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2018年05月26日

医療用ホチキスを使い回し

またまた未滅菌使い回し事件が発覚です。


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医療用ホチキスを使い回し

2018年05月24日 07時33分 読売新聞

 小樽市立病院は23日、国の通知で再使用が禁止されている医療用ホチキスを、脳神経外科の一部の手術で使い回していたことを明らかにした。
 2016年8月から今年4月にかけて使い回していたというが、現時点で、感染症による健康被害の訴えはないという。
 発表によると、この器具は脳動脈瘤などの手術中、身体機能検査用の電極を患者の頭皮に固定するため、検査技師が使用する。1台に35針が入っており、血液の付着が見られない場合はアルコールで消毒して再使用していた。関係者は「傷口の縫合とは違うので、再使用してもいいだろうという判断ミスがあった」と説明する。




なぜこれが表にでて、公式発表するに至ったかが気になります。
手術室で働く皆さんなら、似たような事例はごまんと知っているはず。

知らないのは患者の皆さんだけです。

2017年08月31日

医療用ドリルバー使い回し 看護師だけが処分?

見過ごせないニュースがありました。

使い捨ての医療機器、洗って再使用 兵庫医大病院



整形外科や脳外科、歯科口腔外科などで使用する窒素ドリルの先端バーの再利用。
きっとどこの病院もやっていることだと思います。

むしろ、再利用禁止品だと知らないで、再生するのがあたりまえという感覚すらあるかもしれません。

それが医療現場の現実です。

事実、2006年の調査では、92.1%の医療施設が単回使用器具のなんらかの再使用をしていたという報告があります。


さて、今回、大きく着目したのは、最後の一文。


「同病院は看護師らの処分を検討する」


看護師の責任が問われている、ということです。

これは免許を持って働いている専門家として、自分が手を下してやったことですから、当然と思います。

仮に医師の指示であったとしても、ある意味、「実行犯」なのは事実ですから。


しかし、現場の看護師の感覚からしたら、納得できないという意見も少なからずあるだろうとは思います。

手術室ならびに中央材料室で働いていた自分の経験からは、立場からすると、こうしたことは珍しいことではないし、職場の空気感として、あたりまえで疑問を感じることがないような雰囲気も理解できます。

医師の指示があったとしても、直接指示というよりは、歴代の慣習みたいなもので、昔からそうしているからあたりまえ、ということで、明確な指示の証拠はおそらく出てこないでしょう。

あったとしても、「これ、回しておいてよ」程度の軽い一言。

このことから、恐らく医師の責任を追求するだけの証拠は出てこないと思います。


となると、確実に言えるのは、現場で実際に手を下して再滅菌処理をした看護師の責任だけです。

理不尽だと思うかもしれませんが、免許をもって専門業務についている以上、看護師もその判断と行動の責任はあって当然ですし、専門職者の倫理観としておかしいと思うことはおかしいと声を上げて、場合によっては上司や医師の指示であっても拒否しなければならないのです。

これがただの会社の上司と部下の関係とは違う部分です。

現場感覚では、ただのコマのひとつに過ぎない自覚かもしれませんが、世間からしたら一個の専門家なのです。





使い捨ての医療機器、洗って再使用 兵庫医大病院
8/29(火) 18:43配信
神戸新聞NEXT


 兵庫医科大学病院(兵庫県西宮市武庫川町)は29日、厚生労働省の通知で手術後に廃棄するよう定められている医療機器を、洗浄して患者130人に再使用していたと発表した。同病院によると、感染症など患者の健康被害は確認されていないが、手術後1年間は経過観察を行うという。

 この機器は、骨に穴を空けるドリルの先端に取り付ける金属製器具4種類。昨年12月から今年7月末にかけ、医療機器の洗浄を担当する複数の看護師が事前協議をせずに、手術で1度使った器具を洗浄、滅菌し、整形外科と脳神経外科で135回の手術に再使用していた。

 7月中旬に厚労省から西宮市保健所に情報提供があり、8月1日、同保健所と近畿厚生局が立ち入り検査。その後、同病院を文書で是正指導した。

 病院によると、看護師らは「厚労省の通知は知っていたが、滅菌して安全性が担保されていれば再使用しても問題ないと思っていた」と説明。同病院は看護師らの処分を検討する。

 相談についてはフリーダイヤル0120・456・613(平日午前9時〜午後4時45分)





参考まで、この手の使い回しは、「違法」ではありません

厚生労働省医薬局長通知(医薬発第1340号)で、製造者には再生禁止を添付文書に記載することを義務付けていますが、医療機関に対しては、再生使用してはいけないとは定めていません。医師の判断・裁量としては許容されている、とも言えます。

平成16年2月9日付厚生労働省医政局長通知(医政発第0209003号)の中では、

「ペースメーカーや人工弁等の埋め込み型の医療材料については医療安全や感染の防止を担保する観点から、その性能や安全性を十分に保証し得ない場合は再使用しない等の措置をとるなど、医療機関として十分注意されるよう(中略)よろしくお願いする」

とあり、再生使用は禁止ではなく、なるべくしないようにお願いね、という程度の扱いになっていることを申し添えておきます。

行政からの通達文で、よろしくお願いする、というのも、歯切れが悪く、背後に渦巻くなにかを感じさせます。




2015年08月01日

カテーテル300人に使い回し 神戸大学病院

またまた医療器具の使い回し事件が発覚しました。



今回は循環器内科。カテ室で使う約20万円のディスポーザブルのカテーテル(アブレーション用?)を再滅菌して、記録に残るかぎり過去5年の間に約300人に使いまわしていたということ。

健康被害は報告されていないものの、健康相談と検査に応じるそうです。

処分的には、「行政指導」だそうで、使い回しをしていた医師や滅菌処理やカテの機材準備をしていた看護師個々への処分はない模様。

記事を見ると4月に着任した滅菌担当者がこれまでの使い回しの慣習に疑問を感じて、院長に報告して、近畿厚生局と神戸市保健所に調査結果を報告し、今回の報道になったようです。

よく言えば自浄作用が働いた、ということなんですけど、まあ、不自然で、病院としては逃げられないところまで追い詰められたってことなんでしょうね。

そこまで追い詰めた滅菌担当者とぜひ話してみたいものです。

滅菌業務は最近は外部委託されるケースが多く、外部の業者としては病院の不正を指摘するような動きはしないでしょうから、きっと中央材料室の主任や師長が代わって今回の告発に及んだと思いますが、看護師からの発信だとしたら、頼もしいですね。

民間資格ながら、滅菌技師という認定制度があります。

中央材料室で働く人がよく取得しており、うちの中材の主任ナースも1級をもってましたが、使い回しに関していちいち声を上げる人ではなかったですね。


シングルユースの医療器具は、添付文書にある通り、1回で捨てるべきです。

これは正論としてどう転んでも正しい。

しかし、今回の事件のように医療保険制度では、規定数以上を使うと病院の持ち出しとなり、病院経営的に厳しいのも事実。最近は手術で使うドレープや材料の多くがディスポーザブル化されて、より衛生的に手間なく手術が進められるようになっていますが、それこそすべてをディスポーザブル製品で行ったら、手術代の元がとれないというのも事実。

だからこそ、堂々と使い回しできる不便な古い機器を使ったりしているわけですが、その流れからすると、単回使用品も洗って滅菌して使えばいいじゃん、という発想は理解できなくはありません。

今回も滅菌しているからいいじゃんという意見がありますが、実際のところ下記の2点で問題です。

・洗える構造になっていない
・滅菌や再利用に耐える強度では設計されていない

カテーテルのような長い細い内腔がある製品、どうやって洗ったらいいんでしょうね?
内腔に付着した血液をブラシのようなもので洗うことはできません。

血液を分解する酵素が入った液体につけて、水通しするのがせいぜいです。

それで洗浄したといえるのか?

また滅菌工程を考えても、カテーテルのようなプラスチック製品はEOG滅菌かプラズマ滅菌ですが、狭い内腔にきちんとガスが浸透するのかという点も問題です。内腔に関してインジケーターでチェックをすることもできません。

強度という点では、再利用は想定されていませんから、カテーテルが血管内で破損する可能性があります。血管内で先端部が欠損して遊離してしまったら、、、、コワイですね。

こういうことは、事件が起きた時に検証されて初めてバレるもので、通常は患者にはわかりません。

ただ、場合によっては、再生品を使っていたにも関わらず、患者には新品を使ったことにして材料費を請求するということもあり、これは完全に診療費の不正請求、つまり詐欺です。

今回の場合は、診療費の不正請求という指摘はされていないので、そこまで悪質ではなかった(まだバレてないだけ?)のだと思いますが、私が告発した使い回し事件は、この診療費の不正請求という観点で厚生局と地元行政に報告をしています。


正直なところ、この程度の使い回し、大半の医療者は、「ふーん、、、バレちゃったんだ。運が悪かったね。」程度の認識だと思います。

珍しくないってこと。

今回の事件がきっかけで、いま使い回しを常態的にやっている全国の病院が、自ら襟を正してくれることを願うばかりです。


「カテーテル300人に再使用、滅菌は実施 神大病院5年間に」(神戸新聞 7月30日)

医療用カテーテルを国の通知に違反して使い回していた問題で、神戸大医学部付属病院(神戸市中央区)は30日、使い回しは記録が残る2010年度からの約5年間に296人に実施し、41人にその疑いが否定できなかった、と発表した。保険診療で定められた本数を超えて治療する場合、診療報酬が受けられないため、担当医の判断で滅菌して使い回していた。10年度以前にも使い回しの可能性があり、同病院は調査を続ける。

 同病院によると、今年4月に着任した医療器具の滅菌担当者が使い回しを知り、院長に連絡。病院が調査した結果、循環器内科の不整脈治療を担当する医師らが使い回しを認めた。現時点で健康被害は確認されていない。

 カテーテルは1本約20万円。同病院循環器内科の平田健一診療科長は「国の通知に沿い、カテーテルの添付文書にある再使用禁止を守らなかったのは反省すべき」と謝罪した。

 同病院は6月に近畿厚生局と神戸市保健所に調査結果を報告。両者は7月13日に臨時の立ち入り検査を実施し、再発防止策を求める行政指導をしたという。10年度以前の患者も調査するため、同病院は緊急窓口を設けて問い合わせに応じ、必要な場合は感染症検査の費用を負担する。同病院医療相談室TEL078・382・6600(土日祝を除く午前9時〜午後5時)

(金井恒幸)





2014年05月19日

歯科業界で発覚した未洗浄・未滅菌器具使い回し/2014年5月

先日、こんなニュースが流れたのをご存知だったでしょうか?

歯科クリニック、診療器具未洗浄・未滅菌使い回し実態の報道


歯科医と眼科医は衛生管理がズサンというのは、今に知られるようになった話ではありませんが、こんな形で堂々と事態が公表されたのは意外でした。

医療者は、自分が受診してみればそこが衛生的に安全かどうかはわかりますし、判断しながら医療機関を選んでいると思いますが、一般の方にとっては衝撃的なニュースだったことでしょう。

歯科医も含めて医療の専門家といえば、衛生管理はしっかりしていると信じてますが、ところがどっこいこのザマです。

自分の身は自分で守る。そんな発想が医療受診にも必要です。(そういえば医者に殺されないための本、みたいのが流行ったことありましたね。私は読んでませんけど。)


こういう調査にちゃんと回答している歯科医というのは、どういうつもりなんでしょうね。悪気があったらきっと「滅菌してません」なんて答えないでしょうし、そもそもこんな調査がアンケートとして成り立つこと自体、驚きだと思いません?

私が改善に取り組んだ眼科手術の使い回し事件の場合もそうでしたが、そもそも医師(歯科医師)の感染に対する知識が間違っていたり、衛生観念が希薄なんだと思います。

他がみんなそうしているから、ということで疑いもしない。うちは他の病院よりマシだと言ってみたり、感染が現に起きていないから、未洗浄使い回しでも大丈夫なんだと主張したり。

確かに手術手技書にも平気で使い回しのやり方が書いてあったりして、業界全体が腐っているという印象でしたね、眼科に関しては。


今回の歯科での使い回し報道で特に着目したのは、「研究班は患者ごとに清潔な機器と交換するよう呼びかけている」というくだり。

国立感染症研究所の研究ということで仕方ないのかもしれませんが、呼びかけて終わり? と思っちゃいます。

そんなもんなんでしょうかね? 研究に同意・協力してくれた医療機関に対する道義的・倫理的配慮があるのかもしれませんが、でも犯罪行為でしょ? 儲けを上げるために故意に患者を体液・血液被曝させたわけですから、歴史的に事件となっている注射器使い回しとおんなじです。

消費者はもっと騒いでいいと思うんですけどね。


医療機関の信頼失墜ということで、かなり大きな報道だと私は思っていますが、皆さん、無関心なのが不思議。ASKAが覚せい剤で捕まっても私達の生活にはなんにも影響しないのにね、なんて思っちゃいます。


とりあえず、眼科の使い回し事件を追っている私としては見逃せない報道でしたので、ここにクリップしておきます。


歯削る機器、滅菌せず再使用7割…院内感染懸念

読売新聞 5月18日(日)7時29分配信

 歯を削る医療機器を滅菌せず使い回している歯科医療機関が約7割に上る可能性のあることが、国立感染症研究所などの研究班の調査でわかった。
 患者がウイルスや細菌に感染する恐れがあり、研究班は患者ごとに清潔な機器と交換するよう呼びかけている。
 調査対象は、歯を削るドリルを取り付けた柄の部分。歯には直接触れないが、治療の際には口に入れるため、唾液や血液が付着しやすい。標準的な院内感染対策を示した日本歯科医学会の指針は、使用後は高温で滅菌した機器と交換するよう定めている。
 調査は、特定の県の歯科医療機関3152施設に対して実施した。2014年1月までに891施設(28%)から回答を得た。
 滅菌した機器に交換しているか聞いたところ、「患者ごとに必ず交換」との回答は34%だった。一方、「交換していない」は17%、「時々交換」は14%、「感染症にかかっている患者の場合は交換」は35%で、計66%で適切に交換しておらず、指針を逸脱していた。
 別の県でも同じ調査を07〜13年に4回行い、使い回しの割合は平均71%だった。





2013年10月04日

注射器使い回し、手術器具未洗浄使い回しが続いたのはなぜ?

