4月から新しく配属になる手術室看護師の皆さん向けに、手術室看護の基礎の基礎ということで、今日は全身麻酔の話をしたいと思います。
◆ 麻酔科看護師
そのまえに、唐突ですが、「手術室勤務の看護師」っていったい何者なんでしょうね?病棟システムにもよるとは思いますが、ふつうは脳外のナース、循内のナースなど、ある程度専門科に分かれて仕事をしています。合コンでも看護師をやってるなんていうと「何科の看護婦さん?」とか聞かれません?(笑)
では、手術室看護師は何科のナース??
外科系の診療科すべて、という言い方もできると思いますが、別の見方をすれば「麻酔科の看護師」と言ってもいいと思うのです。オペナースの仕事は器械出しと外回り業務に分かれますが、外回りに関しては麻酔科ナース、ですよね。
そんな麻酔科ナースになろうという新人の皆さんにぜひ知っておいてもらいたい基礎中の基礎、全身麻酔についてが今日の話題です。
◆ 全身麻酔のウラにあるもの
「麻酔薬」という言葉があります。麻酔薬を点滴から入れたらすぐに麻酔がかかってしまいそうな感じがするかもしれませんが、全身麻酔のプロセスは実際はもうちょっと複雑です。全身麻酔=意識消失と思ってたら大間違い。実は全身麻酔には3つの要素が関係しています。・鎮静(意識消失・健忘)
・鎮痛
・筋弛緩
これらがすべて効果を発揮して、はじめて手術が可能な充分な全身麻酔になります。実際のところ、これら3つの作用をバランスよく持っている薬というのは、そうありません。
例えば、いまおそらく日本で最もよく使われているプロポフォール(ディプリバン)という全身麻酔薬がありますが、これは鎮静効果のみで、鎮痛と筋弛緩の作用はほとんどありません。
プロポフォールを静脈に流すと10秒ほどで眠ってしまいますが、そのままで手術をはじめると患者さんが痛がります。
意識がないのに痛がる??
不思議に聞こえるかもしれませんが、眠っているのに痛がるんです。どういうことかというと、痛み刺激で血圧が上がる、さらに強い痛み刺激があると体を動かして嫌がったりします。意識は消失しているので麻酔から覚めた後の記憶に残ることはないかもしれませんが、ディプリバンだけでは血圧コントロールや体動の問題があって安全に手術を行なうことができません。
そこで必要なのが、鎮痛剤。私の勤務する施設ではフェンタニルという麻薬の一種を使って痛みを押さえて血圧コントロールと体動を防いでいます。
さらに開腹手術などでは腹腔内圧を下げるために(簡単にいうと腸が飛びだしてこないように)筋肉の緊張を和らげる必要があります。そのために使われるのが筋弛緩剤。
つまり全身麻酔で腸の手術をしようと思ったら、意識を消失させるプロポフォールと、痛みを押さえるフェンタネストと、筋弛緩剤の3つをバランスよく使ってやらなければうまく行かないということなんです。
これが全身麻酔を理解する上でもっとも基本的な形だと思います。いま紹介した麻酔のパターンは全静脈麻酔(TIVA:total intravenous anaesthesia)といって、すべての手術がこのような形で行なわれるとは限りませんが、この3つの要素が必要という基本原則はぜひ覚えておいてください。
実際のところ、多くの全身麻酔は導入時には3種類の注射薬を使い分けて、術中の麻酔維持には筋弛緩作用・鎮痛作用・健忘作用の3つを併せ持ったセボフルレンなどの吸入麻酔薬を使うパターンが多いかもしれません。でもセボフルレンに任せっきりでは不十分で、麻酔科医はモニターを見ながら必要に応じて、それぞれ単体の薬を追加投与して手術に最適な麻酔状態を維持しているんですね。
細かい作用機序なんかは知らなくても手術室の仕事はできますが、せっかく他部署の人からは「謎な世界」である麻酔の実際を学べる場所にいるわけですから、手術室配属を機に麻酔についても興味を持って勉強してみてほしいと思っています。
その時は、麻酔の「ま」もろくに知らない
人でした。腰椎麻酔でしたが、あまり効かず何回か痛いと感じた後は、お腹をいじられてるのが分かる位、最後は吐きそうになりました。
