もはやそれだけで済む時代は終わった、ということは、このブログでも何度も書いています。
といっても、なかなか皆さん、納得してくださらないのですが、そんな方はぜひ、今月号のエマージェンシー・ケア誌の特集記事を見てみてください。
救急看護分野の専門雑誌ですが、きっと病院の図書室でも置いてあると思います。
冒頭の一節を引用してみますね。
「院内心停止の70%は、その6〜8時間前以内になんらかの症状やバイタルサインの異常があると言われています。また『急変』とは『急に変化した』ということですが、実際には急に変化をしていなくても、その徴候を見逃していれば、気がついたときには『急に変化した』ということになります。」
これ、私がいつも「患者急変対応コースfor Nurses」や、「AHA-PEARSプロバイダーコース」で言っているのと同じことです。
ACLSプロバイダーマニュアルG2010に書かれている、院内心停止は「救助の失敗」であるというのも同じことですね。
院内心停止の多くは防げる、という認識に世の中は変わってきているのです。
言い換えれば、「急変」という言い訳は通用しない時代になっています。
変化に気づく閾値が低いから「急」と感じるだけであって、それは看護者の能力・観察力が低いだけ、とも言われているわけです。
ちょっと考えてみてほしいのですが、「急変が多い病棟」というのはどういうことなんでしょうね?
なにか憑いてるんじゃない?
みたいなジョークではなく、看護のレベルが低い病棟、という視点で見なおしてみたらどうでしょうか?
心臓が停まったあとの対応(つまり、これがBLSとACLSです)ができなくてはいけないのは、今までと変わらないにしても、ACLSプロバイダーマニュアルでも述べられているように、ACLS教育は院内心停止を減らすというアウトカムに関しては十分な成果を出せていません。
それは院内での突発的な心停止は2割程度に過ぎないというデータから、BLS/ACLSがダイレクトに適応となる急変は、院内の2割り程度にしか過ぎないからです。その他の心停止は、心臓が停まる前の様態変化の段階で気づいて介入し、心停止にさせないというレベルでの対応が求められています。いちど心停止になるとその予後は悪いのは言うまでもありません。
つまり院内の心停止を減らしたいと考えたら、心停止の予兆に気づいて、心停止にさせないためのメソッドが必要なのです。
それが先の雑誌特集でコンパクトに纏めてあるのですが、キーワードを挙げると、
◆着眼点としての呼吸・循環・神経
◆ABCDEアプローチ
◆SBAR
◆RRT(Rapid Response Team)
といったところでしょうか。
1.急変の予兆は「呼吸・循環・神経系」の異常として現れるから、日頃からこの3つの視点に合わせた観察に慣れておくこと。
2.呼吸・循環・神経系を細かく見ていき、安定化させるためのメソッドとしては、救急界の常識、ABCDEアプローチで。
3.生命危機につながる異常に気づいたら、体系的な報告様式(SBAR)を用いて、無駄のない効果的な応援要請を行い、医師や病院内の救急対応システムを動かすこと。
といった流れが、イマドキ風の急変対応とその教育になります。
詳しくは、ぜひこの記事を読んでみてください。
ここで概要を掴んでもらったら次の段階へ。
知っていることとできることは別問題、ですよね。
訓練としては、私はAHAのPEARSプロバイダーコースが最適と思っています。
ただし、映像を使ったディスカッションだけではなく、シミュレーションを省略せずに行うのが重要。
(開催団体によってはシミュレーション訓練を省いているところも多いので注意!)
リアルな急変場面の映像をみて、体系的アプローチで評価をして、それを自分の言葉で報告(通報)すること。
やってもらうと、だいたいの皆さんがうまく行きませんので、AHA講習には含まれない内容ですが、「(昨今の常識として)SBARっていう方法知ってる?」と紹介し、試してもらっています。
そして、医師到着までの間、チームダイナミクスを活用して安定化を計るという訓練。
こんなあたりが、いま、求められている病院での急変対応教育なんじゃないかと思います。
皆さん、お気付きの通り、メソッドはわかったけど、それをどうやって訓練していくのか、というのが問題で、昨今の救急看護に関する学会に参加すると、「気づき」を高める方法、報告訓練、あたりをテーマとした発表が増えてきています。
既存のプログラムとしては、
・AHA-PEARS Provider Course(ペアーズ)
・患者急変対応コースfor Nurses
・INARS(アイナース)
あたりですが、これらを参考にオリジナル講習を構築するというケースが多いようですね。
救急看護学会あたりが、ナース目線で日本のナースにマッチしたプログラムを開発・普及してくれることが望まれます。