2012年11月25日

なぜ助産師は帝王切開手術の器械出しをしないの?

助産師さんって帝王切開の器械出し業務をどう捉えているんだろう? 私はこれも助産だと思っているのだけど。助産師のスキルアップとしての帝王切開器械出し。出産に関することは全部自分たちの専門としてやっていく、みたいな思い、ないのかな?

Twiiterで書いたつぶやきです。

久々に色々な方からコメントをいただきました。

皆さん、気になっていたところだったんでしょうね。

手術室での超緊急手術の代表としてはやっぱり帝王切開。

臍帯脱出とか胎盤早期剥離とか分娩室から手術室までの移動すら間に合わない場合もありえます。

そこで、いまウチの病院では分娩室で帝王切開手術をできるようにするために準備を進めているのですが、そこで問題になるのが病棟(助産師)側のスタンス。

基本的に及び腰というか、反対勢力が強いんです。

この問題、3年ほどまえに、ちょっとしたアクシデントがあったときに、私から病院側に問題提起して、分娩室での帝王切開を行える環境作りを上層部で話し合ってもらったのですが、その時は産科病棟の師長の反対意見でサクッと否決。「不慣れなことをするのは危険」というなんの練りもない発言によって。手術室への連絡体制のちょっとした改善だけで終わってしまいました。

で、その次、別のトラブルが1年ほどまえにあって、いま再度話が進められているのですが、手術室と麻酔科の切実な押しに対して、やはり産科病棟が否定的な意見ばかり。


そこで冒頭のTwitterのつぶやきにつながるわけです。

帝王切開手術って、基本は助産行為じゃないの? って思いません?

法律的な定義ではまた違うのかもしれませんが、助産の専門家としては、帝王切開も含めてお産に関しては自分たちの手で行なっていく!、みたいな気概はないのかな?

臍帯脱出や胎盤早期剥離の妊婦を遠く離れた手術室まで移動してくることのリスクは、きっとオペ室ナースよりよっぽどよくわかってますよね。

だったら、分娩室で帝王切開、という方が自然な発想だと思うのですが、素人考えでしょうか?

看護師って全般的にスキルアップ思考、強いですよね。

助産師さん的にも、帝王切開の器械出しまでできるようになりたい! みたいな思いはないのかな。外回り業務にしたって出産を迎えた妊婦さんへのフォローって、手術室看護師より、助産師さんの専門のはずですし。

そういった意味で、究極的には、帝王切開はわざわざ手術室に来るのではなく、分娩室で助産師主体で進めていくのが自然なんじゃないのかなと思う次第。

別に帝王切開手術が嫌だといっているんじゃないですよ。

妊婦さんと新生児の安全と安心を考えた時に、どうしたらいいのかなって話です。

会陰縫合をするような人たちが、帝王切開の器械出しを拒む理由、わからないです。


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2012年09月26日

「プロリーン」〜 縫合糸と金属アレルギー

縫合糸プロリーン(プローリン)の添付文書

オペ室ナースならおなじみのモノフィラメントの非吸収糸、Prolene。

Proleneの正しい読み方が、プロリーンだったって知ってました?

Dr.も含めて私の周りでは誰もがプローリンと呼んでいますが、添付文書、パッケージを見て初めて気づいた事実。

あと添付文書を見てもうひとつ驚くのが、「金属アレルギー」の患者には使用禁忌・禁止になっているという点。

これはプロリーンに限らず、絹糸でもナイロン糸でも、縫合糸の添付文書には必ず書かれています。

たまに自称「金属アレルギー」という患者さんはいますが、添付文書を真に受けると、手術を受けることが不可能という事態に、、、


まあ、恐らく「大人の事情」で糸に関しては必ず書かなくちゃいけないことになっていて、あとは医師の判断で考えてねってことなんでしょうけど、添付文書を巡ってはいろいろ裁判の論拠にもなっているようで、メーカーの逃げというか、なんというか、真剣に考えたら悩ましいです。

ちなみにうちの病院では、金属アレルギーという方には、スキンステイプラー(医療用ホチキス)は使わない等の配慮はしていますが、縫合糸までは気にしてません。というか、恐らくほとんどの医師も知らないと思う。

考えてみれば、手術器具も金属で、それがむき出しの細胞に直接触れるわけですよね。。。。


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2010年05月14日

手術時手洗い−ウォーターレス法

今日、職場の後輩から「○○さんがブログでオペ室のこと書いてること知ってました。でもいうとやりにくくなるかなと持って」なんて言われました。

その子、寮暮らしで電話回線は引いてなくてインターネットは使っていないと聞いていた気がしたらちょっとびっくりでした。

まあ、そんなこともあって、今日はちょっとマジメにオペ室ネタをひとつ。



皆さんの施設では、手術時の手洗い法はどんな感じにしていますか?
(さすがにブラシで腕全体をゴシゴシと10分、なんてことは少なくなっていると思いますが、、、)

私のいる施設では、この4月から手術時手洗い法を大きく見直して、「ウォーターレス法」を導入しました。

これはその名の通り、水を使わない手洗い法。簡単に言えば擦式アルコール製剤の刷り込みを基本とした手指衛生法です。

目に見える汚れがなければ、手にアルコール製剤を3回正しい手順ですり込んでおしまい。そのまま滅菌ガウンを着て、滅菌手袋を着用します。

手が汚れている可能性があれば一応水を使った予備洗浄はしますが、そこでは消毒効果は期待しておらず、汚れを落とすだけですから、使う石けんは安い普通の手洗い液体石けん。

手を拭く紙も滅菌である必要はありませんから、病棟とか、デパートのトイレにあるような普通の安っぽい紙。

こうすると高い滅菌ペーパーやイソジンやらヒビテンが入った高級な消毒石けんが必要なくなりますので、相当のコストダウンが期待できます。

まだ移行段階ではありますが、もし完全にウォーターレス法に切り替われば、年間にして1千万円以上の経費削減が見込める試算に!

といっても、これまでゴシゴシやってきた私たちとしては中々受け入れるのが難しいのが現状。

そこであれこれとお膳立てを整えて、病院独自のエビデンス(従来の手洗い法とウォーターレス法で数十人ずつ細菌培養。結果ウォーターレス法の方が圧勝という結果)も打ち立ててのスタート。

まずは新人ナースには最初からウォーターレス法しか教えないということで、ボトムアップ作戦(?)を開始。

ついでに、手袋の装着もこれまでのオープン法からクローズド法を標準として指導。

これなんかは新人さんの方が上手にできて、先輩たちの方が苦労しているというのが現状。やがて、クローズド法の人が増えてきたら、先輩たちもこっそりと練習したりするのかなと期待しています。


長年の習慣を変えるというのはとても難しいこと。

4月の新人入職をきっかけにすると意外とすんなりと導入できたりするものです。

職場で大きな改革を考えている方は、4月がおすすめですよ、というお話でした。
posted by Metzenbaum at 23:01 | Comment(7) | TrackBack(0) | 器械出し/直接介助(直介)
2008年07月20日

手術室の針刺し事故

病院勤務者の中で、手術室看護師というのはかなり危険なリスクを伴う職種のひとつです。

医療者の安全というと、針刺し事故がよく取り上げられて、リキャップ禁止! なんて声高々に言われていますが、手術室で働く皆さん、どう感じていますか?

リキャップ禁止の院内通達が来るたびに、、、、
私はなんだか悲しい思いになってしまいます。


リキャップなんかより断然危険な縫合針の糸かけを毎日行なっている私たちはいったいなんなの? と思ってしまうのです。

病棟勤務者はリキャップで大騒ぎをしている中、私たちは針先を指で直接持つという信じられない操作を当然のごとく行なっていて、なおかつ閉創のあの急かされる勢いで、目にも留まらぬ速さ(!)で、糸を掛けて、かつ手渡しで受け渡しをしているわけですよね。

リキャップ絶対禁止 ― 病棟勤務者は社会的にも守られていていいなぁ。

この記事を見て、そんなことを考えました。


⇒ 『針刺し事故から考える - 看護師の品格 看護師社長 中友美の日記
posted by Metzenbaum at 08:22 | Comment(7) | TrackBack(0) | 器械出し/直接介助(直介)
2007年07月20日

エレバとラスパ・・整形外科手術の器械…覚え方のコツ

私の勤務する手術室では、新人はまずは一般外科と産婦人科から手術に入っていきます。そこで、筋鉤とかペアン、コッヘルなど一般的な手術器械に慣れていってもらって、夏休み明けくらいからボチボチと整形外科手術も担当するようになります。

整形外科手術の特色は、なんといっても手術器械(器具)の"質"が違うというところじゃないでしょうか? これまで「手術とは繊細で緻密な作業」なんて思っていたらびっくりの世界かもしれません。

ノミやハンマーなど、本当に人体に使うのか!? と思うようなごつい器械がたくさん。種類もわんさかと増えて、専門の特殊な器械が目白押し。

このあたりで、手術室看護師としての素養のいかんがボチボチと出てくるところかもしれません。

手術器械っておもしろい!

そんなふうに思えれば、きっとその先の日々も楽しくなっていくはず。

看護とはちょっと違うのかもしれませんが、そんな道具に対するこだわりという一面も手術室での仕事では重要なのかも、と思っています。

◆ カタカナが多い手術器械名

さて、私が整形外科手術に入るようになって困ったのは手術道具(器械)の名前がややこしいこと。

聞いたこともないカタカナの羅列で、それはもう苦労しました。

私、どうもそういう無機質な暗記ってニガテなんです。

ふだんの会話の中でも聞いたことがない言葉が出てくると「それって漢字でどう書くの?」とついつい聞いてしまう癖があります。

例えば、「リヒカ」。

あの手術台に立てる棒(?)のことです。

音でリヒカと聞くと意味不明で覚えるのもたいへんだけど、「離被架」と書かれれば理解もできるし、覚えやすいですよね。

オイフテープってなに? と思ったけど覆布テープと書かれれば納得。
エイヒは鋭匙。

そんな思考パターンなものだから、カタカナ語とだとなんのとっかかりもなくて困ってしまうんです。

手術器具の名前も最初のうちは先輩に教わるままに音(おん)でむりやり覚えてました。きっと先輩もそうやってもっと上の先輩から教わってきたのだと思いますが、もっと効率のいい覚え方はないかなとは常々思っていたところ。

そこで私が後輩に教える立場になってからは、工夫してやり方を変えてみました。丸暗記ではなく、なにかと関連づけたらいいんじゃないかと考えてみたんです。

漢字なら難しい言葉でも覚えられるのは、字面を通してなにかを連想したり関連づけて記憶に残るから、だと思うんです。

それじゃ、カタカナ語はどうする?

簡単です。もとの語源に立ち返ればいいんです。

カタカナ語だったら、たいていもともとは英語。

専門用語と思わないで、ただの英単語だと考えれば、意味も調べられるし、なぜそう呼ばれるのか、目的と合わせて頭に入りやすくなってきます。


私がそんなことを考えるようになったきっかけは、整形外科手術に入るようになって最初につまずいた「エレバ」と「ラスパ」の違いにありました。

◆ エレバとラスパの違い…語源から考える


エレバとラスパ(整形外科手術器具)


下がエレバ、上がラスパ

今となってはぜんぜん違うものなのですが、最初は同じように見えて、なにが違うのかさっぱりわかりませんでした。先輩に聞いても使う場面が違うんだよ、みたいなことは教えてくれるのですが、この術式ではこの場面で使うのがエレバ、この場面はラスパ、みたいな言い方で、すっきりとした答えは返ってこず。

そこで自分なりに調べてみて辿り着いたのは、次のふたつの英語の動詞。

elevate
rasp


elevate の方はけっこうおなじみな言葉です。後ろに er をつけてelevater と書くとわかりやすいかもしれません。そうです、エレベーター。

どうやら手術器具のエレバの語源はこのエレベーターと同じみたいです。エレバは正式には「エレバトリム」といいますが、elevaterを訛って読むとエレバトリウムに聞こえてきそうな感じ、しません?(笑)

結局、エレベーターもエレバも語源はきっと同じで「上昇させるもの」という意味があるようです。持ち上げるモノ、と言った方がわかりやすいかも。

整形外科手術でエレバの使い方を見ていると、剥離子のように使うことも多いかもしれませんが、基本的にはテコのようにして骨折した骨片などを持ち上げるのに使ってますよね。ですので、日本語では骨起子などと呼ぶようです。

手術器械のメーカー・カタログを見ていると、エレベーター剥離子なんて書き方をしているものもあります。

さて、つづいて rasp という動詞なんですが、こっちの方は残念ながら日常語との関連づけるのはちょっと難しいです。でも手術器械の中ではけっこう使われている単語かもしれません。

カタカナで書くと、ラスプ。

THAの手術などで骨の内腔(海綿骨)を削る道具でラスプって聞いたことありません?

英単語としては、ヤスリをかけるとか、ガリガリ削るという意味。

ラスパの使われ方をみるとまさにそのとおり。平らな面を骨に当てて表面をこそげ落とすような操作に使っていますよね。(ですから片面が平らになっていて刃のようになってるわけです)

ラスパのことは、日本語では骨膜剥離子というらしいです。

こんなふうにちょっと調べてみると、へぇ〜というようなことがたくさん見つかっておもしろいです。

無機質な音としてエレバとラスパを覚えようとするとごっちゃになるかもしれませんが、少しでも何かと関連づけていれば大丈夫。

ペアンとかクーパーみたいに、開発者の名前がそのままついているような場合だともうお手上げですが、比較的整形外科の器械は英単語に由来したものが多いような気がします。

ベンダー、ノットプッシャー、リーマー、などなど。

直訳すると、「折り曲げ器」「結び目押し込み器」「穴開けきり」といった感じでしょうか?

もともと英語圏の国で開発された器械。例えばアメリカの手術室なんかでは専門用語でもなんでもなく、ありふれた日常語みたいなものなんでしょうね(笑)
posted by Metzenbaum at 23:17 | Comment(7) | TrackBack(0) | 器械出し/直接介助(直介)
2007年05月10日

ナースのための骨折手術セミナー AO ORP(Nurse)コース

お知らせです。

以前このブログで話題にのぼった骨折治療の世界的権威であるスイスAO財団主催の骨折手術セミナー AO ORP(Nurse) Courseがいよいよ募集開始になりました。

AO ORP (Nurse) Course SAPPORO

会場:シェラトンホテル札幌
会期:2007年8月24日(金)〜26日(日)
定員:48名(申し込み、入金先着順)
言語:英語⇒日本語 同時通訳
受講料:50,000円
〆切:6月22日


やっぱり今年は札幌なんですねぇー

受講料に加えて交通費に宿泊費。
今回は私はパスかなぁ。楽しみにしていたんだけど。

実は昨日社内公示になったばかりで、まだ外部への公式なアナウンスは出していないそうです。(日本で窓口になっているシンセス(株)のウェブにはまだ載ってません)

超人気のコースですぐにいっぱいになってしまうようなので、興味がある方は早めに病院出入りのシンセス(株)の人にコンタクトを取って申込書をもらった方がいいかも知れません。

AOコースってなに? という方は 骨折の手術 ― 観血的整復固定術 (ORIF) のコメント欄を見てみてくださいね。

今年は北海道、来年は神戸、再来年に横浜を予定しているようです。
posted by Metzenbaum at 19:39 | Comment(5) | TrackBack(0) | 器械出し/直接介助(直介)
2006年09月30日

手術器械のエキスパート

ドワイアン、キルナー、シグマ、メッツェン、クーパー、ペアン、コッヘル、エキスカベータ、
エレバ、ラスパ、キュレット、レトラクター、ケリー、モスキート、ヘーベルetc.

日々、膨大な種類・数の手術道具(器械)を扱っている手術室看護師。
はっきり言って手術器械のエキスパートです。

医者たちの場合は、胸部外科とか脳神経外科とかはっきりと専門化されていますので、彼らが知っているのは一般的な手術器具+診療科特有の器具だけ。

でもうちらオペナースは外科系のすべての科の手術を担当しますから、覚えなければならない器械・器具の数は雲泥の差。おそらくどんな医者より道具のことは詳しいです。手術器具のなかには、ホント、ヘンな器械もあって形を見ただけではなにに使うのかまったく想像できなようなものが多々あったり。

そんな不思議な手術器具の代表として、例えばこんな器械はどうでしょう?

チャイニーズ・フィンガー・トラップ chinese finger trap 写真

主に整形外科手術で使うのですが、皆さんの施設では見たことありますか?
沖縄あたりの民芸品でまったくおんなじ仕組みのものがあって、それがまさか手術道具として使われているなんてビックリしました。(もちろん素材は違いますけど)

何に使う器械か、答えは次回書くこととして。。。。。


手術器械のエキスパートである手術室看護師は医者たちからも頼られる存在です。手術が予定通り進まず「ここをこういう風にしたいんだけど、なにかいい道具ない?」みたいに術中にDr.から相談されることもあります。

その診療科の器械では対応できないけど、別の科が持っているアレならうまくいくかも、そんなふうにアドバイスすることも多々あります。診療各科の手術器械がすべて頭に入っている強みです。

手術の器械出し業務は看護か? という永遠の命題がありますが、こんなふうに行き詰まった手術の打開策として、オペ・ナースの知識・力量が発揮できることもあるんですね。

そういった意味で、看護っぽいと思われがちな外回り・麻酔看護ばかりに偏らないで、手術器械に精通しておくことも、やっぱり手術室看護師として重要だと思うんです。
posted by Metzenbaum at 13:51 | Comment(31) | TrackBack(0) | 器械出し/直接介助(直介)
2006年09月15日

観血的整復固定術〜コンプレッション・スクリューってなに?

なんとなくシリーズ化している骨折治療の手術「観血的整復固定術」(観整固)の話、第三段です。今日は以前チラッと質問のあった「コンプレッション・スクリュー」についてお話ししようと思います。

すでに告白しているとおり、私は整形の手術がかなりニガテです。入職して以来、最低限業務に必要なことは先輩から教わりましたが、「ドクターにこういわれたらこの器械を出す!」的な最低限のことだけで、骨折治療の理屈なんてものは一切聞いたことがありません。(過去に職場内で勉強会が開かれたということもないようです)

自分で調べようにも、プレート+スクリュー固定の詳しいことが書かれた参考書すら見つけることができず、今までなんとなくでノラリクラリやってきた立場の人間です。

そんな無知なヤツが語ることなので、もしかしたら根本的に誤解しているかも、、、、そんな懸念を抱きつつ、私が理解している範囲でのコンプレッションスクリューの仕組みについて書いてみたいと思います。突っ込みどころ満載だと思いますので、どうぞお気づきの点はご指摘下さい。

さて、今回、説明のためにこんな図を用意してみました。

骨折手術で骨折線を引き寄せるコンプレッションの掛け方説明図

これは、ふつうの全ネジタイプのスクリューを使って「コンプレッションを掛けている」様子を表わしたつもりです。


コンプレッション compression とは、そもそも「圧迫」とか「圧縮」という意味の英単語です。骨折の手術で、スクリューを使って「コンプレッションを掛ける」というのは、骨折部がずれないように引き寄せる圧力を掛けつつスクリュー留めすることを意味しています。

ふつうに骨折線をまたいでスクリュー留めした場合、もし隙間ができてしまったら、その状態でいくら強くネジを締めつけても隙間が縮むことはありません。しかし上の図をみてもらうとどうでしょう? ネジを締めれば締めるほど、下の骨片が上の骨片に引き寄せられていくことがわかりますでしょうか?

ふつうのスクリューを入れた場合と何が違うのかというと、ネジの根本(皿に近い部分)が、太い径のドリルで削られていて、「ネジが効いていない」状態なんですね。それでいて皿の部分はしっかりと骨の表面に当たっていますので、この状態で締め付ければネジが効いている下の骨片だけが、皿部分を力点として引き寄せられていく。これがコンプレッションです。(たぶん...)

実際の骨折の手術では、まず一本こうしたコンプレッションの効いたスクリューを打って骨折線を充分に引き寄せて密着させてから、改めてプレートを当ててふつうのスクリューで固定する、という方法をよくとるみたいです。

具体的にはどうするのかというと、まずは本来のドリル径より大きめのドリルを使って途中までドリリング。その後に本来のドリルで最後まで穴あけをすれば上図の赤線で囲われたような形に骨に穴が開きます。そこにふつうに全ネジのスクリューを入れれば、コンプレッションとして働くというわけ。

さらに言えばこれと同じような効果を出すためには、ネジの皿に近い部分のネジが効かなければいいわけだから、最初からそこにネジ山を付いていないネジを使うというのもひとつの方法です。そこで出てくるのが、こんな感じのスクリュー。

コンプレッション・スクリュー

これだったら、わざわざ径の違うふたつのドリルを使い分けなくても、ふつうにスクリュー留めするだけでコンプレッションを掛けることができそうです。

で、もしかしたら、こういったタイプのネジを「コンプレッション・スクリュー」と言うんでしょうか? スイマセン、確認はとってません。私の勝手な憶測ですが、あってますでしょうか???

