2007年03月28日

私見:救急救命士と看護師の業務拡大

本業である手術室ネタを書かずに雑談続き2007年ですが、今日は救急医療の現実と看護師・救急救命士の業務拡大についてお話ししようと思います。

病院前外傷観察処置プログラムJPTECを受講したという話を以前に書きました。それに引き続いてアメリカ外傷外科学会認定資格になっているITLS(International Trauma Life Support)という外傷コースも受けてきたのですが、それを通して考えさせられる点がいっぱいありました。

◆ 業務拡大の雛形としてのITLS(BTLS)

ITLS(旧称BTLS)は日本のJPTECの雛形となったアメリカの救急隊員(パラメディック)向けに作られた外傷コースです。アメリカでは、現場で行なわなければならない医療処置があるという点にいち早く目を留めて、パラメディック制度を導入、救急隊員を訓練してきました。つまり救急隊員に医療行為を認めた先進国といわれています。

ITLSプログラムでは、気管挿管はもちろん、気管切開や緊張性気胸の脱気、骨髄輸液など、日本では医師以外には認められていない高度な救命処置トレーニングも行ないます。JPTECが日本の法律に整合性を持たせたものであるのに対して、ITLSはアメリカ国内とまったく同じカリキュラムを日本で受講できるのが大きな特徴です。

そういった高度な救命処置(Advanced Skill)の手技的なものはもちろんですが、シュミレーショントレーニングのなかで、傷病者と接触してから病院搬送までの、どの時点でそうした処置を行なうべきか、という判断も非常に重要になってきます。

そんなトレーニングを受けてきて思ったのは、やっぱり甲状輪状靱帯穿刺や緊張性気胸の脱気などは病院到着を待ってたら間に合わないよなという点でした。確かに医師以外が行なうにはリスクが高いという点もありますが、あの訴訟社会のアメリカで現実に救急隊員が業務として行なっているという事実を考えると、本当の必要性とリスクを天秤にかけた上で適正な判断が行なわれている証拠ではないか、とも思うのです。

◆ コメディカルの業務拡大を阻むもの

コメディカルの業務拡大を議論するとき、筆頭に反対するのが日本医師会。医師たちがこれまで「お医者さま」と崇められていたのは、ひとえに「医療行為」という天下の宝刀があったからです。そうした既得権と特権性を死守しようという動きが、日本の救急医療を締め付けていました。

それと看護師に関しては、日本看護協会も業務拡大には慎重な動きを見せています。「看護師にそこまで責任を負わせることはできない」として、例えば麻酔科学会から上がった麻酔看護師導入案を潰しましたし、看護師による産婦への内診や静脈注射に関しても一悶着あったのはご存じのとおり。(看護師を守るという職能団体としての役割もわからなくもないのですが)

看護師の仕事は「診療の補助」と「療養上の世話」ですが、看護師独自に行える「療養上の世話」偏重主義がここでも見え隠れしているような気がしてなりません。医療行為に関しては本来は医者の仕事なんだから、医者の方で勝手にやってよ的な態度が感じられるのです。言ってみれば採血すらしない大学病院看護師の姿を本来の理想としているような。

でも以前、別項でも書きましたが、看護師は医師の他に医療行為が認められている唯一(原則論的には)の存在です。そこから医療行為を否定してしまったら、社会的には大きな損失なんじゃないかなと思います。

さきほどの救急隊の話に戻りますが、医師が救急現場に出ていくほどのマンパワーがないのであれば、それにかわる医療行為を行える存在が必要になります。

今のところ、新設された救急救命士制度がその枠にはまっていますが、救命士自体は医療資格でありながら、消防組織の中でしかフルに活躍できない不思議な資格ですし、救急車内と現場でないと活動ができないという致命的な制約も抱えています。

◆ 法律からみた救急救命士と看護師の関係

現在の方向性としては、アメリカのパラメディックに習って救急救命士の業務拡大という方向性で日本は動いていますが、私は少々疑問に感じています。というのは日本の法律の原則では医師以外に医療行為に手を出せるのは看護師だけと規定されているからです。

