2012年12月05日

看護師の倫理観が問われる手術場〜未滅菌「使い回し」事件の概要

手術室勤務経験があるナースなら、きっとさほど驚かない眼科手術の手術器械や注射薬の 未滅菌 使い回し。

うちの病院も長年の問題でした。(私にとっては、ね。だって他に誰も声を上げた人、いないんですもん)

数年前に職場内で一度大きく問題提起して多少は改善されたのですが、超音波手術器具のハンドピースを洗浄もしないでの使い回しはそのまま。当時は、オペガンとかビスコート、ヒーロンといったプレフィル注射器の使い回し部分撤廃とハンドピース先端チップの交換を実現しただけで満足しちゃったんですね。

清潔野に並べられた眼科白内障手術でつかうプレフィル注射薬

あれだけ、頑なだった眼科部長をそこまで動かしたという点で、これで精一杯かなと思っちゃった自分がいました。罵倒されたり脅されたり、それなりに嫌な思いをしましたし。師長も主任もぜんぜん守ってくれないし。

で、最近きっかけがあり、ここ数週間で、再度の行動に出ました。

これまでも文書では、安全対策室や感染対策委員会、感染制御室にはなんども現状を訴えて、感染症患者の後にも平気で使い回しをしている時など、たまたま自分が担当する目の前で起きたときは事故報告書を出したりして、それなりに継続的に動いていたのですが、上層部はノラリクラリ。

もうこれでオシマイにしようと思って、今回、病院を辞める覚悟で最終手段。

問題をことさらセンセーショナルに大きく取り上げて、「違法な犯罪行為には加担できない!」私はオペをボイコットするという宣言を出しました。

その後も続いた使い回し手術の度に、事故報告書を作成し、故意の体液被曝をさせた張本人とそれに加担した共犯者ということで、オペに関わった医師と看護師を名指ししたレポートを作成し、上層部へ提出すると同時に手術室内で掲示を行いました。

これはさすがにインパクトがあったようで、ようやくスタッフの間にも「眼科の手術はヤバイ」という意識が強まり、手術を担当することを拒否する人が一人二人と続いていき、やがては主任と一部のスタッフが毎回オペに入らざるを得ない状況となり、ようやく上層部も重い腰を上げて、、、といった顛末となりました。

ここまで追い詰めたら早かったですね。

2週間くらいのうちにメーカーから予備のハンドピースを借り受け、これまではずっと使いまわしていた灌流液(BSS)も患者人数分取り寄せて、ということで、ようやく1患者ごとに清潔が保たれた環境が実現しました。

できるのにやらなかった。私が訴えだして約5年。いままで、難しい、できないと言われ続けたことが、ある意味、武力行使に出たらさくっとできた。つまり、単にやらなかっただけ、ということがあからさまとなりました。

一応、解決した。のですが、後味は悪いというか、すっきりしません。

というのはこれだけ大掛かりなことになっておきながら、反省の色がまったくないからです。

似たような事件、例えば銀座眼科のレーシック使い回し事件では、院長が傷害罪で有罪となっています。これだけのことなのに事故検証委員会が立ち上がるわけでもなく、誰が処分されたわけでもないし、患者への謝罪や補償、追跡調査についても言及なし。私からの質問にも回答なし。

不具合な事象は改善された、ということでこれまでのことはなかったことにしようとする感がありあり。

少なくとも今回の問題は、「病院が把握していたのに止めなかった」という実態があります。今までは現場のナースが声を上げなかったから上層部は知らなかったと言い逃れできた図式がありましたが、度重なるレポートの提出で、安全と感染の担当者がオペ室を視察に来たのが運の尽き。

それをきっかけに私は行動にでたのでした。

知らなかったとは言い逃れできる状況は崩れた!

