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2006年04月03日

手術に使うハサミ(剪刀)の話

手術に使う道具(鋼製器具/器械)のうち、いちばん出番が多くて重要な器械は剪刀(はさみ)かもしれません。

前にも書きましたが、手術のときメスを使う場面というのは非常に限られています。術式によっては最初に皮膚にスッーっと切れ目を入れる以外はまったく出番がない場合もあるくらい。

皮膚に切れ目が入ったら、あとは電気メスで創を拡げていく場合がほとんどですし、他に切る道具を使うとしたらやっぱりハサミ類ですね。

外科手術に使うハサミには実にたくさんの種類があります。
組織を切る用のハサミ、糸を切るためのハサミ、など複数のハサミを使い分けます。血管などの組織用のハサミはかみ合わせや切れ味が命なので、比較的固い結紮糸などは別の専用の糸切りバサミで切るようにするのが一般的です。

医者は「ハサミ!」としかいわない場合が多いので、うちら器械出し看護師は手術をしている部分(術野)をよーく見て、その場面ではどのハサミを渡せばいいのかなということを判断しなければなりません。

外科手術に使うハサミ(剪刀)類
↑(手前から)クーパー/長クーパー/メッツェン/直剪

外科手術用ハサミの先端の形状
↑ 先端の形の違い(左から)/メッツェン・メイヨー・クーパー

◆  ◆  ◆


●クーパー Cooper

手術用ハサミのなかで、たぶんいちばん有名なのはクーパーでしょう。どんな科の手術でもたいてい使います。

上の写真で言うと、手前の2本がクーパーです。先が丸まっていてチョイ幅広。深いところで操作するときは、手前から2番目のようなちょっと柄が長めの長クーパーを使ったりします。

婦人科オペなんかでは、クーパーでジョキジョキと腹膜や子宮を切り開いていったりもしますが、一般的にはクーパーは雑剪(ざっせん)などとも呼ばれ、血管を縛った後の糸を切る専用に使われることが多いです。

このハサミを開発したのは1800年代に活躍したイギリスの外科医のクーパー Cooperさん。医療器具は開発者の名前が付けられている場合が多いようです。

●メッツェンバウム Metzenbaum

メッツェンバウムは略して「メッツェン」といわれる場合が多いです。
これはクーパーより、先が細く薄くなっています。細かい組織を切る用のハサミになります。基本的にはコイツで糸類を切ることはありません。(まあ、血管結紮の後は血管を切る流れでそのまま糸もチョキンとやることはありますが)

メッツェンあたりになると、ハサミとはいえ切る以外にもうひとつの重要な使い方が出てきます。それは「剥離」。これは文章で説明するのはちょっと難しいのですが、人間の組織というのは基本的に膜構造になっているわけで、創を切り開いていくにもただ闇雲に切ればいいわけではなく、まずはくっついている膜を剥がしてからハサミを入れる必要があるんです。

そんなときに膜を剥がす「剥離」操作をするのもハサミの役目です。膜とおぼしき隙間に先を差し込んで、ハサミを開く。そうやって膜層を拡げていくわけです。(文章だけでイメージ伝わるかなぁ? 実際に術野をみればよくわかるんですけど...)

似たような操作はペアンやモスキートペアンといった止血鉗子や、ケリーなどの剥離鉗子で行なう場合もありますが、開腹手術などでは刃先の薄いメッツェンが好んで使われます。

上の写真でいうと手前から3本目がメッツェンになります。

●メイヨー Mayo

メイヨーは、クーパーの先を少し細めにしたような感じのハサミで、比較的固めの組織を切るためのがっちりとした鋏です。主に整形外科領域などで使われます。手術室全体でいったらあまり出番はないハサミかも。

手術の時、器械受け渡しをするための台のことを、メーヨー台と言ったりしますが、このメーヨーというのは人の名前です。いまでもアメリカにメーヨー・クリニックという歴史的な病院がありますが、その創始者メーヨー兄弟が開発した道具なのでメーヨーと呼ばれているようです。
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2006年04月02日

