手術の直介(器械出し業務)では、執刀医師と同じようにガウンを着て、マスクをして、手袋をはめて、と万全の体制で臨んでいるはずですけど、意外と盲点なのが目の防御です。
海外ドラマの「ER」などを見ると、外傷患者が運ばれてくると、スタッフはみんなガウンを着て、目には防護メガネをかけています。血液や患者の咳で飛んでくる体液が目に入らないように守っているわけですね。
マスク、手袋まではいいとしても、ゴーグルで目を守るという発想はこれまでの日本医療界にはあまりありませんでした。最近、言われている「標準防護策」ではようやく防護メガネ(ゴーグル)について触れられるようになりましたが、非常に遅れている部分だと思います。
実際、ハンマーとノミでガンガンと骨を削っていく人工物手術では肉片や骨のカケラなどがバシバシ顔をに飛んできますし、内シャント作成や血栓除去など血管系の手術では動脈性のピューという血しぶきを浴びることも珍しくありません。変わったところだと泌尿器科の前立腺全摘で、切った尿道を再建するためにバルーンをちょんぎったときに腹腔内から飛びだしたおしっこが顔にかかったなんてことも、、、、
皆さんの手術室では、保護メガネ/ゴーグルがきちんと準備されているでしょうか?
そしてそれを活用しているでしょうか?
特にうちは非常に遅れていて、オペ室に置いてある防護ゴーグルは超旧式でレンズ面も傷だらけ。とても使えたようなものではありません。(それでも人工物手術をする整形ドクターは使ってますけど、、、)
感染症患者の血管手術の場合などは、ナース側も我慢しつつこのゴーグルを使っていますが、本来そういうものじゃないと思うんですよね。もっと気軽に使えるように新しい防護メガネを買い換えてほしいと上に掛け合っているのですが、どうも動きが緩慢な病院組織。
埒があかない、ということで、私は自前で防護メガネを準備して使っています。探してみると医療用ではない民生品にいいものがあるんですよね。
紆余曲折の上、いま私が愛用しているのはアメリカの Smith & Wesson 社が作っているシューティグ・グラスです。スミス&ウェッソンといえば言わずとしれた世界的な拳銃メーカー。実弾射撃の際に飛び散る火薬のカスから目を守るために作られたアイ・シールド(防護眼鏡)ですが、これがなかなかいいんですよ。
「目を守る」ために作られていますので、顔の彎曲に合わせて弧状になっていて目との密着度も高く、隙間から血液などが飛び込んでくることのないような造りになっています。
↑スミス&ウェッソン社のアイ・プロテクター"ファントム Phantom"
ガラスの20倍の耐久性があると言われているポリカーボネイト製なので、フレーム・レスで視野がとっても広いし、なにより軽い(30g)!
さらにコイツを気に入っているポイントは、曇り止め加工がされている点。スミス&ウェッソンのアイ・プロテクターに行き着くまでには、ホームセンターで売っている工事用の防護メガネなどいくつも試したのですが、どれも自分の呼気で曇ってしまってダメでした。
手術用のマスクをつけると、自分の吐いた息がマスクの上の部分から逃げていくので、どうしてもメガネの内側が曇ってしまうんですよね。曇らないくらいに通気性のいいメガネとなると、今度は隙間が大きすぎて本来の飛んでくる血液からの保護という点では劣るわけで、、、、
その点、このS&Wの保護眼鏡は直接息をハァっと吹きかけてもまったく曇る気配はありません。
本来は射撃用のシューティング・グラスですが、機能的には思いっきり手術室向けと言ってもいいと思います。実際のところアメリカでは拳銃射撃用のみならず、救急隊員や、風よけという意味でスポーツ選手などにも使われているそうです。「メディック・ファーストエイド」などアメリカ生まれの救急法講習を受けるとレクチャー・ビデオの中で救助者は必ず防護メガネを着用していますが、こういったものがアメリカでは広く普及しているんでしょうね。
このスタイリッシュなフォルムも、日本の防護メガネにはあり得ないデザインです。医療用ゴーグルともなればなおさら。
私は手術で器械出しに付くときはもちろん、器械洗いのときも防護メガネを必ずつけるようにしています。意外と術中より術後の器械洗い(ブラッシング)のときに汚水が顔に跳ねることが多いんですよね。あと抜管のとき、咳とともに痰を飛ばされることも多かったり。このメガネは軽くて着けている感じがしないので1日中着けっぱなしでも疲れないのもいいです。