だからこそ、強行突破に。それでも、私の再三の訴えは無視して、使い回ししなくていいように機材の購入申請をしたからという一点張りで、目の前で毎週血液・体液被曝していく患者は放置。オペを止めなかった。


結局、この問題は、眼科部長という大学医局から派遣された人に対する遠慮だかなんだか知りませんが、病院組織をはじめ他の医師も口を挟めなかったというのが最大の問題。感染対策委員長の医師も「感染対策委員会にはそんな権限ないんだよ」と言って動かなかったわけですし、院長にしてもこれだけ事件性があることなのに、職場崩壊になるまで追い詰められなければ動かなかった。

各診療科というのはそれぞれ高い専門性があって、他の科からするとお互いに不可侵なものなのかもしれません。併診用紙なんかの言葉遣いをみればわかりますよね。それ故に、注射薬や未滅菌器具の使い回しなんて、専門領域以前の話なのに誰も正せなかった。ある意味、医局制度とか診療科毎の縦割り体制で、病院全体をコントロールできる力が働かないという病院組織の問題。専門家集団ゆえの問題。

しかし、ここでなにより訴えたいのはナースの倫理観です。

眼科以外の診療科では、不潔な手術器具を滅菌せずに術野に出すなんてありえないという常識は知っているのに、医師からやれといわれたら疑いもなく従うというプロ意識の無さ

医師と看護師間のパターナリズムに満ちた関係性も問題ですが、看護師間の軍隊チックな体質も問題。先輩がやっているから、みんなやっているから。新人ナースが疑問に思っても先輩に逆らえない雰囲気。それがこの間違った慣習を脈々と受け継がせ、麻痺させてきたのです。

特に手術室なんて、医師たちと器械出しと外回りナース二人だけの密室の世界。ナースが口をつぐめば決して表には出ない事故や事件が沢山あります。だからこそ、手術室の看護師こそ、高い倫理観がなくてはいけないのですが、私の知る限りそんな教育が行われたことは一度もありません。

今回の使い回し事件も、防ぎ得たはずのナースがなんの行動もしなかった、最低レベルである上へ報告・相談することすらしなかった。衛生知識が間違っている眼科医がいちばん悪いわけですが、それを食い止めることができる唯一の立場であるオペ室ナースがなにもしなかった責任は重大です。

医師から間違った指示が出された時、私たちはどう行動するか?

教科書的には、みなさん正解を答えると思いますが、実際、誰もできなかった。それが現実です。

なぜ、疑問に感じなかったのか?

疑問に感じていた人たちもいます。では、なぜその人たちは自分の思ったとおりに行動を起こせなかったのか?

そこは検証すべきです。

そこがクリアにならない限り、また同じ過ちは繰り返されます。

しかし、今の病院はその検証を拒んでいます。この期におよんで正面から向き合っていないのです。

私はオペ室ナースでの事後検証デブリーフィングの企画書を作って師長と安全対策室に提案しましたが、そこまでは考えていないと難色を示され、「検討します」お茶を濁して消極的。事実上、放置されるでしょう。



だから言わんこっちゃないという事件が今日起きました。

別の診療科で、術野に出した医療材料をもったいないからといって次の患者に使うように指示されて、それに従ったナースがいたのです。

たまたま発覚したのですが、もう情けなくて涙が出てきました。

なんで、これだけのことが起きたばかりにいま、そんなことができるの?

事故から学ぶというごく当たり前のことを行わないから、こうなるのです。

なんにも学んでいない。

これだけが問題ではありません。あまりに複雑すぎてすべては語れませんが、看護師としての信念・生き方をも根底から覆すような重大な問題をごまかしてウヤムヤにしようとしている病院。

いま、現場では何を信じていいいのかわからない、オペ室としてはナースとして致命的な事態になっています。それを正すという自浄作用が働かない現実。

事はホントはシンプル。現代日本で注射器とか人に使った手術器具をそのまま使いまわすなんてありえないでしょう。いつの時代? どこの国の話? そんなくらいにごく当たり前におかしいことがおかしいと言えなくなる環境。ある意味、戦時中の日本みたいなそんな閉鎖的な社会性が問題なのでしょう。

まだ問題は終わっていません。日々、動いています。私も今後どうなるかわかりません。

うまくまとめられませんが、そんな渦中に私はいます。





この記事へのコメント
その後、このブログ記事に関する反響がいくつか届いています。

今までも疑問に思っていた手術室看護師がこれに勇気付けられて行動を起こしたら、使い回しを止めさせることができた! という報告。

中には、このブログ記事をiPadで眼科医に見せて、自分では語らず記事で訴えたという話も。

ぜひ皆さんも参考にしてください。
Posted by 管理人 at 2012年12月24日 01:05
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。
この記事へのトラックバックURL
http://blog.seesaa.jp/tb/305392011
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック