程度という基準があったような気がしますが、臨床的にはあまり区別する意味がないので、さほど問題にはされないようです。あえて両者を区別するときは、心室細動はVf、心室粗動はVFと表記されます。(AFとAfもおなじです。Aはatrial=心房)

一般に「ヴイ・エフ」と言ったら心室細動と思ってしまっていいです。「ヴイ・エフ」=超緊急事態と覚えておいてください。

心室細動(Vf)時の心電図波形としては、こんなような感じに記録されます。

心室細動(Vf)時のモニタ心電図波形

P−QRS−Tがはっきりせず、規則正しいところがなにひとつなく、とにかくメチャクチャ状態。強いて鑑別っぽいことを行なうとすれば、、、、振れ幅(高さ)の大きな波が続いていますので、これは心房ではなく心室由来の電気活動であると想像できます。

解剖学の教科書に載っている心臓の断面図をみてもらえばわかるように、心房に対して心筋は壁が非常に厚くできています。そのために、心室から発生する電気信号は強く、振れ幅が大きく出るんですね。(P波が小さいのに対してQRSが大きいのとおなじです)

次に波形の形がバラバラなのは、心室心筋のあちこちの部位から電気信号が出ている証拠。心室性期外収縮の場合で、単形性か多型性かが問題になりますが、心室から信号が出る場合でも、いつもおなじ場所であれば波形の形は一緒になります。違う形というのは出どころが違う証拠。

ということで、心室のあちこちから不正な電気信号が発生して、結果的に心臓が細かく痙攣している状態、といえます。

さいわい、我々オペ室ナースは、CABGなどの心臓手術のときに、心室細動を起している心臓をナマでみるチャンスがあります。人工心肺からの離脱時などかなりの確率で心室細動を起しますよね。実際に心臓の痙攣(細動)という状況が納得できるはずです。

◆ 心室細動発見時の初動対応

まあ、そんな波形の解釈はどうでもいいので、とにかく、こんなメチャクチャな波形をみたら、「あ、Vfだ!」とおおいに気を引き締めてください。この先数分間の行動によって患者さんの予後が多いに左右されますので。

心室細動を見つけたら反射的に体が動ければベストですが、ただオペ室の場合、電気メスを使ったときのアーチファクト(ノイズ)でVfっぽい波形が現れる場合もよくありますので、早とちりなきようご注意。まずは電メスやバイポーラを使ってないかなと言うことを素早くチェックしましょう。たいていの場合はこれだと思います。

次に脊椎麻酔や局所麻酔など意識下での手術でしたら、まず患者さんに声を掛けて意識があるかどうか確認します。心室細動は前触れもなく突然に発生することがあり、数秒程度で意識消失します。意識清明で気分も変わりないのであれば別のアーチファクトの可能性大です。

全身麻酔の場合、意識の確認はしようがありませんので、脈拍の有無を診ます。ただしあまり時間を掛けないこと。脈がないことを間違いなく「ない」と確認するの難しいものなので、10秒掛けても確信が持てなければ、脈なしとして取り扱うことが定められています。電気メスも使っておらず、アーチファクトの可能性が低いようなら、とりあえず人を集めて除細動器を持ってきてもらうようにように手配することの方が先かもしれません。

これは町中で、バイスタンダーとして救急現場に出くわしたときもおなじなのですが、「通報」と「CPR」、どっちが先かという問題があります。傷病者が成人の場合は「通報」なんですね。なぜかというと、成人の場合は心室細動が原因で倒れている可能性が高いので、まず通報して1秒でも早く除細動器を手配することが優先されます。脈拍チェックはガイドライン2005になってからは省略されるようになりましたが、医療従事者が行なう場合にしても10秒以上時間を掛けることは否とされています。

心室細動は、電気的除細動を行なわないかぎり正常リズムには戻りませんので、まずなにより除細動器の準備が優先。脈拍の有無が10秒以内に確認できない場合は、脈なしと判断して、除細動器を持ってきてもらうよう人を呼ぶことが優先されます。麻酔科管理手術であれば麻酔科医も一緒にいるはずですので、基本的にはその指示に従うことになりますが、麻酔科医も慌ててるでしょうから、ナースとしてもまず何をすべきなのかを把握して自主的に行動できることが求められています。その点でナースもACLSの訓練を受けておく意味が大きいと思います。