今日、予防接種で間違って人に打った注射器で別の人を刺してしまったというニュースがありました。


使用済み注射器使い小5男児に接種 美浜町
(2013年10月3日) 【中日新聞朝刊

 愛知県美浜町は2日、町保健センターで9月27日に実施した日本脳炎の集団予防接種で、町内の小学5年の男子児童(11)に誤って使用済みの注射器で接種をしたと発表した。
 町は保護者に謝罪し、翌28日に男子児童に血液検査と感染症の予防接種をした。体調の異常は報告されていないという。


人の血液や体液に触れた器具を、他の人の人体に挿入するという行為。

あってはいけない行為。そうですよね。ふつうは。

だから謝罪して、感染症に罹患していないか検査をして、予防策を講じる。

それが自然で当たり前な医療者としての対応です。


でも、このブログでもずっと書いているように、私が勤務していた病院では、眼科白内障手術で、手術器具を洗いもせず消毒もせず、滅菌もせず、1日十数人の患者に使いまわすことが普通に行われていました。

さらには、高い薬だからといって、針だけ変えて同じ注射筒で何人もの患者に薬を使いまわしていました。もちろん患者はそんなことは知りません。それでいて、診療費の請求では1人1本使ったことにして請求をしていたのです。

ありえないこと。

誰もがそういうでしょう。

でもそれを大手総合病院が去年2012年11月まで普通にやっていたのです。

行っていたのは眼科部長の医師で、加担していたのは手術室の看護師たち。私もその一人でした。

最終的には私が大騒ぎをして、病院に詰め寄った結果、私の知る限り9年続いていた悪習に終止符が打たれたのですが、私は職場を追われることとなりました。

使いまわし自体は終わった過去の話ですが、問題にしたいのは、なぜ、それまで10年にも渡って、明らかに間違った事態が正されなかったのか? という点です。

眼科部長の医師は、あえて看護師に指示をして、廃棄すべき注射筒を取っておいて、使いまわしていたのはなぜか?

その指示を受けた看護師たちは、なぜ疑問の声を上げず、間違った行為に加担し続けたのか?

私が、問題提起したのは2006年頃から。それでも現場のナースや主任、師長はなぜ動けなかったのか?

私が書いた事故報告書や問題提起の文書を見た安全対策責任者や感染対策委員会、院長は、なぜ動かなかったのか?

そしてなぜ私は職場から排除されたのか?


信じられないかもしれませんが、ほんのつい最近まで、大手総合病院で行われていた事実です。

これを読んだナースは、口々に好き勝手なことを言うでしょう。

そこで聞きたい。あなたが、この現場の中にいたら、声を上げられますか? 立ち上がれますか?

おかしい! とネットの上で言うのは簡単です。そう思うなら、現場にあなたがいたら何をするんですか?

そこを聞きたい。

そんな職場はとっとと辞める。

それはそれでいいでしょう。みんながやばいと思って辞めれば、悪習は成り立たず、つぶされたはずです。

でも、それは少なくとも10年以上、続いた。

このケースから私たちは何が学べるでしょうか?

ぜひ、医療者として考えてほしく、ここに書かせていただきました。




2013年02月24日

患者さんのことを考えたら、未滅菌使い回し手術を阻止することは良くない!?

眼科白内障手術での手術器具の未滅菌使い回し、2006年から私は問題を訴えていて、被曝事故報告書やレポートなど、10通以上出してきました。

それでも病院は使い回しをやめさせなかった。

だから、最後は強硬手段として、「ナースが手術介助を拒否する」というボイコット運動に。結果、オペを担当するナースが主任看護師以外いなくなり、それでようやく去年の11月に使い回しが是正されたわけですが、私が拒否宣言を出した時、オペ室内でも賛否両論ありました。

使い回しは問題だと思うけど、手術介助のボイコットを扇動する私のやり方が正しいとは思えない、と。

その時、師長、主任を含め、何人ものベテラン看護師から次のようなことを言われました。

「白内障手術の患者さんは手術後の視力を取り戻した生活をとても楽しみにしている。そのために予約して何ヶ月も待ってオペを受けにやってくる。その患者さんの気持ちを考えたら、オペを止めることは、良くないと思う」

このことを、真顔で何人にも言われたし、手術室のリーダー会と呼ばれる会議でも公然と語られた論理です。

さて、皆さん、どう思いますか?





2013年02月22日

白内障手術 [未滅菌] 使い回し事件を告発してきました

昨日、ついに告発してきました。眼科白内障手術未滅菌使い回し事件。

うちの病院、なにげに全国ネットの大病院グループ。

その本部に医療安全を担当する専門部署があって、その担当者にあらいざらい話をしてきました。

最初、電話でアポをとるとき、これがいちばんドキドキでしたね。

「系列病院の職員です。医療安全の担当者とお話したいのですが、、、」
「どちらの所属ですか? どういったご用件でしょうか?」

ただの交換手なのにけっこう細かく聞いてくるんですよね。

面倒なんで言っちゃいました。

「病院で行なわれていた犯罪性の高い行為についてご報告があります」と。

そしたら、速かったです。

そんなこんなで本部に出向いて、白内障手術でずっと行なわれていた手術器具の未洗浄・未滅菌使いまわしの実態と、プレフィル注射薬の使い回しについて説明。

担当者は事態を飲み込むまでは顔が怪訝で、私が発する「犯罪行為」といった刺激的な表現に「いや、そうとも、、、」みたいにいちいち反応していたのですが、1時間も話す頃には事の重大さを理解いただけたようで、真摯に対応・受理していただけました。

中身が残った注射液を別の患者の体内に注射する。洗ってもいない手術器具をそのまま別の患者の手術に使う。

どう考えても「ありえない」異常なこと。

だから、話はとってもシンプルなはずなんですが、話が込み入ってくると、善悪の判断がみんなぶれてくるんですよね。

うちの看護部長もそうでした。使い回しが原因で感染したという事実があるなら、いいのだけど、そうでなければ眼科部長のやっていたことが間違っているとは言いきれない、とかね。(この話の詳細はこちら→http://or-nurse.seesaa.net/article/310430871.html

「他人の血液を別の人に注射しました。感染したら傷害罪ですが、感染しなければ不問です」

なんて話あります?

なので、話をシンプルに理解してもらえるように、準備はかなり気合い入れてやりましたよ。

参考文献、それなりに取り揃えていきました。もちろん、犯罪の証拠となるこれまでの私が書いてきた事故報告書や上層部への上申書など。合わせて30枚くらいになったかな。プラス証拠証言の録音CD。

やっぱり効果があったのは、類似事件の新聞報道記事でした。見出しが効きますね!

誰もが知ったはずの事件、こんな新聞記事も目の前に突き出されるとインパクトあります。こういった使い方はやっぱりネット記事のコピペではなく、紙媒体の新聞の見出しが効果的。

レーシック未滅菌器具手術で院長逮捕(業務上過失傷害罪)

うちの病院でやっていたのも、これとまったく同じなんですよ。損害賠償4億4,480万円って書いてありますね、とか。

それなりに規模が大きい病院組織で社会的な手前もあって、さすがにこの訴えを隠蔽することはないと信じています。

参考まで、今回、私が訴えの焦点としたのは次の4点。

1.2006年頃から使い回しの実態を事故報告書等で何度も(記録に残っている限りで8回)上層部にあげてきたが、適切に対応してこなかった

2.2012年10月、来週手術を受ける患者のために、時間はかかっても器具の滅菌処理を行なうように眼科部長に業務命令を出してほしいというオペ室からの嘆願書を病院上層部は無視した

3.犯罪性の高い行為であるということで、手術室看護師が眼科手術介助を拒否する事態となったとき、看護部長は事実を知りながら「それでも業務命令でオペを続けさせろ」と違法な業務命令を出した

4.プレフィルの注射薬(オペガン、ヒーロンといった粘張剤)を複数患者に使いまわしていたにも関わらず、ひとりに一本使用したものとしてコスト請求を行なっていた


実はこの問題は私の退職と引き換え(?)に2012年11月で完全に是正されています。なので、現行犯ではなく、過去の病院の対応を問題としています。

今はもうやめたから、過去のことは水に流してね、っていうわけにはいきませんよね。

2012年11月、手術室看護師のボイコットでようやく正された違法行為。

病院としては、事件を隠蔽しています。通常の事故だったら、報告があがってその結果は師長会報告などを通じて、全職員に公開されています。今回はそんな動きはありませんし、誰一人責任を取っていない。

さらに言えば、眼科の使い回しが問題だったのか、そうではないのかすら、病院は明らかにしていません。

この過去を隠蔽しているのを正す、というのが私の本部訴えの理由です。

調査中ではっきりしないから何もいえなかったとか、そんな言い訳するんでしょうね。でも、調査委員会が立ち上がっていないし。まっさきにあるはずの現場スタッフへの聞き取り調査もされてないし。

これだけのことを、黙認してきたんですから、それなりの清算はしてもらわないと。患者への説明や謝罪、補償。

本来なら社会に対して記者会見を開くレベルの問題です。


ということで、この問題を世に明らかにするための第一歩を踏み出してきました。

本部の医療安全担当者には伝えてあります。

「今後経過を私に報告してください。動きが見えないようなら、当院管理者がしていたのと同様、本部も隠蔽していると判断して、規制官庁、マスコミに話を持っていく用意はしていますので」、と。

ケンかを売るつもりはありませんが、この問題は私の看護師生命をかけた問題として本気で取り組んでいくことを伝えました。


この問題、うちの病院グループがプレスリリースや記者会見で世の中に出してくれれば、間違いなく全国問題に波及します。眼科白内障手術を手がける病院では、かなりの割合で同じことを行なっているからです。

こちらを参考にどうぞ → 「ずさんな衛生管理〜眼科医の憂いと告白




2013年01月12日

自分の免許は自分で守る!



准看護師が死亡診断、宮崎 医師法違反容疑で女逮捕



 宮崎県警は10日、医師ではないのに勤務先の診療所で入院患者の死亡確認をするなど、違法な医療行為をしたとして医師法違反容疑で、同県高原町、准看護師森山貴美子容疑者(54)を逮捕した。

 県警は、森山容疑者が自らの判断で違法行為を繰り返していたとみているが、医師やほかの看護師が関与していなかったかも含めた当時の詳しい状況を調べている。

 逮捕容疑は昨年3〜8月ごろ、同県都城市の診療所「信愛医院」で、資格がないのに入院患者の81〜96歳の男女5人の死亡を診断、死亡診断書を作り交付した疑い。容疑を一部否認しているという。




東京新聞報道のこのニュース、みなさんは、どう読みましたか?

逮捕されたのは准看護師ということですが、不自然なものを感じます。死亡診断書を交付したって、誰の名前で出したんでしょうね? まさか自分の名前? それはないでしょう。きっと病院の医師の名前を使って診断書を書いたんでしょうけど、これってホントに医師が介在していないナース単独の事件なの? とは疑問に感じます。

医師から命令を受けてやってたんじゃないのかなという疑惑。

真実はわかりません。そこは憶測をしてもしょうがないので、真実は別として、仮想のケーススタディーとして考えてみたいと思います。


あなたは、個人有床クリニックの師長です。(別報道だと、この准看護師さん師長だったそうです。ナースは30人ほどいたとのこと)

夜、急変があり、患者が亡くなりました。施設唯一の医師である院長に電話をしたら、「いいから、俺の名前で死亡診断書を書いて処理しておいてくれ。」と不機嫌そうな声で返事があり、電話が切れました。

さあ、あなたはどうしますか?




こういうことが続くと、自然と慣習化していくんですよね。

最初のうちは、この電話みたいにちゃんとした指示(間違っていますけど)があったかもしれないけど、慣習化すると、指示があったんだかなかったんだか、不明瞭になってきます。

ともするとナースは、医師のためと思って、余計なおせっかいを焼きがち。

こうなると、ナースが自分の判断で勝手にやったと医師から寝返られたら、否定のしようがない。

なんかそんな図式を感じてしまうんですよね。

特に院長一人の小さなクリニックともなると、院長の権限は絶大ですし。狭い世界の中で権力で飼いならされてしまうという現象は誘拐犯と人質関係でも時々聞く人間の不思議な心理。

もし仮に院長命令があったとしても、盲目的にそれに従って分を越えた行動したナースに落ち度はあります。

それが今回、医師法違反で逮捕という形で世に出てきました。

ここから学びたいことは、医師の指示があればなにやってもいいの? 責任を医師が取ってくれるの?