少なくとも大腿頚部骨折のときに使うCHS(Compression Hip Screw system)なんかはこんな感じのラグ・スクリューになってますよね。

自信はまったくないまでも、以上が私が勝手に理解しているコンプレッション・スクリューの話でした。


骨折手術に関してはAO財団のナース向けセミナーに参加して勉強してみたいと思っていますが、それ以外になにかいい資料・本をご存じの方、ぜひご教授下さい。どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m
posted by Metzenbaum at 01:22 | Comment(22) | TrackBack(0) | 器械出し/直接介助(直介)
2006年09月04日

観整固手術 ― スクリュー挿入の基本的な流れ

以前に、骨折の観血的整復固定手術(観整固)に使うスクリューの基礎についてお話ししました。今日はその続きで、実際にスクリューを刺入するまでの流れを追いかけてみようと思います。

◆ タニケットとエスマルヒ

まず手術自体の流れです。骨折は四肢の場合が多いですが、ふつうは出血を押えるためにターニケット tourniquet と呼ばれる止血帯を使います。上腕もしくは大腿といった骨が一本だけの部位に巻くのが基本です。血圧計のマンシェットみたいなもので、手術室壁面に配管されている圧縮空気を使って250mmHg〜350mmHg程度の一定圧力で腕や足を締め付けます。ふつうに締め付けると鬱血してしまいますので、そのまえにエスマルヒ駆血帯というゴムバンドを末梢側から強く巻き付けて、血液を中枢側に送り込んで末梢を虚血状態にしてから、タニケットのスイッチを入れます。

タニケットは決して安全な機器ではありません。末梢を虚血状態にしますので、長い時間は使えません。オペが長時間に及ぶ場合は1時間〜1時間半の間でいったん圧を解除してやる必要があります。そのため、壁面にある手術時間もしくは麻酔時間のタイマーを使ってタニケット使用時間をきちんとカウントすることが重要になってきます。また神経麻痺が残る場合がありますので、タニケットを巻くのは医師が行なうのが原則です。

余談になりますが、先頃発表された救急蘇生に関する国際ガイドライン2005の中で、ターニケットについて言及されていました。これまで日本でも救急法のひとつとして「止血帯」が教えられていたのはご存じだと思います。四肢の切断等で圧迫止血が難しそうなときは三角巾などをひも状にして末梢をキツク締め上げるという止血方法ですが、これが2005年からは「不適切」ということで廃止になったんです。手術室のようなきちんと管理された下で使用するならともかく、救急現場で止血時間や止血圧がきちんとコントロールできない状況で使うには危険というのがその趣旨。オペ室にいるとタニケットは日常的なモノですが、「危険なもの」という認識もあった方がいいかも知れません。実際、タニケットの影響で痺れがずいぶん後まで残ったという話、よく聞きますよね。

◆ 皮切〜レポまで

No.15メスあたりで皮切をしたら、ペアンやメッツェン(シグマ剪刀)、エレバラスパ等で術野展開していきます。骨折部位まで辿り着いて、周辺を十分に剥離展開したら、いよいよ整復の開始。ここで使うのが、骨把持鉗子レトラクター。レトラクターでぐいっと骨折部を持ち上げつつ、骨把持鉗子で骨を噛んで、骨折線を合わせて正しい位置に修復します。これを通称「レポする」と呼んでいます。(repositionの略でしょう、きっと)

◆ プレートの選択+ベンディング

骨折手術に使う器具「ベンダー」うまく整復できたら、次は固定に入ります。固定に先立って最初にするのがプレートの選択です。場合によってはKワイヤーを打ったり、スクリューを入れて骨折部を仮固定する場合もあります。また骨折の種類によっては、K-wireだけで固定してしまうピンニングで終わらせたり、プレートを使わずスクリュー留めだけの場合もあります。

プレート固定の場合、「プレート見せて」と言われたら準備されているプレートをドクターに見せて、選んでもらいます。プレートが決まったら、次にすることが ベンディング bending になります。bend というのは曲げるという意味の動詞。つまり骨の形に合わせてプレートを曲げてカーブを付けてやることです。そのために使う道具がベンダー(bender)と言います。

写真を載せましたが、2本の棒(これがベンダーです)の先の溝にプレートを挟んで、テコの原理でグイッと曲げるようになっています。これがもっともオーソドックスなベンダーですが、ペンチのような形をしていたり、いろいろな種類があります。

◆ スクリュー刺入の流れ

ソリッド・スクリュー挿入に使う手術器械いよいよスクリューを打つわけですが、まず必要なのは、スクリューを入れるための穴を開けることです。ドリルの刃はプレートセットの中に入っていますが、使うスクリューの径によってドリルの太さも違いますので、間違えないように要注意です。ドリルの刃をエアドリルに取り付けてドクターに渡します。そのとき、ドリルガイドと呼ばれるアタッチメントを一緒に付けて渡す場合があります。要はドリルの刃先がぶれないようにするための道具です。

ドリルで穴を開けたら、次にすることが穴の深さを測ること。これによって使うスクリューの長さが決まります。深さを測る道具はデプス・ゲージと呼ばれてます。depth gauge=直訳するなら「深さ計」。まさにそのまんまですね(笑)

使うスクリューが決まれば、あとはドライバーに付けて渡すだけ。
これを入れるスクリューの本数分だけ繰り返します。



以上が、観整固のスクリュー挿入(ソリッドスクリュー・セルフタップの場合)の基本的な流れになります。この他にキャニュレイテッド(中空)・スクリューを入れる場合など、若干使う器械の種類が違うこともありますが、いずれにしても、ドリルで穴を開けて深さを測ってネジ留めという流れは同じです。
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2006年08月06日

手術手順マニュアル

ちょっとまえに次のようなコメントを頂きました。

それぞれの施設では、手術介助のマニュアルがあると思いますが、どんな形式でしょうか?
新人のときは、マニュアルはともに生活するくらいの必要性があり、本当になかったら不安になるものでした。

うちの、マニュアルは文字で手術の進行とともに、必要な機械・外回り看護師の動きが書いてるんですが、すべて文字です。個人的な意見ですが、手術室のマニュアルはすごい大切だと思うんです。新人のころは器械の名前なんて、まったくイメージができず、また普段は滅菌してるので、簡単には現物がみれなかったり、さわれなかったり。

もちろん、基本的な外科の器械などは未滅菌であったり、写真で掲載されていたりしますが、特殊な数が少ない機械となるとそうはいきません。

そこで、今回、器械の写真や、術中の動きなど動画を盛り込んだマニュアルを作成しようということになりました。DVDなどにマニュアルをいれようとしています。研究でやってるんですが、他の施設ではどのようなマニュアルを使用しているんでしょうか? ご意見お願いします。
れんさんより)

ということで、今日はナース向けの手術手順マニュアルについてお話ししようと思います。まず最初にわたしの施設で使っているマニュアルをご紹介しますと、、、、

手術手順マニュアルの例  手術手順マニュアルのサンプル  看護師向け手術手順(外回り/器械だしマニュアル

こんな感じです。(あーぁ、公開しちゃった。同じ職場の人が見てたら身元がバレちゃうだろうなぁ。まぁ、いっか。気付いても、ここでは固有名詞を出すような書き込みはご遠慮下さいね)

クリックすると拡大されます。(ブラウザによっては縮小表示になってしまう場合がありますが、ダウンロードしてからクリックしてもらえばきちんと読めるようになります。)
見てもらえばわかるとおり、最初のページが外回り業務に関すること、2ページ目以降に器械出しの手順が書かれています。外回りは特殊なセッティングの場合などは、別紙で詳述することもありますが、概ね1枚に収まる感じです。

問題は器械出しの部分で、整形外科の THA や PLIF など大量の借物器械を使う場合は、当然ページ数は長くなっていきます。

うちもちょっと前までは手書きの文章中心で、特殊な器具や借物に関しては、ナースが手書きでイラストを入れたり、ポラロイドで撮った写真を貼り付けたりしていましたが、最近はようやくパソコンを活用が増えてきて、デジカメで撮った写真をマニュアルに含めるようになってきました。

もっとも、うちの手術室で行なう術式は全部で500以上あるらしいので、すべてのマニュアルがきちんと整備されているわけではありません。いまでも手書きのマニュアルや、モノによっては昭和○○年なんて書かれた古い手書きマニュアルも残っていたりします。いま科毎に担当者を決めて、手分けしてせっせとデジタル化を進めているところです。

こうして作ったマニュアルの管理は、旧来からの方式で科毎にクリアファイルに入れるようにしています。必要な人はそこからコピーを取っていくというスタイルです。手術の方法や使う糸はローテーターのDr.によって違ってきますので、気付いたことは積極的にマニュアル原本に書込んでいってもらいたいのですが、実際のところ、個人の手持ちマニュアルはみんなそれぞれ更新しているようですが、原本のほうにはなかなか情報が還元されないのがいま問題になっています。

変更点があった場合、赤字でマニュアル原本に書き込んでもらうようにして、それがある程度たまってきたら科毎の担当者が、パソコン内のデータを修正して、新たにプリントアウトしてファイルに入れていくということを繰り返していきます。


◆ 完全デジタル化を目指したけど

現在、大方の術式はWordのデータとしてパソコン内に入っていますので、さらにIT化を進めて、パソコン画面上で科毎のマニュアル一覧を表示したり、術式検索ができるように試行錯誤しています。いまのところ、ホームページ作成技術を応用してhtmlで、マニュアルの一覧表示を作成し、クリックすると簡単に Word のマニュアルが開くような段階までにしました。

さらにローカルPCに疑似サーバを入れて、科毎にCGI掲示板を付けて、最近の傾向などを気軽に書き込みできるようにしてみたのですが、さすがにここまでは時期尚早だったみたいで、みんなちっとも活用してくれてません、、、、

うちの職場ではインターネットを活用している人っていうのがほとんどいないようで、掲示板とはなにかがわかってないようで残念。きっとこのブログを見てくれている人たちなら、フル活用してくれると思うんですけどね。せっかく疑似サーバを立ち上げたので、他にもいろいろな応用ができそうなので、今後ボチボチと考えていこうと思っています。

◆ 写真入り手術器械セットメニュー

手術特有の特殊な器械については、手順マニュアルの中に写真入りで説明するようにしていますが、新人看護師のために、写真入りの手術器械セット一覧のようなものも作っています。

