「経口用気管チューブ又は経鼻用気管チューブの挿管」、「経口用気管チューブ又は経鼻用気管チューブの抜管」、(中略)については、従前どおり、看護師および准看護師(以下「看護師等」という。)は、診療の補助行為として、医師又は歯科医師の指示の下行うことができるものであること。
ただし、医行為の実施に当たり、看護師等に診療の補助を行わせるかの判断は、患者の病状や看護師等の能力を勘案し、医師又は歯科医師が行うものであること。
2015年10月1日付で、厚生労働省医政曲看護課長が各都道府県衛生主管部(局)長宛に通知した「看護師等が行う診療の補助行為及びその研修の推進について」(医政看発1001第1号:平成27年10月1日)という文書の中の一文です。
これを見ると、気管挿管は、ただの「診療の補助」であり、医師にしか行えない絶対的医行為ではないし、特定行為研修が求められる看護師の特定行為でもないということがわかります。
しかも、「従前どおり」とありますから、昔からそうだったよ、ということを、シレッっと言ってるわけです。
これ、びっくりする人が多いんじゃないでしょうか?
確かに、2004年に救急救命士に気管挿管が認められました。救急救命士免許は「看護師の業務独占の一部」が行える資格ですから、救命士ができる以上、看護師がダメといわれる法的根拠はなかったといえば、そのとおりなのですが、看護や医療業界の通念としてはダメという理解が大勢だったように思います。
この平成27年10月1日という日付は、法改正による看護師の特定行為研修に関する規程が運用開始されたのと同じ日です。
ナースの特定行為をめぐる攻防戦の中では、医師会や麻酔科学会が反対して、気管挿管は特定行為に含まれないことになったのですが、まさか特定行為とは別枠で、特定行為発効の日に気管挿管もOK通達が出るとは想像だにしませんでした。
喧々諤々の審議の上で、気管挿管は特定行為に含めない、と決まったのであれば、普通は、挿管は絶対的医行為でナースはダメなのね、と思うじゃないですか?
それがまさかの「診療の補助」扱いだから、特定行為ではないという解釈だったとはビックリです。
この通達文書を読んでもらうとわかりますが、気管挿管は特定行為じゃないから、研修義務のようなものは課されていません。また特定行為を行うためには必須となる法定書類でもある「手順書」も不要。
病院施設ごとに独自に取り組みをつくってやっていってね、ということで、基本的には放任。
これっていうのは、きっと、今後新たに挿管訓練を行えということではなく、いままでもナースに気管挿管させていた病院施設に正当性を持たせるための確認通達ってことなんじゃないかと思います。
2015年10月1日から看護師の特定行為の法改正が施行して、そこで規定された特定行為に気管挿管が盛り込まれなかった以上、ナースが気管挿管はしちゃいけないという不文律が生まれてしまう。
そうなると、これまでナースに挿管をさせていた医師や施設が困ってしまうから、特定行為発効と同じ日に、これまであえて触れてこなかったナースの挿管について、通達文書を出してお墨付きを与えた、という感じなのかなと勝手ながら思っています。
もしかしたら、これまで小規模施設などで野放図にナースによる挿管が行われている現状があったとしたら、これまでグレーだったから、ひっそりこっそりだったかもしないけど、これを機に、ダメとは言わないから、せめてきちんとトレーニングをして責任持ってやってよね、という意図なんでしょうかね?
ちなみに2004年以前の既存の救急救命士は、新たに講習を受けて認定を取らないかぎり気管挿管は行えないことになっていますが、気管挿管認定を取るために必要な研修は、62時限(1時限は50分)以上の講習と気管挿管成功症例30例以上(厚生労働省医政局指導課長通達)とされています。
対して、看護師は、施設と医師任せで、特に要件指定なし。
救命士に挿管を認めるまでには、あんなに大騒ぎしていて、しぶしぶでもったいぶった感じだったのに、この違いはなんなんでしょうね。
裏でどういう力が働いているのかはわかりませんが、まつりごとっていうのは、世相にあわせて不思議な動きをするもんだなと思いました。
ここでは、看護師が挿管すべきとか、それは良くないとか、そういう議論はしません。
実務で考えたら、気管挿管の訓練なんかより、まず気道確保とバッグマスク換気でしょ。
つまり、医療者レベルでのBLSです。
そこすらろくすっぽ出来てない業界なのに、挿管だなんてちゃんちゃらおかしいぜ、というのはごもっとも。
でも、現実、厚生労働省がこういうことを言ってきちゃってるわけですから、看護師の特定行為のことも含めて、看護師のあり方とか、医療界での看護師の立ち位置、今後について、政治的な視点も含めて考えていきたいですね。