オペも無事終了し、ナースから「麻酔を多く使ったので頭を動かさないでくださいね」と言われたにも関わらず、寝返りしまくりで翌日から頭痛で起きれず、食事も寝ながら食べるという状態が続き、退院が延びました(爆)ひたすら水やスポーツドリンクを飲んで尿で出すしかないと言われ、悲惨な入院になりました。
その後、さらに全麻の上顎洞根本術、脊麻の下肢観整固・抜釘など、オペ経験はなぜか豊富な私でありました。
なおさん、腰椎麻酔での手術後の頭痛はわりと起こり易い合併症なんですよ。腰椎麻酔はくも膜下腔に麻酔薬を注入します。麻酔薬を注入するということはもちろん、針を刺して硬膜、クモ膜に穴を開けているんです。手術後に頭を上げたり動くことで穴から脊髄液などが漏れてしまうことがあります。すると脊髄液は脳の周りにもあり、脳脊髄液圧の低下によって頭痛が起こるそうです。治療としては麻酔をしたときに開いた穴を埋める方法があるそうです。今、手元に資料が無いので詳しことは忘れてしまいました。ボクが思うに麻酔薬を使い過ぎたというのでは無いと思います。麻酔薬の使用量は限度があり、多く使いすぎると大変危険だからです。呼吸が出来なくなっちゃうこともあるんですから、腰椎麻酔といってもあなどれませんよね。
頭痛は穿刺孔からの髄液漏、投与量の多すぎは悪心や呼吸抑制なんかですよね。全身麻酔に続いては脊椎麻酔の話をまとめてアップしようと思います。
髄液漏を塞ぐ方法として、ブラッドバッチ法というのは知っていますが、頸椎捻挫(むち打ち症)の治療として認めるか認めないかという議論の中で知りました。腰椎麻酔時に行なうってこともあるんでしょうか?? それについても調べてみようかなと思います。
はじめまして。
腰椎麻酔の説明ありがとうございました。
多く使ったというのは、数回に分けて注入されました。それを私は多いと感じたのです。ですから一回の使用量は少なかったということですかね?
また、いろいろと教えてください。
でもなんで何回もやったんだろう? 一回注入して効きがイマイチでやり直しをしたのかなぁ。
何回もやったのは、最初の一回では効かず
その後、チクッとした後は、痛くない?って聞かれて痛くないですって言ったら、オペが始まりました。。効きがイマイチでやり直したと思います。
きっと何回も刺して、髄液の漏れが大きかったんですよ。
麻酔の量が多くて麻酔が効きすぎると血圧が落ちて気持ち悪くなったり、最悪の場合、上の方まで麻酔が拡がって呼吸ができなくなったりしちゃいます。
まあ、それでも手術室は病院の中で最も安全な場所。蘇生のプロの麻酔科医がしっかり補助換気をして、麻酔が覚めるまで命は繋いでくれますが、、、、。
だからいいって話じゃありませんね、ゴメンなさい!(^^;
頭痛にはNSAIDsが効きます。充分な補液も重要です。
それでも改善しないときは、硬膜外に生食、または自己血の注入を行います。注入中にすぐ症状が改善します。
生食、自己血の注入をspiの副作用の治療として行なうことってどれくらいあるもんなんですか? 私の勤務する病院では聞いたことがないなぁと思いまして...
その中で実際ブラッドパッチが必要な方は1%くらいでしょうか?それ以外の方は、内服等でコントロールできるようです。
私が実際経験したのは帝王切開後の方で、手技上も特に問題なく行えた方でした。
その病院でのspiの症例が年間1000件前後ですから、その程度です。それよりも、硬膜外麻酔の際の硬膜穿刺後の方が頻度は高いですよ。
硬膜外の失敗という例が多いんですね。納得。針の太さがぜんぜん違いますもんね。
全麻についてお聞きしたかったのですが、学生時代から全麻はそれだけで侵襲になるから良く観察しなさいといわれ、患者さんにも「全麻でない、体に負担のない手術」と比較して腰麻などを説明していますが、その全麻による侵襲とはお話にあったどの要素についてなのでしょうか。
変な話使用する薬剤は手術でなくても使う時はありますし、それぞれの副作用もあります。それら薬剤を複合して使う危険性?それとも挿管することの負担であったり、呼吸を止めてしまうことへの危険性ということ?なのでしょうか。他の麻酔法との違いとは・・?それらか「鎮静」の部分かと思うのですが(それぞれ術式による危険性を省いて考えたとして)。でも腰麻の最中に患者さんがパニックになったりして、意識を落とさなくちゃいけなくなったら、それは=全麻?