最初のうちは、ペアンもコッヘルもよく分からない状態ですから、やっぱり写真効果は大きいと思います。例として外科の開腹器械セット一覧と、整形の借物スクリューセット一覧を載せておきますね。
(うまく画像化できなかったので、PDFファイルで公開します。ファイル名をクリックすると、別窓が開いてPDFファイルが表示されます。それぞれ2.15MB程度ありますので、ブロードバンドじゃない人は気軽にはクリックしない方がいいかも)

 ● 外科器械セット ⇒ lap.pdf
 ● 整形外科プレートセット ⇒ screw.pdf

こうした器械一覧表も去年あたりから私が取り組んで整備を進めているのですが、効果は絶大です。かつては新人各自が特徴をイラスト書きしたり、写真を撮ったりして必死に覚える努力をしていたようですが、こうした写真一覧のお陰で、教える方もわざわざ滅菌された器械セットを開かなくて済むし、覚えも早いようです。

これまでうちの手術室ではかなりゆっくりペースで器械出しを覚えてもらっていましたが、写真入りマニュアル&器械メニュー表のお陰で、進みをちょっと早めてもいいかなというくらいになってきています。確実に効率は上がりますので、まだのようでしたら、ぜひ写真の活用をオススメします。

以上、この数年、私が職場内で取り組んでいるマニュアル整備の話をさせてもらいました。


追伸:DVDの利用かぁ。私、動画を扱った経験がないので、そこまでは思いつきませんでした。
れんさん、研究が完成した暁にはぜひ、結果を教えてくださいね。

posted by Metzenbaum at 17:58 | Comment(8) | TrackBack(0) | 器械出し/直接介助(直介)
2006年08月05日

意外と知らない電気メスの話

手術室に配属になって、初めて電気メスを見たとき、ちょっと意外な気がしました。だってイメージとぜんぜん違ったんですもん。

電気メスのハンドピース電気メスと言うからにはいかにも「メス」っぽい形をしているのかと思ったら、意外や意外、安っぽいプラスチックのスティックにぴょこんと金属端子が飛びだしているだけのシロモノ。勝手に、もっとカッコイイものをイメージしていただけに、なんだかがっかりでした。

現代手術室では、どんな手術でもなくてはならないくらいにポピュラーな道具、電気メスですが、どういう仕組みで切れるのか?、凝固モード、切開モード、スプレーモードの違いなど意外と知られてないような気がします。

手術室にいるとあまりにあたりまえすぎて、日頃あまり意識していないME器機 『電気メス』 について取り上げてみようと思います。

◆ 電気メスの仕組み

電気メスの先端を見てみると、どう見ても「刃」という形はしていません。ただの金属の薄い板で、研いであるようには見えない。スイッチを押さずに皮膚をひっかいたところであたりまえのように切れません。

電気メス・ハンドピースの先端部

それでは、いったいどういう仕組みで切れるんでしょう?

一般に電気メスという言い方をしますが、高周波電気メスという言い方をしたほうが正確かもしれません。電気メス本体の中で、高周波の強力な電気を発生させて、それを電気メスの先端から人体に流すという仕組みになっています。

要は感電させているのと同じわけですが、あえて高周波を使っているというのがミソ。例えば普通のコンセントの電気を人体に流すと、ビリビリっというショックを感じて、下手すると死んでしまいます。コンセントの電気というのは、50Hzとか60Hzという低周波で、一秒間に50回、プラス・マイナスが入れ替わる交流波になっています。

50Hz程度の周波数では、人体の神経系が過敏に反応してしびれたように感じてしまうのですが、このプラス・マイナスが入れ替わる回数を桁違いに増やしていく(高周波にするということです)と、人体の神経系にはほとんど影響しなくなります。

で、高周波になると分子レベルでの影響力が強くなり、主に水分子へ激しい揺さぶりを掛ける作用が強くなって急激な加温効果がでてきます。つまり電気メスの電極を接触させた部分の人体組織内の水分子が激しく振動するため熱が発生、瞬間に数百度に熱せられた水分は爆発するように蒸発し、そのときに周りの組織を一緒にはじき飛ばす、よって電気メスを当てた部分の組織が切れるというわけです。

よく勘違いしている人がいますが、電気メスの先端が熱くなって、熱で焼き切っているわけではないんです。熱くなるのは人体組織そのものなんですね。

言ってみれば、電気メスの仕組みは電子レンジと同じようなものです。電子レンジの中が熱くなるわけではなく、熱くなるのは食材だけ。不思議に思った人はいませんか? あれは、高周波の電磁波を食材に当てることで、食材内の水分子に揺さぶりを掛けて、食材自体が内部から摩擦熱で熱くなるように働きかけているんですね。水分子が含まれない陶器やプラスチックなどが熱くならないのはそのためです。

◆切開モードと凝固モード

電気メスにはふたつのボタンスイッチが付いています。普通電気メスを使うのはDr.ですから、我々はあまり意識していませんが、電気メスには、切開と凝固というふたつの使い分けがあります。

切開(cut)モードというのは、先ほど説明した高周波を連続して発生させるモードです。高周波エネルギーによって、人体組織は瞬間にして数百度に熱せられますので、体内の水分が瞬時に気化して蒸発します。あまりに一瞬のことなので、ほとんど小爆発と言っていいくらい。その爆発によって組織が一緒に吹き飛ぶので、見た目的には切れたようになる、これが切開モードです。サクサクと切れていく反面、血はダラダラと出てきます。なぜなら、あまりに瞬間的すぎて、周りの組織を焦がすような作用はまったくないんですね。

凝固(coagulation)モードというのは、やや弱めの高周波を断続的に発生させるモードです。切開モードでは、瞬間的に数百度に熱せされるため、組織がはじけ飛んでしまい、焦げることはないと言いました。凝固、すなわち止血作用を持たせるためには、温度が数百度まで上がらないように100℃程度に抑えればいいわけで、そのために弱い出力を断続的に発生させて、組織の温度が約100℃をキープできるように調整しています。(ちょっと余談ですが、組織を100℃程度に加熱すると凝固(止血)できる仕組みは、ゆで卵の原理と同じです。人体組織は卵と同じタンパク質でできていて、タンパク質は70℃〜100℃くらいで変性を起こして固まるという性質があります。)

このように電気出力の出し方を変えることで、同じ電気メスに切開と凝固の両方の機能を持たせることができるわけです。

実際のところ、純粋な切開モードで電気メスを使用することはあまりありません。ただ切れるだけで、それだったらメスで切ってもあまり変わりないわけですから。わざわざ電気メスを使うのは、止血しながら切れるという恩恵にあずかりたいわけで、そのためにあるのが、切開モードのなかのブレンドモードです。(本体側の操作パネルで設定します)

これは高周波の断続具合をコントロールして、凝固させながら組織を切れるように調整されたモードです。電気メスの出力設定をするときに、pure ではなく、blend を選択するのはそのためです。pure というのは純切開で、まちがってこのモードにしておくと、切れば切るほどドバドバと血が出てくるので、すぐにDr.に「おかしい!」と言われると思います。

電気メス本体の設定パネル
【電気メス本体の設定パネル】 左より、cut というのが切開モードの出力設定。下の方に Pure と Blend の切り換えスイッチがある。通常は Blend モードで使用する。coag は coagulation の略で、凝固モードの出力設定。


◆ 電気メスを安全に使うためには

以上、下手な説明ではありましたが、電気メスの仕組みと、凝固/切開モードの違いについてご理解いただけたでしょうか?

次にお話しするのは、電気メスを安全に使うために知っておきたい事柄です。

いちばん重要なのは、やっぱり対極板についてでしょう。
電気メスを使うときには、対極板が必要です。
なぜか? 理屈は簡単です。電気にはプラス・マイナスがあって、ふたつの線を繋げてやらなければ使えないからです。小学校の頃の豆電球の実験を思い出してみてください。電球をつけるためには必ずふたつの線を繋げなければいけませんよね。

電気メスの対極板  対極板の写真

電気メスのふたつの線というと、ひとつは電気メスの刃先で、もうひとつが対極板というわけです。電気メスの先から人体に流れ込んだ電気は、対極板を伝って電気メス本体に戻っていきます。対極板がなければ電気が流れるためのループができませんので、電気メスは使えません。

ただ使えないだけならいいのですが、実際は対極板を使わなくてもたぶん多少は切れます。どうしてかというと、手術台を通して電気が地面に逃げる働きがあるために多少は電気が流れてしまうんですね。

ただし、この場合、正式な電気ループが形成されていませんので、電気抵抗が非常に大きく、余計な熱を発生させる危険があります。特に手術台の金属部分に患者の体が触れていると、そこから電気が流れ出ていき、その接触部分にヤケドを形成する可能性があります。

おなじようなことは対極板が正しく貼られていない場合にも起こり得ます。体毛が多くて対極板の接触面積が小さい場合、対極板を貼っていた部分に発赤や熱傷が生じる場合があります。

ですので、対極板を確実に貼るというのが、電気メスを安全に使う上での最大のポイントです。最近の電気メスは、対極板の電極を刺さない限りエラー音がなって、電気メスが使えないように安全対策がなされています。それを有効に活かすためにも、対極板は、患者さんの体に貼った後で、コードを本体に接続するという手順を守ることも重要です。最初から電極コードを本体に繋げてしまうと、貼り忘れがあってもエラー音は鳴らず、とりあえず電メスは使えてしまいますので、とっても危険。

さらに細かい話をすれば、対極板を貼るのは脂肪組織が多い場所(臀部、腹部、大腿、ふくらはぎ)にするとか、消毒で濡れてしまう可能性があるときは防水テープでシールする、コードは束ねたり、ループ状にしないなど、電メスを安全に使うポイントはいくつかありますが、省略します。もし詳しい話を聞きたいということでしたら、リクエストいただければ、また書きたいと思います。

◆バイポーラとは?

最後は、電気メスの一種であるバイポーラについて少しお話ししておきます。バイポーラも仕組みは基本的に電気メスと同じです。凝固モードに特化させて、2本端子になっている点を除けばまるきり電気メスと同じです。たいていの電気メス本体は、バイポーラを繋げるための端子も付いてますよね。

バイポーラ鑷子は、鑷子の先がふたつの電極になっていて、その間に電気が流れます。なので対極板は必要ありません。バイポーラ鑷子の先でつまんだ部分にだけ電気が流れますので、ピンポイントでの止血効果があります。バイポーラは止血効果を期待してのものなので、バイポーラ・コアギュレータという言い方をする場合もあります。先ほどもちらっと書きましたが凝固のことを英語でコアギュレーション coagulation といいます。凝固させるという意味の動詞であるcoagulate + er でコアギュレータ。余談になりますが婦人科手術などで腹腔内で固まった血餅のことを"コアグラ"なんて言い方をしますが、これも同じ語源です。

バイポーラ  バイポーラの先端

最後にまた用語に関するウンチクですが、バイポーラ bipolar のbiというのは、「ふたつの」という意味の接頭語です。二ヶ国語を話せる人のことをバイリンガル bilingual なんていいますよね。ポーラ polar というのは日本語にすると「極」です。北極のことをNorth Pole、南極をsouth poleと言いますが、この場合は電極という意味です。つまりバイポーラ=「ふたつの電極」。

ふつうの電気メスのことをモノポーラという言い方をするのを聞いたことがあると思いますが、monoというのは「ひとつの」を意味する接頭語です。ステレオ音声にたいしてモノラルなんていいますよね。(J&J社の縫合糸、モノクリルとバイクリルもおそらく同じ由来だと思います。)

このことからも高周波切開凝固装置には、モノポーラとバイポーラがあって、モノポーラはもうひとつの電極である対極板が必要であって、通称電気メスといえばモノポーラのことを指す。そんなふうにご理解下さい。


関連お薦めウェブ:『電気メスQ&A「より安全にお使いいただくために」』(小林メディカル)
posted by Metzenbaum at 23:52 | Comment(28) | TrackBack(1) | 器械出し/直接介助(直介)
2006年07月19日

骨折の手術 ― 観血的整復固定術 (ORIF)

今日は整形外科の骨折の手術 ― 観血的整復固定術(観整固)の話をしたいと思います。

私の勤務する手術室では、新人のナースが整形外科手術の器械出し(直接介助)をするようになるのは、1年目の終わりあたりからです。エレバやコッヘルといった一般の手術器械の他に、エアドリルや業者からの借物のプレートセットなどを取り扱うなど手順が繁雑です。ですので、整形外科手術を受け持つようになるのは、外科・ギネ(産婦人科)等で、外科手術の基礎が終わった後の応用編といった位置づけになっています。

そんな新人看護師が、整形外科手術の登竜門として最初に体験するのが骨折の観血的整復固定術です。術式が長ったらしいのでうちでは略して「観整固(かんせいこ)」と呼んでいます。ORIFと書く場合もあります。open reduction and internal fixation の略で、直訳するなら「観血的整復と内固定=観血的整復固定術」ってな感じになります。

骨折手術の種類

骨折のための外科手術といっても、その内容で何種類かに分けられます。

ピンニング ‥ Kワイヤー(キルシュナー鋼線)という先の尖った針金で、折れた骨同士を"串刺し"にして固定する方法。皮膚切開をしないで、経皮的にワイヤーを刺す場合もある。ピンニングとは pin + ing で、つまり「刺す」ということ。
プレート固定 ‥ 皮膚切開・展開して骨折面を露出させて、金属製プレートとスクリューを使って固定する方法

他にも大腿骨など大きな骨の骨幹部が折れた場合は髄内釘(ずいないてい)を使ったり、手首あたりの骨折では創外固定法などもありますが、ここでは詳細は割愛します。

間違いやすいスクリューの種類

新人ナースの皆さんが、最初に引っかかるのは、スクリューの種類じゃないでしょうか? コーティカル・スクリューキャンセラス・スクリューキャニュレイテッド・スクリューなど同じ径・長さでもいろんな種類があるからややこしいところ。

ドライバーに取り付けた外科手術用スクリューまずは、コーティカルとキャンセラスの違いからです。

● コーティカル・スクリュー ‥皮質骨用 (ネジ目が密:細かい)
● キャンセラス・スクリュー ‥海綿骨用 (ネジ目が粗い)

骨の構造から復習ですが、骨は主に2層構造になっていて、表面の固い部分を皮質骨といい、内部の柔らかいスポンジ状の組織を海綿骨といいます。骨を貫いてネジ止めする場合など、表層の固い皮質骨部分でネジを効かせたいときに使うのが、コーティカル・スクリューで、骨内部の柔らかい海綿骨部分でネジ止め効果を効かせたいときに使うのが、キャンセラス・スクリューです。

ドリリングが終わって、デプス・ゲージ(depth gauge:深さ計)を渡した後が勝負です。「φ3.5の18mm!」などと使うスクリューの指示が出ますが、ドライバーに付けて手渡すときには同じ径・同じながらでもコーティカルとキャンセラスがありますので、間違えないように気を付けてくださいね。

慣れればスクリューを入れる部位や角度によって、どちらのネジがいくのかわかるようになるのかもしれませんが、私にはまだまだです。ネジを渡すときは、サイズの他に、かならず「キャンセラスです」「コーティカルです」と念押しするようにしています。

海綿骨(キャンセラス)スクリューと皮質骨(コーティカル)スクリューの違い

さて、キャンセラスとコーティカルのネジの違いなのですが、見た目で言うとネジ目が粗いのが海綿骨用(キャンセラス)、目が細かいのが皮質骨用(コーティカル)です。

キャンセラスcancellousスクリューの写真 コーティカルcorticalスクリュー写真左:キャンセラス・スクリュー
右:コーティカル・スクリュー


ところで、なぜ海綿骨用スクリューは目が粗いのでしょう?
理由を考えてみたことあります? 一度理由を納得してしまえば、今後「どっちがどっちだっけ?」とわからなくなることはないはず。私なりの理解の仕方をご紹介したいと思います。私は新人さんに次のような例で説明をしています。

下の図は、砂浜に立てられたポールです。まあ、ビーチパラソルと言うことにしておきましょう。ふたつのポールのうち、風に強くて倒れにくいのはどちらだと思いますか?

コーティカルとキャンセラス/整形外科手術用スクリュー(ネジ)説明図

たぶん、ほとんどの人が左の だと答えるはずです。砂地は目が粗くグズグズとしていますから、細かくラセンを切ったような b では、ただちょっと太めの杭と変らず、砂との摩擦が少ないために不安定です。

砂地では a のように十分にラセンの間隔をあけて、幅広にした方が接触面積が広くとれて安定します。これだったらそう簡単には抜けないぞ、倒れないぞという感じがしますよね。

砂地というのは骨の内部にある海綿骨部分の例えです。解剖学で勉強したとおり海綿骨は柔らかくて密度が粗い。なので、この部分でネジを効かせて固定したいときは目が粗いスクリューを使うというわけです。

反対に皮質骨用スクリュー(コーティカル・スクリュー)の説明は、次の図をご覧下さい。皮質骨は、骨の外側にある固い薄い層ですので、その部分でネジを効かせるためには、海綿骨用のネジではどうも具合が悪いということが、理解できるのではないでしょうか?

海綿骨用スクリューと皮質骨用スクリューの違い

皮質骨は組織が密に詰まっていますので、ラセンの間隔をあけなくてもしっかり固定が効きますし、層自体が厚くないので、ラセンの間隔が広いと有効な「ひっかかり」が少なくなるのでかえって不安定。そんなあたりを図から読みとってもらえればと思います。


ちょっと横道に反れますが、単語の語源についてお話ししておきます。キャンセラス cancellous という単語は、どうやら医学専門用語のようで、専門辞書にしか載っていませんでした。訳とすれば「海綿状の」です。一般の英語辞書に載っている「海綿」を表わす英単語は"spongiform"とか"spongy"もしくは"sponge"。カタカナで書くと『スポンジ』。この方が直感的に分かりやすいですね。
一方、コーティカル cortical という語は日常的で理解しやすいです。表層という意味の cortex が起源で、「コーティング(表面塗装)する」とかいうときのコートと同じ語源と思えばいいです(スペルはちょっと違いますけど)。
そんなふうに考えると、無機質なカタカナ語もちょっとは覚えやすくなると思いませんか?

◆   ◆   ◆   ◆


ホントはこの話、もうちょっと膨らませて、写真なんかもたくさん入れたいのですが、今日はイラストを描いたりして、どうも力つきてしまったので、ひとまずアップロードしちゃいます。

具体的なスクリューを打つときの手順などは、また後日改めて書かせてください。第2段、第3段と続くかも、です。


【関連記事】
『観整固手術(ORIF) ― スクリュー挿入の基本的な流れ』
『観血的整復固定術〜コンプレッション・スクリューってなに?』
『手術室ナースのための骨折手術セミナー AO ORP(Nurse)コース』
posted by Metzenbaum at 23:27 | Comment(57) | TrackBack(0) | 器械出し/直接介助(直介)
2006年06月03日

手術用の感染防護メガネ、使ってますか?

病院内にある数あるセクションの中で、もっとも血液被曝のリスクが高い手術室。皆さんは血液感染からの防御策、きちんと取ってますか?

手術の直介(器械出し業務)では、執刀医師と同じようにガウンを着て、マスクをして、手袋をはめて、と万全の体制で臨んでいるはずですけど、意外と盲点なのが目の防御です。

海外ドラマの「ER」などを見ると、外傷患者が運ばれてくると、スタッフはみんなガウンを着て、目には防護メガネをかけています。血液や患者の咳で飛んでくる体液が目に入らないように守っているわけですね。

マスク、手袋まではいいとしても、ゴーグルで目を守るという発想はこれまでの日本医療界にはあまりありませんでした。最近、言われている「標準防護策」ではようやく防護メガネ(ゴーグル)について触れられるようになりましたが、非常に遅れている部分だと思います。

実際、ハンマーとノミでガンガンと骨を削っていく人工物手術では肉片や骨のカケラなどがバシバシ顔をに飛んできますし、内シャント作成や血栓除去など血管系の手術では動脈性のピューという血しぶきを浴びることも珍しくありません。変わったところだと泌尿器科の前立腺全摘で、切った尿道を再建するためにバルーンをちょんぎったときに腹腔内から飛びだしたおしっこが顔にかかったなんてことも、、、、

皆さんの手術室では、保護メガネ/ゴーグルがきちんと準備されているでしょうか?
そしてそれを活用しているでしょうか?

