2013年04月08日

学生時代のレポート 『自殺、医療拒否、尊厳死』

今、書いている本のネタ探しで昔のハードディスクの奥を探っていたら、学生時代に書いたレポートがわんさかと。その中から1本をご紹介します。何の授業のレポートだかはわかりませんが、『自殺、医療拒否、尊厳死』というタイトルがついてました。

生命倫理かな? 文化人類学なんて言葉も出てきてるけど、そんな授業はなかった気がするし、、社会学?

10年以上前に書いたものですが、医療者として考えたい「生きる意味」について、参考になりましたら。



『自殺、医療拒否、尊厳死』

Quality of lifeという言葉をよく聞く。生きながらえることだけに意味があるのではなく、その質こそ重要という考え方で、いま現在それを否定する声はあまり聞かれない。

医療界でもQOLという言葉は日常的に使われて、ごくあたりまえのものになっている感がある。しかし現実はどうかというと、根底部分の古い体質はまったく変わらず、小手先だけQOLに終始している気がしてならない。

いうまでもなくQuality of lifeのQuality(質)は、ひとそれぞれ個別の価値観によるものである。どういうふうに生きたいか、なにをもって幸福と感じるかは人それぞれによって違う。その価値観は他人が冒してはいけない『尊厳』を持っている。

しかし日本の社会では、QOLといいながらも「常識」という名の価値観を押し付けてはいないだろうか。

ことに死をタブー視する風潮は、私には不思議に思える。QOLといいながらも死の問題が絡んできた場合、世論は冷静な判断力を欠き、固執した観念と感情論に終始している気がする。

自ら死を選ぶ行為は許されないのだろうか? 死んでしまっては元も子もないというのはもっともなことだとは思う。しかし死を内包した決断は許されないのかといったらそんなことはない。

たとえば冒険家と言われる人たちがいる。彼らは積極的に死ぬつもりはなくても、ある意味死へ近づく歩みをしている。もしかしたら死ぬかもしれない。それは自分の積極的な行動によって引き起こされる結果だ。(河野平市氏が北極で亡くなったのは記憶に新しい)

このことからも示唆されるように、人には死にもまして優先しすべき事柄というのが存在しうる。いまでもときどきみられる宗教団体の集団自殺も歴史的にみれば珍しくない。日本でもキリシタン迫害で死を選んだ人が少なからずいた。

宗教を含め、しばしば信条のために死を選ぶことは、これまでもよく見られた。実は現在でもそういった事件は少なくない。「あいつはバカだ」「気が振れていたんだ」、そういって一笑に付すことは簡単だが、その裏にある個人の価値観を理解しようとする姿勢が医療者にとってとても重要であると思う。

末期ガンで尊厳死を選ぶという行為はだいぶ理解されてきたように思う。傍目から見ても苦しそうでどうにかしてあげたいという直接感情に訴えかけるものだからかもしれない。

では、たとえば医療拒否についてはどうだろう? 人それぞれの価値観の多様性ということを医療者は十分に受けとめられているだろうか? ときとして奇抜な理由で治療を拒否する人もいる。有名なところでは宗教上の理由で輸血を拒否するグループが知られている。「神が禁じているから」というのがその理由のすべてであって、医療者が理屈をもって説得に入り込む余地はほとんどない。

そんな場合でも医療者は納得して相手の尊厳を尊重することができるだろうか?

輸血をすれば助かるのは確実なのに、それをしないがために目の前で命がなくなっていくのを見守らなくてはいけない。

それはまったく理解できないことかもしれない。しかし、本人の幸福のために、QOLを考えるなら受けとめなくてはいけない。

幸か不幸か、日本では個別意識が弱い。細かいところにまで常識といわれる価値観が入り込み、宗教的な背景をもたなければ、多様な価値観・信条があるという教育もあまりされていない。

だからこそ、看護教育にも文化人類学が取り入れられているのだろう。今後、病院で働いたときにさまざまな文化背景をもった人と関わっていく可能性がある。自分の価値観・倫理観を確立することは重要でも、それに凝り固まることなく、柔軟にとらえることができるようになっていきたい。


【参考文献】
・本田勝一:「冒険と日本人」、朝日新聞社
・石原明:「医療と法と生命倫理」、日本評論社、1997
・竹田純郎・森秀樹編:「死生学入門」、ナカニシヤ出版、1997
・日野原重明:「現代医学と宗教」、岩波書店、1997



posted by Metzenbaum at 01:23 | Comment(0) | TrackBack(0) | ope室以外の医療ネタ
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