オペナース:器械出しに役立つ参考書 『外科手術基本テクニック』

次回はハサミ(剪刀)の話をします、なんて予告しておきながら、ネタ変更。
今回は、新人オペ室ナースなら読んでおきたい器械出し(昔で言う直接介助:直介ってヤツ)に必要な手術器械(手術器具)の基礎知識が学べる参考書を二冊紹介したいと思います。

今年もあと数日したら新人オペ室ナースが職場に配属になりますが、いつも私が彼女たちに勧めている本です。

イラストでわかる外科手術基本テクニック          
カラーイラストでみる外科手術の基本―ILLUSTRATED BASIC SURGERY


【イラストでわかる外科手術基本テクニック】

ひとつは「イラストでわかる外科手術基本テクニック」。おそらく研修医など医師向けに書かれた参考書だと思いますが、外科手術に使う器具の由来から使い方、縫合糸や結紮の基礎、各種ドレインやバルーンカテーテル、尿道ステントなど外科手術に関わる器具・医療材料、テクニックなどの基礎知識が幅広く解説されています。手術器具の歴史なども触れられていて、雑学的にもおもしろいです。「へぇ〜」がいっぱい詰まっているというか(笑)

この本は私物なんですが、手術室の本棚に置いておくと、外科系の医師たちがオペの入れ替え待ちのときに熱心に熟読している場面がよく見られます。医師にとっても役立つそうで、ドクターからお礼を言われちゃいました。医家向けで、ちょっと値段が高いのがネックですけど、かなりお薦め。個人で買わないとしても、手術室の共同図書として、また病院図書室には是非おいておきたい良書です。

【カラーイラストでみる外科手術の基本】

もう一冊は、「カラーイラストでみる外科手術の基本―ILLUSTRATED BASIC SURGERY」。

これも主に研修医向けに外科手術の基本手技を解説したテキストで、内容的には「イラストでわかる外科手術基本テクニック」とかぶるところがありますが、こちらは訳書ではなく日本人医師が執筆しています。イラスト・写真が多くナース向きとしてはこっちの方がとっつきがいいかも知れません。

カラーイラストでみる外科手術の基本」のいいところは、内容が新しく、現在の日本の手術室事情にマッチしている点。外科手術の基礎ともいうべき手縫いによる腸管吻合(端端吻合、側端吻合とかね)の詳しい図入り解説からはじまり、現在主流の自動吻合器(CDHとか)の仕組み、バイクリル等の現在のオペで実際に使われている縫合糸のこと、スキンステイプラーの仕組み、電気メス、各手術器械の取り扱いなど、写真と図入りでわかりやすく説明されています。

さらに嬉しいことに、載石位、側臥位などの特殊なオペ体位時の神経麻痺などの注意点や、「ハンドシグナル」 ― 医者がこういう手つきをしたら何をほしいと言っているのか、なんてことまで書かれています。

あと「基本的な手術」ということで、開腹・閉腹の基本、胃空腸吻合、虫垂切除、鼠径ヘルニア、腹腔鏡下胆嚢摘出の手術手技書的な手順まで触れられています。手術室看護師なら知っておきたいことをとにかく詰め込んだ感じ。

どちらか一冊と言われたら、総合的には「カラーイラストでみる外科手術の基本」の方がオススメですね。

よりマニアックに手術器械を究めたいと思ったら、前者の「イラストでわかる外科手術基本テクニック」かな。

手術室一年生の皆さんも職場に入ったらいろいろと参考図書は薦められると思いますが、もしかしたら看護師向けに書かれたマンガチックなイラストが描かれた本が中心なんじゃないでしょうか?