特にうちは非常に遅れていて、オペ室に置いてある防護ゴーグルは超旧式でレンズ面も傷だらけ。とても使えたようなものではありません。(それでも人工物手術をする整形ドクターは使ってますけど、、、)

手術用防護ゴーグル←うちの手術室に置いてあるボロい防護ゴーグル。レンズは傷だらけで見づらいし、マスクの呼気のせいで雲って不快感この上なし


感染症患者の血管手術の場合などは、ナース側も我慢しつつこのゴーグルを使っていますが、本来そういうものじゃないと思うんですよね。もっと気軽に使えるように新しい防護メガネを買い換えてほしいと上に掛け合っているのですが、どうも動きが緩慢な病院組織。

埒があかない、ということで、私は自前で防護メガネを準備して使っています。探してみると医療用ではない民生品にいいものがあるんですよね。

紆余曲折の上、いま私が愛用しているのはアメリカの Smith & Wesson 社が作っているシューティグ・グラスです。スミス&ウェッソンといえば言わずとしれた世界的な拳銃メーカー。実弾射撃の際に飛び散る火薬のカスから目を守るために作られたアイ・シールド(防護眼鏡)ですが、これがなかなかいいんですよ。

「目を守る」ために作られていますので、顔の彎曲に合わせて弧状になっていて目との密着度も高く、隙間から血液などが飛び込んでくることのないような造りになっています。

スミス&ウェッソン社ファントム/オペに使える防護メガネ  Smith & Wesson Phantom ファントム/手術にも便利なアイ・プロテクター  S&W ファントム
↑スミス&ウェッソン社のアイ・プロテクター"ファントム Phantom"

ガラスの20倍の耐久性があると言われているポリカーボネイト製なので、フレーム・レスで視野がとっても広いし、なにより軽い(30g)!

さらにコイツを気に入っているポイントは、曇り止め加工がされている点。スミス&ウェッソンのアイ・プロテクターに行き着くまでには、ホームセンターで売っている工事用の防護メガネなどいくつも試したのですが、どれも自分の呼気で曇ってしまってダメでした。

手術用のマスクをつけると、自分の吐いた息がマスクの上の部分から逃げていくので、どうしてもメガネの内側が曇ってしまうんですよね。曇らないくらいに通気性のいいメガネとなると、今度は隙間が大きすぎて本来の飛んでくる血液からの保護という点では劣るわけで、、、、
その点、このS&Wの保護眼鏡は直接息をハァっと吹きかけてもまったく曇る気配はありません。

本来は射撃用のシューティング・グラスですが、機能的には思いっきり手術室向けと言ってもいいと思います。実際のところアメリカでは拳銃射撃用のみならず、救急隊員や、風よけという意味でスポーツ選手などにも使われているそうです。「メディック・ファーストエイド」などアメリカ生まれの救急法講習を受けるとレクチャー・ビデオの中で救助者は必ず防護メガネを着用していますが、こういったものがアメリカでは広く普及しているんでしょうね。

このスタイリッシュなフォルムも、日本の防護メガネにはあり得ないデザインです。医療用ゴーグルともなればなおさら。

私は手術で器械出しに付くときはもちろん、器械洗いのときも防護メガネを必ずつけるようにしています。意外と術中より術後の器械洗い(ブラッシング)のときに汚水が顔に跳ねることが多いんですよね。あと抜管のとき、咳とともに痰を飛ばされることも多かったり。このメガネは軽くて着けている感じがしないので1日中着けっぱなしでも疲れないのもいいです。

オペナースの場合、病棟勤務と違って自前で用意する医療グッズというのはほとんどありません。ステート(聴診器)なんかもほとんど使わないし、ペンライトも駆血帯も不要。使うとしたらせいぜいハサミくらいですけど、それと併せて防護メガネを準備、なんていうのもいかにもORナースらしい選択かもしれません。

まあ、ホントは病院でしっかりとそういう感染防護グッズを揃えておくべきなんですけどね。近い将来、それも標準になることでしょう。ただ、このレベルの防護メガネが医療品として開発されるかどうかは甚だ疑問です。
『ファイヤーマン・アイプロテクター』という消防関係者/医療関係者限定販売の専用防護メガネがありますが、やや重いのと値段が高いのがネック。あとはデザイン、こればっかりはアメリカ製には到底かなわない感じです。これについてもいつかインプレッションを書こうと思っています。モノは悪くないです。)


最後に注意点ですが、私が愛用しているスミス&ウェッソン社の"ファントム"ですが、なぜか曇り止め(anti fog/fog free)タイプは廃盤になってしまったそうで、現在市販されているタイプはフォグ・フリー(fog free)ではありません。顔への密着度が高いので曇り止め加工がないとオペ室での使用にはちょっとキツイかもしれません。(市販の曇り止め液を併用する方法もありますけど)

おなじスミス&ウェッソン社の"マグナム Magnum"というタイプなら、まだ曇り止め加工されたモデルが作られているようです。

スミス&ウェッソン社製防護メガネ/ゴーグル  S & W社のアイ・プロテクター/マグナム Magnum  S & W社のアイ・プロテクター/マグナム Magnum
↑スミス&ウェッソン社の"マグナム Magnum"


実は私、コイツも持っているんですけど、単にデザインが違うだけで目を守る機能は同じです。見た目がちょっと派手で、意識下の患者さんの前で付けているとちょっと恥ずかしい気がして私はあまり使わないのですが、器械出しのときだけというのであれば、ぜんぜん問題ないとは思います。テンプルの部分はファントムよりしっかりしていますので、こめかみへのフィット感はこっちの方がいいかも。

S&W社の保護眼鏡は、東急ハンズやバイク用アクセサリー店などで取り扱っていますが、ヤフー・オークションでもたまに安く出品されているので、興味がある人は探してみてください。ただし、買うなら曇り止め(Fog Free)タイプであるかの確認をお忘れなく!
posted by Metzenbaum at 22:47 | Comment(13) | TrackBack(0) | 器械出し/直接介助(直介)
2006年04月27日

「溶ける糸」って何日くらいで溶けてなくなるの?

外科手術に使う『吸収糸』、つまり人体内で自然に溶ける糸のことですが、いったい何日くらいで溶けて無くなるか知ってますか?

いくつか例を挙げますと、もっとも代表的な編み糸タイプの吸収糸"バイクリル"の場合は、半分の張力を維持している期間が約2週間。完全に吸収されてしまうまでには56〜70日かかるそうです。

どうです、思っていたより長い? 短い?

損傷された人体の組織というのは通常24〜48時間以内に上皮化するそうなので、そう長い間張力をキープする必要はないみたいですね。

おなじバイクリルでも、"バイクリル・ラピッド"というタイプの糸がありますが、ラピッド rapid というのは「急速な」という意味。コイツは溶けるのが早くて、半分の張力になるまでが5日。吸収期間は42日とされています。

反対に吸収糸の中でも溶けにくい糸は、PDSII。これはモノフィラメント(単繊維)糸ですが、生体内抗張力保持時間は約6週間で、吸収期間は180〜210日なんだそうです。

まあ、参考まで。あまり実務に役に立つ知識ではないかもしれませんが、患者さんから術後の抜糸のことなど質問された際には、もしかしたら使えるマメ知識かも。


ちょっと話はずれますが、術後訪問に行ったときに、初回歩行が始まっていて、「おなかのキズが開きそうで、怖くて力が入れられないんです」なんておっしゃる方が結構います。実際自分も開腹手術を受けたことがあるんですが、つれるように痛いというのもあるんだけど、なによりキズが開くのが怖くて歩いていいと言われても動けませんでした。

そんな経験から、私はよく患者さんに「おなかの傷は皮膚に見える糸の他に、奥の方で2重、3重に縫っているからそう簡単にキズが開くことはないんですよ」みたいな話をしています。

きっと、皮膚縫いの糸が切れたりしたらキズから腸が飛びだしてくるんじゃないかみたいなイメージを持っている人って多いと思うので、キズの縫い方を詳しく説明してあげるというのも、オペ室ナースならではの看護のひとつじゃないかなと思います。
posted by Metzenbaum at 00:14 | Comment(16) | TrackBack(0) | 器械出し/直接介助(直介)
2006年04月22日

産婦人科の膣式手術をどう説明する?

新人オペナースのための「手術室看護の基本」みたいな本はけっこうあります。麻酔看護から器械出しや代表的な手術の流れなどがイラスト入りで説明されていたりして、教える側としても結構重宝するのですが、どういうわけだからそういう入門書に書かれている術式は基本的に一般外科の手術ばかり。

例えば鼠径ヘルニアの手術についての説明した本は腐るほどあるのですが、ナース向けに産婦人科(業界用語では「ギネ」といいます。英語のgynecologyに由来)手術を解説した本となると驚くほど少ないんですよね。

心臓血管外科とか整形外科など応用編ともいうべき特殊な手術になると、それなりに資料もあるのですが、どういうわけだか婦人科に関してはほとんど見たことないんです。ひどく専門的な感じでもないし特殊性がないからということなんでしょうかね。

婦人科手術でも腹式単純子宮全摘(ATH:abdominal total hysterectomy)など開腹手術なら、外科開腹に準ずる形で新人さんに対してそれなりに説明もできるのですが、困ってしまうのは膣式手術ってヤツ。

手術室看護師1年生も、膣式単純子宮全摘(VTH:Vaginal Total Hysterectomy)などは比較的初期のうちから器械出しを担当するようになるのですが、どうやったら膣から子宮を取り出すことができるのかなかなかイメージが付かないようなんです。

実際に手術見学に入っても、「なにがどうなっているんだかよく分からなかった、、、、」なんて言われてしまう始末で、いい図版もなく教える側としてもどう教えたらいいものか代々職場の悩みの種になってきたようです。

そんなとき、私が活用しているのは以前どこかでも書きましたが、医師向けの手術手技書です。

医師が手術手技を覚えるために、イラスト入りで手術の流れを解説した本というのがあって、手術そのものを理解するなら、もっとも確実な資料といえます。

婦人科手術に関しては私がいままで見てきたなかでは医学書院から出ている「産婦人科手術の基本」(永田一郎)がいちばんわかりやすかったです。これは手技書というよりは、婦人科医一年生向けのオペ入門書みたいな感じで、非常に丁寧に書かれています。

「産婦人科手術の基本」(永田一郎)

手洗いの方法からガウンテクニック、手術体位、産婦人科手術の基本器械の解説、糸結びの方法など、手術室看護師にとってもかなり重要なポイントが写真・イラスト入りで要領よくまとめられています。もともと産婦人科って扱う術式自体少ないので、産婦人科領域に関してはコレ一冊で十分です。(最近流行のラパロ[腹腔鏡]下手術のことは一切触れられていませんが、、、、)

1996年出版の本なのですが、今現在、書店には在庫はないようです。もしかしたらもう絶版になってしまっているかも。どこかの図書館で見かけたら、是非とも一度は目を通しておきたい本です。図版もすごくいいので特に膣式手術のページはコピーを取っておくと、部署の手術手順マニュアル用などに活用できそうですよ。

まあ、この本に限らず、とにかく医師向けの産婦人科手術手技書をあたれば膣式手術について図入りでの解説が必ず載ってますから、まずは病院の図書室に行ってみてください。


これを読んでくださっているオペナースの皆さん、産婦人科手術のいい参考書ってなにかご存じですか? 特に看護婦向けと銘打っているような本があったらぜひ教えてください。

posted by Metzenbaum at 01:51 | Comment(5) | TrackBack(0) | 器械出し/直接介助(直介)
2006年04月19日

縫合糸パッケージ情報の見方

昨日書いた「手術に使う縫合糸と針の話」の続きです。
今日は、手術に使う縫合糸のパッケージに書いてあるデータの読み方を説明していきたいと思います。

5-0PDS針付縫合糸外装袋 

例として挙げた上の写真は、PSDIIというエチコン(Ethicon)社が出している針付き縫合糸の外装袋です。

昨日は、手術に使う糸は、吸収糸と非吸収糸、編み糸かモノフィラメントかに区別されるという話をしましたが、そういった糸の"素性"というのは、こうしたパッケージをみればすべて書かれています。ただ、縫合糸のほとんどは輸入製品のため、ぜんぶ英語表記なのがネック。皆さん、いままでマジマジとこのパッケージに書いてあることを読んだことってあります?

