2006年04月11日

オペナースの憂鬱〜 打倒「リキャップ禁止」論

ちょっとまえに頂いたコメントからの話題なんですが、病院のなかで手術室看護師というのはちょっと浮いた存在なのは間違い有りません。

まあ、それは看護学生時代にも、手術室看護師の仕事なんてこれっぽっちも教わらないことからも自明ですが、病院組織のなかでも、看護婦といえば病棟勤務のナースが圧倒的多数で、すべての基準は病棟に照準が当てられていると言えます。

病院内、もしくは看護部内でいろんな通達や「おふれ」が出されますが、みんな病棟関連の話ばかりで、オペ室にはまったく関係ないようなことばっか。

そんな疎外感だけならどうでもいいのですが、やめてほしいのは病棟を想定した「決まり」を無理矢理オペ室に適用すること。はっきり言って余計なお世話です。

その代表格が注射針の「リキャップ禁止」令だと思っています。
リキャップをいまさら説明するまでもないと思いますが、採血や注射をした後の注射針はその場ですぐにプラスチック専用ケースに捨てて、再びキャップをかぶせてはいけないという決まりのことです。

医療従事者の針刺し事故でもっとも多かったのが、このリキャップをしようとして誤って自分の指に患者に使用済みの注射針を刺したという事例だったそうで、針刺し事故防止のために、リキャップは絶対厳禁というのが、いまの医療業界全体の流れ(というか常識)になっています。

「まあ、なるほどね」とほとんどの人はうなずくと思うのですが、オペ室の場合を考えると、諸手をあげて賛成とは決して言えません。

なぜなら術野で使う注射薬(ほとんどは局所麻酔薬ですけど)は、一回打ったらおしまいというわけではなく、術中必要に応じて何度も追加打ちをしていくものだからです。

リキャップがダメと言われたら、剥き出しの針のまま、器械台にピストンを置いておかなければなりません。ただでさえいろいろな器械でゴチャつきやすい器械台。医者が勝手に器械を投げて返してくるし、勝手に手を出して器械を取っていく場合もある。

そんなところに針剥き出しのシリンジを置いておく方がよっぽど危険です。

病棟だったら、採血なんかは一回刺したらおしまいで捨てればいいですけど、術野で使うピストンはそういうわけにはいきません。

それにきちんと統計として出されていますが、オペ室でいちばん多い針刺し事故の原因は、縫合針によるものなんです。そりゃそうですよね。剥き出しの針を直接手で取り扱って、Dr.との受け渡しなんかをしているわけですから。

針先やメス刃を直接手で触ることなんて考えられない病棟事情だけで勝手に作られたリキャップ禁止令をそのままオペ室に持ってこられても、うちらとしては「はぁ〜?」って感じです。

針ごときでガタガタ言って、日頃注射針よりタチの悪い縫合針を手で付け替えてるうちらはどうなるの? って思ってしまいます。

で、さらに頭に来るのが、そういう病棟中心の院内で決まった方針を無条件にオペ室に持って帰ってくる上司(師長とか主任ですね)。

「院内全体でリキャップ厳禁に決まりましたから。オペ室もこれからはリキャップ禁止です」

そりゃ決まったのはいいけど、じゃあリキャップしなきゃ、どうしたらいいわけ? 一回一回針を捨てて新品を付けなおせということ??

なんの具体策もなく、うちらにとって危険な状態を強要する態度にはがっかりです。オペ室事情なんて病院上層部は知らないわけだから、そこをうちらの立場を代表して意見してくれるのは管理職だと思うのですが、絶対多数の病棟スタッフを前にしては何も言えない様子。

そんなわけで、私はリキャップ禁止令の中、自分の判断でリキャップは続けています。もちろん、指に刺さないように方法には注意してますけどね。

リキャップをあたりまえにし続けて早数年。でも注射針での針刺しは皆無です。その間に縫合針で指を刺したことは両の手で数えるほどあるのですが、、、
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2006年04月08日

緊急手術の話

私のいるオペ室では、1週間毎に週間手術予定を立てて、それに基づいて手術室を運営しています。

予定手術はいちおう朝8:30から夕方5:30までに収まるように組まれるはずなんですけど、まあ、メチャクチャです。4時間予定の手術を縦に2つも入れてくるっていったいどういうこと??

予定時間4時間といってもこれは手術自体の時間ですので、その前後に麻酔を掛けて覚ましたり、体位のセッティングを含めたら5-6時間。
どう考えても日勤帯の8時間の間に終わるはずがありません。

「オペ室ナースは定時で終われていいよね」

なんて言われますけど、トンデモございません。

そんなメチャクチャな手術の組み方に加えて、うちらの仕事は手術だけではなく、そのまえの準備と患者さんが帰った後の器械洗いと掃除、それに次の手術のセッティングもあるわけですから、定時なんかで帰れるわけがない。
定時上がりなんて絵に描いた餅です。

予定手術だけでもたいへんなのに、さらに番狂わせなのが突然に飛び込んでくる「緊急手術」。うちの場合、だいたい平均して1日2件くらいは入ってきますね。

急患オペとして多いベスト3をあげるとしたら、帝王切開アッペ(虫垂切除)穿頭血腫除去あたりでしょうか。

まあ、このあたりはオペ時間が30分〜1時間の簡単な手術なのでまあ、いいんですけど、やめて欲しい代表は次のふたつ。

・脳外のクリッピング
・心外のCABG

クリッピングというのは、脳動脈瘤破裂のための手術で、CABGは心筋梗塞のときに行なう心臓の冠動脈をつなげる手術。

どちらもかなりの大手術で、オペ時間だけでも3〜6時間。特に心臓血管外科の開心術(CABG)は人工心肺を使いますので、はじめる前の諸準備もとってもたいへん。予定手術であっても相当気合いがいる感じ。

こんなのが人手が少ない夜間帯や土日のon call(急患対応の自宅待機番)で入るともうたいへんです。ナースふたりでこんな繁雑なことやってられっかって思ってしまいます。

まあ、でも何百人もいる病院のナースのなかで、オペの介助ができるのは自分たちしかいないのだから仕方がない。病棟スタッフだったらいくらでも替わりがあるかもしれませんけど、そうでないのがオペ室の仕事。

実際に、1分1秒を争うような命に関わる手術に入ると、この仕事は自分しかできないんだ、という自分を奮い立たせるような思いが自然と強くなります。逃げたいけど逃げられない。はっきりいって、自分自身がコワイわけですけど、だからこそしっかりしなくちゃという思いに支配されて、自分でも驚くほど冷静になったり。

手術が終わって患者さんが退室した後に、どっと疲れが出てきて放心状態になってしまったりするんですよね。

ふだんは、BGMに好きな音楽をかけつつ、医者たちと軽口叩きながら仕事をしている手術室ですが、このときばかりは恐ろしい職場にいるんだなということを実感してしまいます。
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2006年04月04日

オペ室ナースが見た『人体の不思議展』

今日は当直明け。月数回の貴重な平日休みの日。
「人体の不思議展」チケットいま横浜で開かれている『人体の不思議展』に行ってきました。もう何年もまえから日本各地を巡回しているので、見た方もいらっしゃるかとは思いますが、内容はというと模型ではない本物の「人体解剖標本展」です。

うちら手術室スタッフは人の体の中なんて見慣れてますけど、普通の人にとっては未知の世界。それを「プラストミック」という新しい標本技術で腐敗しないように固定したホンモノの人体を惜しげもなく展示している、ある意味貴重な展示会です。

まあ、感想を一言で言っちゃえば、勉強になりましたねぇ。。。

看護師の場合、学生時代に解剖学を時間をかけて勉強しますけど、実際の人体に触れるのは大学医学部に行っての解剖見学の時だけ。時間にしてせいぜい数時間。それもすでに剖出してあるところしか見れませんから。