手術室看護に限ったことではありませんが、どうして看護師向けの参考書というのはあんなにも絵本のようなものが多いんでしょうね。

まあ、女性が中心ということで取っつきやすさをモットーとしているんでしょうけど、専門職向けの解説本としてはチト恥ずかしいのでは? というのが率直な印象です。「マンガで学ぶ○○」とか、多いですよね。まあ、身につけばなんでもいんですけどね。

ということで、きちんと学びたい人は、下手なナース向け書籍よりは、医師・研修医向けの本をあたってみることをお薦めします。
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2006年03月27日

手術で使う「メス」の話

手術道具(業界では器械と呼びます)と言ったら、やっぱりまっさきに思い浮かべるのは、「メス」でしょう。

現在医療現場でもっぱら使われている替刃式のメス。ブレードはNo.10円刃を装着

一般の人からは、なにやら特殊なモノと思われがちなメスですけど、いまは上の写真のような替刃式のものが主流になっています。カミソリみたいな感じですね。で、実際にメス刃を作っているメーカーはフェザー Featherだったりします。まさにカミソリ屋さんが作ってるわけです。

メスについてはいろいろと迷信があるようで、よく友人から聞かれます。

「メスってちょっと触っただけでも、スーッと切れちゃうんでしょ?
だから、死体を切り刻む時に盗んで使うらしいね。。。」

いえいえ(笑)。切れ味はきっとカミソリと同じです。だってカミソリ屋さんが作ってるんだから。

それに、使い方によってはすぐに切れ味が落ちるもんだから、切り口を気にする形成外科手術なんかでは、1時間程度の手術でも何回も刃を替えたりします。

それと、私、刃物が好きで包丁なんかもそれなりにこだわって揃えているんですけど、刃物メーカーのよく使う宣伝文句に「医療用メスとおなじ鋼材で切れ味抜群!」なんてコピーもありがち。

ふーん、なにやらスゴそう! と思ってしまいますが、騙されないように!
言い換えれば、「髭剃りとおなじ鋼材で切れ味抜群!」ってことなんですから。

昔は、マンガ「ブラックジャック」に出てくるような一本の削り出しのメスが実際に使われていましたので、その頃にはそれなりに鋼材にこだわったりしたのかもしれませんけど、いまではあくまで消耗品ですからね。

で、その替刃式のメスですが、先端に取り付ける刃の部分(ブレードといいます)はいろいろな形状があって、手術によって使い分けられています。

医療メスの替刃(ブレード)各種

大まかに分ければ、刃自体がバイオリンの弦のように弧型になった円刃(えんじん)メスと、先がとがった尖刃(せんじん)メスに大別できます。

一言でいえば円刃メスは皮膚切開用、尖刃メスは細かい作業用。手術によってはメス柄を二本用意して、尖刃メスと円刃メスを使い分けることが多いです。

円刃、尖刃でも大きさとかちょっとした形状に違いがあるんですけど、その辺の説明はまた機会があったら詳しくしたいと思います。

メスというと、外科手術の主役的な存在という感じがしますが、実際のところメスの出番は思いのほか少ないです。皮膚切開、腹膜切開、腸管などを開けるとき、骨膜を切るときなど。術式にも寄りますけど、一回の手術の中で、メスを渡すのって数回程度だったりします。

じゃあ、他は何で切っていくのかというと、実は「ハサミ」なんです。
業界用語では剪刀(せんとう)と言いますけど、ハサミもこれまた色んな種類があって使い分けがされているんですね。

クーパー、メッツェン、メイヨー、シグマ、キルナー、糸切りなどなど。

次回は外科手術で使うハサミの話をしようかと思います。


[実は誰でも簡単に手に入る医療用メス]

お待ちかね、余談コーナーです(^^)

知らない人にはとんでもなく特殊なモノに思える医療用メスですが意外や意外、実は素人でも手に入れるのは簡単です。大学医学部や獣医学部などの大学生協では実習用メスが普通に棚に並んでいますし、某大型DIYショップでも工具の一種として医療用のメスが売られていたり。。。


メスというとすぐに「悪用」なんてイメージがついてまわるようですが、所詮はカミソリですからね(笑)
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2006年03月20日

もっともオペ室らしい仕事−「器械出し」業務とは?

手術室看護師の役割は、大きく分けてふたつあります。

「間接介助」と「直接介助」
「外回り」と「手洗い」

いろいろな言い方がありますが、最近では、「器械出し」と「外回り」という言い方をすることが多いようです。

まずは手術室看護のシンボルとも言うべき「器械出し業務」についてお話ししたいと思います。
器械というのは、手術器具のこと。メスとかハサミとかの類ですね。
つまりは、器械出し業務とはよくテレビドラマなんかである、医者に「メス!」と言われたら「ハイ!」と言ってメスを渡すあの役割のことです。

まあ、誰でもそんな場面のイメージは付くと思いますが、なんでわざわざ医者に道具を渡すだけの役目が必要なのでしょう? その辺の話はあまり知られていない部分かも知れません。

まあ、ぶっちゃけた話、器械出しなんて看護師がやる必要はあまりないんです。
アメリカあたりでは、看護師とは別にテクニシャンと呼ばれる器械出し専門の技師さんが手術を支えていたりもします。研修医がいっぱいいるような病院だったら研修医がやってもいいですし、さらに言えば、手術をする医者が自分で台から道具を取っていっても良いわけです。

まずは、わざわざ手渡しで道具をもらわないで医者が自分でメスとかを台から持ってかないのはなぜ? という点をお話しします。

なぜか? それは医者は手術をしている部分(術野といいます)に集中したいからです。例えば手術中に動脈を切ってしまって血がピューっと吹き出してきた場面を想像してみてください。片手で出血点を押えつつ、止血に使う糸はどこだ? と医者自身が探し回ったらどうでしょう? こういう場面では出血点から目を離すだけで危険です。筋鉤(傷を拡げる器具)などで腸管などを除けつつ作業をしているような状況で、術野から目を離した隙に鉤がずれようものなら、とぐろを巻いたような腸管に埋もれて出血点がわからなくなってしまうこともあります。

術野から目を離すことなく、安全に操作を行ないたい、それが器械出し業務がいる意義です。

まあ、実際はそんなホントに器械出しが存在意義を発揮するような場面は1手術中一回あるかないか程度のものなんですけどね。

特に最初の「メス!」という一言はほとんど儀式みたいなもんです。別に医者が自分でメスを持っていって勝手に切り始めてもなーんにも問題はありません。でも一応、「メス!」という一言で手術が始まることになっているんですね。それは昔からの習慣みたいなもんだと思います。


次に、看護師が器械出し業務をする必要があるのか? 器械出しは果たして看護なのか? という点をお話しします。

手術室業務は看護ではない! そんな言葉をよく聞きます。
看護というと患者さんのもとに言って、直接のコミュニケーションの中から関係性を築いていってケアするみたいなイメージがあるじゃないですか。
その点、手術室ではほとんどが全身麻酔で、意識のない人相手の仕事。そんなの看護じゃない! と思っている人が結構います。

まあ、これについては非常に重みのあるテーマで、おいそれと答えを出すことはできないのですが、序盤のここでは、とりあえず手術室運営には絶対に看護の視点が必要であり、看護師は欠かせないという点をはっきり申し上げておきたいと思います。

といっても実際のところ、手術室看護というと次回にお話ししようと思う「外回り業務」による部分が大きいのは事実です。

器械出しについては、アメリカのように専門技師であるテクニシャンのような存在があればそれでも構わない部分かもしれません。ただ現行の法律では、診療の補助を行なえるのは看護師でしかあり得ませんから、仕方ないんですね。

とはいえ、整形外科の人工物手術(人工骨頭置換術とか人工股関節全置換術など)では、人工物メーカーの社員が看護師に替わって器械出しを行なうという場合もあります。(大都市のそれなりの規模の病院では考えられませんが)
法律的にもグレーゾーンな領域みたいですけどね。そんな話は、いつか余裕があったら裏話的にお話ししたいと思います。
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2006年04月03日