それでは、うえの写真にふった番号に沿って説明していきます。(写真をクリックすると別枠で拡大表示されます)

(1) 糸の太さ

ここには5-0と書いてありますが、これは糸の太さを表わしています。6-0、7-0と順番に続いていきますが、0の前の数が増えるに従って糸はどんどん細くなります。反対に4-0、3-0、2-0となると太くなる。1-0を越えてもっと太くなると今度は1、2、3と数字が付くようになります。

ここがちょっとわかりにくいところなのですが、例えば5-0というのは"00000"とゼロが5個並んだ状態を意味していると考えてください。

つまり、

(細い) 0000 < 000 < 00 < 0 < 1 < 2 < 3 (太い)


ということでおわかりでしょうか?

通常は2-0、3-0あたりの太さが標準的で、消化器外科で単に「糸ちょうだい」と言われたら2-0を出せばそう大きくは間違いはないと思います。

太い1号の糸を使うとすれば相当大きく開いた創を寄せながら縫う場合とか、アキレス腱の縫合など。反対に5-0、6-0と言った細い糸を使うのは形成外科で細かく皮膚縫いをするときや、心臓血管外科で細い血管を縫うとき。さらに細い10-0なんて糸を使うのは眼科くらいなものでしょうか。

余談ですが、0号の糸は、1-0という言い方をする場合もあります。0が1個だから1-0。おなじことなのでご注意を。

日本では、縫合糸の太さを表わすのは2-0、3-0という言い方が主流ですが、これはイギリス式に準じているようです。このほかに世界標準のメートル法に合わせた表記の仕方もあり、5-0と大きく書かれた下にある(1.0 Metric)というのがそれにあたります。"Metric"というのは「メートル法の」という意味。この1.0というのを1/10にしたのがmm単位の最小直径になるそうです。つまり5-0というのは0.1mmのこと。測ったことはないのでホントかどうかはわかりませんけど、ものの本にはそんなふうに解説してありました。

(2) 糸の長さ

18" (45cm)と書かれていますが、これはお察しのとおり糸の長さです。おなじ太さの糸でも45cmと70cmなど、長さ違いの製品が存在するので要注意です。ちなみに18"というのは、アメリカなどで使われているインチ表記です。1インチは約2.5cm。18×2.5=45cmというわけです。

(3) 針の形状

例に挙げた製品は「針付きの糸」なのですが、このように針付きの場合は必ず針の大きさと彎曲の具合がほぼ実物大のイラストで描かれることになっています。おなじ太さ・長さの糸でも、針の形・大きさが違うタイプの製品がありますので注意が必要。

また、付いている針が角針か丸針かは非常に重要な問題で、丸針(Taper needle)だと◎みたいな感じに記号が描かれています。角針(Cutting needle)の場合は▽マークが付いていますので、これは必ずチェックするようにしてください。腸管や薄い膜などを縫うときには必ず丸針を使います。角針だと針穴から裂けてしまう危険があるため、オペナースとしては角針か丸針かは非常に重要なポイントなんです。

角針縫合針   丸針縫合針 左:角針/右:丸針

◎印のまえに、1/2と書かれていますが、これは針の彎曲が1/2円周(強彎針)であることを示しています。上の針の図を見てもらえばわかると思いますが、ちょうど円を半分(1/2)にしたような形をしているでしょ?

これ以外には3/8円周針(弱彎針)というのもあり、こちらはカーブの具合がもっと緩くなっています。縫うときの手首の返しのしやすさの関係上、浅い部分を縫うときには弱彎針、深い部分では強彎針が使われる傾向がありますが、まあ、Dr.の好き好きによる部分が大きいです。

(4) 編み糸かモノフィラメントか

PDSIIというのは商品名なのですが、その下に書いてある"Violet Monofilament"という部分が重要。 Monofilament、つまりモノフィラメントですね。単繊維糸。頭のバイオレットというのは糸の色を表わしています。PDSの場合は、透明な糸と色付き(紫)のバージョンが存在し、ふつうは縫っている最中に糸が見えやすいバイオレットを使いますが、皮下縫いや真皮縫合などでは色付きだと皮膚の上から糸が透けて見えてしまい美的に好ましくないということで透明糸が選ばれます。

今回はたまたまモノフィラメントの例を挙げましたが、これが編み糸の場合だと、英語でBraidedと書かれます。ブレイド(Braid)というのは"編む"という意味の英単語(動詞)で、それの過去分詞形。「編まれたもの」ということです。

よく絹糸のことをブレードシルクといいますけど、シルク(絹)を編んで作った糸という意味です。絹糸は天然素材ですので、絹のモノフィラメント糸というのはたぶん存在しないです。絹糸といったら編み糸。

(5) コントロール・リリース

赤い囲み字で(CR/8)と書かれていますが、CRというのはControl Releaseの略で、ちょっと力を掛けると糸から針が簡単に外れる設計になってますよという意味です。よくデタッチ detach の糸、という言い方もされます。連続縫合をせず、一針一針を結ぶような縫い方をする場合に、このデタッチの糸が使われます。このControl Releaseという言葉は、エチコン(糸メーカー)の商標みたいなモンで、別の会社の糸では別の言葉で表記されている場合もあります。

コントロール・リリースと銘打たれていない針付き糸の場合は、ハサミで切らない限り、よっぽどのことでない限り糸と針が外れることはありません。

次に(CR/8)の8の部分は、これは針糸が8本入ってますよという意味。ひとつのパッケージに糸が何本入っているかは結構重要な問題なので、チェックしておくようにしてください。特に針付き糸の場合は、閉創前の針カウントを行なう際にも大事になってきます。

(6) 有効期限

これはおまけですが、この部分にはこの針糸の滅菌有効期限が書かれています。「EXPJAN10」とあって、一見意味不明な記号に見えますが、最初のEXPはexpiration date=有効期限の略。これは糸に限らず輸入物の医材にはありがちな表記なので絶対に覚えておいてください。

JANというのはJanuary(1月)の略。2月ならFEBですし、12月ならDEC。このあたりは大丈夫ですね。最後の10というのは「年」です。英語表記ですから当然これは2010年の意味。

滅菌期限チェックは滅菌物を日常的に扱うORナースの基本中の基本ですからね。確実に覚えておいてください。
posted by Metzenbaum at 01:34 | Comment(11) | TrackBack(0) | 器械出し/直接介助(直介)
2006年04月18日

手術に使う縫合糸と針の話

4-0 vicryl(バイクリル)代表的な編みタイプの吸収糸 4-0 surgilon(サージロン)溶けないタイプの編み糸

新人ORナースの皆さんも、職場に入って2週間ほど。そろそろいろいろなオペの器械出しなんかも経験してきてる頃だと思います。うちのオペ室では、新人はまず外科と婦人科の直接介助(直介)から入っていって、手術の基本を学ぶというのがお決まりになっています。

さて、そんな直接介助をはじめたばかりの新人オペ室ナースにはホットな話題かもしれない、糸と針の話を書いてみたいと思います。

手術の縫合糸いろいろ

手術には糸は付き物です。用途や使用部位、また診療科によって様々な種類の糸を使い分けているのに驚かれたかもしれません。

バイクリル、モノクリル、プローリン、サージプロ、PDS、ダーマロン、ニューロロン、サージロン、ポリソーブ、プロノバ、エチボンド、タイクロン、デキソン、ブレードシルクなどなど、、、

うちの手術室で扱っている糸だけでも、いったい何種類あるんだろう? それくらいに手術に使う糸の世界は複雑です。

糸を作る会社の人たちも、あの手この手でいろいろな特色の糸を開発・販売しているわけですが、基本に限ってしまえば実は話はかなりシンプルです。

先に挙げたように糸の製品名はたくさんありますが、それらの糸は大別すると溶ける糸か、溶けない糸かに分けられます。専門用語でいうと吸収糸非吸収糸かの違い。

体の中に残ってしまうような使い方をする場合、例えば腹膜を縫ったりする場合は、吸収糸=溶ける糸を使う場合が多いです。反対にアキレス腱断裂などの腱縫合の場合は、がっちり縫いつけたいわけですから溶けない糸=非吸収糸を使ったりします。
(注:あくまで"例"ですよ。Dr.の考え方の違いや趣味によっては腹膜を縫うのに非吸収糸を使う場合もあるかもしれません)

糸を理解する上でもうひとつ重要なポイントは、その糸が編み糸か、繊維一本でできたモノフィラメント糸かという点です。編み糸というのは、字の通り。細かい繊維をよって作った糸のこと。例が大げさですけど、綱引きで使う大綱(ワラを編んで作ったヤツ)をイメージしてみてください。"より糸"って意味が分かりますでしょうか?