という点。

医師は頭がイイですし、場合によってはいろんなコネがあって社会的にも強いです。

保身というと消極的な言葉に聞こえるかもしれませんが、自分の免許は自分で守っていかなくちゃいけないってことです。






2012年12月29日

私が院内BLS/ACLSをやめた理由

床に落としたスプーンを平気で客に出すコックがいて、店長に文句を言ったら「それで病気になったという前例があれば問題ですが、そういう実態がないのであれば、私からは何も言えません。料理のプロがやっていることですから」と回答があったら、、、どうしますか?

これ、私が看護部長に言われたことです。

手術室看護師なら心あたりがあると思いますが、うちの病院でも眼科白内障手術でずさんな衛生管理が行われていました。

注射器の未滅菌使い回しは5年前に眼科部長に直訴してやめさせたのですが、現在なお残っていたのは超音波手術器具のハンドピースの未洗浄使い回しや、プレフィル注射器(ヒーロンとかオペガンとか)の一部使い回し。

これを大々的に問題提起して、即刻中止させろと病院上層部に迫ったのですが、リアルタイムな反応はありませんでした。

病院幹部が使い回しの事態を公式に知ってからも1ヶ月以上黙認し、それでも動きがないものだから、最後の強行手段として手術室看護師で眼科手術介助のボイコットに打って出ても、オペの中止判断は出されなかった。

結果的にはその2週間後に、ハンドピースのレンタルにこぎつけて問題は是正されたのですが、その準備ができるまでの1ヶ月半は、毎週20名近くの患者が「手術器具の未洗浄使い回し」で他人の体液に暴露するのを容認したのです。

手術室師長や感染対策委員会、感染認定ナースがあてにならないことはこれまでの動きでわかっていましたから、看護部長ならびに院長宛に当てた直訴状では、「明日も13人の新たな体液被曝者が発生します。見逃すのですか? 即刻オペ中止命令を出してください」と具体的すぎるくらいにいったにも関わらず無視。

対策はしていると言いつつも、結局、手術器具の数が整うまでの被曝は無視し、オペを中止しなかったのです。

その後、数週間して、看護部長と直接話す機会を得て、そこで話した内容をまとめると冒頭のようなやり取りになりました。

つまり、看護部長としては、患者に使って汚染された手術器具を、洗浄も滅菌もしないで他の患者に使うことが間違っているとは言い切れないと言ったのです。手術の全責任を持つ執刀医(=眼科部長)が自信をもってやっている以上、看護師としては口を挟めない、と。

現実的に院長も事態を知っていながら、即刻停止の命令は出さなかった。しかし問題と認識して、ハンドピースを患者ごとに交換できるようにと何千万単位での新規物品購入を指示したわけです。それほどの事態であっても、状態が整うまでのオペを中止しなかったどころか、制限もしなかった。

そんな医師の判断がある以上、看護部長はなにもいえないと。感染の事実があればどうにかできるけど、それもない、と(追跡調査してないだけでしょ!)

看護部長は紛れもなく看護師です。それも上り詰めたトップの看護師。

看護師が患者を守らなくて誰が患者を守る?

とかく医師は経営者になりがちですが、ナースはあくまでナース。

私は看護部長を最後の砦として期待していました。しかし、看護部長は止められなかった。

その看護部長がいった言い訳を、別の言い方すれば冒頭のとおりです。

「それで病気になったという前例があれば問題ですが、そういう実態がないのであれば、私からは何も言えません。専門家であるプロがやっていることですから」



誰がこんな屁理屈、納得しますか?

他人に使った手術器具を、そのまま別の人に使っていい道理があるなら、教えて欲しいです。
感染の前歴がなければいい?

だったら、どこかの大学で手違いから未滅菌のガーゼを1年にわたって使い続けていた事件がありました。
そのときは記者会見で謝罪しましたが、それでも感染報告はゼロとされています。

感染した、しない、そういう問題ではないでしょう。これは感染云々ではなく、医療者としての倫理の問題です。

なんで偉くなってしまうとこんな単純なことがわからず、あーだーこーだゴネるのか不思議。

単純に自分の家族にその手術を受けさせますか? と聞きたい。

そんなに正しいと思うならマスコミにリークしますので、記者会見で正当性を主張してください、と。


偉そなことを言っても医者には声を上げられない看護師の弱さ。なにが患者を守る、だ。笑わせるんじゃない! ヘソで茶を沸かすぜ!、な感じ。

この一件で、私は病院組織を完全に見限りました。

またそんな組織を信じて「業務命令だから」といって、のほほんと違法行為に加担している同僚にも幻滅。

目の前の患者すら守れていない病院組織が、末端の看護師を守るわけないでしょ。

そんなことにも気付けない、おめでたい人たち。


ということで、これまで院内でBLS教育やACLS教育を確立させて、病院の患者安全対策に私財と能力・時間を投げ売ってきた私ですが、すべてがバカらしくなりました。

BLSやACLSの院内教育は紛れもなく患者安全対策。患者を傷つけることに加担しろと業務命令するような病院で、患者安全をトクトクと語るなんて常軌を逸した人しかできません。。

1月のACLS/BLSまでは受講者が決まっていますので、予定通り開催しますが、以後、院内でのBLS/ACLS講習開催はやらないことに決めました。

現在は、眼科の使い回し問題は是正され、解決しています。

しかし病院が過去の過ちを認めて、総括し、再発防止に向けて動かなければ、私は病院への業務以外の貢献はいっさいやめます。

病院を見限りました。

あとは、自分へのメリットがなくなればいつでもここをやめます。

そんなスタンス。



追記:その後、不本意な異動命令を受け、拒否した結果2月から病院に来なくていいと言われ、1月一杯の退職が決まりました。1月9日に辞令を受け、1月10日に退職が決定というスピード退職でした。




2012年12月12日

USチップとスリーブ交換を実現した前回の戦い

眼科手術器具使い回しを手術室内で大々的に問題提起したのは実はこれが2回目。

1回目は5−6年前だったかな。看護師経験2年目の意識の高い同僚ナースと一緒になって問題に取り組みました。

当時は、超音波手術器具のハンドピースはまるまるそのまんま使いまわしてました。滅菌・消毒なんておろか洗浄すらせずに、他人の眼球内に挿入した器具を別の患者へ。当時は1日10件くらいだったかな。

私とその2年目ナース(眼科係として部長からの信頼が厚かった、とてもできる子です)と一緒になって、眼科部長と交渉を続け、結果、眼科手術で有名な別の病院に視察へ行くチャンスを得て、その子と眼科部長が一緒に見学へ。

その病院というのは、よくテレビでも取り上げられる神の腕を持つスーパードクターと言われる眼科医がいる病院。

で、結果はというと、非常に残念なものでした。

視察を終えた眼科部長の言葉。

「うちの方がまだマシじゃん。うちは手袋は1件ずつ替えてるから」

つまり、その超有名病院の方が衛生管理的にずさんだったのです。

その後なんだかんだ手回しをして、結局、超音波手術器具のハンドピースに関しては、患者の目の中に入る部分(チップとスリーブ)だけは、毎回外してハイスピード高圧蒸気滅菌したものを使うようになりました。

ホントはハンドピース自体を滅菌処理するか交換しないと、手術野の清潔が破綻するという意味で感染対策的には意味が無いのですが、もともとチップの交換の必要性すら感じていない眼科医が、そこまで譲歩してくれたのだからと、と私たちは無理やり納得してしまったのでした。

眼科部長、基本的にはいい人です。決して悪気があるわけではなく、衛生観念の次元が私たちと違うというだけ。

この制度改革後は「うちの病院はあの〇〇病院より断然ハイレベルな衛生管理になったのは自慢すべきところだ。まあ、眼科的に意味は無いのだけど、悪いことではない」みたいなことを言っていました。

ここにたどり着くまでにも壮絶な戦いがあったわけで、一見動かないと思えた眼科部長をここまで動かしたということで、力尽きたというか、妥協してしまったというか、それが5−6年前の話です。

そして、今年の10月、ファイナルラウンドとして、今回の戦いが始まりました。



2012年12月09日

ずさんな衛生管理〜眼科医の憂いと告白

眼科医が書いた本の中に、眼科界で横行しているずさんな衛生管理や、使い回しに関して警鐘を鳴らしているものがありました。




一例ごとの消毒が連続感染を防ぐ

もう1つ、著者が残念に思っていることは、患者ごとに器具や術衣を換える施設が少ないことである。これは、日帰り手術だけではなく、入院手術でもよく見受けられる。超音波のハンドピースをその日の手術中使いまわしにすることや、鑷子の数が足りない理由で、すべての患者に使いまわしているなど、恐ろしい現地場をみせつけられることがある。

(中略)

一度消毒したら、感染の危険性はないから使い回しする発想は、終戦直後の物のない時代の名残なのであろうか? また、若い医師も抵抗なくこの考えを持ってしまっているのは、誠に残念である。そういう著者も勤務医時代はあまり疑問を持たず超音波ハンドピースを連続して使っていた。

(白内障日帰り手術〜成功するためのシステムづくり/杉田達 著 Medical View社, 1999, p.81より)


この本は1999年発行の本です。それほど古い話でありません。

最近私が問題提起している眼科の使い回しの話、他の外科医は「信じられない、いつの時代の話?」とは言うけど、私が嘘を言っているわけでも、私の勤務先の病院だけが異常なわけでもないということはお分かりいただけるかと思います。

レーシックで連続感染させた銀座眼科事件も、レーシックだけではなく、眼科界全体の問題だということです。

この本の著者はこうした警鐘を鳴らし、自身が開業するクリニックでは「正しい」やり方をしているとこの本の中で書いているわけですが、それとて実はいろいろと粗があります。その話題はまた今度。 



2012年12月06日

うれしい報告!

昨日から、ブログ上で情報解禁。

眼科白内障手術で横行している手術器械や灌流液、注射器の未滅菌使い回しの話題を昨日から書いています。

正直、公の場で書くことへの葛藤もありましたが、やっぱりオープンにしてよかったなと思ったのは、さっそく次のような報告を受け取ったこと。


「今日、副師長と一部の仲間に話をしたところ、次回から灌流液使い回ししないことになりました。みんな思ってたけど行動に移せなかっただけでした。恥ずかしながら私もその1人でしたけど、行動に移してみました。きっかけをありがとうございました。」


うれしかったですね〜

ある意味、タブーとなっていて、情報交換されることなかったこの眼科使いまわし問題。

それをオープンに語り、取り組みの実例を示すことで、波及した効果。

そう、これが大事なんです。みんな悩んでいるけど、他を知らないからこんなもんかと思って、慣習に飲まれてしまう。

オープンにこの問題を語れれば、きっと違ってくる。

自分の行なってきた間違いを認めるのは辛い部分もあるけど、もし可能なら、こんなふうに改善に取り組みだしたとか、変えられました! ということがあったら、ぜひご報告いただけると嬉しいです。

差支えのない範囲で皆さんで共有させていただければと思っています。


拒絶された「使い回し」事件の振り返り企画

昨日取り上げた眼科白内障手術での手術器具「未滅菌使い回し事件」の続きです。

事件を防げなかった、むしろそれに加担していた手術室の看護師たち(私も含めて、です)は、なぜそれを食い止めることができなかったのか、しっかり事件の本質と原因を見つめて、事故再発を誓う義務があります。

本来は上層部での事故調査委員会などの動きを待つべきですが、これまでの経緯からそんなこと望めませんから、せめて自分たちで、ということで、このような勉強会、というかデブリーフィングの会を企画をしてみました。

しかし、師長はまったく乗り気ではなく、大きな事故ではたいてい行なっているケースカンファレンスも考えていないとのこと。

今回の問題は、上層部が事件を見逃していて、事実上、容認していた部分があり、病院自体が事件を真正面から見据えていないのは対応からも見て取れます。

だからこそ、現場で問題に直面していた私たちの手で、と思うのですが、師長の手に負える範囲を超えているので、余計なことはしてくれるなという思いもあるんでしょうね。組織人としての苦悩はわかる。でも、これだけ倫理的に振り回せれて職業意識が崩れている現場ナースが多いことに目を向ければ、決して誤魔化すべき部分ではないと思います。

未滅菌使い回し事件の振り返り企画書




【眼科】注射筒・手術器具使い回し事案から手術室看護の倫理を考える勉強会

これまで10年以上に渡り、当院手術室で常態的に行われてきた眼科白内障手術の「手術器具・注射筒の未洗浄・未滅菌での使い回し」がようやく是正されました。

 手術器具を洗浄もせずに複数患者に使いまわすという、一見ありえないことが普通に行われていたのはなぜなのでしょう? 複数の医療者が関わる中、なぜそれを正せなかったのでしょうか? また感染対策や安全対策室など病院組織が関与してもすぐには是正できなかったのはなぜでしょうか?

 そこには組織的な、そして倫理的な複数の問題が関係しています。特に密室である手術室では、内部スタッフの高い倫理観と自浄作用が働かなければ、間違いは正せませんし、事故や事件が明るみにでることもありません。つまり患者が守られるかは私たちの手にかかっているのです。非常に高い倫理観が求められる職種といえます。

 手術室看護における倫理を考える機会はこれまでまったくありませんでした。今後の事故防止のため、本件を振り返り、手術室看護師としての責任と義務、倫理について考え、理解を深める機会を設けたいと思います。




このスモール・グループディスカッションで明らかにしたかったのは、この10年間、この使い回しを問題と思っている人は少なからずいたはずなのに、なんで、行動でそれを示せなかったのか? という点です。

教科書的にはみんな正解を答えると思うんです。間違った行為なら、それを上に報告するとか、医師に言って止めさせるとか。きっと机上のケーススタディならみんなそうやって答えます。

でも現実、それができなかったんです。

なぜなのか? 思いが体現できなかったのはなぜか? そのギャップの理由は?

医師がいいと言ったから大丈夫だと思った。ナースは医師の指示で動くものだから。周りの先輩もやっていたからおかしいと思ったけど言えなかった。主任がやっていたから正しいと思った。業務命令には従うべき、etc.

などなど、いろんな問題点がスタッフの中から見えてくるはず。

それを抽出して、問題の本質に迫るのがこのデブリーフィングの目的。

でも、実現はしませんでした。この先もきっとないでしょう。

この事件からは、なにも学ばれることなく、表に出ることもなく、そんな事あったっけ? と誰もの思いから忘却されるだけの事件なのです。

そして、早くも昨日、事件は繰り返されました。(昨日のエントリー参照


2012年12月05日

看護師の倫理観が問われる手術場〜未滅菌「使い回し」事件の概要

手術室勤務経験があるナースなら、きっとさほど驚かない眼科手術の手術器械や注射薬の 未滅菌 使い回し。

うちの病院も長年の問題でした。(私にとっては、ね。だって他に誰も声を上げた人、いないんですもん)

数年前に職場内で一度大きく問題提起して多少は改善されたのですが、超音波手術器具のハンドピースを洗浄もしないでの使い回しはそのまま。当時は、オペガンとかビスコート、ヒーロンといったプレフィル注射器の使い回し部分撤廃とハンドピース先端チップの交換を実現しただけで満足しちゃったんですね。

清潔野に並べられた眼科白内障手術でつかうプレフィル注射薬

あれだけ、頑なだった眼科部長をそこまで動かしたという点で、これで精一杯かなと思っちゃった自分がいました。罵倒されたり脅されたり、それなりに嫌な思いをしましたし。師長も主任もぜんぜん守ってくれないし。

で、最近きっかけがあり、ここ数週間で、再度の行動に出ました。

これまでも文書では、安全対策室や感染対策委員会、感染制御室にはなんども現状を訴えて、感染症患者の後にも平気で使い回しをしている時など、たまたま自分が担当する目の前で起きたときは事故報告書を出したりして、それなりに継続的に動いていたのですが、上層部はノラリクラリ。

もうこれでオシマイにしようと思って、今回、病院を辞める覚悟で最終手段。

問題をことさらセンセーショナルに大きく取り上げて、「違法な犯罪行為には加担できない!」私はオペをボイコットするという宣言を出しました。

その後も続いた使い回し手術の度に、事故報告書を作成し、故意の体液被曝をさせた張本人とそれに加担した共犯者ということで、オペに関わった医師と看護師を名指ししたレポートを作成し、上層部へ提出すると同時に手術室内で掲示を行いました。

これはさすがにインパクトがあったようで、ようやくスタッフの間にも「眼科の手術はヤバイ」という意識が強まり、手術を担当することを拒否する人が一人二人と続いていき、やがては主任と一部のスタッフが毎回オペに入らざるを得ない状況となり、ようやく上層部も重い腰を上げて、、、といった顛末となりました。

ここまで追い詰めたら早かったですね。

2週間くらいのうちにメーカーから予備のハンドピースを借り受け、これまではずっと使いまわしていた灌流液(BSS)も患者人数分取り寄せて、ということで、ようやく1患者ごとに清潔が保たれた環境が実現しました。

できるのにやらなかった。私が訴えだして約5年。いままで、難しい、できないと言われ続けたことが、ある意味、武力行使に出たらさくっとできた。つまり、単にやらなかっただけ、ということがあからさまとなりました。

一応、解決した。のですが、後味は悪いというか、すっきりしません。

というのはこれだけ大掛かりなことになっておきながら、反省の色がまったくないからです。

似たような事件、例えば銀座眼科のレーシック使い回し事件では、院長が傷害罪で有罪となっています。これだけのことなのに事故検証委員会が立ち上がるわけでもなく、誰が処分されたわけでもないし、患者への謝罪や補償、追跡調査についても言及なし。私からの質問にも回答なし。

不具合な事象は改善された、ということでこれまでのことはなかったことにしようとする感がありあり。

少なくとも今回の問題は、「病院が把握していたのに止めなかった」という実態があります。今までは現場のナースが声を上げなかったから上層部は知らなかったと言い逃れできた図式がありましたが、度重なるレポートの提出で、安全と感染の担当者がオペ室を視察に来たのが運の尽き。

それをきっかけに私は行動にでたのでした。

知らなかったとは言い逃れできる状況は崩れた!

だからこそ、強行突破に。それでも、私の再三の訴えは無視して、使い回ししなくていいように機材の購入申請をしたからという一点張りで、目の前で毎週血液・体液被曝していく患者は放置。オペを止めなかった。


結局、この問題は、眼科部長という大学医局から派遣された人に対する遠慮だかなんだか知りませんが、病院組織をはじめ他の医師も口を挟めなかったというのが最大の問題。感染対策委員長の医師も「感染対策委員会にはそんな権限ないんだよ」と言って動かなかったわけですし、院長にしてもこれだけ事件性があることなのに、職場崩壊になるまで追い詰められなければ動かなかった。

各診療科というのはそれぞれ高い専門性があって、他の科からするとお互いに不可侵なものなのかもしれません。併診用紙なんかの言葉遣いをみればわかりますよね。それ故に、注射薬や未滅菌器具の使い回しなんて、専門領域以前の話なのに誰も正せなかった。ある意味、医局制度とか診療科毎の縦割り体制で、病院全体をコントロールできる力が働かないという病院組織の問題。専門家集団ゆえの問題。

しかし、ここでなにより訴えたいのはナースの倫理観です。

眼科以外の診療科では、不潔な手術器具を滅菌せずに術野に出すなんてありえないという常識は知っているのに、医師からやれといわれたら疑いもなく従うというプロ意識の無さ

医師と看護師間のパターナリズムに満ちた関係性も問題ですが、看護師間の軍隊チックな体質も問題。先輩がやっているから、みんなやっているから。新人ナースが疑問に思っても先輩に逆らえない雰囲気。それがこの間違った慣習を脈々と受け継がせ、麻痺させてきたのです。

特に手術室なんて、医師たちと器械出しと外回りナース二人だけの密室の世界。ナースが口をつぐめば決して表には出ない事故や事件が沢山あります。だからこそ、手術室の看護師こそ、高い倫理観がなくてはいけないのですが、私の知る限りそんな教育が行われたことは一度もありません。

今回の使い回し事件も、防ぎ得たはずのナースがなんの行動もしなかった、最低レベルである上へ報告・相談することすらしなかった。衛生知識が間違っている眼科医がいちばん悪いわけですが、それを食い止めることができる唯一の立場であるオペ室ナースがなにもしなかった責任は重大です。

医師から間違った指示が出された時、私たちはどう行動するか?

教科書的には、みなさん正解を答えると思いますが、実際、誰もできなかった。それが現実です。

なぜ、疑問に感じなかったのか?

疑問に感じていた人たちもいます。では、なぜその人たちは自分の思ったとおりに行動を起こせなかったのか?

そこは検証すべきです。

そこがクリアにならない限り、また同じ過ちは繰り返されます。

しかし、今の病院はその検証を拒んでいます。この期におよんで正面から向き合っていないのです。

私はオペ室ナースでの事後検証デブリーフィングの企画書を作って師長と安全対策室に提案しましたが、そこまでは考えていないと難色を示され、「検討します」お茶を濁して消極的。事実上、放置されるでしょう。



だから言わんこっちゃないという事件が今日起きました。

別の診療科で、術野に出した医療材料をもったいないからといって次の患者に使うように指示されて、それに従ったナースがいたのです。

たまたま発覚したのですが、もう情けなくて涙が出てきました。

なんで、これだけのことが起きたばかりにいま、そんなことができるの?

事故から学ぶというごく当たり前のことを行わないから、こうなるのです。

なんにも学んでいない。

これだけが問題ではありません。あまりに複雑すぎてすべては語れませんが、看護師としての信念・生き方をも根底から覆すような重大な問題をごまかしてウヤムヤにしようとしている病院。

いま、現場では何を信じていいいのかわからない、オペ室としてはナースとして致命的な事態になっています。それを正すという自浄作用が働かない現実。

事はホントはシンプル。現代日本で注射器とか人に使った手術器具をそのまま使いまわすなんてありえないでしょう。いつの時代? どこの国の話? そんなくらいにごく当たり前におかしいことがおかしいと言えなくなる環境。ある意味、戦時中の日本みたいなそんな閉鎖的な社会性が問題なのでしょう。

まだ問題は終わっていません。日々、動いています。私も今後どうなるかわかりません。

うまくまとめられませんが、そんな渦中に私はいます。





2009年08月02日

レーシック集団感染−眼科業界の衛生水準の問題

今年2月から問題になっていた視力矯正手術レーシックでの集団感染事件ですが、ここ最近またマスコミで騒がれていますね。

ニュースキャスターや識者が「医者としてあり得ない」とか、いろいろコメントしていますが、手術室勤務の皆さんはどう感じてらっしゃいますか?

私の率直な感想は、ようやく表に出たんだな、という感じです。

これまで衛生管理が問題にならなかったのが不思議なくらい。

ただ、それは保険適用外のレーシックという「商売」に限った話ではないと思っています。

どちらかというと、外科医である眼科医全体の衛生観念の欠如が問題ではないかと思います。

皆さんの施設でも白内障の手術が行われていると思いますが、きちんと衛生管理されていますか?

1日に10件も20件も白内障手術をしていると、器具の処理がないがしろになったりしてませんか?

問題もあるのであまり詳しくは触れませんが、以前、私の関連していた施設では、眼科手術に使うディスポーザブルのメス(ナイフ)を使いまわしていました。

使い捨てのものを使いまわす時点で問題と言えば問題ですが、驚くのはその処理の仕方。ヒビテン(グルコン酸クロルヘキシジン)入りの超音波洗浄機で薬液消毒するだけなんです。

ご存じのように人の体の中に入る手術器具に関しては「滅菌」が必要とされています。

マスコミの方たちはこのあたりの医学的常識をご存じないので消毒と滅菌を混同しているコメントが見られましたが、メスなどの手術器具を「消毒」レベルで術野に出すというのは、ふつうはあり得ないことです。

想像してみてください。開腹術で床に落としてしまった鑷子をアルコール綿で拭いて術野に戻すなんて、まず考えられないですよね?

で、私はこの眼科の消毒(しかも中水準のグルコン酸クロルヘキシジン!)器具の使いまわしを問題と思ったので、職場内で問題提起して、眼科医にも掛け合いました。

そうしたら眼科医からは驚きの答えが。

「どこもこうやってるよ。うちが衛生水準が低いとは思わない。現に感染だって出てないし」

他科手術では消毒レベルの器械を出すなんてあり得ないし、ガイドライン的にも推奨されていないという点を伝えても、眼科の世界ではそれがあたりまえのようで、聞く耳を持たず。

そこで、本当に眼科業界ではそんな認識なのかを知るために、眼科手術の教科書をいくつも紐解いてみると、、、、

ホントにそうなんです。ほんの数年前に出版された眼科手術の手技書の中に、ディスポーザブルメスの消毒処理法を得々と解説しているページを発見。

本来は使い捨てであるが経済的にそういうわけにもいかないので、私はこのような方法を採っているというような個人署名の記事でした。

暗黙のうちにやっているならまだしも、ある意味不法行為とも言うべきことを堂々と活字にして、しかもそれが手術手技書という教科書へ記載している神経が驚きでした。

古い認識で書かれた昔の本なら、納得できますが、思わず何度も発行年を確認しちゃいました。

こうなると、うちの眼科医の頭が固いのではなく、眼科業界全体が日本の医療衛生水準から遅れていると考えざるを得なくなります。

この点は、他病院への内々のリサーチもしてみましたが、やっぱり他科と比べて衛生水準が低く、ナースたちもそれを問題に感じつつも、昔からの慣習と眼科医の言い分に流されて今まで来ているようです。

その後、私のいた病院では、病院の感染対策室を巻き込んで、どうにか改善にこぎ着けましたが、それまで2年近くかかっていますし、個人的にイヤな思いもいっぱいしました。幸い、問題が大きくなる前に手が打ててよかったと思っています。

そんなわけで、眼科自体、こんな水準ですから、いつか問題が起きるだろうなとは思っていました。それが今回たまたまレーシックというのは、ある意味残念です。

レーシックという保険診療外での出来事だと、それが眼科医全体の意識というよりはレーシックの問題として限局して捉えられてしまうからです。


この点、眼科手術の実態を知っている数少ない存在である手術室ナースの皆さん、どう考えますか?




