2013年04月14日

手術室看護の魅力、ここで学べること

さて、4月ですね。

各職場、ホヤホヤの新人ナースが、先輩の後ろにくっついておそるおそる病院内を動き始めた頃でしょうか。

あいにく私はナースの仕事を辞めてしまったので、今年の新人さんとは会えていないのですが、そういえばこの時期、新人さんの入職とともに私たちも、年度始めというフレッシュな気分になったのを思い出しました。


さて、すでに現役ではない私ではありますが、オペ室に配属された新人さんに向けてのメッセージを。

オペ室勤務を希望してきた人も、そうでない人もいるかと思いますが、とりあえずオペ室に配属になった以上、そこでの仕事を楽しんでほしいなと思っています。

こんなはずじゃなかった、という気持ちを引きずっていると、ナースとしての1年目という大事な時期を不毛なものにしちゃいます。



オペ室に看護はあるのか?

よく言われる命題です。

きっとこの答えは病棟勤務しか知らない看護師には決して見えてこない真実があると思います。



総合病院であれば、全身麻酔下の手術が多いことでしょう。

患者さんと意識下の関わりができるのは、術前訪問の時と、入室から全身麻酔導入までのわずかな時間。覚醒後は意識が朦朧としていて、患者さんの記憶には残らないし、、、、

さて、そこでできる看護とはなんなのでしょう?

全身麻酔がかかって、意識が消失した後には、看護的関わり、看護介入はないのでしょうか?

もしかしたら、麻酔で眠ってしまった後からが、本当の意味で手術室看護師の腕の見せどころかもしれません。

言葉を発することができない患者さんから、どんなメッセージを受け取るか、が問われるからです。



ちょっと話はそれるようですが、私はファーストエイド(応急処置)を教えています。心停止以前の急変対応や、事故や急病への対応を医療者や市民を対象に指導しているのですが、子どものファーストエイドや急変対応は、大人の場合と違ってやや特殊です。

何が起きたのか? どんな状態なのか? 子どもは言葉で語ってくれないことが多いからです。泣きじゃくる子どもや、まだ話ができない子ども。なにか様子がおかしい! 大人だったら「どうしました?」「どこが痛いですか?」などと問診ができますが、子どもは非言語的な情報からしか判断できない場合があります。

また大人であれば、状況を説明したり、話をすることで安心してもらったり、精神的なフォローもできますが、小さな子どもに言葉だけでアプローチするのは困難です。

そういった意味で、子どものファーストエイドは、アセスメントにしてもケアにしても大人とは違った難しさがあります。言葉で語ってくれないから、こちらから五感を使って察してあげないといけないのです。


これと同じことが手術室でも言えるんじゃないかと私は思っています。

全身麻酔中、患者さんは言葉では訴えてくれません。痛みや寒さ、気分不快。手術中、患者さんの体の中では劇的とも言うべき変化が生じています。

医療処置のときに起こりがちな血管迷走神経反射。採血のときなら、気分が悪くなってきた、頭がクラクラする、など、患者さんの言葉で兆候に気づけます。

しかし、手術中には訴えがない。

じゃあ、どうするか? ひとつはモニターですよね。血圧や心拍数の変化から、痛みや迷走神経刺激などわかります。

出血量と輸液のinからも患者さんの体の中で起きている心拍数等の変化の判断ができる場合があります。

顔色、発汗具合、体温、尿量、etc.。

患者さんは生命兆候の変化として手術中もさまざまな訴えを発しているのです。

その反応は本当に患者さんの訴えなのか、それとも麻酔科が投与している薬剤による反応なのか? そんなことも考えないと、患者さんからのサインは読み取れません。

麻酔中の生命維持は麻酔科の仕事です。しかし、ナースはナースとして、日ごろ患者さんのちょっとした顔色の変化に気づくように、麻酔科とは違った視点で患者さんの訴えを聞けるかもしれません。

また全身麻酔中の患者さんは、「恥ずかしい」という気持ちを表出できません。しかし意識がない人でも、人権を持った人間であることに代わりはありません。医学的処置とはまったく関係のない問題、患者さんの意識にも上らないことかもしれませんが、そんな全人的に患者さんのことを考えることができるのは、おそらくナースだけです。

手術室看護師は、全身麻酔で言葉を発することができない患者さんの「代弁者」なのです。

今はまだ、器械出しデビューに向けて、手術手順を覚えるのに手一杯かもしれませんが、手術室看護師は麻酔科ナースとしての視点で患者さんと関わるんだということを覚えていてください。

外回り業務をするようになって、慣れてきたら、きっと今書いたようなことも実感として感じるような日が来ます。

言葉という言語的コミュニケーションに頼らず、患者さんの訴えを聞き分ける。

そんなアドバンスドなスキルを鍛えることができるのが手術室の魅力です。


皆様のオペ・ナースとして成長を応援しています。


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2008年04月08日

オペ室ナース1年生にエールを!

新年度が始まって1週間が過ぎました。

私が働く手術室にも新人看護師さんが5名入ってきました。
手術室に配属になったのは今週、つまり昨日からで、まだオリエンテーション中でオペには就いていません。

まだ個人的にはぜんぜん話していないのですが、いちおう配属希望の中に手術室と書いていたとの話。

昔はそんな人は誰もおらず、みんな図らずもオペ室に来ちゃったという人ばかりでしたから、時代は変わったものです。

私的には、TVドラマ医龍で、手術室看護師の仕事がクローズアップされた影響では!? と踏んでいるのですが、どうでしょう??

今度、うちに来た新人さんに聞いてみようと思います。


さて、いつも書くことなんですが、手術室看護は極めて特殊です。

なにもオペ室は看護性が低いとか、そんなことを言っているんじゃありませんよ(^^;

なにが特殊かというと、手術室看護は看護学校ではほとんど教えられることがない専門領域だという点です。

看護学校・看護大学で「周手術期の看護」という単元、もしくは実習はあったと思いますが、手術室看護を教わったという人はいますか?

手術というのは、治療を目的とした急性期病院の最大のイベントです。
病院に入院する人の最大の目的は「手術を受けること」でもあるかもしれないのに、そこに関わる看護師の役割をきちんと記述した教科書は見たことがありません。

なぜか手術の前と後の話が中心になっちゃうんですよね。

、、、まあ、いいです、その話は。

手術中、看護師が看護の視点をもって患者さんを守らなければ、どんなことが生じるか考えたことがありますか?

例えば肺の手術をして、病棟に戻ってきた患者さん。傷が痛いといっています。まあ、これはある程度は仕方がないこと。でも傷以外がどこも痛くないというのは、ある意味、すごいことなんですよ。

肺の手術は、たいてい側臥位で行なわれます。麻酔で眠ったあと、よっこらしょと体を横向きにして器具を使って固定します。無意識の患者さんを無理矢理横向きという不自然な格好にするわけですから、例えば腕が無理な角度に曲がっていたら、術後麻痺が出る可能性もありますし、体の節々に負担がかかって、長時間のオペ後には褥瘡をはじめ、いろいろな不具合が生じてきます。

そうならないようにクッション材などを使って患者さんを安楽な良肢位を保つように努めるのは意識のない患者さんの代弁者であるナースの役目。

術野の確保のためにはときとして絶対的に無理な姿勢を強いる必要が出てきます。医師は治療を優先しがちですので、苦痛を訴えられない患者さんにとって変わって、医師に折衝案を持ちかけるのもナースの役目です。

ちょっとした例ですが、術後なんでもないというのは、こうした看護を実践しているゆえの結果なんです。

手術室に看護がないなんて言わせない!
(⇒ 関連記事:『手術室の等身大の看護を表現する』)


看護師が全国に120万人いるうち、手術室看護を知っている人がどれだけいるでしょう?

