【ブログ移転のお知らせ】

引っ越しました。

【新】オペナース養成講座|https://or-nurse.com/

3秒後に自動的に新サイトの当該ページへ移動します。(2019.1.18)

2007年02月20日

手術中輸液の基本的な考え方

輸液の話、第二段。
まずは手術に際して輸液が必要となる理由を整理しておきたいと思います。

◆ 薬剤投与ルートとして

入室してきた患者さんに点滴ラインが入っていない場合、モニタ装着に続いてすぐにVライン(vein-line:静脈路)を取るのは、麻酔薬をはじめとする薬剤投与ルートを確保するため。局麻手術ではともかく全身麻酔では点滴ラインは絶対必要です。脊椎麻酔では点滴がなくても麻酔導入できますが、血圧低下などの突発的なトラブルに迅速に対応するために静脈ラインのキープが行なわれます。

◆ 手術侵襲に必要となる水分・輸液の考え方

手術では当然出血によって体液が失われるわけですから、その分の水分を補充しましょうというのがいちばんわかりやすい輸液の理由だと思います。ただし500ccの出血があったから500cc輸液をすれば±0という単純な話にはなりません。

ご存じ、人間の体は60%が水分ですが、体の中にどんな形で水分が分布しているかを理解しておく必要があります。大きく分けると、血液やリンパ液といった目に見える形の水分(細胞外液といいます)と、細胞の中に含まれている水分(細胞内液)に分けられます。

点滴などによって体の中に入った水分は、その比率に応じて細胞外液と細胞内液に配分されていきます。ですので、500ccを入れても、それがすべて血管内に留まっているわけではありません。組織に吸収されて細胞内液に移っていく分もあるわけです。

それに加えてオペ室での輸液では、手術侵襲による生体反応を考えていく必要があります。例えば、体を切ったるする刺激(侵襲)によって局所の炎症反応が起きます。すると血管の透過性が増えますので、細胞外液がサードスペースに出てしまいます。その結果、血管内の血液量(循環血液量)は減ることになります。(簡単にいうと血管内の水分が外にでて浮腫になるってこと)

また吸入麻酔や腰椎麻酔によって末梢血管が拡張しますので、これによっても術中の相対的な循環血液量が減ることになります。(腰麻で下半身がポカポカするというのは血管が拡張した証拠ですし、全身麻酔前に点滴ルートが取れない患者さんの場合、とりあえず吸入麻酔で寝かしてから再トライするのも末梢血管が開く効果を狙ってのことです)

細かく書き出したらきりがなく、とても複雑な話になってしまうのですが、とにかく周術期の輸液では複雑な生体反応が絡み合い、仮に500ccの出血があった場合には2500cc程度の補液が必要と言われています。手術のときの輸液は、単に出血量だけできまるものではないという点はしっかり押さえておきたいポイントです。


周術期輸液の考え方―何を・どれだけ・どの速さ
周術期輸液の考え方/丸山 一男
南江堂 (2005/01)
私がいま輸液について勉強しているネタ本です。おそらくナース〜研修医あたりまでをターゲットに絞ったような構成でかなりわかりやすいです。
数式なども若干出てきますが、演習形式に段階的に話が進んでいくので、数式に対する苦手意識を克服するのにもいいかも。実際、これ一冊をきちんと理解できたら、手術中に麻酔科医が何を考えながら点滴をつなぎ変えているのかななどと手術中の視点・楽しみが増えそうな気がします。私もまだまだ勉強中。
posted by Metzenbaum at 19:33| Comment(5) | TrackBack(0) | 外回り/麻酔看護 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
輸液のお話、おもしろかったです。
私は麻酔管理に興味があって、術中に麻酔科医にいろいろ質問したりしてちょこちょこっとですが勉強してます。
アメリカには麻酔専任のナースがいるそうですが、日本ももしかしてそうなるかもしれない!!と期待してます。いつになるかわからないですけどね。
麻酔管理がわかってると、もっと仕事面白くなると思いませんか?
それにしても管理人さん、いつそんなに勉強する時間があるんですか?このブログを書くためにもいろいろ勉強してると思うし、ACLSとか英語とか放送大学まで!!!
ほんとすごいと思います。
いつも「時間がない」と言っている私は、ただのいいわけですね・・・・反省・・・
Posted by ゆき at 2007年02月28日 21:48
ゆきさん、こんばんは。
輸液の話は、ネタ本を公開してしまいましたが、自分のなかで消化した分を自分の言葉で書くようにしていますので、今後の進行は遅くなりそうです。

