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2015年11月14日

改定! 蘇生ガイドライン2015 院内急変対応が変わる!

先月、蘇生ガイドライン2015が発表されました。5年ぶりの改定になります。

心肺蘇生法AHAガイドライン2015アップデートハイライト
↑クリックすると、PDFでAHA-G2015改訂
の要点が読めます(無料)


今回の改定は、新ガイドラインというよりは、2010ガイドラインに修正を加えたアップデート版と位置付けられており、AHAとしては前回ほどは大きなリアクションを示していません。

ガイドラインが発表されただけで、教材リリースがまだですから、新しいBLS教育をどのように教えていくのか、その具体的な部分はまだ見えていません。

ガイドラインから推し量るに、おそらく呼吸確認法のあたりが修正されるのではないかと思います。


通報のタイミングと呼吸・脈の確認法

今は、反応と呼吸の確認をした後で通報、それから脈拍確認となっていましたが、G2015では、反応確認のあとに通報して、次に呼吸と脈拍を同時にチェックするという形になりそうです。

一見、G2005に戻ったようにも見えますが、この変更の背後にはスマートフォンの普及が関わっています。

これまでは、初期対応でありがちな一人法では、119番などの通報の間は、傷病者評価や胸骨圧迫等のケアが中断されてしまうという問題がありました。

しかし、スマートフォンの普及により、スピーカー通話機能を使って、呼吸確認や胸骨圧迫などを続けながらも通信指令と会話することが可能となりました。そこで、これまで線形に位置づけられていた通報が同時進行可能いう判断で、初期に持ってくるという修正となりました。


圧迫の深さと速さの上限明示、ナロキソン筋注

胸骨圧迫の深さ(5〜6cm)と速さ(100〜120回/分)の上限が設定された部分も新しいところですが、これは指導上の問題であって、現在のやり方と大きく変わるところではありません。

その他、薬物中毒が疑われる心停止の場合はナロキソン自動注射器で筋注を行うというBLSらしからぬ勧告も出てきていますが、日本では無視していいでしょう。


病院内心停止が区別されるように!

さて、個人が習得すべきテクニカルスキルとしてのBLSはG2010でほぼ完成していて、今回は軽微な調整がされたにすぎない印象ですが、ガイドラインの基本概念としてはかなりダイナミックな改定が行われています。

それは、救命の連鎖が、院内心停止と院外心停止で区別されるようになったことです。

特に 病院内心停止がほかと区別されるようになった、といったほうがいいかもしれません。

これは以前からこのブログでも指摘している点ですが、院内心停止の多くは心臓突然死ではありません。

世間一般では突然の心室細動にフォーカスして心肺蘇生法教育が行われていますが、病院内の心停止事案を解析してみると、そのうち75%以上は心室細動以外が原因であるとACLSプロバイダーマニュアルG2010にも明記されています。



つまり、街中の心停止であれば、急いで通報、AED除細動、CPR継続という流れでいいのですが、病院内では心停止は状態悪化の成れの果てとして発生するので、心停止になる前に危険な徴候に気づいて心停止を予防しなければいけないのです。

このことがガイドライン2015では、病院内の救命の連鎖ということで明示されるようになりました。

AHAガイドライン2015院内心停止の救命の連鎖
AHA-G2015院内心停止のアルゴリズム(G2015ハイライトより)


BLSプロバイダーに求められる心停止予防。どのように?


この重要な概念がBLSヘルスケアプロバイダーコースにどこまでどのように盛り込まれるのかはまったく未知数です。

しかし、下記の概念図を診てもらうと分かる通り、院内心停止を予防するモニタリングをするのはBLSプロバイダーの役割であるとされています。

現実問題、G2000時代と違って、心停止や蘇生の理屈をほとんど教えなくなった現代のBLSプロバイダーにその役割を求めるのは無理じゃない? と思わなくもないのですが、G2015ハイライト日本語版を見る限りはそのようになっています。

院内心停止対応では、心臓が止まってからの対応では不十分で心臓を停めないような予防的関わりが重要である点が打ち出されたのが、ガイドライン2015のBLSでもっとも重要な改訂点ではないかと思います。


