今日は、手術に使う縫合糸のパッケージに書いてあるデータの読み方を説明していきたいと思います。
例として挙げた上の写真は、PSDIIというエチコン(Ethicon)社が出している針付き縫合糸の外装袋です。
昨日は、手術に使う糸は、吸収糸と非吸収糸、編み糸かモノフィラメントかに区別されるという話をしましたが、そういった糸の"素性"というのは、こうしたパッケージをみればすべて書かれています。ただ、縫合糸のほとんどは輸入製品のため、ぜんぶ英語表記なのがネック。皆さん、いままでマジマジとこのパッケージに書いてあることを読んだことってあります?
それでは、うえの写真にふった番号に沿って説明していきます。(写真をクリックすると別枠で拡大表示されます)
(1) 糸の太さ
ここには5-0と書いてありますが、これは糸の太さを表わしています。6-0、7-0と順番に続いていきますが、0の前の数が増えるに従って糸はどんどん細くなります。反対に4-0、3-0、2-0となると太くなる。1-0を越えてもっと太くなると今度は1、2、3と数字が付くようになります。ここがちょっとわかりにくいところなのですが、例えば5-0というのは"00000"とゼロが5個並んだ状態を意味していると考えてください。
つまり、
(細い) 0000 < 000 < 00 < 0 < 1 < 2 < 3 (太い)
ということでおわかりでしょうか?
通常は2-0、3-0あたりの太さが標準的で、消化器外科で単に「糸ちょうだい」と言われたら2-0を出せばそう大きくは間違いはないと思います。
太い1号の糸を使うとすれば相当大きく開いた創を寄せながら縫う場合とか、アキレス腱の縫合など。反対に5-0、6-0と言った細い糸を使うのは形成外科で細かく皮膚縫いをするときや、心臓血管外科で細い血管を縫うとき。さらに細い10-0なんて糸を使うのは眼科くらいなものでしょうか。
余談ですが、0号の糸は、1-0という言い方をする場合もあります。0が1個だから1-0。おなじことなのでご注意を。
日本では、縫合糸の太さを表わすのは2-0、3-0という言い方が主流ですが、これはイギリス式に準じているようです。このほかに世界標準のメートル法に合わせた表記の仕方もあり、5-0と大きく書かれた下にある(1.0 Metric)というのがそれにあたります。"Metric"というのは「メートル法の」という意味。この1.0というのを1/10にしたのがmm単位の最小直径になるそうです。つまり5-0というのは0.1mmのこと。測ったことはないのでホントかどうかはわかりませんけど、ものの本にはそんなふうに解説してありました。
(2) 糸の長さ
18" (45cm)と書かれていますが、これはお察しのとおり糸の長さです。おなじ太さの糸でも45cmと70cmなど、長さ違いの製品が存在するので要注意です。ちなみに18"というのは、アメリカなどで使われているインチ表記です。1インチは約2.5cm。18×2.5=45cmというわけです。(3) 針の形状
例に挙げた製品は「針付きの糸」なのですが、このように針付きの場合は必ず針の大きさと彎曲の具合がほぼ実物大のイラストで描かれることになっています。おなじ太さ・長さの糸でも、針の形・大きさが違うタイプの製品がありますので注意が必要。また、付いている針が角針か丸針かは非常に重要な問題で、丸針(Taper needle)だと◎みたいな感じに記号が描かれています。角針(Cutting needle)の場合は▽マークが付いていますので、これは必ずチェックするようにしてください。腸管や薄い膜などを縫うときには必ず丸針を使います。角針だと針穴から裂けてしまう危険があるため、オペナースとしては角針か丸針かは非常に重要なポイントなんです。
左:角針/右:丸針
◎印のまえに、1/2と書かれていますが、これは針の彎曲が1/2円周(強彎針)であることを示しています。上の針の図を見てもらえばわかると思いますが、ちょうど円を半分(1/2)にしたような形をしているでしょ?