手術に使うハサミ(剪刀)の話

手術に使う道具(鋼製器具/器械)のうち、いちばん出番が多くて重要な器械は剪刀(はさみ)かもしれません。

前にも書きましたが、手術のときメスを使う場面というのは非常に限られています。術式によっては最初に皮膚にスッーっと切れ目を入れる以外はまったく出番がない場合もあるくらい。

皮膚に切れ目が入ったら、あとは電気メスで創を拡げていく場合がほとんどですし、他に切る道具を使うとしたらやっぱりハサミ類ですね。

外科手術に使うハサミには実にたくさんの種類があります。
組織を切る用のハサミ、糸を切るためのハサミ、など複数のハサミを使い分けます。血管などの組織用のハサミはかみ合わせや切れ味が命なので、比較的固い結紮糸などは別の専用の糸切りバサミで切るようにするのが一般的です。

医者は「ハサミ!」としかいわない場合が多いので、うちら器械出し看護師は手術をしている部分(術野)をよーく見て、その場面ではどのハサミを渡せばいいのかなということを判断しなければなりません。

外科手術に使うハサミ(剪刀)類
↑(手前から)クーパー/長クーパー/メッツェン/直剪

外科手術用ハサミの先端の形状
↑ 先端の形の違い(左から)/メッツェン・メイヨー・クーパー

◆  ◆  ◆


●クーパー Cooper

手術用ハサミのなかで、たぶんいちばん有名なのはクーパーでしょう。どんな科の手術でもたいてい使います。

上の写真で言うと、手前の2本がクーパーです。先が丸まっていてチョイ幅広。深いところで操作するときは、手前から2番目のようなちょっと柄が長めの長クーパーを使ったりします。

婦人科オペなんかでは、クーパーでジョキジョキと腹膜や子宮を切り開いていったりもしますが、一般的にはクーパーは雑剪(ざっせん)などとも呼ばれ、血管を縛った後の糸を切る専用に使われることが多いです。

このハサミを開発したのは1800年代に活躍したイギリスの外科医のクーパー Cooperさん。医療器具は開発者の名前が付けられている場合が多いようです。

●メッツェンバウム Metzenbaum

メッツェンバウムは略して「メッツェン」といわれる場合が多いです。
これはクーパーより、先が細く薄くなっています。細かい組織を切る用のハサミになります。基本的にはコイツで糸類を切ることはありません。(まあ、血管結紮の後は血管を切る流れでそのまま糸もチョキンとやることはありますが)

メッツェンあたりになると、ハサミとはいえ切る以外にもうひとつの重要な使い方が出てきます。それは「剥離」。これは文章で説明するのはちょっと難しいのですが、人間の組織というのは基本的に膜構造になっているわけで、創を切り開いていくにもただ闇雲に切ればいいわけではなく、まずはくっついている膜を剥がしてからハサミを入れる必要があるんです。

そんなときに膜を剥がす「剥離」操作をするのもハサミの役目です。膜とおぼしき隙間に先を差し込んで、ハサミを開く。そうやって膜層を拡げていくわけです。(文章だけでイメージ伝わるかなぁ? 実際に術野をみればよくわかるんですけど...)

似たような操作はペアンやモスキートペアンといった止血鉗子や、ケリーなどの剥離鉗子で行なう場合もありますが、開腹手術などでは刃先の薄いメッツェンが好んで使われます。

上の写真でいうと手前から3本目がメッツェンになります。

●メイヨー Mayo

メイヨーは、クーパーの先を少し細めにしたような感じのハサミで、比較的固めの組織を切るためのがっちりとした鋏です。主に整形外科領域などで使われます。手術室全体でいったらあまり出番はないハサミかも。

手術の時、器械受け渡しをするための台のことを、メーヨー台と言ったりしますが、このメーヨーというのは人の名前です。いまでもアメリカにメーヨー・クリニックという歴史的な病院がありますが、その創始者メーヨー兄弟が開発した道具なのでメーヨーと呼ばれているようです。
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2006年04月02日