2018年05月26日

医療用ホチキスを使い回し

またまた未滅菌使い回し事件が発覚です。


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医療用ホチキスを使い回し

2018年05月24日 07時33分 読売新聞

 小樽市立病院は23日、国の通知で再使用が禁止されている医療用ホチキスを、脳神経外科の一部の手術で使い回していたことを明らかにした。
 2016年8月から今年4月にかけて使い回していたというが、現時点で、感染症による健康被害の訴えはないという。
 発表によると、この器具は脳動脈瘤などの手術中、身体機能検査用の電極を患者の頭皮に固定するため、検査技師が使用する。1台に35針が入っており、血液の付着が見られない場合はアルコールで消毒して再使用していた。関係者は「傷口の縫合とは違うので、再使用してもいいだろうという判断ミスがあった」と説明する。




なぜこれが表にでて、公式発表するに至ったかが気になります。
手術室で働く皆さんなら、似たような事例はごまんと知っているはず。

知らないのは患者の皆さんだけです。
2017年08月31日

医療用ドリルバー使い回し 看護師だけが処分?

見過ごせないニュースがありました。

使い捨ての医療機器、洗って再使用 兵庫医大病院



整形外科や脳外科、歯科口腔外科などで使用する窒素ドリルの先端バーの再利用。
きっとどこの病院もやっていることだと思います。

むしろ、再利用禁止品だと知らないで、再生するのがあたりまえという感覚すらあるかもしれません。

それが医療現場の現実です。

事実、2006年の調査では、92.1%の医療施設が単回使用器具のなんらかの再使用をしていたという報告があります。


さて、今回、大きく着目したのは、最後の一文。


「同病院は看護師らの処分を検討する」


看護師の責任が問われている、ということです。

これは免許を持って働いている専門家として、自分が手を下してやったことですから、当然と思います。

仮に医師の指示であったとしても、ある意味、「実行犯」なのは事実ですから。


しかし、現場の看護師の感覚からしたら、納得できないという意見も少なからずあるだろうとは思います。

手術室ならびに中央材料室で働いていた自分の経験からは、立場からすると、こうしたことは珍しいことではないし、職場の空気感として、あたりまえで疑問を感じることがないような雰囲気も理解できます。

医師の指示があったとしても、直接指示というよりは、歴代の慣習みたいなもので、昔からそうしているからあたりまえ、ということで、明確な指示の証拠はおそらく出てこないでしょう。

あったとしても、「これ、回しておいてよ」程度の軽い一言。

このことから、恐らく医師の責任を追求するだけの証拠は出てこないと思います。


となると、確実に言えるのは、現場で実際に手を下して再滅菌処理をした看護師の責任だけです。

理不尽だと思うかもしれませんが、免許をもって専門業務についている以上、看護師もその判断と行動の責任はあって当然ですし、専門職者の倫理観としておかしいと思うことはおかしいと声を上げて、場合によっては上司や医師の指示であっても拒否しなければならないのです。

これがただの会社の上司と部下の関係とは違う部分です。

現場感覚では、ただのコマのひとつに過ぎない自覚かもしれませんが、世間からしたら一個の専門家なのです。





使い捨ての医療機器、洗って再使用 兵庫医大病院
8/29(火) 18:43配信
神戸新聞NEXT


 兵庫医科大学病院(兵庫県西宮市武庫川町)は29日、厚生労働省の通知で手術後に廃棄するよう定められている医療機器を、洗浄して患者130人に再使用していたと発表した。同病院によると、感染症など患者の健康被害は確認されていないが、手術後1年間は経過観察を行うという。

 この機器は、骨に穴を空けるドリルの先端に取り付ける金属製器具4種類。昨年12月から今年7月末にかけ、医療機器の洗浄を担当する複数の看護師が事前協議をせずに、手術で1度使った器具を洗浄、滅菌し、整形外科と脳神経外科で135回の手術に再使用していた。

 7月中旬に厚労省から西宮市保健所に情報提供があり、8月1日、同保健所と近畿厚生局が立ち入り検査。その後、同病院を文書で是正指導した。

 病院によると、看護師らは「厚労省の通知は知っていたが、滅菌して安全性が担保されていれば再使用しても問題ないと思っていた」と説明。同病院は看護師らの処分を検討する。

 相談についてはフリーダイヤル0120・456・613(平日午前9時〜午後4時45分)





参考まで、この手の使い回しは、「違法」ではありません

厚生労働省医薬局長通知(医薬発第1340号)で、製造者には再生禁止を添付文書に記載することを義務付けていますが、医療機関に対しては、再生使用してはいけないとは定めていません。医師の判断・裁量としては許容されている、とも言えます。

平成16年2月9日付厚生労働省医政局長通知(医政発第0209003号)の中では、

「ペースメーカーや人工弁等の埋め込み型の医療材料については医療安全や感染の防止を担保する観点から、その性能や安全性を十分に保証し得ない場合は再使用しない等の措置をとるなど、医療機関として十分注意されるよう(中略)よろしくお願いする」

とあり、再生使用は禁止ではなく、なるべくしないようにお願いね、という程度の扱いになっていることを申し添えておきます。

行政からの通達文で、よろしくお願いする、というのも、歯切れが悪く、背後に渦巻くなにかを感じさせます。




2015年08月01日

カテーテル300人に使い回し 神戸大学病院

またまた医療器具の使い回し事件が発覚しました。



今回は循環器内科。カテ室で使う約20万円のディスポーザブルのカテーテル(アブレーション用?)を再滅菌して、記録に残るかぎり過去5年の間に約300人に使いまわしていたということ。

健康被害は報告されていないものの、健康相談と検査に応じるそうです。

処分的には、「行政指導」だそうで、使い回しをしていた医師や滅菌処理やカテの機材準備をしていた看護師個々への処分はない模様。

記事を見ると4月に着任した滅菌担当者がこれまでの使い回しの慣習に疑問を感じて、院長に報告して、近畿厚生局と神戸市保健所に調査結果を報告し、今回の報道になったようです。

よく言えば自浄作用が働いた、ということなんですけど、まあ、不自然で、病院としては逃げられないところまで追い詰められたってことなんでしょうね。

そこまで追い詰めた滅菌担当者とぜひ話してみたいものです。

滅菌業務は最近は外部委託されるケースが多く、外部の業者としては病院の不正を指摘するような動きはしないでしょうから、きっと中央材料室の主任や師長が代わって今回の告発に及んだと思いますが、看護師からの発信だとしたら、頼もしいですね。

民間資格ながら、滅菌技師という認定制度があります。

中央材料室で働く人がよく取得しており、うちの中材の主任ナースも1級をもってましたが、使い回しに関していちいち声を上げる人ではなかったですね。


シングルユースの医療器具は、添付文書にある通り、1回で捨てるべきです。

これは正論としてどう転んでも正しい。

しかし、今回の事件のように医療保険制度では、規定数以上を使うと病院の持ち出しとなり、病院経営的に厳しいのも事実。最近は手術で使うドレープや材料の多くがディスポーザブル化されて、より衛生的に手間なく手術が進められるようになっていますが、それこそすべてをディスポーザブル製品で行ったら、手術代の元がとれないというのも事実。

だからこそ、堂々と使い回しできる不便な古い機器を使ったりしているわけですが、その流れからすると、単回使用品も洗って滅菌して使えばいいじゃん、という発想は理解できなくはありません。

今回も滅菌しているからいいじゃんという意見がありますが、実際のところ下記の2点で問題です。

・洗える構造になっていない
・滅菌や再利用に耐える強度では設計されていない

カテーテルのような長い細い内腔がある製品、どうやって洗ったらいいんでしょうね?
内腔に付着した血液をブラシのようなもので洗うことはできません。

血液を分解する酵素が入った液体につけて、水通しするのがせいぜいです。

それで洗浄したといえるのか?

また滅菌工程を考えても、カテーテルのようなプラスチック製品はEOG滅菌かプラズマ滅菌ですが、狭い内腔にきちんとガスが浸透するのかという点も問題です。内腔に関してインジケーターでチェックをすることもできません。

強度という点では、再利用は想定されていませんから、カテーテルが血管内で破損する可能性があります。血管内で先端部が欠損して遊離してしまったら、、、、コワイですね。

こういうことは、事件が起きた時に検証されて初めてバレるもので、通常は患者にはわかりません。

ただ、場合によっては、再生品を使っていたにも関わらず、患者には新品を使ったことにして材料費を請求するということもあり、これは完全に診療費の不正請求、つまり詐欺です。

今回の場合は、診療費の不正請求という指摘はされていないので、そこまで悪質ではなかった(まだバレてないだけ?)のだと思いますが、私が告発した使い回し事件は、この診療費の不正請求という観点で厚生局と地元行政に報告をしています。


正直なところ、この程度の使い回し、大半の医療者は、「ふーん、、、バレちゃったんだ。運が悪かったね。」程度の認識だと思います。

珍しくないってこと。

今回の事件がきっかけで、いま使い回しを常態的にやっている全国の病院が、自ら襟を正してくれることを願うばかりです。


「カテーテル300人に再使用、滅菌は実施 神大病院5年間に」(神戸新聞 7月30日)

医療用カテーテルを国の通知に違反して使い回していた問題で、神戸大医学部付属病院(神戸市中央区)は30日、使い回しは記録が残る2010年度からの約5年間に296人に実施し、41人にその疑いが否定できなかった、と発表した。保険診療で定められた本数を超えて治療する場合、診療報酬が受けられないため、担当医の判断で滅菌して使い回していた。10年度以前にも使い回しの可能性があり、同病院は調査を続ける。

 同病院によると、今年4月に着任した医療器具の滅菌担当者が使い回しを知り、院長に連絡。病院が調査した結果、循環器内科の不整脈治療を担当する医師らが使い回しを認めた。現時点で健康被害は確認されていない。

 カテーテルは1本約20万円。同病院循環器内科の平田健一診療科長は「国の通知に沿い、カテーテルの添付文書にある再使用禁止を守らなかったのは反省すべき」と謝罪した。

 同病院は6月に近畿厚生局と神戸市保健所に調査結果を報告。両者は7月13日に臨時の立ち入り検査を実施し、再発防止策を求める行政指導をしたという。10年度以前の患者も調査するため、同病院は緊急窓口を設けて問い合わせに応じ、必要な場合は感染症検査の費用を負担する。同病院医療相談室TEL078・382・6600(土日祝を除く午前9時〜午後5時)

(金井恒幸)





2014年05月19日

歯科業界で発覚した未洗浄・未滅菌器具使い回し/2014年5月

先日、こんなニュースが流れたのをご存知だったでしょうか?

歯科クリニック、診療器具未洗浄・未滅菌使い回し実態の報道


歯科医と眼科医は衛生管理がズサンというのは、今に知られるようになった話ではありませんが、こんな形で堂々と事態が公表されたのは意外でした。

医療者は、自分が受診してみればそこが衛生的に安全かどうかはわかりますし、判断しながら医療機関を選んでいると思いますが、一般の方にとっては衝撃的なニュースだったことでしょう。

歯科医も含めて医療の専門家といえば、衛生管理はしっかりしていると信じてますが、ところがどっこいこのザマです。

自分の身は自分で守る。そんな発想が医療受診にも必要です。(そういえば医者に殺されないための本、みたいのが流行ったことありましたね。私は読んでませんけど。)


こういう調査にちゃんと回答している歯科医というのは、どういうつもりなんでしょうね。悪気があったらきっと「滅菌してません」なんて答えないでしょうし、そもそもこんな調査がアンケートとして成り立つこと自体、驚きだと思いません?

私が改善に取り組んだ眼科手術の使い回し事件の場合もそうでしたが、そもそも医師(歯科医師)の感染に対する知識が間違っていたり、衛生観念が希薄なんだと思います。

他がみんなそうしているから、ということで疑いもしない。うちは他の病院よりマシだと言ってみたり、感染が現に起きていないから、未洗浄使い回しでも大丈夫なんだと主張したり。

確かに手術手技書にも平気で使い回しのやり方が書いてあったりして、業界全体が腐っているという印象でしたね、眼科に関しては。


今回の歯科での使い回し報道で特に着目したのは、「研究班は患者ごとに清潔な機器と交換するよう呼びかけている」というくだり。

国立感染症研究所の研究ということで仕方ないのかもしれませんが、呼びかけて終わり? と思っちゃいます。

そんなもんなんでしょうかね? 研究に同意・協力してくれた医療機関に対する道義的・倫理的配慮があるのかもしれませんが、でも犯罪行為でしょ? 儲けを上げるために故意に患者を体液・血液被曝させたわけですから、歴史的に事件となっている注射器使い回しとおんなじです。

消費者はもっと騒いでいいと思うんですけどね。


医療機関の信頼失墜ということで、かなり大きな報道だと私は思っていますが、皆さん、無関心なのが不思議。ASKAが覚せい剤で捕まっても私達の生活にはなんにも影響しないのにね、なんて思っちゃいます。


とりあえず、眼科の使い回し事件を追っている私としては見逃せない報道でしたので、ここにクリップしておきます。


歯削る機器、滅菌せず再使用7割…院内感染懸念

読売新聞 5月18日(日)7時29分配信

 歯を削る医療機器を滅菌せず使い回している歯科医療機関が約7割に上る可能性のあることが、国立感染症研究所などの研究班の調査でわかった。
 患者がウイルスや細菌に感染する恐れがあり、研究班は患者ごとに清潔な機器と交換するよう呼びかけている。
 調査対象は、歯を削るドリルを取り付けた柄の部分。歯には直接触れないが、治療の際には口に入れるため、唾液や血液が付着しやすい。標準的な院内感染対策を示した日本歯科医学会の指針は、使用後は高温で滅菌した機器と交換するよう定めている。
 調査は、特定の県の歯科医療機関3152施設に対して実施した。2014年1月までに891施設(28%)から回答を得た。
 滅菌した機器に交換しているか聞いたところ、「患者ごとに必ず交換」との回答は34%だった。一方、「交換していない」は17%、「時々交換」は14%、「感染症にかかっている患者の場合は交換」は35%で、計66%で適切に交換しておらず、指針を逸脱していた。
 別の県でも同じ調査を07〜13年に4回行い、使い回しの割合は平均71%だった。





2013年10月04日

注射器使い回し、手術器具未洗浄使い回しが続いたのはなぜ?

今日、予防接種で間違って人に打った注射器で別の人を刺してしまったというニュースがありました。


使用済み注射器使い小5男児に接種 美浜町
(2013年10月3日) 【中日新聞朝刊

 愛知県美浜町は2日、町保健センターで9月27日に実施した日本脳炎の集団予防接種で、町内の小学5年の男子児童(11)に誤って使用済みの注射器で接種をしたと発表した。
 町は保護者に謝罪し、翌28日に男子児童に血液検査と感染症の予防接種をした。体調の異常は報告されていないという。


人の血液や体液に触れた器具を、他の人の人体に挿入するという行為。

あってはいけない行為。そうですよね。ふつうは。

だから謝罪して、感染症に罹患していないか検査をして、予防策を講じる。

それが自然で当たり前な医療者としての対応です。


でも、このブログでもずっと書いているように、私が勤務していた病院では、眼科白内障手術で、手術器具を洗いもせず消毒もせず、滅菌もせず、1日十数人の患者に使いまわすことが普通に行われていました。

さらには、高い薬だからといって、針だけ変えて同じ注射筒で何人もの患者に薬を使いまわしていました。もちろん患者はそんなことは知りません。それでいて、診療費の請求では1人1本使ったことにして請求をしていたのです。

ありえないこと。

誰もがそういうでしょう。

でもそれを大手総合病院が去年2012年11月まで普通にやっていたのです。

行っていたのは眼科部長の医師で、加担していたのは手術室の看護師たち。私もその一人でした。

最終的には私が大騒ぎをして、病院に詰め寄った結果、私の知る限り9年続いていた悪習に終止符が打たれたのですが、私は職場を追われることとなりました。

使いまわし自体は終わった過去の話ですが、問題にしたいのは、なぜ、それまで10年にも渡って、明らかに間違った事態が正されなかったのか? という点です。

眼科部長の医師は、あえて看護師に指示をして、廃棄すべき注射筒を取っておいて、使いまわしていたのはなぜか?

その指示を受けた看護師たちは、なぜ疑問の声を上げず、間違った行為に加担し続けたのか?

私が、問題提起したのは2006年頃から。それでも現場のナースや主任、師長はなぜ動けなかったのか?

私が書いた事故報告書や問題提起の文書を見た安全対策責任者や感染対策委員会、院長は、なぜ動かなかったのか?

そしてなぜ私は職場から排除されたのか?


信じられないかもしれませんが、ほんのつい最近まで、大手総合病院で行われていた事実です。

これを読んだナースは、口々に好き勝手なことを言うでしょう。

そこで聞きたい。あなたが、この現場の中にいたら、声を上げられますか? 立ち上がれますか?

おかしい! とネットの上で言うのは簡単です。そう思うなら、現場にあなたがいたら何をするんですか?

そこを聞きたい。

そんな職場はとっとと辞める。

それはそれでいいでしょう。みんながやばいと思って辞めれば、悪習は成り立たず、つぶされたはずです。

でも、それは少なくとも10年以上、続いた。

このケースから私たちは何が学べるでしょうか?

ぜひ、医療者として考えてほしく、ここに書かせていただきました。




2013年02月24日

患者さんのことを考えたら、未滅菌使い回し手術を阻止することは良くない!?

眼科白内障手術での手術器具の未滅菌使い回し、2006年から私は問題を訴えていて、被曝事故報告書やレポートなど、10通以上出してきました。

それでも病院は使い回しをやめさせなかった。

だから、最後は強硬手段として、「ナースが手術介助を拒否する」というボイコット運動に。結果、オペを担当するナースが主任看護師以外いなくなり、それでようやく去年の11月に使い回しが是正されたわけですが、私が拒否宣言を出した時、オペ室内でも賛否両論ありました。

使い回しは問題だと思うけど、手術介助のボイコットを扇動する私のやり方が正しいとは思えない、と。

その時、師長、主任を含め、何人ものベテラン看護師から次のようなことを言われました。

「白内障手術の患者さんは手術後の視力を取り戻した生活をとても楽しみにしている。そのために予約して何ヶ月も待ってオペを受けにやってくる。その患者さんの気持ちを考えたら、オペを止めることは、良くないと思う」

このことを、真顔で何人にも言われたし、手術室のリーダー会と呼ばれる会議でも公然と語られた論理です。

さて、皆さん、どう思いますか?





2013年02月22日

白内障手術 [未滅菌] 使い回し事件を告発してきました

昨日、ついに告発してきました。眼科白内障手術未滅菌使い回し事件。

うちの病院、なにげに全国ネットの大病院グループ。

その本部に医療安全を担当する専門部署があって、その担当者にあらいざらい話をしてきました。

最初、電話でアポをとるとき、これがいちばんドキドキでしたね。

「系列病院の職員です。医療安全の担当者とお話したいのですが、、、」
「どちらの所属ですか? どういったご用件でしょうか?」

ただの交換手なのにけっこう細かく聞いてくるんですよね。

面倒なんで言っちゃいました。

「病院で行なわれていた犯罪性の高い行為についてご報告があります」と。

そしたら、速かったです。

そんなこんなで本部に出向いて、白内障手術でずっと行なわれていた手術器具の未洗浄・未滅菌使いまわしの実態と、プレフィル注射薬の使い回しについて説明。

担当者は事態を飲み込むまでは顔が怪訝で、私が発する「犯罪行為」といった刺激的な表現に「いや、そうとも、、、」みたいにいちいち反応していたのですが、1時間も話す頃には事の重大さを理解いただけたようで、真摯に対応・受理していただけました。

中身が残った注射液を別の患者の体内に注射する。洗ってもいない手術器具をそのまま別の患者の手術に使う。

どう考えても「ありえない」異常なこと。

だから、話はとってもシンプルなはずなんですが、話が込み入ってくると、善悪の判断がみんなぶれてくるんですよね。

うちの看護部長もそうでした。使い回しが原因で感染したという事実があるなら、いいのだけど、そうでなければ眼科部長のやっていたことが間違っているとは言いきれない、とかね。(この話の詳細はこちら→http://or-nurse.seesaa.net/article/310430871.html

「他人の血液を別の人に注射しました。感染したら傷害罪ですが、感染しなければ不問です」

なんて話あります?

なので、話をシンプルに理解してもらえるように、準備はかなり気合い入れてやりましたよ。

参考文献、それなりに取り揃えていきました。もちろん、犯罪の証拠となるこれまでの私が書いてきた事故報告書や上層部への上申書など。合わせて30枚くらいになったかな。プラス証拠証言の録音CD。

やっぱり効果があったのは、類似事件の新聞報道記事でした。見出しが効きますね!

誰もが知ったはずの事件、こんな新聞記事も目の前に突き出されるとインパクトあります。こういった使い方はやっぱりネット記事のコピペではなく、紙媒体の新聞の見出しが効果的。

レーシック未滅菌器具手術で院長逮捕(業務上過失傷害罪)

うちの病院でやっていたのも、これとまったく同じなんですよ。損害賠償4億4,480万円って書いてありますね、とか。

それなりに規模が大きい病院組織で社会的な手前もあって、さすがにこの訴えを隠蔽することはないと信じています。

参考まで、今回、私が訴えの焦点としたのは次の4点。

1.2006年頃から使い回しの実態を事故報告書等で何度も(記録に残っている限りで8回)上層部にあげてきたが、適切に対応してこなかった

2.2012年10月、来週手術を受ける患者のために、時間はかかっても器具の滅菌処理を行なうように眼科部長に業務命令を出してほしいというオペ室からの嘆願書を病院上層部は無視した

3.犯罪性の高い行為であるということで、手術室看護師が眼科手術介助を拒否する事態となったとき、看護部長は事実を知りながら「それでも業務命令でオペを続けさせろ」と違法な業務命令を出した

4.プレフィルの注射薬(オペガン、ヒーロンといった粘張剤)を複数患者に使いまわしていたにも関わらず、ひとりに一本使用したものとしてコスト請求を行なっていた


実はこの問題は私の退職と引き換え(?)に2012年11月で完全に是正されています。なので、現行犯ではなく、過去の病院の対応を問題としています。

今はもうやめたから、過去のことは水に流してね、っていうわけにはいきませんよね。

2012年11月、手術室看護師のボイコットでようやく正された違法行為。

病院としては、事件を隠蔽しています。通常の事故だったら、報告があがってその結果は師長会報告などを通じて、全職員に公開されています。今回はそんな動きはありませんし、誰一人責任を取っていない。

さらに言えば、眼科の使い回しが問題だったのか、そうではないのかすら、病院は明らかにしていません。

この過去を隠蔽しているのを正す、というのが私の本部訴えの理由です。

調査中ではっきりしないから何もいえなかったとか、そんな言い訳するんでしょうね。でも、調査委員会が立ち上がっていないし。まっさきにあるはずの現場スタッフへの聞き取り調査もされてないし。

これだけのことを、黙認してきたんですから、それなりの清算はしてもらわないと。患者への説明や謝罪、補償。

本来なら社会に対して記者会見を開くレベルの問題です。


ということで、この問題を世に明らかにするための第一歩を踏み出してきました。

本部の医療安全担当者には伝えてあります。

「今後経過を私に報告してください。動きが見えないようなら、当院管理者がしていたのと同様、本部も隠蔽していると判断して、規制官庁、マスコミに話を持っていく用意はしていますので」、と。

ケンかを売るつもりはありませんが、この問題は私の看護師生命をかけた問題として本気で取り組んでいくことを伝えました。


この問題、うちの病院グループがプレスリリースや記者会見で世の中に出してくれれば、間違いなく全国問題に波及します。眼科白内障手術を手がける病院では、かなりの割合で同じことを行なっているからです。

こちらを参考にどうぞ → 「ずさんな衛生管理〜眼科医の憂いと告白




2013年01月12日

自分の免許は自分で守る!



准看護師が死亡診断、宮崎 医師法違反容疑で女逮捕



 宮崎県警は10日、医師ではないのに勤務先の診療所で入院患者の死亡確認をするなど、違法な医療行為をしたとして医師法違反容疑で、同県高原町、准看護師森山貴美子容疑者(54)を逮捕した。

 県警は、森山容疑者が自らの判断で違法行為を繰り返していたとみているが、医師やほかの看護師が関与していなかったかも含めた当時の詳しい状況を調べている。

 逮捕容疑は昨年3〜8月ごろ、同県都城市の診療所「信愛医院」で、資格がないのに入院患者の81〜96歳の男女5人の死亡を診断、死亡診断書を作り交付した疑い。容疑を一部否認しているという。




東京新聞報道のこのニュース、みなさんは、どう読みましたか?

逮捕されたのは准看護師ということですが、不自然なものを感じます。死亡診断書を交付したって、誰の名前で出したんでしょうね? まさか自分の名前? それはないでしょう。きっと病院の医師の名前を使って診断書を書いたんでしょうけど、これってホントに医師が介在していないナース単独の事件なの? とは疑問に感じます。

医師から命令を受けてやってたんじゃないのかなという疑惑。

真実はわかりません。そこは憶測をしてもしょうがないので、真実は別として、仮想のケーススタディーとして考えてみたいと思います。


あなたは、個人有床クリニックの師長です。(別報道だと、この准看護師さん師長だったそうです。ナースは30人ほどいたとのこと)

夜、急変があり、患者が亡くなりました。施設唯一の医師である院長に電話をしたら、「いいから、俺の名前で死亡診断書を書いて処理しておいてくれ。」と不機嫌そうな声で返事があり、電話が切れました。

さあ、あなたはどうしますか?




こういうことが続くと、自然と慣習化していくんですよね。

最初のうちは、この電話みたいにちゃんとした指示(間違っていますけど)があったかもしれないけど、慣習化すると、指示があったんだかなかったんだか、不明瞭になってきます。

ともするとナースは、医師のためと思って、余計なおせっかいを焼きがち。

こうなると、ナースが自分の判断で勝手にやったと医師から寝返られたら、否定のしようがない。

なんかそんな図式を感じてしまうんですよね。

特に院長一人の小さなクリニックともなると、院長の権限は絶大ですし。狭い世界の中で権力で飼いならされてしまうという現象は誘拐犯と人質関係でも時々聞く人間の不思議な心理。

もし仮に院長命令があったとしても、盲目的にそれに従って分を越えた行動したナースに落ち度はあります。

それが今回、医師法違反で逮捕という形で世に出てきました。

ここから学びたいことは、医師の指示があればなにやってもいいの? 責任を医師が取ってくれるの?

