当時、私は看護師になろうなんて思ってもいませんでしたから、別に医療系のニオイをかぎつけては声をかけていた、なんてことはありません。 ← このまえ行った自衛隊横須賀基地ではそんな感じでしたが(笑)
たまたま安宿などで出会って話をしていて、あ、この人おもしろいなと感じたり、活き活きしていて素敵だなと思って、深く話をしてみると「実は、私、日本で看護婦してたんですよ」なんていう人が、とても多かったんです。
最初は偶然かなと思いました。でも長く旅を続けていくうちに、次第に「これは偶然なんかじゃない」と確信するようになりました。
だって、ホントそうなんですよ。私が旅先で出会った日本人で、いまだに交流が続いている人って、ほとんどが看護婦か薬剤師さんです。
ふつうのOLと違って資格職ですから、再就職に困らないというのも長期旅の看護職者が多い理由のひとつかもしれません。
それも看護師という仕事の強みなのだと思います。生活に困るようなぎりぎりのお給料だったら、他のことに目を向ける余裕なんかも出てこないですよね、きっと。
とにかく海外で出会ったナースたちは活き活きとしていました。
バックパッカーの世界ってそうなのですが、長旅になると疲れてきたり退廃していく人も少なくない中、貪欲なまでにいろんな物事にチャレンジして、新しい世界に飛び込んでいくという姿勢は看護師に多い特徴だったと思います。
ある意味、日頃のストレスを発散していたのかもしれませんが、そうした海外での経験を後日、形にしている人もたくさんいます。
私の知り合いの中でも、そのまま現地でナースの資格を取って永住してしまった人や、医療通訳になったり、ライターとして活躍したりという人が何人もいます。最近でも、とあるハリウッド映画のエンドロールに知り合いナースの名前を見つけました。ロケ現場の救護所専属看護師として働いていたそうです。
そんな旅先で出会った魅力的なナースに影響されて、私も看護の世界に飛び込んでみたわけですが、正直、看護学校時代や、働きはじめてからも、「なんか違う」、と感じています。
あの海外で知り合った看護師のようなアグレッシブで、なにかを開拓していこうというような空気が日本の看護界からはまったく感じられないんです。
自分自身を看護の世界に置いてみて、時がたつにつれて、ようやく私が最初に海外で出会ったナースたちの影響で抱くようになった「看護師像」というのは、ある意味特殊なものだったんだなと気付くようになりました。
看護師の中でも、あえて海外に行こう! と思うような人たちはほんの一握り。
いや、そう夢に思い描く人は多いかもしれないけど、実際に行動を起す人は少ない。
看護の仕事は過酷だしストレスも多いでしょうけど、楽といえば楽。
一度資格さえ取ってしまえば、贅沢さえ言わなければそこそこの生活ができるのですから。
そんななか、わざわざ海外に飛び出そうというのは、相当勇気というか決断がいることだと思います。パワーもいります。そういう自分の中のハードルを乗り越えた人たちだからこそ、あそこまでの積極的な行動力があったのだろうなと思うんです。
最近、とある人から聞いたのですが、産業心理学とか組織心理学という領域があるそうです。それによると各職種毎の組織の作り方や意識の持ち方には特徴があるそうで、専門職というのは、その職域内でピラミッドをつくって、自分たちの世界の中で上へ上がろうとするシステムを作りやすいのだそうです。自分たちの世界の中で自己完結しているというか、他の世界に評価基準を求めないというのも特徴のひとつ。
そういう世界では、上が作った基準や目標を目指すことにはただならぬ興味を示すけど、自分たちではなにかをつくり出そうとか、新しい価値基準を開拓しようという意識に弱く、全体がコントロールされやすく、組織としては強固な結束になる。
日本の看護界もまさにそうですよね。
これは言い過ぎかもしれませんが、古風な日本の看護の枠に収まりきらなかったオリジナリティのある人、リベラルな人たちが海外へ流出していったのでは??
昔読んだ片岡義男のエッセイに、有能な日本人はみんなやがて日本を離れてしまう、というような話があったのを思い出しました。
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なんでいきなりこんな話をしたのかというと、このまえ職場の親しい友達(ナースです。年下ですけど)が今度、仕事を辞めて海外に行くことを考えているという話を聞かされたから。
いままで一緒に勉強会を開いたり、業務改善・企画を立ち上げて活動したりと、今の自分にはなくてはならない存在だっただけに、正直ショックでした。
でもよく考えたら、海外に行きたいという話は、なんでも応援しなくちゃいけないなという気持ちになってきました。だって私が看護師になろうと思った原点はそういうところだったのですから。そんなことを考えながら、ツラツラと綴ってみました。
まとまりのない文章で恐縮ですが、これからなにか新しいことをはじめようという人への応援メッセージになれば、幸いです。
与えられたレールを忠実になぞるのも道
自分で切り開いていくのもまた道
自分の固定概念をひっくり返す、そのきっかけとしての海外経験は絶大です。
そこでなにが見えてくるのか? 掛けてみるのもおもしろいですよ。
海外へ行くことに限ったことではありませんが、なんにしても理由なんか後から自然についてくるものですから、まずは思いきってみるのはどうでしょう?
せっかく看護師免許という自由へのパスポートを手にしているわけですから、それを活用しない手はありませんよね。