看護師を育てる看護教員の中でも、オペ室経験がないかぎり、手術室看護のことは理解していない可能性が高いです。

場合によっては病棟看護礼賛的な部分があるかもしれません。

でもどうぞ自信を持ってください。

手術室の仕事も立派な看護です。


最初はとにかく必死だと思います。現場で先輩から言われたことをメモして覚えるので手一杯。でも、ぜひおすすめしたいのは、毎月発行のオペナーシング誌には必ず目を通すこと。おそらく職場の図書として定期購入していると思いますので、昼休みとかちょっとした空いた時間があったら手に取ってみてください。

とかく閉鎖的で情報交換が少ないオペ室では、各病院毎の"常識"がいっぱいで何が正しいのかわからなくなることがありがち。なんとなくでいいんです。とにかく手術室看護のスタンダードに触れておくことで、きっと1年後には、ただ先輩から教わっただけのORナースとはひと味もふた味も違った知識・見方が持てるようになっているはずですから。

あと、このブログでも手術室看護師として自信をもって活動して上で役立つかも知れない"視点"をいろいろと提示しています。

今後あまり頻繁な更新はできないかもしれませんが、かなりの量の過去記事が溜まっていますので、そちらにも目を通していただけるとうれしいです。
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2007年03月14日

全身麻酔のナゾ

私が初めて全身麻酔にかかる人の様子を見たとき、とても不思議なものを感じたのを覚えています。今までふつうに話をしていた人が、薬が入ったとたんものの10秒くらいでコロッと眠ってしまうのですから。

4月から新しく配属になる手術室看護師の皆さん向けに、手術室看護の基礎の基礎ということで、今日は全身麻酔の話をしたいと思います。

◆ 麻酔科看護師

そのまえに、唐突ですが、「手術室勤務の看護師」っていったい何者なんでしょうね?

病棟システムにもよるとは思いますが、ふつうは脳外のナース、循内のナースなど、ある程度専門科に分かれて仕事をしています。合コンでも看護師をやってるなんていうと「何科の看護婦さん?」とか聞かれません?(笑)

では、手術室看護師は何科のナース??

外科系の診療科すべて、という言い方もできると思いますが、別の見方をすれば「麻酔科の看護師」と言ってもいいと思うのです。オペナースの仕事は器械出しと外回り業務に分かれますが、外回りに関しては麻酔科ナース、ですよね。

そんな麻酔科ナースになろうという新人の皆さんにぜひ知っておいてもらいたい基礎中の基礎、全身麻酔についてが今日の話題です。

◆ 全身麻酔のウラにあるもの

「麻酔薬」という言葉があります。麻酔薬を点滴から入れたらすぐに麻酔がかかってしまいそうな感じがするかもしれませんが、全身麻酔のプロセスは実際はもうちょっと複雑です。全身麻酔=意識消失と思ってたら大間違い。実は全身麻酔には3つの要素が関係しています。

 ・鎮静(意識消失・健忘)
 ・鎮痛
 ・筋弛緩

これらがすべて効果を発揮して、はじめて手術が可能な充分な全身麻酔になります。実際のところ、これら3つの作用をバランスよく持っている薬というのは、そうありません。

例えば、いまおそらく日本で最もよく使われているプロポフォール(ディプリバン)という全身麻酔薬がありますが、これは鎮静効果のみで、鎮痛と筋弛緩の作用はほとんどありません。

プロポフォールを静脈に流すと10秒ほどで眠ってしまいますが、そのままで手術をはじめると患者さんが痛がります。

意識がないのに痛がる??

不思議に聞こえるかもしれませんが、眠っているのに痛がるんです。どういうことかというと、痛み刺激で血圧が上がる、さらに強い痛み刺激があると体を動かして嫌がったりします。意識は消失しているので麻酔から覚めた後の記憶に残ることはないかもしれませんが、ディプリバンだけでは血圧コントロールや体動の問題があって安全に手術を行なうことができません。

そこで必要なのが、鎮痛剤。私の勤務する施設ではフェンタニルという麻薬の一種を使って痛みを押さえて血圧コントロールと体動を防いでいます。

さらに開腹手術などでは腹腔内圧を下げるために(簡単にいうと腸が飛びだしてこないように)筋肉の緊張を和らげる必要があります。そのために使われるのが筋弛緩剤。

つまり全身麻酔で腸の手術をしようと思ったら、意識を消失させるプロポフォールと、痛みを押さえるフェンタネストと、筋弛緩剤の3つをバランスよく使ってやらなければうまく行かないということなんです。

これが全身麻酔を理解する上でもっとも基本的な形だと思います。いま紹介した麻酔のパターンは全静脈麻酔(TIVA:total intravenous anaesthesia)といって、すべての手術がこのような形で行なわれるとは限りませんが、この3つの要素が必要という基本原則はぜひ覚えておいてください。

実際のところ、多くの全身麻酔は導入時には3種類の注射薬を使い分けて、術中の麻酔維持には筋弛緩作用・鎮痛作用・健忘作用の3つを併せ持ったセボフルレンなどの吸入麻酔薬を使うパターンが多いかもしれません。でもセボフルレンに任せっきりでは不十分で、麻酔科医はモニターを見ながら必要に応じて、それぞれ単体の薬を追加投与して手術に最適な麻酔状態を維持しているんですね。

細かい作用機序なんかは知らなくても手術室の仕事はできますが、せっかく他部署の人からは「謎な世界」である麻酔の実際を学べる場所にいるわけですから、手術室配属を機に麻酔についても興味を持って勉強してみてほしいと思っています。
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2007年02月20日

手術中輸液の基本的な考え方

輸液の話、第二段。
まずは手術に際して輸液が必要となる理由を整理しておきたいと思います。

◆ 薬剤投与ルートとして

入室してきた患者さんに点滴ラインが入っていない場合、モニタ装着に続いてすぐにVライン(vein-line:静脈路)を取るのは、麻酔薬をはじめとする薬剤投与ルートを確保するため。局麻手術ではともかく全身麻酔では点滴ラインは絶対必要です。脊椎麻酔では点滴がなくても麻酔導入できますが、血圧低下などの突発的なトラブルに迅速に対応するために静脈ラインのキープが行なわれます。

◆ 手術侵襲に必要となる水分・輸液の考え方

手術では当然出血によって体液が失われるわけですから、その分の水分を補充しましょうというのがいちばんわかりやすい輸液の理由だと思います。ただし500ccの出血があったから500cc輸液をすれば±0という単純な話にはなりません。

ご存じ、人間の体は60%が水分ですが、体の中にどんな形で水分が分布しているかを理解しておく必要があります。大きく分けると、血液やリンパ液といった目に見える形の水分(細胞外液といいます)と、細胞の中に含まれている水分(細胞内液)に分けられます。

点滴などによって体の中に入った水分は、その比率に応じて細胞外液と細胞内液に配分されていきます。ですので、500ccを入れても、それがすべて血管内に留まっているわけではありません。組織に吸収されて細胞内液に移っていく分もあるわけです。

それに加えてオペ室での輸液では、手術侵襲による生体反応を考えていく必要があります。例えば、体を切ったるする刺激(侵襲)によって局所の炎症反応が起きます。すると血管の透過性が増えますので、細胞外液がサードスペースに出てしまいます。その結果、血管内の血液量(循環血液量)は減ることになります。(簡単にいうと血管内の水分が外にでて浮腫になるってこと)

また吸入麻酔や腰椎麻酔によって末梢血管が拡張しますので、これによっても術中の相対的な循環血液量が減ることになります。(腰麻で下半身がポカポカするというのは血管が拡張した証拠ですし、全身麻酔前に点滴ルートが取れない患者さんの場合、とりあえず吸入麻酔で寝かしてから再トライするのも末梢血管が開く効果を狙ってのことです)

細かく書き出したらきりがなく、とても複雑な話になってしまうのですが、とにかく周術期の輸液では複雑な生体反応が絡み合い、仮に500ccの出血があった場合には2500cc程度の補液が必要と言われています。手術のときの輸液は、単に出血量だけできまるものではないという点はしっかり押さえておきたいポイントです。


周術期輸液の考え方―何を・どれだけ・どの速さ
周術期輸液の考え方/丸山 一男
南江堂 (2005/01)
私がいま輸液について勉強しているネタ本です。おそらくナース〜研修医あたりまでをターゲットに絞ったような構成でかなりわかりやすいです。
数式なども若干出てきますが、演習形式に段階的に話が進んでいくので、数式に対する苦手意識を克服するのにもいいかも。実際、これ一冊をきちんと理解できたら、手術中に麻酔科医が何を考えながら点滴をつなぎ変えているのかななどと手術中の視点・楽しみが増えそうな気がします。私もまだまだ勉強中。
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2006年12月17日