次いで行なうのはCPR。人工呼吸と心臓マッサージですね。オペ中でしたら、麻酔科医や局麻オペの場合でも執刀医がいますので、基本的にはその指示を仰ぐことになります。場合によってはCPRができる体位に戻さなければならないでしょうし、閉創を急ぐのか、開胸心マを行なうのか、、、、

とにかく心室細動が起きた場合は、まず人を集めて除細動器を持ってきてもらうことが優先だということは、院内外問わず覚えておきたいポイントです。局麻オペでは、麻酔科医を呼んで、その判断を待ってからDC準備では遅すぎるので、同時進行で人と除細動器の取り寄せが重要となります。

◆ CPR(心臓マッサージと人工呼吸)を行なう意味

心臓マッサージは、除細動をかけるまでの時間稼ぎでしかありません。心室細動を起しているときは、心臓の血液拍出は停止していますので、3分もたってしまうとまず脳がやられて命を取り留めても高度障害が残る可能性大。

さらには心臓の冠動脈にも血液循環がありませんので、最初は元気(?)に痙攣を起していた心臓もだんだん力つきて弱くなっていきます。心電図波形でいうと波形の振れ幅がだんだん小さくなっていきます。で、やがてはツゥーという一直線に、、、。これが心静止と呼ばれる状態。心静止になってしまうと、除細動は適応がありませんし、もう手の施しようがない状態。

そうならないで、元気に心室細動状態を維持してもらうためには、心臓マッサージで心臓自体にも血液と酸素を供給しつづけてやる必要があるわけです。

心室細動は発生直後は心筋内のエネルギーが高いので、除細動で電気活動をリセットしてやればサイナス・リズムに戻る可能性は非常に高いです。心筋内のエネルギーを消費しながら痙攣していますので、時間が経てばたつほど復帰する確率は下がっていきます。一般には1分経つごとに7〜10%の蘇生率低下が言われています。

◆ まとめ
  1. 心室細動らしき波形を見つけたら、まずは人を呼び、除細動器を持ってきてもらう(自信がなくても疑わしければ、タイムロスを避けるためとりあえず行動する。迷っている時間はない!)
  2. 心臓マッサージ(できたら人工呼吸。器具がなければやらなくても良い)
  3. AEDがあれば、医師の到着を待たずに使用する
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2006年06月18日

看護師ならAED、使えますよね...?

最近は、町中でこんな看板をよく見かけるようになりました。

AED(自動体外式除細動器)設置の看板

AED、もう皆さんご存じですよね?

AED: Automated External Defibrillator = 自動体外式除細動器

デパートで見つけた自動体外式除細動器(AED)2004年7月に、非医療従事者でもAEDを使えば除細動が実施できるように法整備がされて以来、空港やデパート、競技場、コンサートホール、駅などに順次配備が進められています。都市部にお住まいの方なら、どこかしらでこんな看板やAEDの実物をみたことがあるんじゃないでしょうか?

愛地球博や市民マラソン大会などで実際にAEDによって命が救われたという事例がいくつも報告されており、新聞等の報道でも一度は耳にしたことがあると思います。

市民レベルでは急速に広まりつつあるAEDですが、意外なことに病院関係者の方にあまり知られていないという側面もあるようです。AEDは言ってみれば素人向けの器械です。病院には従来からの手動式の除細動器があり、心電図波形を医師が医学的に判断し、必要な出力(J ジュール数)を設定して除細動を実施しています。そうした医学的判断をコンピュータで自動化して無資格者でも安全に使えるように作られたのがAEDですので、医療者たるもの、AEDなどという簡略化された器械を使うものではないという風潮があるようです。

また、我々看護師からすると、これまで除細動は完全な医療行為で医師が行なうものという固定観念がありました。(実際のところ、包括的指示のもとナースでも手動式の除細動を使っても法的には問題はなかったのですが、、、)
ところがAEDの登場によって、除細動は二次救命処置(ACLS)ではなく、ナースを含め医師以外でも行なうべき一次救命処置(BLS)の一部という位置づけになりました。

