2011年03月16日

ナースにとってのファーストエイド

ファーストエイドに関する記事、第二弾を書こうと思いながら、ずいぶん時間が空いてしまいました。

前回は 日本救急看護学会オフィシャルのファーストエイド についてご紹介しましたが、今回はそれをややクリティカルに掘り下げてみようと思います。

まず、率直にいうと、「日本救急看護学会のファーストエイド」は、ファーストエイドとは違うな、と思います。

ファーストエイドでないとすると、じゃあ、なにか?

むしろ「ナース向け院内急変対応」プログラム、といった方が妥当ではないかと。


ファーストエイドといえば普通は病院外での応急手当を指します。

日本救急看護学会も「場所や状況を問わずに発生する様々な救急・急変時に、専門的な救急処置が開始されるまでの間、看護職として適切な緊急・応急処置ができる」ことを目指すとしており、いちおう病院外も考えてはいるようです。

しかし、実際の中身を見ると、ほとんどが病院内での急変対応に終始していて一番知りたい病院外でのバイスタンダーとしての活動については触れられていないのが残念。

たとえば、アナフィラキシーに関するページでは、、

「気管挿管が遅れないよう、ただちに医師を呼び、早期の気管挿管、ファイバーによる挿管、輪状甲状靭帯穿刺、切開を考慮、準備する」
「リザーバー付き酸素マスク10リットル/分以上の高濃度酸素を投与する」
「喘鳴音が聴取されれば喘息同様の治療も考慮し、β2刺激薬(硫酸サルブタモールなど)の吸入を行う」

などと書かれています。

部分抜粋ではありますが、どうみてもファーストエイドじゃないですよね。

他のページでも、平気で「モニター装着」「末梢静脈ラインを確保」などと書かれていて、普通に院内急変対応マニュアルになっています。


おそらく「ファーストエイド」という言葉の使い方が間違っている、というか、少なくとも私と日本救急看護学会のファーストエイドの定義・認識が違っているんでしょうね。

ちなみにファーストエイドに関しては国際的な定義があります。(日本語は私の勝手な訳です)

We define first aid as the assessments and interventions that can be performed by a bystander (or by the victim) with minimal or no medical equipment.

ファーストエイドは、バイスタンダーもしくは傷病者自身によって行われる最小限ないしは医療器具を用いないで行われるアセスメントと介入(処置)と定義づける


これは International First Aid Science Advisory Board が制定したファーストエイド国際ガイドライン2010の定義です。

International First Aid Science Advisory Board には、日本からも Resuscitation Council of Asia(≒日本蘇生協議会)として代表者が参加していますので、当然、日本もこのガイドラインに批准するはずです。(G2010のドラフト版には含まれていませんでしたが)

ですから、やっぱり日本救急看護学会の「ファーストエイド」は、ちょっと違う気がするんですよね。


かといって、日本救急看護学会の「ファーストエイド」がダメと言っているわけでは決してありません。

研修医向けの当直マニュアルとか救急外来対応マニュアルみたいな本はたくさんありますが、そういった総合的な本のナース向けってあまりなかったと思うからです。

そういった意味で、病院内のナース向け総合急変対応マニュアルとしては、とてもよくできたテキストだとおもいます。



でも、本当の意味でファーストエイド、つまり病院外で身ひとつで出来ることを知りたい方は、医学書以外に目を向けたほうがいいかもしれません。

そこで現時点、お勧めの独習用のファーストエイドテキストはは次の3冊。

いずれも翻訳本ですが、やっぱりファーストエイドは欧米のものが優れています。どれもきちんと傷病者評価法(アセスメント)について記述されている点がポイント。日本の応急処置の本は、処置ばかりで傷病者の総合的な観察について書かれていないことが多いので。市民向けの本ではありますが、医療者としてはここは是非おさえておきたいところです。PALSやPEARS、JPTECなどと同じ流れで書かれています(でも、あくまで市民向けの本です、あちらでは)。

アトラス応急処置マニュアル 原書第9版
※3冊の中ではいちばん新しい内容。イギリスの本なのでERCガイドライン2005準拠。

ファーストエイドとCPR―NSC標準救急法マニュアル
※CPRに関しては内容はAHA-G2000で古いもののFAの内容としては随一

こどものファーストエイド―こどものケアを行うすべての人のために
※傷病者評価では定評のあるPALSやPEARSを作った米国小児科学会(AAP)の本。



次回、内容を詳しくご紹介します。



posted by Metzenbaum at 00:23 | Comment(4) | TrackBack(0) | 救急蘇生 (BLS、ACLS)
この記事へのコメント
 いつもブログを楽しみに拝見しています。

 しかし、最近は批判的なことばかりの内容なので少しがっかりです。そういう視点からばかり見ていると、本当にすばらしいものが見えなくなりますし、残念です。一体何をみんなに訴えたいのかもわかりません。

 手術室看護師がいやならそろそろ引退して、病棟看護師になればどうですか?