輸液の話 その1= 濃度と浸透圧

さて、前から若干リクエストもあった輸液の話を書いてみようと思います。
オペ室にいると、輸液(点滴)の管理は麻酔科医が行なうのがふつうのですので、とかくオペナースは無頓着。

私も勉強しよう勉強しようと思いつつも、ずっと先延ばしにしてきた課題でした。決して人様にレクチャーするような知識はないのですが、みんなで一緒に勉強していきましょうというスタンスで輸液についてお話ししようと思います。

◆ 輸液の基本は水分補給

まず、輸液とはなんなのか? ごく基本をいえば水分補給です。ご存じのように人体の体重の60%は水分。水分補給と言えば、ふつうは食べ物や飲物を通して消化管から吸収される分がメインとなります。

ただ手術のときは原則的に胃の中は空っぽにしておかなければいけないし、出血等さまざまな理由で通常より体内の水分が失われますから、その分の水を血管を通して直接身体に入れてあげましょうというのが手術室での輸液の基本です。(実際のところ、麻酔薬等の投与ルートとしても重要ですが)

◆ 濃度が重要 浸透圧の問題

じゃあ、血管に入れる水分は水なら何でもいいのかというと、そういうわけにはいきません。例えば蒸留水。滅菌された純水ですから注射しても良さそうな気もしますけど、ブーッです。

なんでかというと蒸留水は人間の体液に対して濃度が薄いから。蒸留水はなんの混じりけもない水です。それに対して血液などにはいろんな成分が混ざってますから純粋な水より濃度が濃いというのはわかりますよね。

濃度が違うとなにがいけないかというと、例えば赤血球の溶血とか萎縮という問題が出てきます。赤血球は半透膜という水分だけを通す程度の細かい穴があいた膜で覆われています。

濃度が濃い液体の中に赤血球細胞を入れると、赤血球内と外側の濃い液体の濃度が等しくなろうという力(浸透圧)が働いて、赤血球内の水分は外に出ていこうとします。その結果、赤血球はクシャっと潰れてしまいます。反対に薄い液体の中に赤血球を入れると、今度は薄い液体が濃い赤血球内に流れ込んできて、膨張、破裂してしまいます。(これが溶血ですね)

ということで、人間の組織は半透膜でできている部分が多いので、体液と濃度を合わせておかないと、いろいろまずいことが生じてしまいます。わかりやすい例でいうと、ケガしたとき、傷口を真水で洗ったり海水(濃い塩水)で洗うと滲みるのは浸透圧の関係で細胞が障害されることによるものです。

◆ そこで濃度調整

点滴で水分を体内に入れたいけど、純粋な水だと濃度の関係でどうもマズイ。だったら純水になにか混ぜものをして濃さを調整してやればいいのでは?

生理食塩水の点滴ボトルということで、できたのが生理食塩水です。生理食塩水というのはなにも特別な薬品ではありません。簡単に言えば1リットルの水に0.9gの食塩を溶かしただけのものです。つまり0.9%食塩水。この0.9%というのがミソで、食塩の場合、こうするとちょうど体液と同じ濃度になるんですね。

食塩(塩化ナトリウム)の成分である塩化物イオンとナトリウムイオンはどちらももともと血液中(細胞外液)にふつうに含まれている成分ですから、人体には大きな影響はありません。注射して大丈夫です。

もっともシンプルな体液と同じ濃度の液体ということで、生理食塩水は体内に入れる液体の基本とされています。ちなみに生理食塩水のような体液と等しい濃度の液体のことを等張液と言います。

もうひとつ基本的な等張液としては、5%ブドウ糖液があります。この場合は、水にブドウ糖を溶かして濃度を調整したものです。ブドウ糖の場合は食塩との分子量の違いなどから5%にしたときに体液と同じ濃度になります。これも生理食塩水と同様、皮下注でも筋注でも静脈注射でも、どんな形でも体内に入れて大丈夫な液体です。ただし、濃度調整にブドウ糖が使われていますので、エネルギーを持っているという点で、若干体内での動きは異なってきますが。(後ほど説明します)

輸液は目的によっていろいろな種類がありますが、輸液を理解する上では、まずはこの濃度調整=浸透圧を体液に合わせるということの理解が大切だと思います。

この後は、実際に現場で使われている輸液製剤の具体的な話をしていきますが、続きはまた今度。
posted by Metzenbaum at 23:45 | Comment(10) | TrackBack(0) | 外回り/麻酔看護
2006年11月17日

悪性高熱

今日放送してた「Dr.コトー診療所」を見ていた人います?
(日付的には昨日ですけど)

しめしめ、また手術場面だ、なんて思いながら見ていたら、患者が急変。
なにかと思いきや、悪性高熱だって!

ひぇ〜、と思ってしまいました。

よりによって悪性高熱とは。。。
そんなマニアックな症例を持ってくるとはなかなかです。

麻酔科医最大の悪夢とまで言われる悪性高熱

麻酔の勉強をしていると麻酔の副作用として必ず出てくる疾患ですが、発生頻度は相当低いです。

うちの麻酔科医で最長勤務のドクターがいうには、「オレがいた20年間、この病院じゃ起きたことはないよ」だそうで。

まあ、ドラマの筋書きとして教科書的なベタなネタを持ってきたなぁという感じでした。

ところで悪性高熱ってどんな症状だか知ってます?
15分間に0.5℃以上の体温上昇があって、原因不明の頻脈、不整脈、血圧変動があったり、異常呼吸、筋強直、赤褐色尿、高カリウム血症などが見られるものです。まあ、詳しくは教科書を見てみてください。

めったに起きるものではないけど、生命に関わる問題として、麻酔に関わる者としてはいちおう押えておきたいポイントです。麻酔科の術前診察やムンテラのときも必ず悪性高熱については話していますしね。

今はダントロレン(ダントリウム)という薬の登場で死亡率は減りましたが、起きたら怖い疾患というのは変わらないみたいです。

治療法としては、まずは麻酔の中止。オペは止血をして中止。純酸素換気で吸入麻酔の排除を促し、ダントリウムの投与。それに全身冷却。その後にアシドーシスの補正などを行なっていきます。

Dr.コトー診療所でも、まあだいたいマニュアル通りの治療をしてましたが、特効薬であるはずのダントリウムの投与場面はありませんでしたね。その後、何事もなかったかのようにオペ続行、その後もふつうに療養してましたが、ふつうはICUで集中管理になるそうです。


この話を手術室看護の実際につなげるとしたら、体温管理の重要性というところでしょうか?

全身麻酔のときは、ちょっとした短いオペでも基本的に持続的な体温測定を行なうと思いますが、それはなぜかというと、この悪性高熱を意識したモニターという意味合いもあるんです。

なにも「体温低下⇒加温開始」のためだけじゃないんですよ。
日頃、体温低下ばかりに目が行きがちかもしれませんが、生命にも関わる異常な体温上昇、どうぞ意識していってください。
posted by Metzenbaum at 01:59 | Comment(10) | TrackBack(0) | 外回り/麻酔看護
2006年11月15日

全身麻酔ってなに?

本日のテーマは全身麻酔です。
オペ室で仕事をしていると、全身麻酔は日常なのであたりまえになってしまいますが、初心に立ち返ってみると毎日とっても不思議なことを目の当たりにしているんですよね。

私自身、医療者になる前ですけど、何度か手術を受けたことがあって、全身麻酔も数回経験あるのですが、眠っている間に何が行なわれたんだろうと、とっても不思議でした。麻酔と睡眠の違いがわからなかったし、ウワサによると麻酔の間、心臓や呼吸は停まっているというけど大丈夫なの? とかね。(もちろん心臓は停まりませんよ、呼吸は停まるけど)

学生時代にはじめて手術見学に入ったときも、点滴から薬が入るとさっきまでふつうにしゃべっていた人がアッという間に意識がなくなってしまう現実についていけない感じがしました。


さて、一口に全身麻酔と言いますけど、そもそも全身麻酔って何なのでしょう?

直感的には、全身麻酔が掛る=意識消失と捉えがちですが、実はもうちょっとばかり複雑です。教科書的には全身麻酔は次の三つの要素で成り立っています。

 ・鎮静(催眠・健忘)
 ・鎮痛
 ・筋弛緩

これらの3つの要素がバランスよく発揮される薬があればいいのですが、実際そんなパーフェクトな薬はまだ存在しないようです。そこで現状としては、それぞれ鎮静剤、鎮痛剤、筋弛緩剤をそれぞれ単体を組み合わせて使用するという形で使われています。

実際の全麻導入の場面をイメージしてみてください。静脈ラインからまずはフェンタニール(フェンタネスト®)を打って、プロポフォール(ディプリバン®)で意識消失、次いで臭化ベクロニウム(マスキュラックス®)を入れたりしていませんか?

この場合、塩酸モルヒネの125倍の鎮痛作用があると言われているフェンタニールで鎮痛効果を狙い、静脈麻酔薬のプロポフォールで鎮静(意識消失)させ、臭化ベクロニウムで筋弛緩をかけています。

これら3つの作用があって、はじめて適正な全身麻酔と言えます。

仮に鎮静作用(意識消失)だけで、筋弛緩が弱かったらどうなるでしょう? 開腹手術なら腹膜を開いたとたん腸がズルズルと飛びだしてきてしまうかも。

もし筋弛緩しか作用していなかったら、それはもう悲劇です。意識ははっきりしていて痛みも感じているのに筋弛緩で体は動かないし声も出ない。まさに手も足も出ない状態のまま体を切り刻まれる恐怖体験です。

そこまでひどい例はないにしても、術後に筋弛緩だけが残ってしまった場合など、実は意識は覚めているのに体が動かず怖い思いをしたという話は無きにしもあらず。抜管間際のスタッフの無駄口などがしっかり聞かれていたなんてこと、ありませんか?

実際のところ、麻酔維持に使われるセボフルレンや笑気、もしくはプロポフォールなどにはいちおう鎮静・鎮痛・筋弛緩のすべての作用があります。でもディプリバンは鎮痛効果が弱いとか弱点はありますので、モニターを見ながらフェンタネスト®を追加で打ったりと、麻酔をバランスよくコントロールしていくのが麻酔科医の重要な役割です。

全身麻酔は、「薬を入れて寝かしておけばいいんでしょ」、というような単純なものじゃないんだよというお話しでした。
posted by Metzenbaum at 23:53 | Comment(0) | TrackBack(0) | 外回り/麻酔看護
2006年11月04日

手術室外回り看護の専門性

ここのところ、比較的生活にゆとりができてきたせいか、連日のように新しい記事を書いています。このペースが続けばいいのだけど、まあ、ムラがあるのが人生というもの。気が向いたときに気軽に書く、そんなスタンスでいきたいと思います。

さて、今日の話題は、私が最近読んだ手術看護に関する興味深い記事の紹介です。

皆さん、「週間医学界新聞」を知ってますか? 医学書院が出しているタブロイド版の週間新聞で、どういうルートなのかはよく分かりませんが、私の病院病院では図書室やら手術室の医師控室に定期的に届られています。(病院として定期購読しているのかサービスで送られてくるのかは不明)

主に研修医向けの情報誌なのかなと思っていたので今まであまり気にも留めていなかったのですが、先日何気なくて手術控室にあったのを手にとってみたら手術看護に関する座談会記事がどどーんと載っていて、これがなかなか興味深い内容でした。

 【座談会】手術看護の専門性を考える
      長期的視野でのマンパワー不足解消をめざして


という記事、ご覧になった人、いますか?
うれしいことにインターネット上でも、無料で読めるようになっていたのでリンクを張っておきました。(上のオレンジの文字をクリックすると別窓で開きます)


私が特に注目したのは、次のような部分です。

 実際の手術では,外科医は術野に集中しなければなりませんし,麻酔科医は麻酔に集中しています。ですから,手術全体のマネジメントは外回りの看護師がコントロールしなければいけない。そういう意味では,外回りの役割は非常に大きいといえるでしょう。実際,米国では外回り専門の看護師は非常に高いポジションです。

 例えば出血量と各種バイタル,手術全体の経過を踏まえたうえでの,タイミングを見た輸血のコールといったことが求められますから,豊富な知識と経験を持ち,手術室全体を見通せていなければできません。


手術全体のマネージメントをするのは外回り看護師!

私も常々、手術室看護でいちばん重要なのは外回り業務とは思っていましたが、手術全体のマネージメントなんて大それたところまでは考えていませんでした。

言われてみれば、確かに出血量をカウントする頻度やタイミングなんかは、術野を見て自分の判断でやって適時麻酔科医に報告していますが、それを主体的な気持ちで行なうなら、確かに手術全体のコントロールなのかも、と思いました。

そう考えると、外回り業務にも張りがでてくる気がします。はっきり言って手を抜こうと思えばどこまででも手が抜けるのが外回り業務。極端なことを言えば麻酔導入と体位保持、それに術後のドレッシング、抜管さえきちんと行なえば術中は好きな本でも読んで時間つぶし、なんてこともあり得ます。術中管理は麻酔科医の仕事、と任せっきりな部分があると思うんですよね。

でも、「全体のマネージャーはナース」と考えると、ぜんぜん心持ちが違ってきます。この考え方、ぜひ新人さんに外周り業務を教えるときにたたき込んでいきたいと思います。

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2006年11月02日

ターニケットとクラッシュ症候群

整形外科手術など四肢の手術には付き物のターニケット。

ターニケットを使用した場合は、病棟看護師に必ず申し送りをするくらいに、周手術期看護にとっては重要なポイントですが、意外とそのタニケットの実際を知っている人は少ないようです。病棟の看護婦さんや、整形外科病棟に実習に行った看護学生さんから質問をもらうことも度々。

◆ ターニケットとは

タニケット tourniquet とは、ひとことでいえば止血帯です。血圧計のマンシェットとよく似た形をしていて、上肢・下肢の手術のとき上腕や大腿部に巻きつけて空気圧で圧迫。末梢への血流を途絶えさせて術野の出血量を抑えるために使われます。手足のオペでつかいますので整形外科手術で使われることが多いです。たまに形成外科なんかでも使うかな。

外科手術に使う止血帯ターニケット本体     タニケット止血帯

手足に巻くマンシェット部と本体に分かれていて、写真に載せた本体は壁配管の圧縮空気を使うタイプです。配管は使わず電気で動くタイプもあります。

◆ ターニケットの使い方

まずはギプズテクターなどのクッション材を大腿、もしくは上腕に当ててからマンシェットをしっかり巻きます。しっかり巻くというのがポイント。血流が停まるほどの圧力を掛けますし、場合によっては長時間にもなりますので、適正な部位がずれて神経麻痺などを起すと大変。ですので、タニケットを巻くのは原則的に医師が行なうべき処置だと思います。巻いた後で、タニケット本体から伸びているチューブを接続して、術前の準備はOK。

この状態で本体のスイッチを入れると、マンシェットに空気が送り込まれて自動的に指定した圧力(血圧計と同じで○○mmHg)で圧迫が始まるのですが、ふつうに加圧をしたら採血のときの駆血帯と同じで、末梢が鬱血してしまいます。手術中の出血量を少なくするのがタニケットの使用目的ですので、それじゃダメ。そのためにタニケットを使うためにはもう一段階処置が必要です。そこで登場するのがエスマルヒ駆血帯。

これまたヘンな名前のモノが出てきましたが、エスマルヒというのは人の名前らしいです。うろ覚えで恐縮ですが、エスマルヒ氏は確かドイツあたりの軍医で、止血帯を考案して多くの戦傷者の命を救ったというような逸話をどこかで読んだ気がします。