オペナース:器械出しに役立つ参考書 『外科手術基本テクニック』

次回はハサミ(剪刀)の話をします、なんて予告しておきながら、ネタ変更。
今回は、新人オペ室ナースなら読んでおきたい器械出し(昔で言う直接介助:直介ってヤツ)に必要な手術器械(手術器具)の基礎知識が学べる参考書を二冊紹介したいと思います。

今年もあと数日したら新人オペ室ナースが職場に配属になりますが、いつも私が彼女たちに勧めている本です。

イラストでわかる外科手術基本テクニック          
カラーイラストでみる外科手術の基本―ILLUSTRATED BASIC SURGERY


【イラストでわかる外科手術基本テクニック】

ひとつは「イラストでわかる外科手術基本テクニック」。おそらく研修医など医師向けに書かれた参考書だと思いますが、外科手術に使う器具の由来から使い方、縫合糸や結紮の基礎、各種ドレインやバルーンカテーテル、尿道ステントなど外科手術に関わる器具・医療材料、テクニックなどの基礎知識が幅広く解説されています。手術器具の歴史なども触れられていて、雑学的にもおもしろいです。「へぇ〜」がいっぱい詰まっているというか(笑)

この本は私物なんですが、手術室の本棚に置いておくと、外科系の医師たちがオペの入れ替え待ちのときに熱心に熟読している場面がよく見られます。医師にとっても役立つそうで、ドクターからお礼を言われちゃいました。医家向けで、ちょっと値段が高いのがネックですけど、かなりお薦め。個人で買わないとしても、手術室の共同図書として、また病院図書室には是非おいておきたい良書です。

【カラーイラストでみる外科手術の基本】

もう一冊は、「カラーイラストでみる外科手術の基本―ILLUSTRATED BASIC SURGERY」。

これも主に研修医向けに外科手術の基本手技を解説したテキストで、内容的には「イラストでわかる外科手術基本テクニック」とかぶるところがありますが、こちらは訳書ではなく日本人医師が執筆しています。イラスト・写真が多くナース向きとしてはこっちの方がとっつきがいいかも知れません。

カラーイラストでみる外科手術の基本」のいいところは、内容が新しく、現在の日本の手術室事情にマッチしている点。外科手術の基礎ともいうべき手縫いによる腸管吻合(端端吻合、側端吻合とかね)の詳しい図入り解説からはじまり、現在主流の自動吻合器(CDHとか)の仕組み、バイクリル等の現在のオペで実際に使われている縫合糸のこと、スキンステイプラーの仕組み、電気メス、各手術器械の取り扱いなど、写真と図入りでわかりやすく説明されています。

さらに嬉しいことに、載石位、側臥位などの特殊なオペ体位時の神経麻痺などの注意点や、「ハンドシグナル」 ― 医者がこういう手つきをしたら何をほしいと言っているのか、なんてことまで書かれています。

あと「基本的な手術」ということで、開腹・閉腹の基本、胃空腸吻合、虫垂切除、鼠径ヘルニア、腹腔鏡下胆嚢摘出の手術手技書的な手順まで触れられています。手術室看護師なら知っておきたいことをとにかく詰め込んだ感じ。

どちらか一冊と言われたら、総合的には「カラーイラストでみる外科手術の基本」の方がオススメですね。

よりマニアックに手術器械を究めたいと思ったら、前者の「イラストでわかる外科手術基本テクニック」かな。

手術室一年生の皆さんも職場に入ったらいろいろと参考図書は薦められると思いますが、もしかしたら看護師向けに書かれたマンガチックなイラストが描かれた本が中心なんじゃないでしょうか?

手術室看護に限ったことではありませんが、どうして看護師向けの参考書というのはあんなにも絵本のようなものが多いんでしょうね。

まあ、女性が中心ということで取っつきやすさをモットーとしているんでしょうけど、専門職向けの解説本としてはチト恥ずかしいのでは? というのが率直な印象です。「マンガで学ぶ○○」とか、多いですよね。まあ、身につけばなんでもいんですけどね。

ということで、きちんと学びたい人は、下手なナース向け書籍よりは、医師・研修医向けの本をあたってみることをお薦めします。
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2006年03月27日

手術で使う「メス」の話

手術道具(業界では器械と呼びます)と言ったら、やっぱりまっさきに思い浮かべるのは、「メス」でしょう。

現在医療現場でもっぱら使われている替刃式のメス。ブレードはNo.10円刃を装着

一般の人からは、なにやら特殊なモノと思われがちなメスですけど、いまは上の写真のような替刃式のものが主流になっています。カミソリみたいな感じですね。で、実際にメス刃を作っているメーカーはフェザー Featherだったりします。まさにカミソリ屋さんが作ってるわけです。

メスについてはいろいろと迷信があるようで、よく友人から聞かれます。

「メスってちょっと触っただけでも、スーッと切れちゃうんでしょ?
だから、死体を切り刻む時に盗んで使うらしいね。。。」

いえいえ(笑)。切れ味はきっとカミソリと同じです。だってカミソリ屋さんが作ってるんだから。

それに、使い方によってはすぐに切れ味が落ちるもんだから、切り口を気にする形成外科手術なんかでは、1時間程度の手術でも何回も刃を替えたりします。

それと、私、刃物が好きで包丁なんかもそれなりにこだわって揃えているんですけど、刃物メーカーのよく使う宣伝文句に「医療用メスとおなじ鋼材で切れ味抜群!」なんてコピーもありがち。

ふーん、なにやらスゴそう! と思ってしまいますが、騙されないように!
言い換えれば、「髭剃りとおなじ鋼材で切れ味抜群!」ってことなんですから。

昔は、マンガ「ブラックジャック」に出てくるような一本の削り出しのメスが実際に使われていましたので、その頃にはそれなりに鋼材にこだわったりしたのかもしれませんけど、いまではあくまで消耗品ですからね。

で、その替刃式のメスですが、先端に取り付ける刃の部分(ブレードといいます)はいろいろな形状があって、手術によって使い分けられています。

医療メスの替刃(ブレード)各種

大まかに分ければ、刃自体がバイオリンの弦のように弧型になった円刃(えんじん)メスと、先がとがった尖刃(せんじん)メスに大別できます。

一言でいえば円刃メスは皮膚切開用、尖刃メスは細かい作業用。手術によってはメス柄を二本用意して、尖刃メスと円刃メスを使い分けることが多いです。

円刃、尖刃でも大きさとかちょっとした形状に違いがあるんですけど、その辺の説明はまた機会があったら詳しくしたいと思います。

メスというと、外科手術の主役的な存在という感じがしますが、実際のところメスの出番は思いのほか少ないです。皮膚切開、腹膜切開、腸管などを開けるとき、骨膜を切るときなど。術式にも寄りますけど、一回の手術の中で、メスを渡すのって数回程度だったりします。

じゃあ、他は何で切っていくのかというと、実は「ハサミ」なんです。
業界用語では剪刀(せんとう)と言いますけど、ハサミもこれまた色んな種類があって使い分けがされているんですね。

クーパー、メッツェン、メイヨー、シグマ、キルナー、糸切りなどなど。

次回は外科手術で使うハサミの話をしようかと思います。


[実は誰でも簡単に手に入る医療用メス]

お待ちかね、余談コーナーです(^^)

知らない人にはとんでもなく特殊なモノに思える医療用メスですが意外や意外、実は素人でも手に入れるのは簡単です。大学医学部や獣医学部などの大学生協では実習用メスが普通に棚に並んでいますし、某大型DIYショップでも工具の一種として医療用のメスが売られていたり。。。


メスというとすぐに「悪用」なんてイメージがついてまわるようですが、所詮はカミソリですからね(笑)
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2006年03月20日

もっともオペ室らしい仕事−「器械出し」業務とは?

