前にも書きましたが、手術のときメスを使う場面というのは非常に限られています。術式によっては最初に皮膚にスッーっと切れ目を入れる以外はまったく出番がない場合もあるくらい。
皮膚に切れ目が入ったら、あとは電気メスで創を拡げていく場合がほとんどですし、他に切る道具を使うとしたらやっぱりハサミ類ですね。
外科手術に使うハサミには実にたくさんの種類があります。
組織を切る用のハサミ、糸を切るためのハサミ、など複数のハサミを使い分けます。血管などの組織用のハサミはかみ合わせや切れ味が命なので、比較的固い結紮糸などは別の専用の糸切りバサミで切るようにするのが一般的です。
医者は「ハサミ!」としかいわない場合が多いので、うちら器械出し看護師は手術をしている部分(術野)をよーく見て、その場面ではどのハサミを渡せばいいのかなということを判断しなければなりません。
↑(手前から)クーパー/長クーパー/メッツェン/直剪
↑ 先端の形の違い(左から)/メッツェン・メイヨー・クーパー
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●クーパー Cooper
手術用ハサミのなかで、たぶんいちばん有名なのはクーパーでしょう。どんな科の手術でもたいてい使います。上の写真で言うと、手前の2本がクーパーです。先が丸まっていてチョイ幅広。深いところで操作するときは、手前から2番目のようなちょっと柄が長めの長クーパーを使ったりします。
婦人科オペなんかでは、クーパーでジョキジョキと腹膜や子宮を切り開いていったりもしますが、一般的にはクーパーは雑剪(ざっせん)などとも呼ばれ、血管を縛った後の糸を切る専用に使われることが多いです。
このハサミを開発したのは1800年代に活躍したイギリスの外科医のクーパー Cooperさん。医療器具は開発者の名前が付けられている場合が多いようです。
●メッツェンバウム Metzenbaum
メッツェンバウムは略して「メッツェン」といわれる場合が多いです。これはクーパーより、先が細く薄くなっています。細かい組織を切る用のハサミになります。基本的にはコイツで糸類を切ることはありません。(まあ、血管結紮の後は血管を切る流れでそのまま糸もチョキンとやることはありますが)
メッツェンあたりになると、ハサミとはいえ切る以外にもうひとつの重要な使い方が出てきます。それは「剥離」。これは文章で説明するのはちょっと難しいのですが、人間の組織というのは基本的に膜構造になっているわけで、創を切り開いていくにもただ闇雲に切ればいいわけではなく、まずはくっついている膜を剥がしてからハサミを入れる必要があるんです。
そんなときに膜を剥がす「剥離」操作をするのもハサミの役目です。膜とおぼしき隙間に先を差し込んで、ハサミを開く。そうやって膜層を拡げていくわけです。(文章だけでイメージ伝わるかなぁ? 実際に術野をみればよくわかるんですけど...)
似たような操作はペアンやモスキートペアンといった止血鉗子や、ケリーなどの剥離鉗子で行なう場合もありますが、開腹手術などでは刃先の薄いメッツェンが好んで使われます。
上の写真でいうと手前から3本目がメッツェンになります。
●メイヨー Mayo
メイヨーは、クーパーの先を少し細めにしたような感じのハサミで、比較的固めの組織を切るためのがっちりとした鋏です。主に整形外科領域などで使われます。手術室全体でいったらあまり出番はないハサミかも。手術の時、器械受け渡しをするための台のことを、メーヨー台と言ったりしますが、このメーヨーというのは人の名前です。いまでもアメリカにメーヨー・クリニックという歴史的な病院がありますが、その創始者メーヨー兄弟が開発した道具なのでメーヨーと呼ばれているようです。