さて、そのエスマルヒ氏駆血帯とは、伸縮性のある幅広いゴムバンドです。まずはそいつを末梢側(指先の方)から包帯のようにグルグルと巻いていきます。その際にギュッギュッと締め上げるように巻いていくのがポイント。そうしてタニケットの直下までを締め上げていきます。つまり血液を中枢側に押し出すわけですね。そうして末梢を虚血状態にしてからタニケットをonすれば、腕は血が抜かれた状態にキープできるというわけ。

こうしておくとメスで切っても血もほとんど出ず、良好な視野が期待できるし、止血操作を気にせずに手術を進められるのでとっても楽。それがタニケットを使用する目的です。

◆ タニケット使用上の注意 リスクについて

手術中の出血がほとんどなくて、タニケットはホント便利な道具ですが、それなりの危険性もあります。何しろ腕や足の血を抜いた状態(虚血状態)を長時間キープするわけですからね。

タニケットを使用する上でもっとも重要なのは、タニケット使用時間のカウントです。タニケットをonにしたら、手術室の壁面にある「麻酔時間」等のカウンターを使って正確な時間を計っていきます。そして30分おきくらいに「タニケット時間30分です」などと、執刀医に声を掛けるようにします。一般的に1時間は越えないことが望ましいとされていますので、1時間たってもまだまだ手術が終わらなそうな場合は要注意。うちの場合、1時間半程度までは粘ってしまうこともありますが、基本的には1時間を過ぎたら一回タニケットをオフして、血流を再開させて、5分か10分血を巡らせてから再度タニケットを入れるという方法をとります。そのため、時間カウントとドクターへの声かけは外回り看護師の重要な仕事になります。

タニケットの締める圧力も重要です。うちの場合、標準では上肢250mmHg、下肢350mmHgとしていますが、体型や血圧によってもっと細かく調整する場合もあります。必ず圧は確認するようにします。

術後の観察項目としては、痺れや麻痺の有無はとってもとっても重要です。圧迫を解除した直後はジンジンと痺れる感じが残るのは当然ですが(正座で足が痺れたときと同じです)、いつまでも痺れ等が残る場合はドクターに報告するとともに病棟スタッフにも申し送りをして経過観察を依頼します。

単に血流が再開したことによる痺れなのか、それとも神経が圧迫されていたことによる痺れなのか。腕なら橈骨神経麻痺と尺骨神経麻痺が有名ですが、それぞれ特徴的な手つきになるのを覚えてますか? 神経支配部位によって麻痺や知覚鈍麻が生じる指が決まってます。そういったあたりも重要な観察項目になります。まあ、手術自体の操作で神経が圧排・損傷されることもあるので、痺れの原因がタニケットによるものかどうかの判断までは難しいとは思いますが。神経への影響の他に、虚血状態が続いたことによる組織への影響も考えられます。

◆◆ クラッシュ症候群(挫滅症候群) ◆◆

タニケットの副作用に関連して、もうひとつぜひ知っておきたいのは、いわゆるクラッシュ症候群についてです。挫滅症候群ともいいますが、日本では阪神大震災を機に広く認知されるようになった言葉です。

1年くらい前にテレビでやっていた救命病棟24時(だっけ? 江口洋介と松島奈々子が出てたやつです)でも取り上げられていました。がれきの下から救助された人がいて、一見元気だけど急いで透析をしないと死んでしまうと言われてへりで緊急搬送されていった場面、覚えてますか? あれがクラッシュ症候群です。

体の組織が長い時間圧迫されていて、それが急に解除されると血中のカリウム濃度が急上昇して、高カリウム血症で心臓が停まってしまうという症状です。

なぜでしょう??
人間の細胞外液と細胞内液の組成の違いを思い出してもらいたいのですが、細胞外液(血液等)では陽イオンとしてナトリウムが多いのに対して、細胞内液ではカリウムが多い。

体の組織が強い圧力で長時間圧迫されていると細胞が破綻してきます。それが急に解除されると細胞内にたくさんあるカリウムがあふれ出し一気血液中に流れ込みます。そうして高カリウム血症が発生。ご存じのように心臓は血中カリウム値に敏感でK濃度が上がると心停止になります。よく安楽死事件で塩化カリウムが使われたりしますよね。

そんな挫滅症候群とおなじことが、タニケット使用後に発生する可能性も無くはありません。まあ、よっぽどの圧力で長時間でも加圧しなければそう起きることではありませんし、学会で発表されるくらいのレアなケースのようですが、まあ比較的旬な話題ですので、タニケットにまつわる雑学として頭の隅に入れておいてもいいかもしれません。

ちなみに阪神大震災以来、災害事故現場では、クラッシュ症候群を防ぐために、生命に別状がなければ急激に圧迫物を取り除かず段階的に除圧するようにしたり、がれきなどで体が挟まれた状態の場合、医師が現場に出向いて輸液を開始してから救助したりということが行なわれています。それらは阪神大震災の教訓なのですが、それがもっとも活かされたのが、あの尼崎線の脱線事故だったようです。
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2006年05月07日

泌尿器科/経尿道的膀胱鏡手術(TUR等)手術のツボ

今日は、手術とは言ってもちょっと特殊な感じがする
泌尿器科の膀胱鏡手術について書いてみたいと思います。

まず経尿道的手術にはどんなものがあるのかという総論から。

・TUR−BT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)
・TUR−P(経尿道的前立腺切除術)
・TUL(経尿道的尿路結石破砕術)
・RP(逆行性腎盂造影)
・尿管ステント留置


以上が私の勤務する手術室で日常的に行なわれている膀胱鏡手術です。
いずれも内視鏡を尿道から入れて、それで膀胱内(場合によっては尿管や尿道内)を見ながら、電気メスや鉗子を入れていろいろな操作をするという術式になります。

1.灌流液について
 膀胱鏡を使うためには、膀胱内に液体を流し込んで、膀胱を膨らませた状態にしてやる必要があります。そのために使う液体が灌流液と呼ばれていますが、灌流液には大まかに2種類あって、一般的な生理食塩水(生食)を使う場合とウロ内視鏡手術用専用に調整された「ウロマチック®」を使う場合があります。

他施設では、もしかしたらすべて「ウロマチック®」を使っているというところもあるかもしれませんが、私の施設では術式によって使い分けています。

簡単にいうと、電気メスを使う場合はウロマチック®、そうでない手術では生理食塩水(生食)を使っています。術式でいうなら、TUR系(経尿道的切除術)は電メスで組織を焼き切る手術ですのでウロマチック®を使います。それに対して、TUL(経尿道的尿路結石破砕術)やステント留置などは、電メスは使わず、ただ膀胱内を覗くのに液体が必要なだけなので、コスト的に安い生理食塩水を使っています。

なぜ電メスを使うオペに生食を使ってはいけないのかといいますと、生理食塩水は電気を通してしまうからです。小学校(中学校だったかな)の理科の実験でやったと思いますが、純粋な水は電気を通しませんが、純水に食塩を溶かすと、溶液中で塩素イオンとナトリウムイオンに分解して、電気を通すようになります。

ふつう電気メスは、電極が人体の組織と接触した部分だけを焼いたり切ったりするわけですが、膀胱内が電気を通す液体で満たされていると、本来は焼かなくていい場所まで焼けてしまったり(まあ、それは実際ありませんけど)、よけいな所に電気エネルギーが流れてエネルギー効率が悪くなってしまいます。そこで電気メスを使うTUR手術には、「ウロマチック®」という電気を通さないに調整されたウロ内視鏡手術専用の液体を使っています。

ちなみに、ウロマチック®の成分は、水にソルビトールという糖の一種を溶かしたものです。糖は水に溶けてもイオン化しないので電気を通さないというわけです。それじゃ、最初から電気を通さない蒸留水を使えばいいじゃない? という気もしますが、その場合は浸透圧の関係であまり適さないみたいです。

『浸透圧』… 高校の物理や看護学校の生理学でも勉強したと思いますが、覚えてますか?