これ以外には3/8円周針(弱彎針)というのもあり、こちらはカーブの具合がもっと緩くなっています。縫うときの手首の返しのしやすさの関係上、浅い部分を縫うときには弱彎針、深い部分では強彎針が使われる傾向がありますが、まあ、Dr.の好き好きによる部分が大きいです。
(4) 編み糸かモノフィラメントか
PDSIIというのは商品名なのですが、その下に書いてある"Violet Monofilament"という部分が重要。 Monofilament、つまりモノフィラメントですね。単繊維糸。頭のバイオレットというのは糸の色を表わしています。PDSの場合は、透明な糸と色付き(紫)のバージョンが存在し、ふつうは縫っている最中に糸が見えやすいバイオレットを使いますが、皮下縫いや真皮縫合などでは色付きだと皮膚の上から糸が透けて見えてしまい美的に好ましくないということで透明糸が選ばれます。今回はたまたまモノフィラメントの例を挙げましたが、これが編み糸の場合だと、英語でBraidedと書かれます。ブレイド(Braid)というのは"編む"という意味の英単語(動詞)で、それの過去分詞形。「編まれたもの」ということです。
よく絹糸のことをブレードシルクといいますけど、シルク(絹)を編んで作った糸という意味です。絹糸は天然素材ですので、絹のモノフィラメント糸というのはたぶん存在しないです。絹糸といったら編み糸。
(5) コントロール・リリース
赤い囲み字で(CR/8)と書かれていますが、CRというのはControl Releaseの略で、ちょっと力を掛けると糸から針が簡単に外れる設計になってますよという意味です。よくデタッチ detach の糸、という言い方もされます。連続縫合をせず、一針一針を結ぶような縫い方をする場合に、このデタッチの糸が使われます。このControl Releaseという言葉は、エチコン(糸メーカー)の商標みたいなモンで、別の会社の糸では別の言葉で表記されている場合もあります。コントロール・リリースと銘打たれていない針付き糸の場合は、ハサミで切らない限り、よっぽどのことでない限り糸と針が外れることはありません。
次に(CR/8)の8の部分は、これは針糸が8本入ってますよという意味。ひとつのパッケージに糸が何本入っているかは結構重要な問題なので、チェックしておくようにしてください。特に針付き糸の場合は、閉創前の針カウントを行なう際にも大事になってきます。
(6) 有効期限
これはおまけですが、この部分にはこの針糸の滅菌有効期限が書かれています。「EXPJAN10」とあって、一見意味不明な記号に見えますが、最初のEXPはexpiration date=有効期限の略。これは糸に限らず輸入物の医材にはありがちな表記なので絶対に覚えておいてください。JANというのはJanuary(1月)の略。2月ならFEBですし、12月ならDEC。このあたりは大丈夫ですね。最後の10というのは「年」です。英語表記ですから当然これは2010年の意味。
滅菌期限チェックは滅菌物を日常的に扱うORナースの基本中の基本ですからね。確実に覚えておいてください。
私は4月からオペ室勤務になりました。
病棟とは違い、全くの新人に戻った感じです。
糸の話 勉強になります〜 明日パッケージじっくり見てみます。
これからも更新楽しみにしています。
書き込み、どうもありがとうございました。
病棟からの突然の異動、つらいですよね。
実は私、院内ローテーターのプリセプターをやってまして、
経験年数のある方をまるきりの新人として扱ってしまうのを
いつも心苦しく感じています。
外回り業務になってくると、病棟の経験を活かせるようなことも
たくさんあると思うのですが、まずは手洗いを集中的にやるって
パターンが多いですよね。
もうちょっとの辛抱。頑張ってくださいね。
特に針(丸針or角針)の話は器械コンテナに出す時に開けるか、
先生に言われてから出してもらおうか(コスト的に)、
悩むところなので、手術手順と合わせて参考にさせていただきます^^♪
ところで質問なのですが、
糸を濡らすのを好む先生とその逆の先生がいますが、
何かエビデンスがあるのでしょうか?
それとも単なる好みなのでしょうか?
私はてっきり濡らすと滑りがよくなる&ブレード糸はまとまる(?)から
・・・と思っていたのですが、じゃぁ濡らさなくていい場合は?と言われると・・・。
教えてください、よろしくお願いします♪
さて、ご質問の糸を濡らして渡す場合ですが、私の勤務する手術室ではそういう指示をするDr.がいないもので、初耳でした。
なぜ濡らすのか、、、ごめんなさい。わからないです。
おっしゃるとおり滑りが良くなるからとか、ケースのなかで変な癖が付いているのが矯正されるから、などが考えられますけど、Dr.の趣味なのかなぁという気がします。
余裕が出てきたらDr.本人に聞いてみて、わかったら私にも教えてくださいね。
静電気防止の為に糸を濡らす先生がいます。細いモノフィラメントはまとわりつきやすいので。
編み糸の前により糸というものがあった時代、糸癖を直す為に濡らしていたという説もありますが。
ありがとうございました。
気になったので書いていきます。
絹糸は天然フィラメントの代表です。ただし天然でも2本のフィラメントが一緒になっています。通常モノフィラメントとして使うことはないのですが天然にフィラメント糸がないということではないですよ〜。
でも実際に使うときは絹糸も複数集めて撚りをかけるのですが、綿の糸などとは違うものなんです。プチ知識として。でわでわ。
シルクって確かに独特のツルッとした感触がありますが、そうだったんですね。私の認識不足でした。
医療機器のキーワードでたどり着きました。参考になる情報が多く勉強になります。古い記事への書き込みで申し訳ありません。「糸を濡らして」についてですが、結紮時に(糸同士の擦れで)摩擦による糸の傷みを防ぐと自分はおしえられました。趣味で釣りをしているのですが、たしかにナイロン糸やPE(ポリエチレン繊維の編み糸)を結ぶとき締め込み時に唾などで濡らします。そうするとよりしっかりとしめ込まれ(糸の滑りが良くなり)、かつしめ込み時の摩擦熱による糸の損傷を防ぎます。