2006年11月15日

全身麻酔ってなに?

本日のテーマは全身麻酔です。
オペ室で仕事をしていると、全身麻酔は日常なのであたりまえになってしまいますが、初心に立ち返ってみると毎日とっても不思議なことを目の当たりにしているんですよね。

私自身、医療者になる前ですけど、何度か手術を受けたことがあって、全身麻酔も数回経験あるのですが、眠っている間に何が行なわれたんだろうと、とっても不思議でした。麻酔と睡眠の違いがわからなかったし、ウワサによると麻酔の間、心臓や呼吸は停まっているというけど大丈夫なの? とかね。(もちろん心臓は停まりませんよ、呼吸は停まるけど)

学生時代にはじめて手術見学に入ったときも、点滴から薬が入るとさっきまでふつうにしゃべっていた人がアッという間に意識がなくなってしまう現実についていけない感じがしました。


さて、一口に全身麻酔と言いますけど、そもそも全身麻酔って何なのでしょう?

直感的には、全身麻酔が掛る=意識消失と捉えがちですが、実はもうちょっとばかり複雑です。教科書的には全身麻酔は次の三つの要素で成り立っています。

 ・鎮静(催眠・健忘)
 ・鎮痛
 ・筋弛緩

これらの3つの要素がバランスよく発揮される薬があればいいのですが、実際そんなパーフェクトな薬はまだ存在しないようです。そこで現状としては、それぞれ鎮静剤、鎮痛剤、筋弛緩剤をそれぞれ単体を組み合わせて使用するという形で使われています。

実際の全麻導入の場面をイメージしてみてください。静脈ラインからまずはフェンタニール(フェンタネスト®)を打って、プロポフォール(ディプリバン®)で意識消失、次いで臭化ベクロニウム(マスキュラックス®)を入れたりしていませんか?

この場合、塩酸モルヒネの125倍の鎮痛作用があると言われているフェンタニールで鎮痛効果を狙い、静脈麻酔薬のプロポフォールで鎮静(意識消失)させ、臭化ベクロニウムで筋弛緩をかけています。

これら3つの作用があって、はじめて適正な全身麻酔と言えます。

仮に鎮静作用(意識消失)だけで、筋弛緩が弱かったらどうなるでしょう? 開腹手術なら腹膜を開いたとたん腸がズルズルと飛びだしてきてしまうかも。

もし筋弛緩しか作用していなかったら、それはもう悲劇です。意識ははっきりしていて痛みも感じているのに筋弛緩で体は動かないし声も出ない。まさに手も足も出ない状態のまま体を切り刻まれる恐怖体験です。

そこまでひどい例はないにしても、術後に筋弛緩だけが残ってしまった場合など、実は意識は覚めているのに体が動かず怖い思いをしたという話は無きにしもあらず。抜管間際のスタッフの無駄口などがしっかり聞かれていたなんてこと、ありませんか?

実際のところ、麻酔維持に使われるセボフルレンや笑気、もしくはプロポフォールなどにはいちおう鎮静・鎮痛・筋弛緩のすべての作用があります。でもディプリバンは鎮痛効果が弱いとか弱点はありますので、モニターを見ながらフェンタネスト®を追加で打ったりと、麻酔をバランスよくコントロールしていくのが麻酔科医の重要な役割です。

全身麻酔は、「薬を入れて寝かしておけばいいんでしょ」、というような単純なものじゃないんだよというお話しでした。
posted by Metzenbaum at 23:53 | Comment(0) | TrackBack(0) | 外回り/麻酔看護
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