医療者であれば全自動式ではないふつうの除細動器(DC)を使えるのだから、AEDなんて必要ないと言う人もいますが、はっきり言って間違いです。

逆に言えば、いまでは民間人でさえAEDが使えるのですから、その使い方を医療者が知らないというのはかなり恥ずかしいというご時世になっています。

腰の重い日本の厚生労働省と医師会が、無資格の民間人に除細動という高度な医療処置を解禁したというのには、十分な理由があります。簡単にいえば救命に関する国際ガイドラインが強く推奨したということなんですが、それには健常者の「突然の心停止」という症例が意外と多いという統計データが元になっています。

突発的に意識を失って倒れた人のほとんどが心室細動(VF)を起しており、そこから救命するには電気的除細動が唯一の方法となります。除細動は1分1秒でも早いに越したことはなく、発症から1分遅れる毎に救命率は7-10%減っていくと言われています。いま東京都の場合で、通報から救急車が到着するまでに平均6分かかっているそうです。ですので、救急車を呼んでいるだけの時間もない。だからこそ一般市民によるAED使用が認可され、推奨されたという事情があります。

突然の心停止が起きる確率は病院内においてもおんなじこと。むしろいろいろな疾患を抱えている人が多いから確率的には相当高いかも。手動の除細動器は高価な医療機器ですから、使用頻度の高い病棟にしか準備されていないかもしれません。そんなとき比較的安価なAEDであれば各フロアにひとつずつ配備できて、しかも医師を待たずに早期除細動が可能になります。

ここで看護師の皆さんに、伝えたいポイントが2点あります。
  1. 看護師たるやAEDを使えるのは常識。いまだに触ったことがないと言う人は速攻、AED使用講習を受けるべき!
  2. 民間人に解禁するくらいに除細動は緊急性がある処置なのだから、病院内で除細動が遅れることは許されない。ナースたるや緊急除細動適応の心電図波形(VFと無脈性VT)を判断して、すぐに除細動の準備を整えなくてはいけない。

1.医療者たるやAEDを使えなければ恥ずかしい!

まず前半の部分、これはもうすでに書いたとおり、民間人でさえできる医療処置を医療のプロであるはずの看護婦ができないというのはあまりに恥ずかしいことです。実際のところ、AEDはスイッチさえ入れれば音声ガイダンスで操作方法を指示してくれますので、なんの知識がなくともとりあえず使えますが、町中などでバイスタンダー(by stander)として現場に立ち会った場合、医療従事者には主導的立場が期待されます。職業的に病院で使う使わないは別にして、医療人としてのプライドに掛けてAEDの使い方はマスターしているべきです。

これまで医療従事者にしか認められていなかった除細動という高度な医療処置が民間人に解禁されたとあって、意識の高い市民の間では我々医療者が思う以上にAEDへの注目が集まっています。特に災害ボランティアに携わる人たちや民間の救命蘇生教育に携わる人たちの中には、下手な医療者よりBLS(一次救命処置)能力に長けている人たちも多くいます。我々医療従事者は危機感を持たなければならない時代になっているといってもいいと思います。

病院内でAED講習会のようなものが開かれているなら、それは絶対に受けておくべきです。医療従事者であるなら世界標準のアメリカ心臓協会(AHA)の公式BLSコースを受講するのが理想ですが、手っ取り早くは、地元消防本部に問い合わせればきっと市民向け無料救命講習でAEDの使い方を教えていると思いますし、日本赤十字社の講習を受けるのも手です。

2.モニター心電図 ‥ 最低限VFだけは見つけられるように

ちょっと前に書きましたが、医療従事者からするとAEDは市民向けのツールというイメージが強く、院内に設置しているという病院はまだまだ少ないようです。本来であれば病院だからこそ各フロアにAEDを設置して、看護婦はもちろん、事務職員や清掃員も含めて必要であればすぐに対応できるように訓練しておくべきだと思うのですが、そういう環境はまだ少ないようです。

AEDがない場合、早期除細動を行なうために必要なのはなにかというと、モニター心電図によって早期に VF や pulsless VT を見つけることに尽きます。そのためにはベッドサイドにいる患者にとっていちばん身近な存在である看護師がモニター心電図を読めなければなりません。