という点。

医師は頭がイイですし、場合によってはいろんなコネがあって社会的にも強いです。

保身というと消極的な言葉に聞こえるかもしれませんが、自分の免許は自分で守っていかなくちゃいけないってことです。






2012年12月29日

私が院内BLS/ACLSをやめた理由

床に落としたスプーンを平気で客に出すコックがいて、店長に文句を言ったら「それで病気になったという前例があれば問題ですが、そういう実態がないのであれば、私からは何も言えません。料理のプロがやっていることですから」と回答があったら、、、どうしますか?

これ、私が看護部長に言われたことです。

手術室看護師なら心あたりがあると思いますが、うちの病院でも眼科白内障手術でずさんな衛生管理が行われていました。

注射器の未滅菌使い回しは5年前に眼科部長に直訴してやめさせたのですが、現在なお残っていたのは超音波手術器具のハンドピースの未洗浄使い回しや、プレフィル注射器(ヒーロンとかオペガンとか)の一部使い回し。

これを大々的に問題提起して、即刻中止させろと病院上層部に迫ったのですが、リアルタイムな反応はありませんでした。

病院幹部が使い回しの事態を公式に知ってからも1ヶ月以上黙認し、それでも動きがないものだから、最後の強行手段として手術室看護師で眼科手術介助のボイコットに打って出ても、オペの中止判断は出されなかった。

結果的にはその2週間後に、ハンドピースのレンタルにこぎつけて問題は是正されたのですが、その準備ができるまでの1ヶ月半は、毎週20名近くの患者が「手術器具の未洗浄使い回し」で他人の体液に暴露するのを容認したのです。

手術室師長や感染対策委員会、感染認定ナースがあてにならないことはこれまでの動きでわかっていましたから、看護部長ならびに院長宛に当てた直訴状では、「明日も13人の新たな体液被曝者が発生します。見逃すのですか? 即刻オペ中止命令を出してください」と具体的すぎるくらいにいったにも関わらず無視。

対策はしていると言いつつも、結局、手術器具の数が整うまでの被曝は無視し、オペを中止しなかったのです。

その後、数週間して、看護部長と直接話す機会を得て、そこで話した内容をまとめると冒頭のようなやり取りになりました。

つまり、看護部長としては、患者に使って汚染された手術器具を、洗浄も滅菌もしないで他の患者に使うことが間違っているとは言い切れないと言ったのです。手術の全責任を持つ執刀医(=眼科部長)が自信をもってやっている以上、看護師としては口を挟めない、と。

現実的に院長も事態を知っていながら、即刻停止の命令は出さなかった。しかし問題と認識して、ハンドピースを患者ごとに交換できるようにと何千万単位での新規物品購入を指示したわけです。それほどの事態であっても、状態が整うまでのオペを中止しなかったどころか、制限もしなかった。

そんな医師の判断がある以上、看護部長はなにもいえないと。感染の事実があればどうにかできるけど、それもない、と(追跡調査してないだけでしょ!)

看護部長は紛れもなく看護師です。それも上り詰めたトップの看護師。

看護師が患者を守らなくて誰が患者を守る?

とかく医師は経営者になりがちですが、ナースはあくまでナース。

私は看護部長を最後の砦として期待していました。しかし、看護部長は止められなかった。

その看護部長がいった言い訳を、別の言い方すれば冒頭のとおりです。

「それで病気になったという前例があれば問題ですが、そういう実態がないのであれば、私からは何も言えません。専門家であるプロがやっていることですから」



誰がこんな屁理屈、納得しますか?

他人に使った手術器具を、そのまま別の人に使っていい道理があるなら、教えて欲しいです。
感染の前歴がなければいい?

だったら、どこかの大学で手違いから未滅菌のガーゼを1年にわたって使い続けていた事件がありました。
そのときは記者会見で謝罪しましたが、それでも感染報告はゼロとされています。

感染した、しない、そういう問題ではないでしょう。これは感染云々ではなく、医療者としての倫理の問題です。

なんで偉くなってしまうとこんな単純なことがわからず、あーだーこーだゴネるのか不思議。

単純に自分の家族にその手術を受けさせますか? と聞きたい。

そんなに正しいと思うならマスコミにリークしますので、記者会見で正当性を主張してください、と。


偉そなことを言っても医者には声を上げられない看護師の弱さ。なにが患者を守る、だ。笑わせるんじゃない! ヘソで茶を沸かすぜ!、な感じ。

この一件で、私は病院組織を完全に見限りました。

またそんな組織を信じて「業務命令だから」といって、のほほんと違法行為に加担している同僚にも幻滅。

目の前の患者すら守れていない病院組織が、末端の看護師を守るわけないでしょ。

そんなことにも気付けない、おめでたい人たち。


ということで、これまで院内でBLS教育やACLS教育を確立させて、病院の患者安全対策に私財と能力・時間を投げ売ってきた私ですが、すべてがバカらしくなりました。

BLSやACLSの院内教育は紛れもなく患者安全対策。患者を傷つけることに加担しろと業務命令するような病院で、患者安全をトクトクと語るなんて常軌を逸した人しかできません。。

1月のACLS/BLSまでは受講者が決まっていますので、予定通り開催しますが、以後、院内でのBLS/ACLS講習開催はやらないことに決めました。

現在は、眼科の使い回し問題は是正され、解決しています。

しかし病院が過去の過ちを認めて、総括し、再発防止に向けて動かなければ、私は病院への業務以外の貢献はいっさいやめます。

病院を見限りました。

あとは、自分へのメリットがなくなればいつでもここをやめます。

そんなスタンス。



追記:その後、不本意な異動命令を受け、拒否した結果2月から病院に来なくていいと言われ、1月一杯の退職が決まりました。1月9日に辞令を受け、1月10日に退職が決定というスピード退職でした。




2012年12月12日

USチップとスリーブ交換を実現した前回の戦い

眼科手術器具使い回しを手術室内で大々的に問題提起したのは実はこれが2回目。

1回目は5−6年前だったかな。看護師経験2年目の意識の高い同僚ナースと一緒になって問題に取り組みました。

当時は、超音波手術器具のハンドピースはまるまるそのまんま使いまわしてました。滅菌・消毒なんておろか洗浄すらせずに、他人の眼球内に挿入した器具を別の患者へ。当時は1日10件くらいだったかな。

私とその2年目ナース(眼科係として部長からの信頼が厚かった、とてもできる子です)と一緒になって、眼科部長と交渉を続け、結果、眼科手術で有名な別の病院に視察へ行くチャンスを得て、その子と眼科部長が一緒に見学へ。

その病院というのは、よくテレビでも取り上げられる神の腕を持つスーパードクターと言われる眼科医がいる病院。

で、結果はというと、非常に残念なものでした。

視察を終えた眼科部長の言葉。

「うちの方がまだマシじゃん。うちは手袋は1件ずつ替えてるから」

つまり、その超有名病院の方が衛生管理的にずさんだったのです。

その後なんだかんだ手回しをして、結局、超音波手術器具のハンドピースに関しては、患者の目の中に入る部分(チップとスリーブ)だけは、毎回外してハイスピード高圧蒸気滅菌したものを使うようになりました。

ホントはハンドピース自体を滅菌処理するか交換しないと、手術野の清潔が破綻するという意味で感染対策的には意味が無いのですが、もともとチップの交換の必要性すら感じていない眼科医が、そこまで譲歩してくれたのだからと、と私たちは無理やり納得してしまったのでした。

眼科部長、基本的にはいい人です。決して悪気があるわけではなく、衛生観念の次元が私たちと違うというだけ。

この制度改革後は「うちの病院はあの〇〇病院より断然ハイレベルな衛生管理になったのは自慢すべきところだ。まあ、眼科的に意味は無いのだけど、悪いことではない」みたいなことを言っていました。

ここにたどり着くまでにも壮絶な戦いがあったわけで、一見動かないと思えた眼科部長をここまで動かしたということで、力尽きたというか、妥協してしまったというか、それが5−6年前の話です。

そして、今年の10月、ファイナルラウンドとして、今回の戦いが始まりました。



2012年12月09日

ずさんな衛生管理〜眼科医の憂いと告白

眼科医が書いた本の中に、眼科界で横行しているずさんな衛生管理や、使い回しに関して警鐘を鳴らしているものがありました。




一例ごとの消毒が連続感染を防ぐ

もう1つ、著者が残念に思っていることは、患者ごとに器具や術衣を換える施設が少ないことである。これは、日帰り手術だけではなく、入院手術でもよく見受けられる。超音波のハンドピースをその日の手術中使いまわしにすることや、鑷子の数が足りない理由で、すべての患者に使いまわしているなど、恐ろしい現地場をみせつけられることがある。

(中略)

一度消毒したら、感染の危険性はないから使い回しする発想は、終戦直後の物のない時代の名残なのであろうか? また、若い医師も抵抗なくこの考えを持ってしまっているのは、誠に残念である。そういう著者も勤務医時代はあまり疑問を持たず超音波ハンドピースを連続して使っていた。

(白内障日帰り手術〜成功するためのシステムづくり/杉田達 著 Medical View社, 1999, p.81より)


この本は1999年発行の本です。それほど古い話でありません。

最近私が問題提起している眼科の使い回しの話、他の外科医は「信じられない、いつの時代の話?」とは言うけど、私が嘘を言っているわけでも、私の勤務先の病院だけが異常なわけでもないということはお分かりいただけるかと思います。

レーシックで連続感染させた銀座眼科事件も、レーシックだけではなく、眼科界全体の問題だということです。

この本の著者はこうした警鐘を鳴らし、自身が開業するクリニックでは「正しい」やり方をしているとこの本の中で書いているわけですが、それとて実はいろいろと粗があります。その話題はまた今度。 



2012年12月06日

うれしい報告!

昨日から、ブログ上で情報解禁。

眼科白内障手術で横行している手術器械や灌流液、注射器の未滅菌使い回しの話題を昨日から書いています。

正直、公の場で書くことへの葛藤もありましたが、やっぱりオープンにしてよかったなと思ったのは、さっそく次のような報告を受け取ったこと。


「今日、副師長と一部の仲間に話をしたところ、次回から灌流液使い回ししないことになりました。みんな思ってたけど行動に移せなかっただけでした。恥ずかしながら私もその1人でしたけど、行動に移してみました。きっかけをありがとうございました。」


うれしかったですね〜

ある意味、タブーとなっていて、情報交換されることなかったこの眼科使いまわし問題。

それをオープンに語り、取り組みの実例を示すことで、波及した効果。

そう、これが大事なんです。みんな悩んでいるけど、他を知らないからこんなもんかと思って、慣習に飲まれてしまう。

オープンにこの問題を語れれば、きっと違ってくる。

自分の行なってきた間違いを認めるのは辛い部分もあるけど、もし可能なら、こんなふうに改善に取り組みだしたとか、変えられました! ということがあったら、ぜひご報告いただけると嬉しいです。

差支えのない範囲で皆さんで共有させていただければと思っています。


拒絶された「使い回し」事件の振り返り企画

昨日取り上げた眼科白内障手術での手術器具「未滅菌使い回し事件」の続きです。

事件を防げなかった、むしろそれに加担していた手術室の看護師たち(私も含めて、です)は、なぜそれを食い止めることができなかったのか、しっかり事件の本質と原因を見つめて、事故再発を誓う義務があります。

本来は上層部での事故調査委員会などの動きを待つべきですが、これまでの経緯からそんなこと望めませんから、せめて自分たちで、ということで、このような勉強会、というかデブリーフィングの会を企画をしてみました。

しかし、師長はまったく乗り気ではなく、大きな事故ではたいてい行なっているケースカンファレンスも考えていないとのこと。

今回の問題は、上層部が事件を見逃していて、事実上、容認していた部分があり、病院自体が事件を真正面から見据えていないのは対応からも見て取れます。

だからこそ、現場で問題に直面していた私たちの手で、と思うのですが、師長の手に負える範囲を超えているので、余計なことはしてくれるなという思いもあるんでしょうね。組織人としての苦悩はわかる。でも、これだけ倫理的に振り回せれて職業意識が崩れている現場ナースが多いことに目を向ければ、決して誤魔化すべき部分ではないと思います。

未滅菌使い回し事件の振り返り企画書




【眼科】注射筒・手術器具使い回し事案から手術室看護の倫理を考える勉強会

これまで10年以上に渡り、当院手術室で常態的に行われてきた眼科白内障手術の「手術器具・注射筒の未洗浄・未滅菌での使い回し」がようやく是正されました。

 手術器具を洗浄もせずに複数患者に使いまわすという、一見ありえないことが普通に行われていたのはなぜなのでしょう? 複数の医療者が関わる中、なぜそれを正せなかったのでしょうか? また感染対策や安全対策室など病院組織が関与してもすぐには是正できなかったのはなぜでしょうか?