浸透圧というのは、濃度の濃い液体と、薄い液体の間に働く力のことです。人間の粘膜は水を透過します。これがまず大前提。蒸留水の場合、人間の体液に比べて濃度が薄いですから蒸留水を膀胱内に入れると、膀胱の壁(粘膜)から水分が吸収されてどんどん体の中に入っていってしまいます。ちょうど、お風呂に長く入っていると指先がふやけてくるのと同じですね。

逆に人間の体液より濃度が濃い液体の中、例えば海の中に入っていると、人間の体の水分はどんどん外に出ていってしまいます。海に長く入っていても手が全然ふやけないというのは、そのためです。むしろ体の水気は奪われている状態。

それとおなじで、膀胱鏡手術に使う灌流液も、濃度が人体より濃くても薄くても余計な水分の行き来が生じてしまってあまり良くありません。そのため、食塩とか糖など水に溶ける物質を使って、液体濃度(浸透圧)を人体とおなじ濃さに調整しておく必要があるんです。

今更言うこともありませんが、生理食塩水とは水に0.9%の食塩を溶かしたものです。このときの濃度がちょうど人間の体液の濃度とおなじになるので、特別に「生理(的)食塩水」と呼ばれています。(実際のところ、ウロマチック®は生理食塩水より若干薄く作られているようです。理由は、、、、ウロの Dr.によると膀胱内に充満させるため圧力がふつうよりかかるので浸透圧は低めに設定してあるのだとか、、、、。文献からの裏付けはとってません)

今後、泌尿器科の灌流液を使う手術に入って、あれ? ウロマチックと生食どっちを準備するんだっけ? という時はいまの話を思い出してみて下さい。

2.TUR症候群について
膀胱鏡手術のとき、絶対覚えておきたいのが、TUR症候群です。別名、TUR反応とか水中毒という言い方もします。簡単にいえば、灌流液が体内に吸収されて、結果細胞外液が薄くなって、低ナトリウム血症等の電解質異常を起こす現象です。

そうしたTUR反応が起こりやすいのがTURーP(経尿道的前立腺切除術)といわれています。なぜなら、まずオペ時間が長く灌流液を大量に使うこと。また広範囲にわたって電気メスで削っていくので、血管の破綻が多く、そこから灌流液が体内に吸収されやすいからです。そのため私の勤務する病院ではTUR−Pの場合だけ、術後採血がオーダーされています。

TUR反応の症状としては気分が悪くなったり、血圧が上がった後に、下がってショック状態になったり。こういう反応が見られたら、血液ガスを調べて、必要なら昇圧剤を使ったり、ナトリウムを補充したりします。長く続いたTURの術中、術後に患者さんの様態が悪くなったという場合は、TUR症候群を疑ってみて下さい。

あと、これは自分自身は出くわしたことはないのですが、ウロマチックには糖が入っているので、高血糖を引き起こすこともあるようです。このあたりもTURオペ看護のポイントかもしれません。

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2006年05月03日

手術室看護記録の話

「手術室看護記録」の書き方を取り上げてほしい!

そんな リクエスト を頂きました。

うーん、実は私、記録ってニガテなんですよねぇ。
あまり関心を持って「記録」と付き合ってこなかったというか、
書くのキライなんです。積極的に勉強したこともないし、、、

仕事で渋々筆を走らせているくらいの分際で、人様に看護記録云々を
語る自信はまったくないのですが、手術室看護記録について私が思うことを書いてみたいと思います。

手術室看護記録に何を記載するか――。
正直なところ、この話題をネット上でするのは非常に難しいと思います。
というのは、手術室看護記録に関しては、各病院施設毎にさまざまな取り決めがあって運用されている部分が大きい気がするんです。
つまり、病院によってマチマチなんじゃないかな。
病棟とオペ室の連携の取り方は病院によって異なると思いますが、それに付随して、病棟ナースが看護記録にどんな情報を求めているかは施設毎に異なる部分が大きい気がします。

おそらく病院や部署内で、記録の書き方の基準みたいなものが定められていると思いますので、それを参考にするのがいちばんなんじゃないでしょうか?


なーんて、言ったら身も蓋もないか、、、、


◆ 手術記録の種類

気を取り直して、改めて手術室看護記録について考えてみますと、うちの施設の場合は、オペ後に病棟へ渡す記録類としては、下記のものがあります。

・手術記録…執刀医
・麻酔チャート…麻酔科医
・看護記録…看護師
・(コスト表)…看護師


執刀医が書く手術記録("オペ記事"とも呼んでます)、麻酔科医が書く麻酔チャート、看護師が書く手術室看護記録、それと使った薬剤・医材などを記録するコスト表があります。

基本的にこれらの書類だけが、手術という一大イベントの存在と内容を示す記録・物的証拠となるわけです。

◆ 看護師が書く記録

我々が看護記録に書くべきこととして、まず考えられるのは、執刀医の手術記録にも麻酔科医の麻酔チャートにも記載されないけど重要なこと、それが看護記録に記載されるべき事項と言えます。

例えば手術体位に関すること。側臥位や腹臥位を取ったときの除圧や神経麻痺への予防策とその結果などは看護記録で記載すべきことだと思っています。

それとやっぱり重要なのは、看護師として介入した事柄についての記載でしょうか。入室時の緊張緩和のための声掛けやタッチング等、また術前訪問で得られたデータを実際のオペ時にどう活かしたか―。

とかく「手術室看護なんて看護じゃない!」なんて言われがちなので、自分たちの持っている専門的な看護の視点を、記録を通して積極的にアピールすべきです。手術中、看護師のあなたはなんの仕事をしていたの? そう聞かれたときに記録から「看護をしていた」と読みとってもらえるような記載ができたらいいなと思っています。

あとは病棟に患者さんを送った後に、病棟ナースが看護上必要とするデータは必ず看護記録にも記載する、これも根本的なことですけど、大切だと思います。

例えば、抗生剤や鎮痛剤を使用した時の、投与時刻と量。

病棟に帰ってから追加の薬を使う場合、何時間以上あけて使用すると指示が出ている場合がほとんどですので、時間は重要です。あとは術後嘔気の訴えがあって、プリンペランを使った、とかそういう時も、なるべく看護記録に記載しておいた方がいいと考えてます。

そうした薬剤関係のことは、麻酔科医が取り扱うことなので基本的には麻酔科医が麻酔チャートに記載する部分です。情報はなるべく転記しないで、一元管理したほうがいいものなので、「薬剤に関しては麻酔チャートを参照」ということで、看護記録では原則的には書く必要がないという考え方もあります。

ただ、実際、病棟ナースが麻酔チャートを読めるのか、また読もうという意志があるのかという問題があります。麻酔チャート特有の記号があったり、使った薬も製品名ではなく薬品名で書く(マスキュラックスをVB[Vecuronium bromide]と表記したり)ことになっているため、勉強してなければ意味不明の用紙にしか見えないかも。このあたりは施設によって大きく開きがある部分かと思いますが、うちの病院の場合は、病棟ナースが麻酔チャートに注目するなんてことはほとんどありません。(さすがにICUナースは麻酔チャートを重用視しているみたいですね。勉強してます。)

帰室して、検温などでバタバタ忙しいときに、看護記録と麻酔チャートをじっくり照らし合わせるような余裕もないでしょうから、私は最低限必要なデータは看護記録に集約されていた方が病棟ナースに対しても親切でしょ、という考え方です。そういった意味で、情報は重複してしまいますが、私は重要な薬の使用に関しては看護記録にも含めるようにしています。

◆ 薬の投与量の記載について

余談ですが、薬の使用量の記載方法を皆さんはどんな風に書いてますか?

