整形外科手術の特色は、なんといっても手術器械(器具)の"質"が違うというところじゃないでしょうか? これまで「手術とは繊細で緻密な作業」なんて思っていたらびっくりの世界かもしれません。
ノミやハンマーなど、本当に人体に使うのか!? と思うようなごつい器械がたくさん。種類もわんさかと増えて、専門の特殊な器械が目白押し。
このあたりで、手術室看護師としての素養のいかんがボチボチと出てくるところかもしれません。
手術器械っておもしろい!
そんなふうに思えれば、きっとその先の日々も楽しくなっていくはず。
看護とはちょっと違うのかもしれませんが、そんな道具に対するこだわりという一面も手術室での仕事では重要なのかも、と思っています。
◆ カタカナが多い手術器械名
さて、私が整形外科手術に入るようになって困ったのは手術道具(器械)の名前がややこしいこと。聞いたこともないカタカナの羅列で、それはもう苦労しました。
私、どうもそういう無機質な暗記ってニガテなんです。
ふだんの会話の中でも聞いたことがない言葉が出てくると「それって漢字でどう書くの?」とついつい聞いてしまう癖があります。
例えば、「リヒカ」。
あの手術台に立てる棒(?)のことです。
音でリヒカと聞くと意味不明で覚えるのもたいへんだけど、「離被架」と書かれれば理解もできるし、覚えやすいですよね。
オイフテープってなに? と思ったけど覆布テープと書かれれば納得。
エイヒは鋭匙。
そんな思考パターンなものだから、カタカナ語とだとなんのとっかかりもなくて困ってしまうんです。
手術器具の名前も最初のうちは先輩に教わるままに音(おん)でむりやり覚えてました。きっと先輩もそうやってもっと上の先輩から教わってきたのだと思いますが、もっと効率のいい覚え方はないかなとは常々思っていたところ。
そこで私が後輩に教える立場になってからは、工夫してやり方を変えてみました。丸暗記ではなく、なにかと関連づけたらいいんじゃないかと考えてみたんです。
漢字なら難しい言葉でも覚えられるのは、字面を通してなにかを連想したり関連づけて記憶に残るから、だと思うんです。
それじゃ、カタカナ語はどうする?
簡単です。もとの語源に立ち返ればいいんです。
カタカナ語だったら、たいていもともとは英語。
専門用語と思わないで、ただの英単語だと考えれば、意味も調べられるし、なぜそう呼ばれるのか、目的と合わせて頭に入りやすくなってきます。
私がそんなことを考えるようになったきっかけは、整形外科手術に入るようになって最初につまずいた「エレバ」と「ラスパ」の違いにありました。
◆ エレバとラスパの違い…語源から考える
下がエレバ、上がラスパ
今となってはぜんぜん違うものなのですが、最初は同じように見えて、なにが違うのかさっぱりわかりませんでした。先輩に聞いても使う場面が違うんだよ、みたいなことは教えてくれるのですが、この術式ではこの場面で使うのがエレバ、この場面はラスパ、みたいな言い方で、すっきりとした答えは返ってこず。
そこで自分なりに調べてみて辿り着いたのは、次のふたつの英語の動詞。
elevate
rasp
elevate の方はけっこうおなじみな言葉です。後ろに er をつけてelevater と書くとわかりやすいかもしれません。そうです、エレベーター。
どうやら手術器具のエレバの語源はこのエレベーターと同じみたいです。エレバは正式には「エレバトリム」といいますが、elevaterを訛って読むとエレバトリウムに聞こえてきそうな感じ、しません?(笑)
結局、エレベーターもエレバも語源はきっと同じで「上昇させるもの」という意味があるようです。持ち上げるモノ、と言った方がわかりやすいかも。
整形外科手術でエレバの使い方を見ていると、剥離子のように使うことも多いかもしれませんが、基本的にはテコのようにして骨折した骨片などを持ち上げるのに使ってますよね。ですので、日本語では骨起子などと呼ぶようです。
手術器械のメーカー・カタログを見ていると、エレベーター剥離子なんて書き方をしているものもあります。
さて、つづいて rasp という動詞なんですが、こっちの方は残念ながら日常語との関連づけるのはちょっと難しいです。でも手術器械の中ではけっこう使われている単語かもしれません。
カタカナで書くと、ラスプ。
THAの手術などで骨の内腔(海綿骨)を削る道具でラスプって聞いたことありません?