「診療の補助」は看護師の独占業務です。ですから救急救命士をはじめとしたコメディカルの法律を見ると必ず書いてあります。「保助看法の規定によらず○○を行なうことができる」みたいなことが。つまりはこれはいずれのコメディカルの業務も本来は看護師しか認められていない行為だけど、この部分に関しては特別にやってもいいよということ。


つまり法律的には看護師免許は救急救命士免許の内容を含む上位資格のはずなのに、最近の救命士業務拡大に看護師はおいていかれているのはなぜ??と思ってしまうのです。まあ、薬剤投与などはナースは日常業務としてふつうにやってますし、基本的には医師の指示と適切なスキルと経験があれば、ナースに関してはオールマイティ、救命士と違って法律的に明確な制限はないんですけどね。

私としてはプレホスピタルは救命士に任せればいいというのではなく、もっとナースが現場に出ていけるような形が発展していけばなぁ、と思っています。そういった意味でドクターカーやフライトナース、DMATなどの今後の発展に期待したいところです。

今現在は、社会通年としてナースや救命士に許されていない甲状輪状靱帯穿刺や脱気、骨髄輸液なども近いうちに解禁されるようになるんじゃないかな。ただそのときは救命士だけではなく、現場に出るナースのことも考えて制度を整えてほしいと思うのです。ナースのことを忘れないで! それが正直な思い。そういった意味でITLSコースは日本の未来予想図的なものを感じられて楽しかったです。

看護師の業務拡大に関しては、看護界の重鎮、日野原重明氏が興味深いことを書いています。

 新時代の看護師に求められるもの バイタルサインを突破口に
 「ナースの仕事は,ナース自身が変えていく!」


要はどんどん法律を破って既成事実を作ってしまいなさい、ということ。救急救命士の創設には在宅での訪問看護師が作った既成事実が大きく影響を与えましたし、救命士の気管挿管解禁も秋田の救命士の英断が契機となりました。

悪法も法ではありますが、こういう事実を考えると、法律ってなんなんだろう? とわからなくなってきます。

どうもまとまりのない雑感になってしまいましたが、いったんここで終わりにして、次回はこの続きとして看護師ですらできない"縫合処置"などが認められている不思議なコメディカル免許(?)のお話しをしたいと思います。「え? そんなすごい資格があったの??」と誰もが唖然とするはず。救急救命士の業務拡大を考える際に、これを知っていると今までの議論がバカバカしくなること請け合いです。お楽しみに。
posted by Metzenbaum at 23:06 | Comment(7) | TrackBack(0) | 看護師スキルアップ
この記事へのコメント
 いつも、どこでその情報を仕入れているのかと気になります。次の、コメディカル免許たのしみですね。
 どこの病院も、移動の時期で忙しいことと思います。うちの手術室は、師長が変わるんです。手術室の人事って、あんまり動かしすぎるものじゃないのでは?と思いながらも、新しい風にも期待している3月の下旬。このサイトにも、大変お世話になりました。
Posted by チロ at 2007年03月29日 23:08
師長さんが変わるんですね。どこか別の部署から師長さんが異動してくるんですか? オペ室の事情を知らない人が師長になると、いろいろ大変なことがありそうですね。人の異動が少なすぎて古株の吹き溜まりみたいな雰囲気も良くないですけど、変わりすぎるのも考え物かなと思いますね。

思い返せば、このブログを立ち上げたのはほぼ1年前。自分の職場に入ってくる新人さんたちのために役立つ情報を、と思ってはじめたブログでしたが、いつの間にか、BLS・ACLS、労働環境、看護学士取得などなど趣味の世界に入り込んでしまいました。もうすぐ4月ということで、初心に返って新人オペナースのための記事を増やしていかないと、と思っています。