オペナースの場合、病棟勤務と違って自前で用意する医療グッズというのはほとんどありません。ステート(聴診器)なんかもほとんど使わないし、ペンライトも駆血帯も不要。使うとしたらせいぜいハサミくらいですけど、それと併せて防護メガネを準備、なんていうのもいかにもORナースらしい選択かもしれません。
まあ、ホントは病院でしっかりとそういう感染防護グッズを揃えておくべきなんですけどね。近い将来、それも標準になることでしょう。ただ、このレベルの防護メガネが医療品として開発されるかどうかは甚だ疑問です。
(『ファイヤーマン・アイプロテクター』という消防関係者/医療関係者限定販売の専用防護メガネがありますが、やや重いのと値段が高いのがネック。あとはデザイン、こればっかりはアメリカ製には到底かなわない感じです。これについてもいつかインプレッションを書こうと思っています。モノは悪くないです。)
最後に注意点ですが、私が愛用しているスミス&ウェッソン社の"ファントム"ですが、なぜか曇り止め(anti fog/fog free)タイプは廃盤になってしまったそうで、現在市販されているタイプはフォグ・フリー(fog free)ではありません。顔への密着度が高いので曇り止め加工がないとオペ室での使用にはちょっとキツイかもしれません。(市販の曇り止め液を併用する方法もありますけど)
おなじスミス&ウェッソン社の"マグナム Magnum"というタイプなら、まだ曇り止め加工されたモデルが作られているようです。
↑スミス&ウェッソン社の"マグナム Magnum"
実は私、コイツも持っているんですけど、単にデザインが違うだけで目を守る機能は同じです。見た目がちょっと派手で、意識下の患者さんの前で付けているとちょっと恥ずかしい気がして私はあまり使わないのですが、器械出しのときだけというのであれば、ぜんぜん問題ないとは思います。テンプルの部分はファントムよりしっかりしていますので、こめかみへのフィット感はこっちの方がいいかも。
S&W社の保護眼鏡は、東急ハンズやバイク用アクセサリー店などで取り扱っていますが、ヤフー・オークションでもたまに安く出品されているので、興味がある人は探してみてください。ただし、買うなら曇り止め(Fog Free)タイプであるかの確認をお忘れなく!
器械出しのときのゴーグルの着用について何ですが、私の施設も対応が十分でなく、ほかの施設の対応を知ることができたのはとても参考になりました。私の病院では、ゴーグルは、着用するのに大きすぎたり、傷だらけだったり…。後は、フェイスシールド付きのマスクを使用することもあります。また、感染症があるときにしかかけないです。(私は血液などがかかりそうなときには必ずしていますが)
感染対策なども、どんどん新しい常識が出てきて、現場とのギャップを感じながら日々過ごしています。感染対策(器械の洗浄、麻酔器関連、感染症の扱いなど)についても、いつかお話が聞けたらと思います。
ゴールデンウィークもその次の週も泊まりがけで遊びに行ってたもんで、なんか5月はスゴイ忙しかった印象があります。まぁ、遊びで忙しいんだから幸せなことですけど。
ゴーグルはやっぱり日本はどこも遅れてますよね。
感染といえば病棟中心の針刺し事故のことばかりで、目の防御なんてオペ室、カテ室、ERくらいでしょうか。まだ広く議論されるには至ってない感じがあります。
でも、あと1-2年もすればきっとゴーグルが標準装備という時代が来ますよ。
もっと気軽にサクッと使えるような防護メガネを、と思っていき着いたのが今回の記事の内容だったんですよ。ここにくるまでに結構散財しちゃいました。
「器械の洗浄、麻酔器関連、感染症の扱いなど」
このあたりも興味のある分野なんですけど、ここで取り上げるにはもうちょっと勉強しないとダメかも。オペ室の領域もその気になるといろいろ幅広く勉強しないといけませんね。
だけど、実際に働いてみると、今年の1年目は私一人だけで心細いものもあります。ほんっと、2ヶ月半でかなりへこんでます…。ここでは、先輩に聞きづらい事など、分かりやすく説明してあって本当に感謝してます。いつも楽しみにしてます。
管理人さんの病院は、うちに比べて一日のOP件数も多いように思ったのですが、何床ぐらいの病院なんですか?