英単語としては、ヤスリをかけるとか、ガリガリ削るという意味。
ラスパの使われ方をみるとまさにそのとおり。平らな面を骨に当てて表面をこそげ落とすような操作に使っていますよね。(ですから片面が平らになっていて刃のようになってるわけです)
ラスパのことは、日本語では骨膜剥離子というらしいです。
こんなふうにちょっと調べてみると、へぇ〜というようなことがたくさん見つかっておもしろいです。
無機質な音としてエレバとラスパを覚えようとするとごっちゃになるかもしれませんが、少しでも何かと関連づけていれば大丈夫。
ペアンとかクーパーみたいに、開発者の名前がそのままついているような場合だともうお手上げですが、比較的整形外科の器械は英単語に由来したものが多いような気がします。
ベンダー、ノットプッシャー、リーマー、などなど。
直訳すると、「折り曲げ器」「結び目押し込み器」「穴開けきり」といった感じでしょうか?
もともと英語圏の国で開発された器械。例えばアメリカの手術室なんかでは専門用語でもなんでもなく、ありふれた日常語みたいなものなんでしょうね(笑)
英語,ドイツ語が混じった物,同じ器具でも人によって呼び方が違う物...
自科の器具でも若造は覚えきらないのに,Nsはちゃんと理解していて立派です.
他科の器械を借りたい時は名前が分からず,“こ〜んな形をしていて,こんな風に使うヤツ!”とか言ったりします.
私も暗記は苦手。整形外科単科の手術室勤務が長いのですが、使用器械も『借り物器械』が多く、手術手順、手術の特性に関しても他の外科の手術とはかなり異なります。
人工関節置換・ACL再建術など、手順が明確で比較的短時間にその手順通り、手術展開操作が進んで行くことが多い科。
器械出しにあたると手順もなかなか頭に入っていかないことも多いのですが、『語源を覚える』ように手順に関しても、器械の名前や手技書を丸暗記するというのではなく、『どういう理由で今、この器具を使っているのだろうか』ということを少しでも意識できれば(手術最中は無我夢中でむずかしいので、復習や予習の場面でも)、術野を観るだけで今必要とする器械がわかってくると思いました。
整形外科に限らず、他の外科に関しても同じかもしれませんが。。。
二つ並べて、スパっとしてるほうがラスパ、スパッと剥離ね、などとオヤジみたいに言ってます、、が、いつも自然にやっていることの説明ってむずかしいですね。
新人時代に、はじめて教わったことは、なぜかインパクト強く、いまだにこびりついてます。新しいことを覚えるほうが一苦労って、、、かなりおばちゃんですね。
楽しく覚えられるといいなぁ〜って思っています。参考にさせていただきます!!!!
汎用性のある器械はともかく、整形では特殊な用途に使う専用の器械がゴチャッとあるのが特徴かなと思います。業者から借用する器械などは比較的英語でわかりやすい名前が付いていることが多いので良いのですが、昔から有るような器械の名前がわかりにくいです。
スパッとしている方がラスパという覚え方、いいですね。先端の形は違っても片面が必ずスパッとしてますもんね(笑)
あの写真の下側はエレバで、上側は、うちではコブエレベーターと呼ばれている物と似ているのですが。全体像が分からないので、間違っていたらすみません。
うちで、「ラスパ」は、片刃のノミの様な先と溝ノミ様な先がそれぞれ先についているキカイを呼んでいます。
間違っていたらすみません。
私も新人です。参考になります!
ラスパっていう道具もあることすらしらなかったのですが、
スペイン語ではRaspar(ラスパール)という動詞があって、削るという意味があります。
スペイン語はラテン語から来ているのですが、語源はこの辺りにありそうですね。
私は、2年青年海外協力隊でスペイン語圏の南米で活動していたんですが、他のコラムでかかれてあった内容に妙にうなづいてしましました。