13:50 ロピオン 1A IV
13:50 ロピオン 5ml IV
13:50 ロピオン 50mg IV


ついつい1A(アンプル)という書き方をしてしまいがちなんですが、原則的には"50mg"など、薬効成分の量を重さで記載するのが原則です。ペルジピンなど、アンプルのサイズが2種類ある場合もありますので。よく口頭では麻酔科医も「ロピオン50ミリね」などと言っていますが、この場合も必ず"ミリグラム"のつもりで言っていますので、ご注意を。

mlという薬液量の単位はあまり使われません。なぜなら薬を希釈して使う場合も多いから。たとえばもともと1mlの薬を0.1mlだけ投与したい場合、1ccシリンジで入れるよりは20倍に生食で希釈して20ccピストンで2cc入れる方が誤差が少なくて正確ですよね。我々としては、ピストンを見れば直感的にわかる"量"に頼ってしまいがちですが、オペ室では常に「希釈」という可能性がありますので気を付けてくださいね。

◆ 法的証拠としての看護記録

先ほど「執刀医の手術記録にも麻酔科医の麻酔チャートにも記載されないけど重要なこと」を看護記録に記載すると書きましたが、看護とは直接関係なくても、「法的証拠として事実の記載を残す」という視点も非常に重要だと思っています。

例えば、手術申し込み伝票と、実際の術式が変更になった場合は、その事実と可能であればその経緯(たとえば、術中迅速診断結果を受けて全摘になった、とか)も記載するようにしています。

あとは、言いにくいことですけど、医者のミスをした事実など。

挿管の際に口唇を傷つけた、歯がぐらついた、など。
特に歯牙損傷の場合は麻酔科医がチャートの備考欄に記載し、覚醒後に患者本人と家族に説明を行なうはずですが、「事実」として私は看護記録にも記載します。

あと、術中の術者のミスも重要なものに関しては記載しています。ちっちゃな動脈を切って血が吹いたとか、そんなのは術操作の許容範囲ですが、明らかなミスや重要なトラブル、例えば整形の観血的整復固定術(観整固)で骨が割れてしまったとか、他臓器を傷つけて止血に時間を要した場合など。これも医師が自分の責任で患者・家族にも説明を行なうことになっていますが、後々トラブルになったときのために、看護師が見た「事実」を別の視点で記録しておくことは重要だと考えています。

たまにDr.から、「このことは記録に残さないでくれ」と頼まれるなんて話を聞くこともありますが、もしそんな場面に遭遇したら、私は書きますよ。むしろそういわれたら絶対に書きます。そいでもって、医師からそういわれた事実をオペ室看護師長に報告します。正直、コワイ気もしますが、手術室という「密室」で働く立場として、この点だけは自分自身の責務と言い聞かせています。

◆  ◆  ◆  ◆  ◆


なんだかわかったようなわかんないような適当なことしか書けませんでしたが、少しは参考になりましたでしょうか? 具体的にこの点はどう? ということがありましたら、コメントをいただければまたいろいろ追記していきたいと思います。
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2006年04月23日

局所麻酔用キシロカインの使い分け

今日は、局所麻酔薬キシロカインについて。
キシロカインといえば代表的な局所麻酔薬ですが、おなじキシロカインでも何種類かの製品があって、手術や目的によって使い分けがなされています。

キシロカイン Xylocaine というのは商品名で、薬品名としては塩酸リドカインと言います。

作用機序:塩酸リドカインは、神経膜のナトリウムチャネルをブロックし、神経における活動電位の伝導を可逆的に抑制し、知覚神経及び運動神経を遮断する局所麻酔薬である。
(医薬品添付文書より)


いちばん基本的な局所麻酔用キシロカイン製剤は、「1%キシロカイン」でしょうか。ふつう、キシロカインといったらコレを指す場合が多いと思います。樹脂でできたポリアンプルに入っていて、このタイプのポリアンプルは、シリンジの先端が直接ささるようになっているので、吸い上げのための18G注射針は不要です。

局所麻酔用キシロカイン代表的な局所麻酔薬キシロカイン
左はもっとも一般的な1%キシロカイン。このほか0.5%、2%のものもある。右のバイアル瓶は1%Eキシロカイン。10万倍希釈エピネフリンが添加されている。こちらも0.5%と2%の製剤が存在する。2%Eキシロカインだけはエピネフリンの量が他とは違うので注意! エピネフリン入りは15℃以下の冷所で遮光保存。


◆ エピネフリン添加のキシロカイン

おなじ1%濃度のキシロカインでも、別に1%キシロカインというタイプが存在するので要注意です。このというのが付くと、エピネフリンを添加してますよという意味(パッケージの表示ではエピレナミンと書かれていますが、エピネフリンのことです)。

エピネフリン ―― これは臨床的にもとても重要な薬なので、学生時代の薬理学でも必ず勉強したはずです。覚えてますか?

エピネフリンと聞いてピンとこなかった人でも、ボスミンと言ったらどうでしょう? ボスミンというのはエピネフリン製剤の商品名なのですが、テレビドラマなどの救急蘇生場面でよく「ボスミン1A静注!」なんて叫んでいるのを聞いたことあるかと思います。また別称アドレナリンという言い方もあります。ここまで言えばわかるかな。

エピネフリン(ボスミン)にはいろいろな使われ方があるのですが、一般的には静注で強心剤として使われることが多い薬です。救急蘇生時の国際標準プロトコルACLSでも、心停止時に使われる第一選択薬としてあげられているくらいです。(ボスミンは診療科に限らず看護婦なら絶対に知っているべき非常に重要な薬なので、自信がなかったら治療薬マニュアル等で薬理効果を復習しておいてくださいね)

エピネフリンを静脈に注射した場合、心臓に直接作用して拍動を強める働きと、もうひとつは末梢血管に作用して血圧を上昇させる働きがあるのですが、この後者、血圧を上昇させるというのが、今回のポイントです。

学生時代に生理学などで勉強したと思いますが、血圧の変化というのは血管抵抗とも大きく関係しています。要は血管が開いているとき(拡がっているとき)は血圧が下がって、血管が締まっているときは血圧が上がるという話なのですが、このあたりの理解は大丈夫でしょうか?

よく言われるたとえ話ですが、庭の水まきをするとき細いホースと太いホース、二本あったとしたら、細いホースのほうが遠くに水を飛ばすことができますよね。別の言い方をすれば、水を遠くに飛ばしたいときはホースの口をつまんで細くしたりするでしょ? つまりホース(血管)が細い方が水圧(血圧)が高くなるということ。

ここでエピネフリンの話に戻りますが、エピネフリンが血圧を上昇させる働きがあるというのは、つまり、末梢血管をギュッと締めさせる作用があるんです。

これを静脈注射などで入れると全身に作用することになりますが、局所に皮下注などした場合は、その注射した部分にのみ作用することになります。つまり注射した場所の毛細血管がギュッと細くなるんですね。

ここでようやくエピネフリン入りキシロカインの話に戻ります。キシロカインにエピネフリンが混ぜてあると、注射した部分の毛細血管が細くなるので、麻酔薬の拡散が遅くなって、麻酔作用時間が延長するんです。つまり少ない量でしっかりと麻酔を効かせたいときには、エピネフリン入りのキシロカインが選択されます。

それじゃすべての局麻用キシロカインにエピネフリンを入れたらいいじゃん、という気もしますが、実は場合によってはエピネフリンが入っていたら困る場合というもあるんです。

医薬品添付文書には[禁忌項目]のひとつとして次のように書かれています。

『耳、指趾又は陰茎の麻酔を目的とする患者(壊死状態になるおそれがある)』

「耳、手足の指、陰茎に注射をしてはいけませんよ」ということなのですが、どういうことかというと、耳、指、陰茎などもともと血管が乏しい部分にエピネフリンを注射をすると末梢血管がギュッと細く締まるために、そこから先の血流が途絶えて組織が壊死する可能性があるということなんです。

こういう部分の小手術(例えば包茎の手術とかね)では、エピネフリンが入っていないタイプのふつうのキシロカインを使うのが原則です。

このように局所麻酔用キシロカインは、エピネフリン入りとそうでないタイプで使い分ける必要がありますので、術前にピストンに薬液を吸うときは必ず医師に確認をすることが重要です。さらに注射用ピストンをDr.に渡すときは、「1プロ キシロカイン、Eなしです」などと、しっかりと再確認することも大切。
(余談ですけど、ドラマERなどでも出てくるの"プロ"という表現、これはパーセントのことです。percent のドイツ語読みがプロツェントなので、その略です)

◆ 全身麻酔なのに局麻注射をするのはなぜ?

全身麻酔で行なう手術であっても、執刀前に手術部位に局所麻酔薬を打つ場合がありますが、なぜだか考えたことありますか?