ガイドラインの新概念を先取りしていた小児救急領域 PEARS

「心停止してからでは遅い! 予防と生命危機状態の早期発見を!」ということは、小児救急領域では昔からずっと言われていた基本スタンスです。

もともと小児は心臓突然死は多くない、そして予備力が小さく心停止になると救命がほぼ不可能なことから、呼吸のトラブルと循環のトラブルという心停止以前の対応に重きが置かれていました。

それが今回、病院内においては成人傷病者にも適応できると考えが改められたとも言えるかもしれません。

つまり成人を中心とした院内心停止対応が目指す新しい方向性は、小児の急変対応と同じベクトルになったということです。


この部分を扱っているAHA教育プログラムが、小児救急 評価・認識・安定化コース、つまりPEARSプロバイダーコースです。

PEARSプロバイダーコースの中身についてはこれまでも紹介しているので、説明は割愛しますが、ガイドライン2015の主役はPEARSなんじゃないかというのが今回のエントリーのテイク・ホームメッセージです。


小児だけじゃない! PEARSから最新ガイドライン院内急変対応を学ぶ

2008年に開発されて以来、私たちUSインストラクターが独自に日本語化して国内展開していたPEARSですが、いまは大手ITCも手掛けるようになり、先日、ついに日本語テキストが国内販売されるようになりました。

日本語版PEARS受講者テキストは大手ITCの独占販売で、一般書店で流通する形でないのが残念ですが、日本の院内患者安全にとっては大きな一歩が開けたと思います。

このガイドライン2015が発表されたタイミングでG2010-PEARSのテキスト日本語版販売というタイミングがなんとも微妙ですが、G2015教材の中でもPEARSが制作されるのは最後の最後ですから、まだまだ使えます。

PEARSプロバイダーマニュアルG2010日本語版


PEARSの根幹は、ABCDEアプローチという人間の生きるしくみに直結した古典的な部分です。そのため蘇生ガイドラインの改定にはあまり影響されません。水物ではないということです。

そういった意味ではG2005版のPEARSコースもまだまだ現役で使えるくらいですから、数年後にできるかもしれないガイドライン2015正式日本語版を待たずに、さっさといまのG2010版で学んでおくことをお勧めします。







posted by Metzenbaum at 08:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 救急蘇生 (BLS、ACLS) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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2015年11月14日

改定! 蘇生ガイドライン2015 院内急変対応が変わる!

先月、蘇生ガイドライン2015が発表されました。5年ぶりの改定になります。

心肺蘇生法AHAガイドライン2015アップデートハイライト
↑クリックすると、PDFでAHA-G2015改訂
の要点が読めます(無料)


今回の改定は、新ガイドラインというよりは、2010ガイドラインに修正を加えたアップデート版と位置付けられており、AHAとしては前回ほどは大きなリアクションを示していません。

ガイドラインが発表されただけで、教材リリースがまだですから、新しいBLS教育をどのように教えていくのか、その具体的な部分はまだ見えていません。

ガイドラインから推し量るに、おそらく呼吸確認法のあたりが修正されるのではないかと思います。


通報のタイミングと呼吸・脈の確認法

今は、反応と呼吸の確認をした後で通報、それから脈拍確認となっていましたが、G2015では、反応確認のあとに通報して、次に呼吸と脈拍を同時にチェックするという形になりそうです。

一見、G2005に戻ったようにも見えますが、この変更の背後にはスマートフォンの普及が関わっています。

これまでは、初期対応でありがちな一人法では、119番などの通報の間は、傷病者評価や胸骨圧迫等のケアが中断されてしまうという問題がありました。

しかし、スマートフォンの普及により、スピーカー通話機能を使って、呼吸確認や胸骨圧迫などを続けながらも通信指令と会話することが可能となりました。そこで、これまで線形に位置づけられていた通報が同時進行可能いう判断で、初期に持ってくるという修正となりました。


圧迫の深さと速さの上限明示、ナロキソン筋注

胸骨圧迫の深さ(5〜6cm)と速さ(100〜120回/分)の上限が設定された部分も新しいところですが、これは指導上の問題であって、現在のやり方と大きく変わるところではありません。

その他、薬物中毒が疑われる心停止の場合はナロキソン自動注射器で筋注を行うというBLSらしからぬ勧告も出てきていますが、日本では無視していいでしょう。


病院内心停止が区別されるように!