以前、ナースたるやモニター心電図くらいは判断できるようになりたいよね、という話を書きました。

モニター心電図を装着する最大の目的は、「防ぎ得る突然死をなくすこと」。すなわち致死性不整脈である心室細動(VF)を早期発見し、適切な対応をする、これが最低限にして最大のモニター心電図装着の目的だと思っています。

ナースがはじめるACLS 今日からあなたもVFハンターicon看護婦向けの二次救命処置解説本に「ナースがはじめるACLS」という本がありますが、その副題が「今日からあなたもVFハンター」だったりします。とにかく病院内の救命の基本は心室細動=VFを素早く見つけること、それが重要なんですね。(余談になりますが、「ナースがはじめるACLS」という本、私はキライです。表紙を見てもらえばわかるとおり、中身がマンガ仕立てで子ども騙しっぽいから。看護婦向けの本には多いんですが、「マンガで覚える○○」って、なんだか恥ずかしいモノを感じてしまうんですよね。わかりやすければいいのかなぁ。なんだか専門職としてのプライドが、、と思ってしまうのですが)

心電図を読む、なんて大それたことでなくても、医療者であればとにかくVFだけは知っておかなければマズイです。心電図の勉強なんてことより、まずは心室細動波形をパターン認識として覚えること、それが先決。

そんなVFについて書こうと思ったのですが、ちょっと長くなりそうなので、詳しくはまたの機会に、、、、。

posted by Metzenbaum at 22:43 | Comment(10) | TrackBack(0) | 救急蘇生 (BLS、ACLS)
2006年04月12日

モニター心電図くらい読めるようになりたいよね(看護師が学ぶACLSの話)

オペナースに限らず、看護師ならぜひ押えておきたい基礎知識の筆頭としてモニター心電図があります。循環器病棟やICU勤務のナースだったらモニター心電図のイロハなんて常識なんでしょうけど、一般病棟ではどうなんでしょう?

オペ室では、簡単な局所麻酔手術を含めて、オペ室で何らかの処置をする患者全員にルーチンでモニター心電図を装着します。それだけにオペナースにとっては非常に身近な機械ではあるのですが、それをきちんと活用できているかというと甚だ疑問です。

というのは、別の項目でも書きましたが、全身麻酔や脊椎麻酔手術など、麻酔科医が全身管理を行なう手術の場合、モニター心電図の取り扱いは麻酔科医の守備範囲内で必ずしもナースが監視するものではないからです。

言ってしまえば、モニターチェックは麻酔科の仕事、ナースはノータッチ。

そんなわけで、オペ・ナースはとかく心電図には無頓着な人たちが多いようです。(うちの職場だけ?)毎日誰もが扱う器械な割には、職場内の勉強会でも心電図の読み方を扱うことはこれまで無かったようですし、心電図なんて看護学校で教わるものでもないし、病院の集合教育でもやらないし、、、、それじゃ、新人でオペ室に配属になった人はどこで心電図を覚えるのかという疑問にぶちあたります。

たぶんみんななんとなくでこれまで来てるんでしょうね。それで困らない環境であれば当然の成り行きかもしれません。自分で勉強しようという人はいるでしょうけど、解説本を買ったところで、小難しいベクトルの話なんかが出てきて、それだけでギブアップしちゃったり。。。。

⇒ 【参考】 晴耕雨読的日常 OPナース兼主婦「ちょっと勉強してみる日もあり


かくゆう私も、自分で心電図の勉強をしようとしてくじけてきたひとりです。本を買ってきてみると、いろいろな不整脈が並んでいて、それぞれ説明されているけど、でも、ただそれだけなんですよね。

端的に言えば要点がわからない! その一言に尽きます。

◆ ACLSコースで気付いたモニター心電図を覚える目的

そうして私も放り出してしまったのですが、改めて心電図を勉強しようと思ったのはアメリカ心臓協会(AHA)のACLSプロバイダーコースの講習を受けてからでした。

皆さん、ACLSってご存じですか?