挿管しないですむ、意識だけ落としてやった麻酔も全身麻酔の扱いで帰室されますが、それはそこまで侵襲はないものとしていいのか?広義では吸入麻酔も静脈麻酔も全麻ということのようで・・・
単に術後の観察をするに当たり、全麻について知り、それによる体への影響を知りたいと思っただけなのですが、わかりにくい話でごめんなさい。もし教えていただければありがたいです。あまり噛み砕いて書いてある本が少なく、もしお勧めの本など教えていただけたら自前でもう一度勉強してみたいです。
全麻の侵襲性ということですが、かなり話は複雑になりそうです。私自身勉強不足で的確にお返事できる自信がないのですが、とりあえず思いつくままに書いてみようと思います。
まず脊椎麻酔の侵襲性は比較的シンプルです。針を刺すから痛いという点と、神経損傷(これは部位選択によりほとんど有りませんが)、麻酔が上の方までまわってしまうことの呼吸抑制の可能性、血圧低下による悪心、そして上で話題になっていた髄液漏でしょうか。神経損傷以外はさほど大きな問題とはならないと思います。
対して全身麻酔の場合、リスクファクターがたくさんあります。意識を落として呼吸を止めて(筋弛緩)、挿管で咽頭に不要な刺激を与えて、生理的に不自然な陽圧換気をして、薬で血圧等をコントロールして、ととにかく生体にとって不自然なことだらけ。ふだんは体が自然に行っている生命維持のほとんどを麻酔科医の手に委ねてしまうことになるわけですから。
ただ完全にコントロール下に置かれますから、なにか急変が起きたときのことを考えると迅速に安全に制御ができるというメリットもあります。
ひだめさんは病棟勤務の看護師さんですか? 術後管理の迷いからこのように質問を頂いたと思いますが、そうであるなら、単に「全身麻酔」という言葉のくくりでは考えない方がいいと思いますよ。
ひだめさんもおっしゃっているように、同じ全麻でも挿管するのかしないのかでは術後観察のポイントがぜんぜん違ってくるからです。もしかしたら手術室の看護記録では単に全麻としか書かれていなかったとしたら、申し送りの時に積極的に具体的な麻酔方法を聞いてみてください。
ポイントとしては、
●挿管したのか、ラインゲルマスクなのか、マスク換気での解放式吸入麻酔なのか?
●静脈麻酔なのか、吸入麻酔なのか
●筋弛緩薬を使ったのか ⇒ 使った薬はなに? マスキュラックス? サクシン?
このあたりを整理すると、そのときの麻酔に合わせた適切な看護のポイントが見えてくると思いますよ。
いったんお返ししますので、分かりにくい点があったら、また具体的に聞いてくださいね。
丁寧に答えていただいてありがとうございます。
私は元は病棟看護師で、何の因果か今度ICUに配属されました。
病棟は内科だったので、時々入る他科の患者さんの麻酔やオペについて
申し送りを聞いていても良くわかっておらず、ただ術後決まった時間に
異常がないかの観察をしているだけでした。
一口に全麻といっても色々な要素があり、それによって看護のポイントが変わってくるのですね。
やみくもに決まったところだけの観察では寂しいですよね。
あんまり素人みたいな疑問で聞きにくくてここまで来てしまいました (^^;
手術室のことはイメージがつきにくく、患者さん用のオペ前訪問やムンテラに
こっそり耳をすましたこと何度かあり・・
でも麻酔については大抵が本当にオペ室ナースの方のための専門的なものか、
外科ナースのためのものでも単に一般的なことが書いてあるだけのものが多く、正直困っていました。
オペ記録はせいぜい出血が多かったとか、麻酔時間が長びいた、効きすぎた、血圧が下がった・・など
何か異常がなかったかを知るくらいで、オペの中身一つ一つの意味、考えたことなかったです。
オペ記録、麻酔記録をもっと読み込んで術後の観察を考えられるようにしないとダメですね。
でも正直病棟ナースにとってオペ記録と麻酔記録は何を見ていいかわかりにくく、
今回のお話でようやくポイントが見えてきた感じです。
ここの内容はいつもわかり易く、とても助かります。
患者さんに説明するのにも少し余裕を持ってできそうな気が・・
またそれぞれのオペについて、調べてみようと思います。
ありがとうございました!m(__)m
オペ室ナースとしても病棟ナースがどういう情報を必要としているかという視点は正直欠けている部分があります。反対に、病棟に必要だろうと思ってあえて説明的に申し送りをしたのにまったく無関心な風だったり。
手術や麻酔のことについては病棟とオペ室で共通理解があって当然だと思うのですが、実際はそううまくはいってないのかなという気がします。
ひだめさん、今後申し送りのときに素朴な疑問という感じでオペ場のナースにぼそっと聞いてみたらどうでしょう? ORNs.にもいい刺激になると思いますので。もしかしたら病棟の先輩たちもあまり意識していなかったなんとなくの部分なのかもしれませんし。
もちろん、ここの掲示板もお気軽にご利用下さいね。具体的にポイントを絞って質問していただけると的確にお返事ができると思いますので。