例えば先日書いた婦人科の膣式手術のときも、生理食塩水で倍希釈にした0.5%Eキシロカインを膣粘膜に局注します。耳鼻科の鼻内手術や、形成外科の手術でもかなりの確率で全麻なのに局麻注射をすると思います。

全身麻酔で痛みは感じないはずなのに、なぜ局麻注射をするのか? これは実はキシロカインの鎮痛効果ではなく、添加されているエピネフリンの血管収縮効果を期待してのことなんです。血管が収縮する=出血が押えられる、これが全麻であってもキシロカインEを局注する目的です。

必要なのはボスミン(エピネフリン)だけで、実はキシロカインはあまり必要ではありません(鎮痛効果も期待する場合もありますが)。ただ20万倍希釈とか30万倍希釈ボスミン液を作るのがめんどうくさいので、もともと10万倍希釈されたボスミンが含まれるエピネフリン添加のキシロカイン製剤を利用する場合が多くなっています。こういうときに使う局麻のことを「20万倍ボスミン液」とか「30万倍ボスミン液」という言い方をするのは、そういう理由なんですね。

たまにキシロカインにアレルギー反応を示す人がいます。そういう場合はキシロカイン入りのエピネフリン製剤は使わず、アンプルに入ったボスミン原液を希釈して20万倍なり30万倍ボスミン液を作ります。でも大量に薄めなければならないのでちょっと面倒なんですよね。

いくら局注で使うとはいえ、ボスミンの原液を注射してしまうと全身に作用してたいへんなことになります。例えば蜂に刺されたときのアナフィラキシーショックに対して、ボスミンを0.3mg程度筋注したりします。これによって、気道閉塞や低血圧といったショック症状が緩和されますが、健常な人にこれをやったら、血圧ががくんと上がって、心臓バクバク。たいへんな状態になります。

30万倍などに薄めていても、血管内に直接入ってしまった場合や、患者の体質によっては全身症状が現れる場合もあります。術者がボスミンを局注するときに麻酔科医に「ボスミン打ちます」と声をかけるのはそのためです。

ボスミン原液から作る場合は、濃度を間違える危険があるので、安全のためにも最初から希釈された10万倍ボスミン添加のキシロカインを使うのが慣例化しているんだと思います。

◆ その他のキシロカイン製剤 キシロカインゼリー等

ここでは局所麻酔注射用のキシロカインの話をしてきましたが、実はキシロカインには実に様々な種類があります。

同じ局所麻酔用でも主に粘膜からの浸潤麻酔を狙ったキシロカインゼリーや、100ccのボトルに入った4%キシロカイン液があります。キシロカインゼリーは膀胱鏡検査や尿道へのバルーンカテーテル挿入のとき潤滑剤を兼ねて使われることがあります。ただ最近ではキシロカインショックの可能性が否定できないことから、バルーンカテーテル挿入には薬効を含まないただの潤滑ゼリー「K−Yゼリー」を使うことが多くなっています。4%キシロカイン液は、うちでは経鼻挿管やエアウェイを入れる場合に使ってます。その他キシロカインビスカスなんていうモノもありますし。(これらはなぜか医師の処方が要らない薬になっています。ショックの危険もあるのに不思議。)

あと忘れてはいけないのは、静脈注射用キシロカインです。これは抗不整脈薬。基本的にナースが扱う薬ではありません。局麻用キシロカインは看護師にとっては日常的なものですが、キシロカインと言われたら静注用の別のアンプル薬があるということは知っておく必要があります。(実際両者を取り違えたという事故が複数報告されています。)
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2006年04月09日

オペナースはフィジカルアセスメントに弱い!?

よくICUナースに言われることですが、

「オペ室看護師は患者のフィジカルアセスメントが出来てない!」

確かにそうかもしれません。

オペ室では、常に麻酔科医と一緒にいますから、患者の全身管理は麻酔科に任せっきり、という側面が確かにあります。

なにかあったらとりあえず麻酔科医を呼べばいい、という意識がきっとどこかにありますから、はっきり言ってしまえば、危機感は薄い職場かもしれません。

もともと医者の世界でも内科と外科は仲が悪いという話がありますが、それと似た構図が手術室室ナースとICUナースにはあるのかもしれません。外科系看護の最たるものが手術室看護、内科系がICUですからね。

とにかく悪いものは切っちまえばいいという体育会系の外科と、体の中で何が起っているのかをよーく考えてじっくり対処法を考えていく内科。

実際オペ室業務はあまり考えなくても体さえ動けばどうにかなる部分もあります。器械出しなんてまさにそうですね。基本的には言われたものを医者に渡せればいいわけで、手術の流れなんかも「慣れ」で体で覚える部分でもあります。(こだわりの哲学もありますけど)

外回り業務ともなれば、それなりに知識・判断も重要になってきますが、まずは器械出しができてナンボの世界なので、頭より体がまず求められているというのはあると思います。

まあ、麻酔科医の助けもあってなんとなくで仕事ができてしまうオペ室ですけど、ICUナースの指摘のように、確かに看護師としてはちょっと恥ずかしいかなと思う部分もなくはないです。


全身麻酔・脊椎麻酔など、麻酔科管理の手術の場合はまだしも
局所麻酔手術では麻酔科医がつきませんので、術中の患者管理は看護師の仕事になります。元気な人ならいいですけど、心臓に既往がある人とか、局所麻酔薬でのショックなどを考えると、オペ室ナースといえどそれなりの知識と判断力は絶対に必要です。

せめて心電図モニターくらいは読めないと、、、、

だけどうちは職場としてはそういったことって教えてくれないんですよね。

まあ、常識としてそれくらいは自分で勉強しろって事なのかもしれませんけど、サボろうと思えばいくらでもごまかしがきく手術室。本人の意識とこころざし次第で実力の差が出やすい職場なのかもしれません。
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2006年03月22日

手術室を知るために〜オススメの本「手術室の中へ―麻酔科医からのレポート」

手術室で日々行なわれていることや、手術室スタッフ(看護師・麻酔医・術者の外科医)の仕事について書かれている市販の本って意外と少ないんですよね。

そんななか、手術室入門書としてお薦めしたいのが「手術室の中へ―麻酔科医からのレポート」(弓削孟文 著:集英社新書)です。

手術室の中へ―麻酔科医からのレポート」(弓削孟文:集英社新書)

麻酔科医が書いている本なので、どうしても医者よりの視点にはなっているものの手術室看護師について書かれている部分も基本的に真実。

意外と知られていませんが、手術室に常勤しているスタッフといえば、麻酔科医師とオペ室専属ナースだけです。執刀する各科の医者というのは、手術の時にオペ室に来るだけなので、オペ室全体のことをよく知っているのは麻酔科医とオペ専任看護師だけなんですね。で、現役の手術室看護師がオペ室事情を書いた本がというのが今のところ存在しない以上、現時点ではこの本がもっともよく手術室の実態を著わした本だと思います。

手術の流れ、全身麻酔・脊椎麻酔・硬膜外麻酔のこと、麻酔にまつわる合併症など、手術室勤務であれば最低限知っていなければならない事柄が一般人向けの言葉で平易に書かれています。

話はかわりますが、麻酔科医師と手術室看護師は切っても切れない深い関係にあります。言うなれば、手術室看護師というのは「麻酔科看護師」でもあります。実際のところアメリカでは、麻酔専門看護師というRN(日本で言うところの正看護師)の上に位置する資格があって、薬物処方を含めて麻酔管理ができるようになっています。

日本でも麻酔科学会からは麻酔医不足を解消するためにアメリカのような麻酔専門看護師の創設を要望しているようですけど、日本看護協会が反対しているという現状があったりします。

余談になりましたが、とにかくとかく表だって語られることの少ない手術室内部の諸事情を知りたいと思ったら、まずはこの「手術室の中へ」を読んでみることをお薦めします。もともとは一般向けの新書ですが、ふつうに看護師の方が読んでもそれなりに役立つ本です。反対に言えば一般人向けの本にしてはちょっと難しいというか固い感じの本なんですけどね。

まあ、医学書と違ってふつうの新書なので、数百円で買える点は魅力です。オペ室に配属されたのなら、まずは読んでみてください。
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