さて、個人が習得すべきテクニカルスキルとしてのBLSはG2010でほぼ完成していて、今回は軽微な調整がされたにすぎない印象ですが、ガイドラインの基本概念としてはかなりダイナミックな改定が行われています。

それは、救命の連鎖が、院内心停止と院外心停止で区別されるようになったことです。

特に 病院内心停止がほかと区別されるようになった、といったほうがいいかもしれません。

これは以前からこのブログでも指摘している点ですが、院内心停止の多くは心臓突然死ではありません。

世間一般では突然の心室細動にフォーカスして心肺蘇生法教育が行われていますが、病院内の心停止事案を解析してみると、そのうち75%以上は心室細動以外が原因であるとACLSプロバイダーマニュアルG2010にも明記されています。



つまり、街中の心停止であれば、急いで通報、AED除細動、CPR継続という流れでいいのですが、病院内では心停止は状態悪化の成れの果てとして発生するので、心停止になる前に危険な徴候に気づいて心停止を予防しなければいけないのです。

このことがガイドライン2015では、病院内の救命の連鎖ということで明示されるようになりました。

AHAガイドライン2015院内心停止の救命の連鎖
AHA-G2015院内心停止のアルゴリズム(G2015ハイライトより)


BLSプロバイダーに求められる心停止予防。どのように?


この重要な概念がBLSヘルスケアプロバイダーコースにどこまでどのように盛り込まれるのかはまったく未知数です。

しかし、下記の概念図を診てもらうと分かる通り、院内心停止を予防するモニタリングをするのはBLSプロバイダーの役割であるとされています。

現実問題、G2000時代と違って、心停止や蘇生の理屈をほとんど教えなくなった現代のBLSプロバイダーにその役割を求めるのは無理じゃない? と思わなくもないのですが、G2015ハイライト日本語版を見る限りはそのようになっています。

院内心停止対応では、心臓が止まってからの対応では不十分で心臓を停めないような予防的関わりが重要である点が打ち出されたのが、ガイドライン2015のBLSでもっとも重要な改訂点ではないかと思います。


ガイドラインの新概念を先取りしていた小児救急領域 PEARS

「心停止してからでは遅い! 予防と生命危機状態の早期発見を!」ということは、小児救急領域では昔からずっと言われていた基本スタンスです。

もともと小児は心臓突然死は多くない、そして予備力が小さく心停止になると救命がほぼ不可能なことから、呼吸のトラブルと循環のトラブルという心停止以前の対応に重きが置かれていました。

それが今回、病院内においては成人傷病者にも適応できると考えが改められたとも言えるかもしれません。

つまり成人を中心とした院内心停止対応が目指す新しい方向性は、小児の急変対応と同じベクトルになったということです。


この部分を扱っているAHA教育プログラムが、小児救急 評価・認識・安定化コース、つまりPEARSプロバイダーコースです。

PEARSプロバイダーコースの中身についてはこれまでも紹介しているので、説明は割愛しますが、ガイドライン2015の主役はPEARSなんじゃないかというのが今回のエントリーのテイク・ホームメッセージです。


小児だけじゃない! PEARSから最新ガイドライン院内急変対応を学ぶ

2008年に開発されて以来、私たちUSインストラクターが独自に日本語化して国内展開していたPEARSですが、いまは大手ITCも手掛けるようになり、先日、ついに日本語テキストが国内販売されるようになりました。

日本語版PEARS受講者テキストは大手ITCの独占販売で、一般書店で流通する形でないのが残念ですが、日本の院内患者安全にとっては大きな一歩が開けたと思います。

このガイドライン2015が発表されたタイミングでG2010-PEARSのテキスト日本語版販売というタイミングがなんとも微妙ですが、G2015教材の中でもPEARSが制作されるのは最後の最後ですから、まだまだ使えます。

PEARSプロバイダーマニュアルG2010日本語版


PEARSの根幹は、ABCDEアプローチという人間の生きるしくみに直結した古典的な部分です。そのため蘇生ガイドラインの改定にはあまり影響されません。水物ではないということです。

そういった意味ではG2005版のPEARSコースもまだまだ現役で使えるくらいですから、数年後にできるかもしれないガイドライン2015正式日本語版を待たずに、さっさといまのG2010版で学んでおくことをお勧めします。







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