 そこには組織的な、そして倫理的な複数の問題が関係しています。特に密室である手術室では、内部スタッフの高い倫理観と自浄作用が働かなければ、間違いは正せませんし、事故や事件が明るみにでることもありません。つまり患者が守られるかは私たちの手にかかっているのです。非常に高い倫理観が求められる職種といえます。

 手術室看護における倫理を考える機会はこれまでまったくありませんでした。今後の事故防止のため、本件を振り返り、手術室看護師としての責任と義務、倫理について考え、理解を深める機会を設けたいと思います。




このスモール・グループディスカッションで明らかにしたかったのは、この10年間、この使い回しを問題と思っている人は少なからずいたはずなのに、なんで、行動でそれを示せなかったのか? という点です。

教科書的にはみんな正解を答えると思うんです。間違った行為なら、それを上に報告するとか、医師に言って止めさせるとか。きっと机上のケーススタディならみんなそうやって答えます。

でも現実、それができなかったんです。

なぜなのか? 思いが体現できなかったのはなぜか? そのギャップの理由は?

医師がいいと言ったから大丈夫だと思った。ナースは医師の指示で動くものだから。周りの先輩もやっていたからおかしいと思ったけど言えなかった。主任がやっていたから正しいと思った。業務命令には従うべき、etc.

などなど、いろんな問題点がスタッフの中から見えてくるはず。

それを抽出して、問題の本質に迫るのがこのデブリーフィングの目的。

でも、実現はしませんでした。この先もきっとないでしょう。

この事件からは、なにも学ばれることなく、表に出ることもなく、そんな事あったっけ? と誰もの思いから忘却されるだけの事件なのです。

そして、早くも昨日、事件は繰り返されました。(昨日のエントリー参照


2012年12月05日

看護師の倫理観が問われる手術場〜未滅菌「使い回し」事件の概要

手術室勤務経験があるナースなら、きっとさほど驚かない眼科手術の手術器械や注射薬の 未滅菌 使い回し。

うちの病院も長年の問題でした。(私にとっては、ね。だって他に誰も声を上げた人、いないんですもん)

数年前に職場内で一度大きく問題提起して多少は改善されたのですが、超音波手術器具のハンドピースを洗浄もしないでの使い回しはそのまま。当時は、オペガンとかビスコート、ヒーロンといったプレフィル注射器の使い回し部分撤廃とハンドピース先端チップの交換を実現しただけで満足しちゃったんですね。

清潔野に並べられた眼科白内障手術でつかうプレフィル注射薬

あれだけ、頑なだった眼科部長をそこまで動かしたという点で、これで精一杯かなと思っちゃった自分がいました。罵倒されたり脅されたり、それなりに嫌な思いをしましたし。師長も主任もぜんぜん守ってくれないし。

で、最近きっかけがあり、ここ数週間で、再度の行動に出ました。

これまでも文書では、安全対策室や感染対策委員会、感染制御室にはなんども現状を訴えて、感染症患者の後にも平気で使い回しをしている時など、たまたま自分が担当する目の前で起きたときは事故報告書を出したりして、それなりに継続的に動いていたのですが、上層部はノラリクラリ。

もうこれでオシマイにしようと思って、今回、病院を辞める覚悟で最終手段。

問題をことさらセンセーショナルに大きく取り上げて、「違法な犯罪行為には加担できない!」私はオペをボイコットするという宣言を出しました。

その後も続いた使い回し手術の度に、事故報告書を作成し、故意の体液被曝をさせた張本人とそれに加担した共犯者ということで、オペに関わった医師と看護師を名指ししたレポートを作成し、上層部へ提出すると同時に手術室内で掲示を行いました。

これはさすがにインパクトがあったようで、ようやくスタッフの間にも「眼科の手術はヤバイ」という意識が強まり、手術を担当することを拒否する人が一人二人と続いていき、やがては主任と一部のスタッフが毎回オペに入らざるを得ない状況となり、ようやく上層部も重い腰を上げて、、、といった顛末となりました。

ここまで追い詰めたら早かったですね。

2週間くらいのうちにメーカーから予備のハンドピースを借り受け、これまではずっと使いまわしていた灌流液(BSS)も患者人数分取り寄せて、ということで、ようやく1患者ごとに清潔が保たれた環境が実現しました。

できるのにやらなかった。私が訴えだして約5年。いままで、難しい、できないと言われ続けたことが、ある意味、武力行使に出たらさくっとできた。つまり、単にやらなかっただけ、ということがあからさまとなりました。

一応、解決した。のですが、後味は悪いというか、すっきりしません。

というのはこれだけ大掛かりなことになっておきながら、反省の色がまったくないからです。

似たような事件、例えば銀座眼科のレーシック使い回し事件では、院長が傷害罪で有罪となっています。これだけのことなのに事故検証委員会が立ち上がるわけでもなく、誰が処分されたわけでもないし、患者への謝罪や補償、追跡調査についても言及なし。私からの質問にも回答なし。

不具合な事象は改善された、ということでこれまでのことはなかったことにしようとする感がありあり。

少なくとも今回の問題は、「病院が把握していたのに止めなかった」という実態があります。今までは現場のナースが声を上げなかったから上層部は知らなかったと言い逃れできた図式がありましたが、度重なるレポートの提出で、安全と感染の担当者がオペ室を視察に来たのが運の尽き。

それをきっかけに私は行動にでたのでした。

知らなかったとは言い逃れできる状況は崩れた!

だからこそ、強行突破に。それでも、私の再三の訴えは無視して、使い回ししなくていいように機材の購入申請をしたからという一点張りで、目の前で毎週血液・体液被曝していく患者は放置。オペを止めなかった。


結局、この問題は、眼科部長という大学医局から派遣された人に対する遠慮だかなんだか知りませんが、病院組織をはじめ他の医師も口を挟めなかったというのが最大の問題。感染対策委員長の医師も「感染対策委員会にはそんな権限ないんだよ」と言って動かなかったわけですし、院長にしてもこれだけ事件性があることなのに、職場崩壊になるまで追い詰められなければ動かなかった。

各診療科というのはそれぞれ高い専門性があって、他の科からするとお互いに不可侵なものなのかもしれません。併診用紙なんかの言葉遣いをみればわかりますよね。それ故に、注射薬や未滅菌器具の使い回しなんて、専門領域以前の話なのに誰も正せなかった。ある意味、医局制度とか診療科毎の縦割り体制で、病院全体をコントロールできる力が働かないという病院組織の問題。専門家集団ゆえの問題。

しかし、ここでなにより訴えたいのはナースの倫理観です。

眼科以外の診療科では、不潔な手術器具を滅菌せずに術野に出すなんてありえないという常識は知っているのに、医師からやれといわれたら疑いもなく従うというプロ意識の無さ

医師と看護師間のパターナリズムに満ちた関係性も問題ですが、看護師間の軍隊チックな体質も問題。先輩がやっているから、みんなやっているから。新人ナースが疑問に思っても先輩に逆らえない雰囲気。それがこの間違った慣習を脈々と受け継がせ、麻痺させてきたのです。

特に手術室なんて、医師たちと器械出しと外回りナース二人だけの密室の世界。ナースが口をつぐめば決して表には出ない事故や事件が沢山あります。だからこそ、手術室の看護師こそ、高い倫理観がなくてはいけないのですが、私の知る限りそんな教育が行われたことは一度もありません。

今回の使い回し事件も、防ぎ得たはずのナースがなんの行動もしなかった、最低レベルである上へ報告・相談することすらしなかった。衛生知識が間違っている眼科医がいちばん悪いわけですが、それを食い止めることができる唯一の立場であるオペ室ナースがなにもしなかった責任は重大です。

医師から間違った指示が出された時、私たちはどう行動するか?

教科書的には、みなさん正解を答えると思いますが、実際、誰もできなかった。それが現実です。

なぜ、疑問に感じなかったのか?

疑問に感じていた人たちもいます。では、なぜその人たちは自分の思ったとおりに行動を起こせなかったのか?

そこは検証すべきです。

そこがクリアにならない限り、また同じ過ちは繰り返されます。

しかし、今の病院はその検証を拒んでいます。この期におよんで正面から向き合っていないのです。

私はオペ室ナースでの事後検証デブリーフィングの企画書を作って師長と安全対策室に提案しましたが、そこまでは考えていないと難色を示され、「検討します」お茶を濁して消極的。事実上、放置されるでしょう。



だから言わんこっちゃないという事件が今日起きました。

別の診療科で、術野に出した医療材料をもったいないからといって次の患者に使うように指示されて、それに従ったナースがいたのです。

たまたま発覚したのですが、もう情けなくて涙が出てきました。

なんで、これだけのことが起きたばかりにいま、そんなことができるの?

事故から学ぶというごく当たり前のことを行わないから、こうなるのです。

なんにも学んでいない。

これだけが問題ではありません。あまりに複雑すぎてすべては語れませんが、看護師としての信念・生き方をも根底から覆すような重大な問題をごまかしてウヤムヤにしようとしている病院。

いま、現場では何を信じていいいのかわからない、オペ室としてはナースとして致命的な事態になっています。それを正すという自浄作用が働かない現実。

事はホントはシンプル。現代日本で注射器とか人に使った手術器具をそのまま使いまわすなんてありえないでしょう。いつの時代? どこの国の話? そんなくらいにごく当たり前におかしいことがおかしいと言えなくなる環境。ある意味、戦時中の日本みたいなそんな閉鎖的な社会性が問題なのでしょう。

まだ問題は終わっていません。日々、動いています。私も今後どうなるかわかりません。

うまくまとめられませんが、そんな渦中に私はいます。





2009年08月02日

レーシック集団感染−眼科業界の衛生水準の問題

今年2月から問題になっていた視力矯正手術レーシックでの集団感染事件ですが、ここ最近またマスコミで騒がれていますね。

ニュースキャスターや識者が「医者としてあり得ない」とか、いろいろコメントしていますが、手術室勤務の皆さんはどう感じてらっしゃいますか?

私の率直な感想は、ようやく表に出たんだな、という感じです。

これまで衛生管理が問題にならなかったのが不思議なくらい。

ただ、それは保険適用外のレーシックという「商売」に限った話ではないと思っています。

どちらかというと、外科医である眼科医全体の衛生観念の欠如が問題ではないかと思います。

皆さんの施設でも白内障の手術が行われていると思いますが、きちんと衛生管理されていますか?

1日に10件も20件も白内障手術をしていると、器具の処理がないがしろになったりしてませんか?

問題もあるのであまり詳しくは触れませんが、以前、私の関連していた施設では、眼科手術に使うディスポーザブルのメス(ナイフ)を使いまわしていました。

使い捨てのものを使いまわす時点で問題と言えば問題ですが、驚くのはその処理の仕方。ヒビテン(グルコン酸クロルヘキシジン)入りの超音波洗浄機で薬液消毒するだけなんです。

ご存じのように人の体の中に入る手術器具に関しては「滅菌」が必要とされています。

マスコミの方たちはこのあたりの医学的常識をご存じないので消毒と滅菌を混同しているコメントが見られましたが、メスなどの手術器具を「消毒」レベルで術野に出すというのは、ふつうはあり得ないことです。

想像してみてください。開腹術で床に落としてしまった鑷子をアルコール綿で拭いて術野に戻すなんて、まず考えられないですよね?

で、私はこの眼科の消毒(しかも中水準のグルコン酸クロルヘキシジン!)器具の使いまわしを問題と思ったので、職場内で問題提起して、眼科医にも掛け合いました。

そうしたら眼科医からは驚きの答えが。

「どこもこうやってるよ。うちが衛生水準が低いとは思わない。現に感染だって出てないし」

他科手術では消毒レベルの器械を出すなんてあり得ないし、ガイドライン的にも推奨されていないという点を伝えても、眼科の世界ではそれがあたりまえのようで、聞く耳を持たず。

そこで、本当に眼科業界ではそんな認識なのかを知るために、眼科手術の教科書をいくつも紐解いてみると、、、、

ホントにそうなんです。ほんの数年前に出版された眼科手術の手技書の中に、ディスポーザブルメスの消毒処理法を得々と解説しているページを発見。

本来は使い捨てであるが経済的にそういうわけにもいかないので、私はこのような方法を採っているというような個人署名の記事でした。

暗黙のうちにやっているならまだしも、ある意味不法行為とも言うべきことを堂々と活字にして、しかもそれが手術手技書という教科書へ記載している神経が驚きでした。

古い認識で書かれた昔の本なら、納得できますが、思わず何度も発行年を確認しちゃいました。

こうなると、うちの眼科医の頭が固いのではなく、眼科業界全体が日本の医療衛生水準から遅れていると考えざるを得なくなります。

この点は、他病院への内々のリサーチもしてみましたが、やっぱり他科と比べて衛生水準が低く、ナースたちもそれを問題に感じつつも、昔からの慣習と眼科医の言い分に流されて今まで来ているようです。

その後、私のいた病院では、病院の感染対策室を巻き込んで、どうにか改善にこぎ着けましたが、それまで2年近くかかっていますし、個人的にイヤな思いもいっぱいしました。幸い、問題が大きくなる前に手が打ててよかったと思っています。

そんなわけで、眼科自体、こんな水準ですから、いつか問題が起きるだろうなとは思っていました。それが今回たまたまレーシックというのは、ある意味残念です。

レーシックという保険診療外での出来事だと、それが眼科医全体の意識というよりはレーシックの問題として限局して捉えられてしまうからです。


この点、眼科手術の実態を知っている数少ない存在である手術室ナースの皆さん、どう考えますか?