 また新しい新鮮な気持ちで看護師が勤められると思いますよ。

 また返事下さい。


               Nsマン
Posted by Nsマン at 2011年03月17日 01:04
いつも拝見しています。

ファーストエイドについて私も同意見です。

日本救急看護学会がようやく出してくましたが、内容を見ると期待していたものとかなり違っていて残念です。

看護学校では、病院内での技術や知識については教わります。しかし、応急処置については無に等しいです。

最近の傾向として病院内急変対応について力を入れていますので、応急処置についてはまだ先かもしれません。

翻訳本などで自己研鑽するしかないですね。





Posted by Gaspard at 2011年03月21日 19:40
エピペンの記事からこちらも読まさせていただきました。
大変興味深く、コメントさせていただいてます。

自分はWMAという機関でアシスタントインストラクターとして働いており、野外環境でのファーストエイドを教えています。
春と秋に日本でも毎年合計8回ほど講習会を開いています。

ナース、救命士、医師の講習生も増えてきました。
何も無い場所での救護救命。
皆さん驚かれていました。
北米では当たり前とされているプロトコールやガイドラインも日本では全く新しいもののようでした。
アナフィラキシーも喘息も開放骨折も脱臼も気道確保も出血もその他多くの傷病に対して、北米では野外環境においてその場で出来る事はその場で処置します。
そこにあるものだけで、どうやって救えるか。かなり工夫しています。
搬送や固定にも持っているものだけでどう出来るか。実際にやってもらいます。
新しい掃官なども教えはじめています。
http://www.kingsystems.com/medical-devices-supplies-products/airway-management/supraglottic-airways/disposable-supraglottic/
これからこれが救急掃官のベーシックになると思います。
日本のファーストエイド事情は、言葉が悪いですがまだまだのように見受けられます。
ですが、少しずつその必要性は民間の意識の中にも根付いてきているように思います。

来年の1月にはドクターと看護士・救命救急士にのみオープンする野外救命講座を開きます。
もし興味がありましたらご連絡ください。

日本の実状をもっともっと知りたく、このブログはとても素敵な場所だと思います。
本当にありがとうございます。
僕自身勉強が足りないので、いつか質問させてもらうかもしれません。
よろしくお願いします。


たくや
Posted by たくや at 2011年04月28日 12:02
たくやさん

メッセージありがとうございます。

噂には聞いていた医療者向けのWFA、実現するんですね! ぜひ参加したいです。OBS経由で告知が出るんでしょうか? クローズドコースでしたら、ぜひ教えてほしいです。

WMAのWilderness Advanced First Aidは私も受講させていただいて目から鱗でした。理論だった救急法って日本にはないので、医療従事者に是非受けてほしい講習と思いました。反面、米国人インストラクターは仕方ないにしても、日本側の主催者が日本の法律に関する問題点をまったくフォローしていないのは問題とも思っています。

今回3名の日本人インストラクターが誕生したと聞いています。たくやさんもそのお一人と思いますが、ぜひ日本の医師法を含めた諸問題をきちんと伝えられる体制となることを願っています。

別のブログですが、WFA関連記事を書いていますので、よければ参考にどうぞ。
これ以外にも過去ログにいろいろあります。


特殊なプロトコル、日本の常識との違い、法的問題
http://aha-bls-instructor.seesaa.net/article/134720976.html

ウィルダネス・ファーストエイドの受講対象と特殊性
http://aha-bls-instructor.seesaa.net/article/138468084.html

市民に医療行為を教えることの意味
http://aha-bls-instructor.seesaa.net/article/134817993.html

ウィルダネス・ファーストエイドの医行為に関する法的考察
http://aha-bls-instructor.seesaa.net/article/162781775.html


> 新しい掃官なども教えはじめています。
> これからこれが救急掃官のベーシックになると思います。

挿管、でしょうか?

写真を拝見しますと、コンビチューブですね。日本でも救急隊などで使っているようですが、あまりメジャーじゃなく、同じく盲目的に挿管できるものでは日本ではラリンジアルマスクの方が選ばれています。
Posted by 管理人 at 2011年04月29日 23:46
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック