2006年05月07日

泌尿器科/経尿道的膀胱鏡手術(TUR等)手術のツボ

今日は、手術とは言ってもちょっと特殊な感じがする
泌尿器科の膀胱鏡手術について書いてみたいと思います。

まず経尿道的手術にはどんなものがあるのかという総論から。

・TUR−BT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)
・TUR−P(経尿道的前立腺切除術)
・TUL(経尿道的尿路結石破砕術)
・RP(逆行性腎盂造影)
・尿管ステント留置


以上が私の勤務する手術室で日常的に行なわれている膀胱鏡手術です。
いずれも内視鏡を尿道から入れて、それで膀胱内(場合によっては尿管や尿道内)を見ながら、電気メスや鉗子を入れていろいろな操作をするという術式になります。

1.灌流液について
 膀胱鏡を使うためには、膀胱内に液体を流し込んで、膀胱を膨らませた状態にしてやる必要があります。そのために使う液体が灌流液と呼ばれていますが、灌流液には大まかに2種類あって、一般的な生理食塩水(生食)を使う場合とウロ内視鏡手術用専用に調整された「ウロマチック®」を使う場合があります。

他施設では、もしかしたらすべて「ウロマチック®」を使っているというところもあるかもしれませんが、私の施設では術式によって使い分けています。

簡単にいうと、電気メスを使う場合はウロマチック®、そうでない手術では生理食塩水(生食)を使っています。術式でいうなら、TUR系(経尿道的切除術)は電メスで組織を焼き切る手術ですのでウロマチック®を使います。それに対して、TUL(経尿道的尿路結石破砕術)やステント留置などは、電メスは使わず、ただ膀胱内を覗くのに液体が必要なだけなので、コスト的に安い生理食塩水を使っています。

なぜ電メスを使うオペに生食を使ってはいけないのかといいますと、生理食塩水は電気を通してしまうからです。小学校(中学校だったかな)の理科の実験でやったと思いますが、純粋な水は電気を通しませんが、純水に食塩を溶かすと、溶液中で塩素イオンとナトリウムイオンに分解して、電気を通すようになります。

ふつう電気メスは、電極が人体の組織と接触した部分だけを焼いたり切ったりするわけですが、膀胱内が電気を通す液体で満たされていると、本来は焼かなくていい場所まで焼けてしまったり(まあ、それは実際ありませんけど)、よけいな所に電気エネルギーが流れてエネルギー効率が悪くなってしまいます。そこで電気メスを使うTUR手術には、「ウロマチック®」という電気を通さないに調整されたウロ内視鏡手術専用の液体を使っています。

ちなみに、ウロマチック®の成分は、水にソルビトールという糖の一種を溶かしたものです。糖は水に溶けてもイオン化しないので電気を通さないというわけです。それじゃ、最初から電気を通さない蒸留水を使えばいいじゃない? という気もしますが、その場合は浸透圧の関係であまり適さないみたいです。

『浸透圧』… 高校の物理や看護学校の生理学でも勉強したと思いますが、覚えてますか?

浸透圧というのは、濃度の濃い液体と、薄い液体の間に働く力のことです。人間の粘膜は水を透過します。これがまず大前提。蒸留水の場合、人間の体液に比べて濃度が薄いですから蒸留水を膀胱内に入れると、膀胱の壁(粘膜)から水分が吸収されてどんどん体の中に入っていってしまいます。ちょうど、お風呂に長く入っていると指先がふやけてくるのと同じですね。

逆に人間の体液より濃度が濃い液体の中、例えば海の中に入っていると、人間の体の水分はどんどん外に出ていってしまいます。海に長く入っていても手が全然ふやけないというのは、そのためです。むしろ体の水気は奪われている状態。

それとおなじで、膀胱鏡手術に使う灌流液も、濃度が人体より濃くても薄くても余計な水分の行き来が生じてしまってあまり良くありません。そのため、食塩とか糖など水に溶ける物質を使って、液体濃度(浸透圧)を人体とおなじ濃さに調整しておく必要があるんです。

今更言うこともありませんが、生理食塩水とは水に0.9%の食塩を溶かしたものです。このときの濃度がちょうど人間の体液の濃度とおなじになるので、特別に「生理(的)食塩水」と呼ばれています。(実際のところ、ウロマチック®は生理食塩水より若干薄く作られているようです。理由は、、、、ウロの Dr.によると膀胱内に充満させるため圧力がふつうよりかかるので浸透圧は低めに設定してあるのだとか、、、、。文献からの裏付けはとってません)

今後、泌尿器科の灌流液を使う手術に入って、あれ? ウロマチックと生食どっちを準備するんだっけ? という時はいまの話を思い出してみて下さい。

2.TUR症候群について
膀胱鏡手術のとき、絶対覚えておきたいのが、TUR症候群です。別名、TUR反応とか水中毒という言い方もします。簡単にいえば、灌流液が体内に吸収されて、結果細胞外液が薄くなって、低ナトリウム血症等の電解質異常を起こす現象です。

そうしたTUR反応が起こりやすいのがTURーP(経尿道的前立腺切除術)といわれています。なぜなら、まずオペ時間が長く灌流液を大量に使うこと。また広範囲にわたって電気メスで削っていくので、血管の破綻が多く、そこから灌流液が体内に吸収されやすいからです。そのため私の勤務する病院ではTUR−Pの場合だけ、術後採血がオーダーされています。

TUR反応の症状としては気分が悪くなったり、血圧が上がった後に、下がってショック状態になったり。こういう反応が見られたら、血液ガスを調べて、必要なら昇圧剤を使ったり、ナトリウムを補充したりします。長く続いたTURの術中、術後に患者さんの様態が悪くなったという場合は、TUR症候群を疑ってみて下さい。

あと、これは自分自身は出くわしたことはないのですが、ウロマチックには糖が入っているので、高血糖を引き起こすこともあるようです。このあたりもTURオペ看護のポイントかもしれません。

posted by Metzenbaum at 16:10 | Comment(10) | TrackBack(0) | 外回り/麻酔看護
この記事へのコメント
こんばんわ。今度、縫合糸についての勉強会を開催しなければいけなくなったんです。前にも少しかいていらっしゃるので大変参考になります。今、悩んでいるのは、P-3とかSH-1とかよく目にするんですが、あれは何を表しているんでしょうか?針の種類なのかな?とは思っているんでが。なかなかいい資料もなく悩んでいます。なにかいい解説があればいただきたいのですが・・・。
Posted by れん at 2006年05月13日 23:46
うちのオペ室に置いてある糸(針付き)を見てきたら、確かに
いろいろな記号が書かれていました。

PS-2、P-3、TF、SH、CTXB、CTB-1、CT-1、RB-1などなど。

太さの違う糸でもおなじ形の針が付いているものには
おなじ記号が書かれていた、ということは「針の種類」
を表わす記号なんじゃないでしょうか。

基本的に、針に関する情報は、以前ブログ記事にもアップしましたが、
針の彎曲、大きさ、角針or丸針と言ったことがほぼすべてです。
それらはそれらで、きちんとパッケージに書かれていますので、
PS-2などは、その針の製品番号と理解したらいいのかなという気がします。
この記号がメーカー独自のものか、それとも統一規格として定められたものか
はわかりません。

針糸メーカーの人に聞いてみたら、「調べておきますね」とのこと。
どうもさほど重要なデータではなさそうですよ。
メーカーの方から情報が入ったら、またこちらにもアップしますね。
Posted by 管理人 at 2006年05月15日 17:50
ありがとうございます。自分も調べてみます。
Posted by れん at 2006年05月16日 22:21
わー、チェックが遅かったです〜!
まさに今日、TUR祭りに駆り出されました〜。
そしてウロの先生に
「お前、TUR症候群とかわかってついてるんだろうな」
なんて言われてました(泣)
なんでウロマチックを使うかも知りませんでした!
いつもとてもわかりやすい説明をありがとうございます!
次回も楽しみにしていま〜す♪
Posted by なっちゃん at 2006年05月26日 22:34
いや〜、TUR祭りですか、、(苦笑)
TURってひとつひとつのオペはたいへんじゃないんだけど、件数が多いんですよね。部屋の入れ替え、器械の洗浄&消毒と大忙し。
うちのオペ室でもウロのミズモノ手術6-7件なんてよくあります。
やめて欲しいのが、TUR4-5件くらいやった後に入ってる前立腺全摘。どう考えたって時間内に終わる分けないでしょ! という感じなんですけど、よくありがちなパターンです。
Posted by 管理人 at 2006年05月27日 15:52
私もTUR祭に早く参加したかったです。うちのオペ室でもTUR-Pがなぜか一日に何件もやる日があります。そんなときはみんなピーピー祭りだーと言っています。今日もやりました。新人さんが2回目ということでフォローに入りましたが、外回り業務にいっぱいいっぱいのようでした。オペ終了後に反省会をしまいた。そこで水中毒のことやバルンの固定の違いなど質問しましたが、頭にはいっていないようで宿題にしましたが、ぜひこのTURについての記事をみせてあげたいと思いました。
Posted by エリンダ at 2007年12月26日 23:50
前立腺肥大症患者さんの事例を使って事例研究をしています。TURーPについて,灌琉液についてとてもわかりやすく書かれていて勉強になりました!灌琉液についてはどこ探しても書かれていなかったのでほんとに助かりました!
Posted by み〜 at 2009年06月20日 19:53
TURのお話を興味深く読ませていただきました。
私はウロ担当しています。ウロ医師と共にウロ手術について日々話しています。
私も「ウロマチック®」と「生食」を使い分けしていますが、周囲の看護師には???らしく、説明しても反応が薄い!!

最近は医師も私も言わなくなりました。

ところで最近のウロ学会では生食でのTURが出来る内視鏡が流行ってる!?そうです。
たしか「オリンパス」でした。

今回、内視鏡セットを追加購入するにあたり、今 医師と悩みどころです。
生食でのTURを実施している施設があれば、どうなのか教えて頂きたいです。
Posted by あめこ at 2009年08月09日 23:34
私の勤務している病院では TUR-Pに生食で使用できるオリンパス社のTUR-isシステムを使用しています。灌流液のコスト面、水中毒の心配が少なく対極板も必要ありません。
閉鎖神経反射もでません。
最近はTUR−isV(生食使用)が登場し従来のループで削る縦の動きに加え横の動きができ
前立腺体積の大きい症例に対しても凝固しながら切開していくので、出血が少なくすみ、手術時間の短縮がはかれ患者さんの負担軽減につながっています。
おすすめだと思いますよ。

Posted by うちちー at 2009年09月03日 23:36
とっても勉強になりました;;
教科書等よりわかりやすかったです;;
Posted by 2年目Ns at 2011年04月27日 21:55
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