オペ室への配属、ひとりだけだったんですね。
この時期、同期の病棟勤務の人と話しても、ちっとも話がかみ合わないし、淋しい思いをするというのはよく分かります。
病院のなかで仲間はずれな感じがしてしまう職場なんですよね、残念ながら。
でもネットの世界なら、いろんなオペ室ナースの人と知り合えますので、どうぞそういったものも活用してみてくださいね。オペナースでウェブサイトなりブログなりを運営している人もかなりの数いますので。
さてご質問の件ですが、うちの病院は700床の総合病院で、オペ件数は年間6000件ほどです。(局麻オペ含む)これに対してナース数は30人弱。スタッフ数が足りてないというのが現場の実感です。
この3月からオペ室勤務となり、「オペナース」で検索したところ、辿りつきました!!
針・糸(バイクリルとか)の事とか、TURの事、Z縫合の事、すごくわかりやすかったです。感謝感謝です。ちょうどTURや形成についていた頃だったので・・・。
いままで病棟で勤務していたので、オぺ室は“未知の世界”です。
これからも参考にさせていただきます。
ゴーグルについて、うちの病院は、プラスチックのゴーグルの柄とゴーグル(プラスチックのペラペラの1枚のシート)があって、シートだけ使い捨てになっています。先輩に、目からも感染するので装着するように教わりました。
手術室に配属されて、感染(針刺し事故とか)のリスクが高い事が心配です・・・。
このブログが少しでもお役に立てたのならうれしいです。
病棟勤務者と違って情報交換の場所がきわめて少ない職場
ですので、ぜひここも含めてネットの世界を活用してみてくださいね。
ヨーチさんのおっしゃるゴーグルというのはキンバリークラーク社の「セーフビュー・アイシールド」ですね、きっと。(http://www.nihonkohden.co.jp/iryo/animal/yobou.html)
シンプルな造りで軽いし気軽に着けてられる。おそらく現行の医療用アイシールドとしてはいちばん使いやすいかも。
でも残念ながら曇るんですよね。まあ、上の方が隙間があいてますので、息を吐いたときに曇るだけで、曇りっぱなしということはないのですが、ちょっと気になります。
あと、造りがシンプルすぎるせいか、帽子やマスクのヒモがあるとズレやすくありませんか? 長いオペだとテープで留めておかないとちょっと不安な感じ。その点を除けば悪くはないと思ってます。
ヨーチさんの職場では、ゴーグルを着けるのがあたりまえみたい良い風潮にあるんでしょうか? うちはまだまだ。もっと普及させたいなと思っているところなんですよ。
私もこれを発見(?)したときはすごく意外だったんですが、医療用以外の方がいいものが多いんですよね。たまたま私はS&Wのシューティング・グラスを愛用していますが、うちの脳外のDr.はFILAのスポーツ・サングラスを使っています。サングラスといっても、スポーツ用のはクリアグラスタイプもあるので、オペ室でも使えそうなのが多いんですよね。一度スポーツ・オーソリティーなどのスポーツ用品店も覗いてみることをお薦めします。選択肢は広いと思いますが、外国産がほとんどなので、相対的に鼻が低い日本人の顔に合うかどうかと、医療用として使うのなら曇り止めが重要です。スポーツ用でも曇り止め加工してある製品もありますので、そのあたりを注意して探されるといいと思いますよ。
でも、"ファントム"カッコいいなぁ。
古いナース以外はほとんど使ってます。
Dr.にも徐々に浸透していていい感じ。
古い新聞記事なんですが、研修医の女医さんがオペ中にC肝の血を目に浴びて、罹患、その後産まれてきた子供にも母子感染していたという事例があったようです。
その新聞記事のコピーを手洗い場のまえに張っておいたりとか、私たちのキャンペーン効果が功を奏したのかなと思っています。
ここさんは医療従事者でらっしゃいますか?
スタンダードプリコーションという考え方がいまの医療現場では浸透しています。
汗を除く体液はすべて感染源とする考え方です。
これらに被爆したら感染の可能性があると考え防御策を徹底しますが、感染するかどうかは別問題です。実際のところ感染率は低いですが、被爆した報告をして必要な検査を受け、追跡調査を受けるのが労働者としての権利であり、雇用者の義務です。
感染率云々というのはあまり重要ではありません。