術中に麻酔科医に聞くっていうのはいい方法ですよね。手術によっては時間が相当ありますし、場合のよっては単価の高い医師からのレクチャー受け放題! とも言えますよね。これもオペ室ならではのメリットだと思っています。利用しない手はないです。

麻酔看護師については、以前、過去記事のコメント欄でかなり話題になったことがありました。よければ見てみてくださいね。

http://or-nurse.seesaa.net/article/24660677.html

> それにしても管理人さん、いつそんなに勉強する時間があるんですか?

勉強というより「趣味」ですから(^^)
そもそも自分がいま看護師をやってるのも趣味のひとつなのかもしれません。
Posted by 管理人 at 2007年03月01日 21:35
そうですね。「趣味」にしてしまえば、「あー、勉強しなきゃー」とか追い込まれなくなりそうですね。いいこと聞きました!!

自分の知らなかったことがわかるようになるって楽しいですよね。

輸液シリーズ、楽しみにしてます。

ちなみにうちの手術室の勉強会のネタ本(?)は、このブログです。いつもお世話になってます(笑)
Posted by ゆき at 2007年03月03日 00:03
そうそう、「勉強」っていう先入観、忘れちゃった方がいいと思いますよ。楽しんでいきましょ。

輸液シリーズはしばらくお休みになっちゃうかも。(そういえば心電図シリーズもお休み中ですね)

今月はAHAのBLSインストラクターコースがあったり、アメリカのAHA本部のウェブサイトを見てたら驚くようなことが書かれているのを見つけてしまったり、ということでBLSネタが続きそうな予感がしています。

すいません、趣味というかマイブームの勢いで記事を書くもので、長い目で見てやって下さいな。
Posted by 管理人 at 2007年03月04日 23:16
非常にわかりやすくまとめてくださっていてよくわかります!ちょっとした疑問から深い知識まで学べて助かっています!!ありがとうございます。
Posted by まいける at 2014年07月10日 07:06
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
2007年02月20日

手術中輸液の基本的な考え方

輸液の話、第二段。
まずは手術に際して輸液が必要となる理由を整理しておきたいと思います。

◆ 薬剤投与ルートとして

入室してきた患者さんに点滴ラインが入っていない場合、モニタ装着に続いてすぐにVライン(vein-line:静脈路)を取るのは、麻酔薬をはじめとする薬剤投与ルートを確保するため。局麻手術ではともかく全身麻酔では点滴ラインは絶対必要です。脊椎麻酔では点滴がなくても麻酔導入できますが、血圧低下などの突発的なトラブルに迅速に対応するために静脈ラインのキープが行なわれます。

◆ 手術侵襲に必要となる水分・輸液の考え方

手術では当然出血によって体液が失われるわけですから、その分の水分を補充しましょうというのがいちばんわかりやすい輸液の理由だと思います。ただし500ccの出血があったから500cc輸液をすれば±0という単純な話にはなりません。

ご存じ、人間の体は60%が水分ですが、体の中にどんな形で水分が分布しているかを理解しておく必要があります。大きく分けると、血液やリンパ液といった目に見える形の水分(細胞外液といいます)と、細胞の中に含まれている水分(細胞内液)に分けられます。

点滴などによって体の中に入った水分は、その比率に応じて細胞外液と細胞内液に配分されていきます。ですので、500ccを入れても、それがすべて血管内に留まっているわけではありません。組織に吸収されて細胞内液に移っていく分もあるわけです。

それに加えてオペ室での輸液では、手術侵襲による生体反応を考えていく必要があります。例えば、体を切ったるする刺激(侵襲)によって局所の炎症反応が起きます。すると血管の透過性が増えますので、細胞外液がサードスペースに出てしまいます。その結果、血管内の血液量(循環血液量)は減ることになります。(簡単にいうと血管内の水分が外にでて浮腫になるってこと)