ACLS(Advanced Cardiac Life Support)は日本語では、二次救命処置などと訳されますけど、簡単に言えば心肺停止になったときに、どういう流れ蘇生をしたらもっとも安全で効率的かという方法を世界的に統一した規格・手順のことです。

その世界基準には民間人など素人が行なうBLS(Basic Life Support:一次救命処置)と医療従事者が行なうACLSがあって、ACLSは主に病院等に到着してから、エピネフリン(ボスミン)などの薬を使ったり挿管したり、という高度な救命処置の手順をまとめたものになっています。

ACLSでは、突然の心停止にいちばん多い原因が心室細動(VF)であるという話に始まり、VFに移行するまでの危険な不整脈への対応ということで、頻脈系・徐脈系の不整脈とそれぞれの治療法を学んでいきます。

そのACLSの講習で聞いた心電図の話は、きわめてシンプルで分かりやすかったです。というのは心電図を読めるようになる目的はいったいなんでしょう? 別にマニアックな波形を判読して自慢するのが目的ではないですよね。

死を未然に防ぐ、つまり心停止に移行しそうな波形を見つけて早めに対処する、それが心電図をモニターする最大の目的だと思います。

言ってみればあたりまえのことなんですけど、これまで世の中に出されていた心電図の本って、滅多に見ないようなマニアックな波形の判読に終始してばかりで、なんのために? で、その先はどうしたらいいの? という部分が非常に弱かった気がします。現実味のないそんな展開だから次第に興味が薄れ、モチベーションも下がってきてしまうのかもしれません。

その点、ACLSの勉強では、心電図はあくまで道具のひとつとして扱われます。救命という大きな目的のなかの一部に位置づけられている。

あたりまえのことなんですけど、「心電図の勉強をしよう!」とひとりで意気込んでいたときには意外と忘れがちな視点でした。いつの間にか心電図を読めるようになる! ということが目的になってしまっていたんでしょうね。

目の前で人が死んでいくのを防ぐ。

そういうふうに目的を限定すれば、おのずと知っておかなければならない心電図波形は限られてきます。循環器内科に併診をかければいいような緊急性のない不整脈はバサッと切り捨てて後回し。

アメリカ心臓協会(AHA)のACLS講習のいいところは、医師・看護師・救急救命士などが一緒になっておなじレベルの教育を受け、訓練をしていくことにあります。こういった職種混成の勉強会って日本ではいままであまり無かったんじゃないでしょうか?

ナース向けの講習や参考書では、なにかあれば「すぐに医師を呼ぶ!」に落ち着いてしまうようなことでも、ACLSコースでは、自分が医師になった想定で診断をし、周りのスタッフに指示を出さなくてはいけません。

実際は法律的な問題で、ナースが薬剤投与を指示したり、勝手に除細動を行なうことは許されていませんが、学ぶための意識付けとしてはとても大きなものがあったと思っています。

このACLSコース受講を通して、心電図の学んで行き方というのがわかった気がしますし、何より現実的な問題として興味関心を持つことができるようになりました。

看護師でACLSプロバイダーコースを受講するというのはまだまだ少ないようですが、機会があったら、ぜひACLSを学んでみることをお薦めします。アメリカ心臓協会(AHA:American Heart Association)のACLS Provider講習が本家本元ですが、日本事情を加味したICLSコースという日本救急医学会認定の講習会もあります。

まあ、どちらにしても心肺蘇生に関する国際ガイドライン2005が去年に改定されたばかりで、ACLS講習自体はまだしばらくは古い「国際ガイドライン2000」に沿って行なわれるみたいなので、もうちょっと「待ち」かもしれませんが、、、、

心電図とACLSの話は、まだまだ書き足りないことがあるので、またいつか触れたいと思います。



ACLSプロバイダーマニュアル日本語版心肺蘇生の『国際ガイドライン2000』を発表したアメリカ心臓協会(AHA:American Heart Association)が出しているACLSプロバイダーマニュアル日本語版。今でこそICLSだのなんだのがあるけど、国際ガイドラインに則ったオリジナルACLSの公式マニュアルがコレ。翻訳本なのでやや取っつきにくい部分はあるものの、ACLSに関しては原著的な本。他にもたくさん関連書はありますが、ぜんぶこの本をもとに書かれています。エビデンスに基づいてしっかり勉強したい人には必携の本です。



posted by Metzenbaum at 00:23 | Comment(0) | TrackBack(0) | 救急蘇生 (BLS、ACLS)