手術室看護師の役割は、大きく分けてふたつあります。

「間接介助」と「直接介助」
「外回り」と「手洗い」

いろいろな言い方がありますが、最近では、「器械出し」と「外回り」という言い方をすることが多いようです。

まずは手術室看護のシンボルとも言うべき「器械出し業務」についてお話ししたいと思います。
器械というのは、手術器具のこと。メスとかハサミとかの類ですね。
つまりは、器械出し業務とはよくテレビドラマなんかである、医者に「メス!」と言われたら「ハイ!」と言ってメスを渡すあの役割のことです。

まあ、誰でもそんな場面のイメージは付くと思いますが、なんでわざわざ医者に道具を渡すだけの役目が必要なのでしょう? その辺の話はあまり知られていない部分かも知れません。

まあ、ぶっちゃけた話、器械出しなんて看護師がやる必要はあまりないんです。
アメリカあたりでは、看護師とは別にテクニシャンと呼ばれる器械出し専門の技師さんが手術を支えていたりもします。研修医がいっぱいいるような病院だったら研修医がやってもいいですし、さらに言えば、手術をする医者が自分で台から道具を取っていっても良いわけです。

まずは、わざわざ手渡しで道具をもらわないで医者が自分でメスとかを台から持ってかないのはなぜ? という点をお話しします。

なぜか? それは医者は手術をしている部分(術野といいます)に集中したいからです。例えば手術中に動脈を切ってしまって血がピューっと吹き出してきた場面を想像してみてください。片手で出血点を押えつつ、止血に使う糸はどこだ? と医者自身が探し回ったらどうでしょう? こういう場面では出血点から目を離すだけで危険です。筋鉤(傷を拡げる器具)などで腸管などを除けつつ作業をしているような状況で、術野から目を離した隙に鉤がずれようものなら、とぐろを巻いたような腸管に埋もれて出血点がわからなくなってしまうこともあります。

術野から目を離すことなく、安全に操作を行ないたい、それが器械出し業務がいる意義です。

まあ、実際はそんなホントに器械出しが存在意義を発揮するような場面は1手術中一回あるかないか程度のものなんですけどね。

特に最初の「メス!」という一言はほとんど儀式みたいなもんです。別に医者が自分でメスを持っていって勝手に切り始めてもなーんにも問題はありません。でも一応、「メス!」という一言で手術が始まることになっているんですね。それは昔からの習慣みたいなもんだと思います。


次に、看護師が器械出し業務をする必要があるのか? 器械出しは果たして看護なのか? という点をお話しします。

手術室業務は看護ではない! そんな言葉をよく聞きます。
看護というと患者さんのもとに言って、直接のコミュニケーションの中から関係性を築いていってケアするみたいなイメージがあるじゃないですか。
その点、手術室ではほとんどが全身麻酔で、意識のない人相手の仕事。そんなの看護じゃない! と思っている人が結構います。

まあ、これについては非常に重みのあるテーマで、おいそれと答えを出すことはできないのですが、序盤のここでは、とりあえず手術室運営には絶対に看護の視点が必要であり、看護師は欠かせないという点をはっきり申し上げておきたいと思います。

といっても実際のところ、手術室看護というと次回にお話ししようと思う「外回り業務」による部分が大きいのは事実です。

器械出しについては、アメリカのように専門技師であるテクニシャンのような存在があればそれでも構わない部分かもしれません。ただ現行の法律では、診療の補助を行なえるのは看護師でしかあり得ませんから、仕方ないんですね。

とはいえ、整形外科の人工物手術(人工骨頭置換術とか人工股関節全置換術など)では、人工物メーカーの社員が看護師に替わって器械出しを行なうという場合もあります。(大都市のそれなりの規模の病院では考えられませんが)
法律的にもグレーゾーンな領域みたいですけどね。そんな話は、いつか余裕があったら裏話的にお話ししたいと思います。
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