また吸入麻酔や腰椎麻酔によって末梢血管が拡張しますので、これによっても術中の相対的な循環血液量が減ることになります。(腰麻で下半身がポカポカするというのは血管が拡張した証拠ですし、全身麻酔前に点滴ルートが取れない患者さんの場合、とりあえず吸入麻酔で寝かしてから再トライするのも末梢血管が開く効果を狙ってのことです)

細かく書き出したらきりがなく、とても複雑な話になってしまうのですが、とにかく周術期の輸液では複雑な生体反応が絡み合い、仮に500ccの出血があった場合には2500cc程度の補液が必要と言われています。手術のときの輸液は、単に出血量だけできまるものではないという点はしっかり押さえておきたいポイントです。


周術期輸液の考え方―何を・どれだけ・どの速さ
周術期輸液の考え方/丸山 一男
南江堂 (2005/01)
私がいま輸液について勉強しているネタ本です。おそらくナース〜研修医あたりまでをターゲットに絞ったような構成でかなりわかりやすいです。
数式なども若干出てきますが、演習形式に段階的に話が進んでいくので、数式に対する苦手意識を克服するのにもいいかも。実際、これ一冊をきちんと理解できたら、手術中に麻酔科医が何を考えながら点滴をつなぎ変えているのかななどと手術中の視点・楽しみが増えそうな気がします。私もまだまだ勉強中。
posted by Metzenbaum at 19:33 | Comment(5) | TrackBack(0) | 外回り/麻酔看護
この記事へのコメント
輸液のお話、おもしろかったです。
私は麻酔管理に興味があって、術中に麻酔科医にいろいろ質問したりしてちょこちょこっとですが勉強してます。
アメリカには麻酔専任のナースがいるそうですが、日本ももしかしてそうなるかもしれない!!と期待してます。いつになるかわからないですけどね。
麻酔管理がわかってると、もっと仕事面白くなると思いませんか?
それにしても管理人さん、いつそんなに勉強する時間があるんですか?このブログを書くためにもいろいろ勉強してると思うし、ACLSとか英語とか放送大学まで!!!
ほんとすごいと思います。
いつも「時間がない」と言っている私は、ただのいいわけですね・・・・反省・・・
Posted by ゆき at 2007年02月28日 21:48
ゆきさん、こんばんは。
輸液の話は、ネタ本を公開してしまいましたが、自分のなかで消化した分を自分の言葉で書くようにしていますので、今後の進行は遅くなりそうです。

術中に麻酔科医に聞くっていうのはいい方法ですよね。手術によっては時間が相当ありますし、場合のよっては単価の高い医師からのレクチャー受け放題! とも言えますよね。これもオペ室ならではのメリットだと思っています。利用しない手はないです。

麻酔看護師については、以前、過去記事のコメント欄でかなり話題になったことがありました。よければ見てみてくださいね。

http://or-nurse.seesaa.net/article/24660677.html

> それにしても管理人さん、いつそんなに勉強する時間があるんですか?

勉強というより「趣味」ですから(^^)
そもそも自分がいま看護師をやってるのも趣味のひとつなのかもしれません。
Posted by 管理人 at 2007年03月01日 21:35
そうですね。「趣味」にしてしまえば、「あー、勉強しなきゃー」とか追い込まれなくなりそうですね。いいこと聞きました!!

自分の知らなかったことがわかるようになるって楽しいですよね。

輸液シリーズ、楽しみにしてます。

ちなみにうちの手術室の勉強会のネタ本(?)は、このブログです。いつもお世話になってます(笑)
Posted by ゆき at 2007年03月03日 00:03
そうそう、「勉強」っていう先入観、忘れちゃった方がいいと思いますよ。楽しんでいきましょ。

輸液シリーズはしばらくお休みになっちゃうかも。(そういえば心電図シリーズもお休み中ですね)

今月はAHAのBLSインストラクターコースがあったり、アメリカのAHA本部のウェブサイトを見てたら驚くようなことが書かれているのを見つけてしまったり、ということでBLSネタが続きそうな予感がしています。

すいません、趣味というかマイブームの勢いで記事を書くもので、長い目で見てやって下さいな。
Posted by 管理人 at 2007年03月04日 23:16
非常にわかりやすくまとめてくださっていてよくわかります!ちょっとした疑問から深い知識まで学べて助かっています!!ありがとうございます。
Posted by まいける at 2014年07月10日 07:06
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。