それなりに働いている看護師さんだったら、これまで文字でしか理解していなかった構造が立体的に見えて繋がってくる良い機会だと思います。

実際、あれだけの系統標本が勢揃いしているというのは医学部標本室にしてもないと思います。はっきり言って「人体の不思議展」の標本は非常に質が高いです。

私はこれまで国内では有数のコレクションを誇ると言われている医学部標本室を何ヶ所かまわったことがありますが、ぜんぜん比較になりません。医学部標本室ではどうしても病理標本とか貴重な症例の記録みたいな感じの標本が多くて、正常解剖標本って実は少ないんです。

そういった意味でも、解剖を勉強したければ、医学部解剖標本室に行くより絶対に「人体の不思議展」のほうが価値があります。コメディカルならぜひ行くべきですね。

今回、私が特に注目してみてきたのは脊髄神経周辺の構造。いま職場では脊椎外科を専門にやっているので、ふだん見ている術野の光景を思い浮かべながら脊柱管や神経の走行をおさらいしてきました。

「人体の不思議展」では、かなり多彩な切り口で人体各部を見せていますので、何科のナースでもとりあえず参考になるモノは絶対にあると思います。

それにしても、あの会場の中にいったい何人分の「死体」が並んでたんだろう?
10体や20体ではないと思う。全身標本だけで10体分以上あったし、全身の血管だけを剖出した標本や、骨格だけとか頭部だけ、手だけ、胴だけとかとにかくスゴイ数でした。

よくも現代にこれだけの解剖標本を作ったなと感心してしまうくらい。
これが中国人献体というところが非常にアヤシイんですけどね。

そうそう、そういえばオペ・ナースなら見逃せない「手術器具を着けた人体」みたいな全身標本がありましたね。人工膝関節に橈骨創外固定、開頭術後のプレート固定、下顎骨のプレート固定。背中にはペディクル・スクリューなんかも入ってて、とにかくいろんなインプラントの総パレード。

意味もなく体のあちこちに開創器が掛けてあって、なんで開胸器を足につけとるねん! という突っ込みどころ満載でおかしかった。というより、人の体を使って遊んでない!? 見方によっては冒涜的な標本とも言えるかも。

冒涜といっちゃ、弓を引く人跳躍する人イスに座る人
遺体に無理矢理ポーズを取らせているのもどうかな。必然性がまったくわかりません。筋肉が収縮でもしてれば、それなりに意味もあるんでしょうけど、ただ形だけそんなポーズをさせているだけ。「見せ物」として以外の解剖学的なきちんとした意味があるなら誰か教えてほしいです。


最後にオペ室的な視点で一言。
ホントの生きた人体の中は、色が鮮やかで張りがあって、もっともっと神秘的ですよぉ〜


ガラス瓶から解き放たれた人体−新解剖学の夜明け−余談になりますが、ホルマリンに浸けなくとも常温で遺体を腐らないように保存できる技術「プラストミック」(プラスティネーション)とはなんぞや? という人には「ガラス瓶から解き放たれた人体−新解剖学の夜明け−」(坂井 建雄、NECクリエイティブ)という本が参考になります。

一連の展覧会の発端は東京国立科学博物館での展示が最初でした。最初はホンモノの人体標本を展示するなんて! と非難囂々、いろいろ問題があったようですが、展覧会にこぎ着けるまでの解剖学者たちの熱い思いと、なぜ標本を一般人に見てもらう必要があるのか、現代死生観にまつわる根本問題に触れた本です。


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2006年03月20日

ORナース養成講座スタート!

4月からオペ室に異動が決まってしまったあなた!
今頃とっても憂鬱な気分なんでしょうね。
なんでよりによって私がオペ室なのっ! と怒り心頭ごもっとも。
病院看護部のセクションのなかでもオペ室といえば、ホントに看護部に
属しているのかと言うくらいに異色の職場。

外からは見えないだけに、得体の知れない場所=コワイみたいな図式があるのも事実だと思います。
看護学校での手術室看護のことなんてなにひとつ教わりませんしね。

わからないから不安なだけ。中身がわかればちょっとは安心するんじゃない?

ということで、これから手術室へ配属となる手術室1年生の皆さん向けに、
手術室の実際をお伝えしようと言うのがこのブログです。
どの程度の頻度で更新できるかはわかりませんが、気が向いたら覗いてみてくださいな。
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