一方、モノフィラメント糸というのはちょっとわかりにくいかもしれませんが、ようは釣り糸のようなツルッとした感じの一本糸のこと。ナイロン糸なんて、ほとんど釣りのテグスみたいなモンですよね。手にとって触ってみればツルッとした感触ですぐにわかります。

(ちなみにフィラメント filament とは英語で繊維一本のことを指します。豆電球の発光部分の細い針金をフィラメントというのと同じです。それで、モノ mono というのはギリシャ語由来で、"単一性の"という意味の接頭語。ついでながら編み糸のことをマルチフィラメントと表現する場合もあります。マルチ multi 「多くの」という意味。これ以上解説は要らないですね)

編み糸の特徴は、しなやかで結びやすいという点。結び目もしっかりと締まり、緩むことがありません。ですからしっかりと固定したい場面では編んだタイプの糸が選択されます。

対してモノフィラメント糸は釣り糸みたいなものですから、結びにくいし結び目も緩みやすい。それじゃ、いいところ無いじゃん! という感じですが、編み糸に優れる点は感染源になりにくいという点。編み糸というのは繊維のなかに血液やら体液やらが染みこみますので、体の中で炎症や細菌繁殖の温床となる可能性があります。そのため、皮膚や腸管の内壁など、不潔なエリアと接する部分の縫合に編み糸が使われることはあまりありません。

2-0バイクリル切糸:編み糸吸収糸

だいたい閉創のときって、創の奥の方をバイクリルやポリソーブなど吸収性の編み糸で縫って、最後の皮膚縫いはナイロン糸やプローリン等のモノフィラメント非吸収糸を使う場合が多いですけど、以上お話ししたような糸の特性からそういう選択がされているわけなんですね。

確認のためもう一度。

◆創の中縫いをするときは抜糸できないので溶ける糸を使って、がっちりと縫い合わせたいからしっかり縛れる編み糸の吸収糸(バイクリル、ポリソーブ等)を使用。
◆皮膚縫いは抜糸をするのでコストが高い溶ける糸を使う必要なし。それに外界と接するため感染のリスクを避けるためにモノフィラメント糸を使用(=ナイロン糸、プローリン等)
◆腸管の内壁を縫うときは、抜糸できないから溶ける糸を使い、感染リスクを押えるためにモノフィラメントタイプを使用(=バイオシン、モノクリル等)


医者は何気ないように「バイクリル2-0ちょうだい」なんて言いますけど、言い換えれば「2-0の編み糸吸収糸をちょうだい」と言っているわけです。反対に「モノフィラメントの吸収糸、なにが置いてある?」なんて聞かれたら、答えられますか? 4月に異動になってきた医師が多いと、そんなやりとりもあるかもしれませんね。

手術の場面場面で、ここではサージロンを使うなどと、マニュアルを丸暗記をするのではなく、なぜそこでその糸を使うのか、理由を考えてみる癖を付けてみてください。そうすると手術の意味が分かってきますし、単なる丸暗記よりは術式と流れがすんなりと頭に残るようになりますので。

ほんとは縫合針の話もしようと思ったのですが、ちょっと長くなってしまったのでまた次回にさせてください。

あと、糸と針のパッケージに書かれているデータの「解読方法」や、糸の太さを著わす単位についても解説しようと思ったのですが、それもまたの機会に。本日はおしまい!

[余談ですが、、、包茎手術に使う糸]
脱線話になりますが、よく男性向け雑誌の広告などに包茎手術専門クリニックの広告が載っています。それらの宣伝をマジマジと見てみると、「他と違って特殊な糸を使っているので抜糸も不要!」など、なにやらスゴイ糸を使っているような感じのことが書かれていたりしますが、実際のところ手術用の糸を作っている会社というのは世界的に見ても非常に限られているため、そう「特殊な糸」というのは考えにくいんです。結局のところありふれたPDSやバイクリルなりを使ってると思うんですけどね。うちで行なう包茎手術の場合、泌尿器科は3-0バイクリル、形成外科では4-0バイクリルだったかな。いずれも針付きの糸を使ってます。たぶん包茎専門クリニックも大差ないはず。誇大広告に騙されないように、と男性諸氏に教えてあげたい(^^)
posted by Metzenbaum at 00:51 | Comment(9) | TrackBack(0) | 器械出し/直接介助(直介)
2006年04月09日

鉗子のラチェット

わが手術室にも新人スタッフが入ってきて、いま手術器械が云々という話を日々行なっています。

替刃式メスの刃の脱着方法、縫合針の糸の付け方なんかを練習していますが、意外とみんな苦労しているのが、ペアンなどのラチェットの開閉でした。

鉗子のラチェット[外科手術器具]      鉗子のラチェット[外科手術器具]

ラチェットとは、鉗子を閉じたときにカチッとロックされる仕組みで、上の写真のように鉗子の柄の部分で3段階くらいに噛み合わさるようになっています。

これを片手で開くのがなかなか難しいみたい。もちろん両手でやれば簡単ですけど、片手でどうしたら開くんですか? と質問されると、どうもうまく説明できずに困ってしまいました。

「親指と柄に添えた中指で捻るようにすれば外れるよ、ちょうど指でパチンと音を鳴らすみたいな感じ、、、」

そんなふうに説明してやってみるものの、なかなかうまく伝わらない。

技術を伝えるのって難しいです、はい。
posted by Metzenbaum at 02:18 | Comment(0) | TrackBack(0) | 器械出し/直接介助(直介)
2006年04月05日

ペアンとコッヘル〜[手術器具] 鉗子の基本

手術に使う鋼製器具(手術器械)のうち、もっとも基本的な代表格がペアン Pean とコッヘル Kocher でしょう。どちらも止血鉗子の一種で見た目はほとんど一緒です。病棟勤務の人なんかは案外区別できてないかも、、、

何が違うのかというと、、、、

【ペアン鉗子】

手術や外科処置に用いる止血鉗子の一種で,フランスの外科医 Pean に由来する.主に体腔内組織の止血や組織把持に用いる.無鉤であるため,コッヘル鉗子 Kocher's forceps に比べて,把持力は弱いが,組織の損傷は少ない.直型と弯曲型がある.長さは11cmから18.5cmまであり,標準型は14.5cmである.また,呼称に混乱があり,ペアン止血鉗子をコッヘル無鉤鉗子と呼んでいたこともある.先端が麦粒状になった無鉤の腸管把持鉗子 gastrointestinal forceps もペアン鉗子といわれることがある(Jules Emile Pean はフランスの外科医,1830-1898).

【コッヘル鉗子】

【英】Kocher's forceps(clamp)コッヘルが考案した外科手術用の止血鉗子artery forcepsで,先端部分が弯曲した曲型とまっすぐな直型があり,長さは11cmから18.5cmまで各種あり,標準型は14.5cmである.先端部分に滑り止めの鉤のある有鉤型(Kocher's forceps)とそれのない無鉤型(Kocher's clamp)がある.類似の鉗子にペアン止血鉗子があり,施設により呼称が異なるが,一般的には短型有鉤止血鉗子をさすことが多い(Emil Theodor Kocher,1841-1917はスイスベルン大学外科教授(1872〜1911).1909年度ノーベル医学・生理学賞受賞).
(以上、南山堂医学大辞典より)



辞書の定義を出したらよけいややこしい話になってしまいましたが、要は14-5cmくらいの一般的な形の鉗子で「鉤」があるのがコッヘル、ないのがペアンと思ってしまって間違いありません。

手術器具:コッヘル止血鉗子     手術器具:ペアン止血鉗子
左:コッヘル  /  右:ペアン



「鉤」(こう)というのは、噛み合わせの先端についた引っかかりというか、カギ状の部分ををいいます。これがあると何がいいのかというと、がっちりと組織を掴むことができる、業界用語でいうならしっかり把持(はじ)できる、わけです。

そこで鉤があるコッヘルは主に、人体の丈夫な組織、つまり皮膚や筋肉、皮下脂肪層などをつまんで、手術創(術野)を拡げるのに使われたりします。私の知るかぎり、整形外科や脳神経外科などでは、鉗子といえばコッヘルが基本というくらいに多用されています。

ただ、がっちりつかめる=組織が傷つく、というわけで腸管など柔らかい組織にコッヘルは使いません。そういうときには鉤がないタイプの鉗子、ペアンを使います。外科の開腹手術などではペアンがメインに使われています。反対にいえば外科でコッヘルを出すことはほとんどありません。

◆  ◆  ◆


コッヘルもペアンも一般には止血鉗子のひとつといわれていますが、実際のところ、止血目的というよりは、手術における"指先替わり"としてなにかとよく使われます。言ってみれば万能鉗子ですね。

出血点をつまんで文字通り止血するのに使うこともありますが、ハサミの替わりにして、術野を展開していく「剥離」に使ったり、電気メスのコードをドレープ(清潔な手術野を確保するための布:覆布)に留めたり、ホントなんにでも使います。

ペアンやコッヘルでは対応できないような特殊な用途には他にもいろいろなタイプの鉗子が存在します。例えば柔らかい胆嚢を把持するためには専用の形状をした粘膜把持鉗子がありますし、腹膜を拡げる専用のミクリッツ腹膜把持鉗子があったり。

まあ、外科手術に使う鉗子にはいろいろありますが、とにかく基本は、ペアンとコッヘルです。鉤あり、鉤なしというのは今後手術の直接介助(器械出し)にはとても重要なポイントになりますので、よく覚えておいてください。
posted by Metzenbaum at 22:50 | Comment(2) | TrackBack(0) | 器械出し/直接介助(直介)
2006年04月03日

[外科系] 正しいハサミの持ち方

手術に使うはさみの話をしたついでに、正しいはさみの持ち方についてもお話ししようと思います。

はさみの使い方というと、たぶん幼稚園の頃に教わって、その後はなにも意識することなく、これまで使いこなしてきたと思います。


では皆さん、はさみを持つとき、どんなふうに指を使いますか?

ふつうのハサミの持ち方

↑ こんな感じ?

だとしたら、残念ながらブーッ、オペ室では間違いです。
なぜならこの持ち方だと、はさみの先の安定が悪く、細かいコントロールが難しいからです。

正しい手術のときのはさみの持ち方は、下の写真のように親指と薬指を使うんですね。で、人差し指ははさみの支点あたりに添えておきます。

手術の時の正しいはさみ(クーパー)の持ち方

こんなふうに持つと、手先がブレず、とても安定するのがわかります。

基本的にオペナースは手術器械をドクターに手渡すのが仕事ですが、助手の医師がつかない場合などは縫合の際の糸切りを頼まれることがあります。そんなときですね、このはさみの持ち方が威力を発揮するのは。

この持ち方はハサミに限らず、鉗子類を持つときはみんなおなじです。ペアンに糸を付けて渡す場合だとか、持針器に針を付けるときなどもこういうふうに持たないと先っぽのコントロールがなかなか難しいです。


余談になりますが、ずっと以前にテレビで「宇宙人の解剖ビデオが存在した!」みたいなUFO特番がやっていたことがありました。その問題の宇宙人解剖シーンで医者とおぼしき術者が手にしていたハサミの持ち方をみると、実は最初に載せた写真みたいな親指と中指でした。つまりごくフツーの持ち方。医療者の手つきではなかったんですね。これがきっかけでその解剖ビデオが偽物だとバレてしまったのだとか。。。
posted by Metzenbaum at 00:50 | Comment(6) | TrackBack(0) | 器械出し/直接介助(直介)