引き続き情報交換等、お付き合いいただけると嬉しいです、チロさん。

情報源についてご質問がありましたが、いったいどこなんでしょうね。なんとなく自分の中の興味や疑問を突き詰めていくと、いつの間にかここで公開するような内容になるって感じなので、きっかけはどこかにあったかもしれないけど、最終的には複合情報です。興味をもってアンテナを張っていると、自然といろいろ情報が集まってくるものですよ。
Posted by 管理人 at 2007年03月31日 00:55
米国の救急救命士は看護師よりも遥かに難しい国家試験(正しくは州試験)をパスしなければなりません。看護師も大卒後に看護師資格のための学校を卒業してから資格を取ることが多いようです。そうして医学知識,判断力や実習経験を得ています。ですから米国の実情を日本にそのまま当てはめるのは無謀といえましょう。
Posted by Cooper at 2007年04月04日 13:11
Cooperさん、はじめまして。すてきなお名前ですね。
Metzenbaumはちょっとわかりにくすぎたみたいとちょっと反省です。

日本でも薬剤師が6年生になっちゃいましたね。看護師も4年制一本化という提言を看護協会が出してますし、保健師・助産師に至っては修士レベルになる日も遠くないのかもしれません。救急救命士は消防組織の中での養成が外せないから、公教育の道としてはどうなのかなぁ、という疑問は残りますけど。

日本の救急医療体制作りを考えたときに、フランスのsamuみたいにドクターカーという道も考えた上で、あえてアメリカのparamedic制を採用したわけですから、今後もそれなりに向こうの流れを追いかけていくんじゃないでしょうか。現状はともかく、そう動いている気がしますよ。
Posted by 管理人 at 2007年04月04日 23:58
ご存知かと思いますが、船橋市において、
船橋医療センターを中心に救急医療システムの
取り組みをされていますよね。

同センターにトリアージ部門を作って、
救急患者を重傷度によって振り分け、
あわせて近隣の11医療機関と連携して、
救命救急の連携をとっているそうですね。
ドクターカーも医師会と連携して、
運営されているようです。

またACLSの講習会を行い、心肺停止例の
心拍再開率も改善しているそうです。

東京消防庁の調べでは、119コールから現場への、
平均到着時間が7分?程度で平均搬送時間が
20分程度?だったと思います。
(数字はあやふやですが・・・)
しかし、病院到着後の治療開始時間、
また転送された場合の時間等はあやふやで、
本当に回復可能な時間内で治療されているかは、
不透明だそうです。

システム、それを担う人材の絶対数、
両方に大きな課題がありそうですね。
Posted by shisley at 2007年04月09日 21:45
よく引用されるオンタリオでの院外心停止例の調査だと、軽快退院率を上げるためには2次救命処置はほとんど効いてないのですよね。発見者による早期通報とCPRがオッズ比で4.4とか3.7なのに対し2次救命処置は1.1。

心停止の兆候があったら何はともあれまず119番という教育だけでも結構違うんじゃないかと思わせる結果です。日本でも救急はウツタイン様式で記録とってるところ多いみたいですから、データがある程度たまれば分析結果がでてきてもよさそうなもんですが。

# 脳卒中も、tPAの適用可能率が低いみたいだからすぐ119番を徹底した方がいいかも。


Posted by santa at 2007年04月11日 11:29
AHAガイドライン2005の原著を読んで、まっさきにおおっと思ったのは、ACLSの改善は救命率にあまり影響なく、もっとも改善効果があったのはBLSそれも、バイスタンダーCPRの普及だった、というあたりです。

医療者が病院の中でがんばることより、もっと院外に出て社会的にBLSを広める方が地域としては意味があるってことにしっかりとした根拠性がついたんだってって思いました。

臨床研修医の指導要綱(?)の中には、ACLSを実践できることとBLSを指導できること、というのが盛り込まれています。同じように看護師としての責務のひとつにBLS指導と普及というのが盛り込まれるような時代になっていくんじゃないのかなぁというのが私の考え。時代を見越してがんばってるつもりですが、どうなることやら(笑)
Posted by 管理人 at 2007年04月14日 00:45
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